第五章 営業をしない営業
本シリーズは特定の企業を批判する目的で書いているものではありません。
むしろ、あの時代に社会へ出た多くの人が
どこかで感じたかもしれない違和感の記録です。
それが個人の問題だったのか、
それとも時代の問題だったのか。
その問いを、冷静に辿っていきます。
シリーズ一作目はこちら:第一章 「あの挨拶」の会社
少し話が変わるのだが、
私は、嘘がつけない体質である。
こればかりは、
親の教育が良かったのか悪かったのか、
とにかく嘘がつけない。
営業にとって、これは致命的だ。
クロージング――
契約を締結させる、最後の一歩では、
「今日だったら、このガジェットが無料で付けられます」
といった言葉を言わなければならない。
だが、
「検討しておくよ」
などと言われると、
私は普通に引き下がってしまう。
一方で、
私には少し変わった才能があった。
妙に気に入られてしまうのだ。
「今日は買わないけど、
とにかく来て話を聞かせてよ」
そう言われることが、
やたらと多かった。
先に述べた通り、
業務がそれほど苦しいなら、
アポイントを取って営業に行けばいいのでは、
と思われるかもしれない。
だが、
仮に営業に行って、
契約を取れずに客先を出た場合、
待っているのは、
マネージャーからの鬼のような「詰め」だった。
客先の近くで、
30分から1時間。
「どうして諦めたんだ?」
「なんで取れなかったんだ?」
「メリットがあったから、
話を聞いたんじゃないのか?」
そんな言葉を浴びせられ、
罵倒され続ける。
その挙句、
「で、帰りはどうするんだ?」
と聞かれ、
無理やり、
「飛び込みしますっ、(特殊な挨拶)!」
と言わされる。
そこで、
追い詰められた私は、
ない頭を必死に振り絞って考えた。
「他の人に、営業に行ってもらえばいいのではないか」
ただし、
普通の状況では、
そんなことはできない。
では、どうするか。
他の人が営業に行って、
契約が取れなかった場合に備えて、
あえて、そのアポイントを寝かせておく。
そして、
誰かが契約を取れずに出てきてしまった、
そのタイミングで、
その人の近くに、
新しくアポイントを入れる。
振り返ってみると、
営業に失敗した人にとっても、
これはありがたかったらしい。
詰められまくった末に、
飛び込みをして、
何も得られずに帰って、
さらに怒られる。
それに比べれば、
ずっとマシだった、
ということだろう。
そして、
会社の制度として、
アポイントを取った人と、
営業で契約を取った人は、
利益が按分される仕組みになっていた。
私はこの制度を使い、
苦手な営業をせずに、
数字を上げるという、
姑息な抜け穴を開発した。
実はこの方法で、
何度かエリアトップを取ったことがある。
昇進には届かなかったが、
「赤字社員」の称号は、
かなりの割合で免れたように記憶している。
今、
冷静に振り返ってみると、
当時のマネージャーが割り切って、
私を「駒」として使っていたら、
ひょっとすると、
もう少しだけ、
この会社に在籍していたかもしれない。
いや、
この戦略を続けていれば、
昇進すら、
あり得たのかもしれない。
だが、
マネージャーは、
親心なのか何なのか、
私を「一人で数字を上げられる営業マン」に
したがっていた。
第六章はこちら:第六章 違和感
(公開前の場合があります)
この記事を書いている人はこんな人
・・・というのがわかるような書籍を出版しています。
大学の頃に経験したラグビーと、その後留学して取得したMBA にまつわる話をまとめた書籍です。このnote でも「小麦譚」というシリーズ(マガジンでまとまっています)で無料で見れる部分がありますので、是非読んでみてください。
難しい話や専門的な内容はほとんどありません。
むしろ、
「なんでこんなに無理してたんだろう」
と後から振り返るような、そんな話が多めです。
ダイエットの話をここまで読んでくださった方なら、
きっと気負わず読める内容だと思います。
紙版(1518円)
Kindle版(780円:)
いいなと思ったら応援しよう!
読んでくださってありがとうございます。
サポートは、今後の制作を続けるための大きな力になります。
無理のない範囲で、応援していただけたら嬉しいです。