第六章 ラインアウト
第一章はこちら:第一章:特定部位
前回のスクラム編に続いて、今回はラインアウトの話をして
おこうと思う。
スクラムほど狂気じみてはいないが、戦術としてはかなり
面白い。
ラグビーを知らない人でも見ただけで何となく
理解できるし、
“わかっている感”を味わえる部分でもある。
■ 基本編:まずは普通のラインアウトの話
ルールは時期によってコロコロ変わるので、
今がどうなっているかは知らない。
俺がやっていた頃は、
ラインアウトで人を持ち上げるのが普通に許されていた。
サイドラインを割ったボールを
敵味方の中央に投げ入れ、
空中戦で奪い合うアレだ。
大事なのは、
味方にボールを取らせるための暗号(コード) を
事前に共有しておくこと。
たとえば「5・5・4・4・2」というコールがあったとする。
もし “2桁目+1” がジャンパーの番号なら、
この場合は「6番に投げるぞ」という意味になる。
一般的には、背が高く跳べるロック(4番・5番)を狙う。
だから、
· ロックがボールを取る
· 1番や3番の “普通は跳べない人” が
そのロックを持ち上げる
こういう役割分担が基礎だ。
さらに、
“一番安全” な選択肢として、
1番の懐にショートで投げ込み、即ラックを作る
という戦術もよく使われる。
ここまでは普通の話だ。
■ 応用編:特定部位先輩という狂った戦術家
問題はここから。
海外の白人連中相手でも物怖じしない、
そしてスクラムの組みすぎで
背が一段小さくなってしまったに違いない
前列の理論だけは世界基準の、特定部位先輩。
この人は、ラインアウトに関してもどこか壊れていた。
本来はスクラムさえ組んでくれればいい3番の俺に、
なぜか 3つもコード を割り振ってきやがったのだ。
■ コード①:俺を“1番”にねじ込む
まず第一。
本来3番の俺を 1番の位置 にねじ込むところから
始まった。
1番ショートは、通常は安全にラックを形成するための
選択肢だ。
だが特定部位先輩の発想は違った。
「1番ショートで前に突っ込め」
頭がおかしい突破戦術に変換されていた。
——そもそも3番の俺にボールを持たせて走らせるな。
いてえだろうが。
■ コード②:170cmの1番を“上に飛ばす”
そして第二のコード。
これは発想が飛びすぎていて、
初見の相手は本気で混乱したと思う。
170cmそこそこの1番(俺)を“上でキャッチさせる”。
本来はロックが飛ぶ。
だがこの戦術ではこうなる。
· 俺(1番役)が後方に1歩ステップ
· 2番(4番ロック)が俺を持ち上げる
· 相手の2番は「え? 飛ぶの?」と混乱する
· その隙に俺が中間位置でキャッチ
要するに、
相手の“慣れてない動作”を強制して混乱させる姑息な手法
である。
だが姑息でも、理屈は合っていた。
2番が与える“浮力”の分、俺は相手よりも少しだけ高い位置にいられる。
そしてその“少し”が、ラインアウトのすべてだ。
■ コード③:1番が5mの隙間を突破し、
ウィングを潰す
そして三つ目。
これはもう完全に、
「お前が死んでも得点取れるなら良し」
という思想が透けて見えた。
1番の位置から、
スローワーの合図と同時に 5mラインの間を全力疾走。
相手の1番を振りほどけたら、
そのまま 相手ウィングに突っ込む。
ウィングが潰れれば、
こちらのバックスが一人浮く。
つまり、
成功率の高い必殺戦術 が成立する。
ただし、
痛いのは全部俺。
正面・横・後ろのすべてからタックルが飛んでくる。
特定部位先輩は、
俺の体を毎週の“捧げもの”にしながら
得点を取りに行く鬼畜だった。
■ まとめ:
そんな感じで、3年生の俺は
· 頭にチップを埋め込まれ
· スクラムで首を削られかけ
· ラインアウトでは空に投げられ
· 密集でもみくちゃにされ
· たまにウィングを狩りに行かされる
そんな、
“闘球の神々に毎週捧げられる生贄ロボット”
みたいな存在になっていた。
この頃にはもう、自分がどう見えていたのかはわからない。
ただ一つ言えるのは、
フォワードという構造の中に、
俺というピースは完全に組み込まれていた。
第七章はこちら:第七章 潜水艦とか言う発想
(公開前の場合があります)
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