第3話|本当の「技術力」は、最新技術の中にはなかった。【言葉の裏側シリーズ全3話】
IT業界で「技術力」と言うと、
AIや量子コンピュータのような最新技術を
思い浮かべる人も多いと思う。
もちろん、それも技術力の一つだ。
新しい技術を生み出す。
難しい技術を扱う。
誰もできないことを実現する。
それは間違いなく、すごいことだ。
でも、私が長くITの仕事をしてきて感じる
「技術力」は、少し違う。
本当に難しいのは、
「何を使うか」
ではなく、
「そもそも何を解決したいのか」
を掴むことだった。
新しい技術が出ると、それを使いたくなる
ITの世界では、新しい技術が次々に出てくる。
AIもそうだし、
少し前ならブロックチェーンもそうだった。
新しいものが出てくると、
「これを使って何かできないか?」
と考えたくなる。
もちろん、それ自体は悪くない。
新しい技術を知ることは重要だし、
技術者として学び続けることも必要だ。
でも、そこで一つありがちな落とし穴がある。
いつの間にか、
「この技術を使うこと」
そのものが目的になってしまうことだ。
本来は、お客様の課題を解決するための
手段だったはずなのに、
いつの間にか「最新技術を使うこと」が
目的になってしまう。
ブロックチェーンが注目されていた頃
以前、ブロックチェーンが注目されていた時期があった。
IT業界でも盛んに取り上げられ、
さまざまな企業が
「ブロックチェーンで何かできないか」と考えていた。
私自身も、その技術に興味がなかったわけではない。
でも、お客様との仕事では、そこに飛びつかなかった。
まずやったのは、お客様の業務を理解することだった。
何をしているのか。
どこに困っているのか。
なぜ今のやり方になっているのか。
誰が困っているのか。
本当は何を変えたいのか。
話を聞いていく。
質問する。
時には、相手がまだ言葉にできていないことを
一緒に整理する。
そうやって業務を理解していくと、
必ずしもブロックチェーンを使う必要はなかった。
むしろ、もっと現実的な方法のほうが、
お客様にとって価値がある。
結果的に、そこから提案を進めることができた。
「聞く」ことも技術である
この経験から、私は「技術力」という言葉を
少し違った意味で捉えるようになった。
技術力とは、
何か特別な技術を知っていることだけではない。
相手の課題を正確に掴むことも、技術だ。
ただ話を聞けばいいわけではない。
相手が話していることを、
そのまま受け取るだけでもない。
「それはなぜですか?」
「本当に困っているのは、そこですか?」
「もしそれが解決したら、何が変わりますか?」
「逆に、変えたくないものは何ですか?」
そうやって問いながら、話を整理していく。
表面的な要望と、本当の課題は違うことがある。
「システムを変えたい」と言っていても、
実はシステムではなく
業務プロセスに問題があるかもしれない。
「AIを使いたい」と言っていても、
本当に必要なのはAIではなく、
単純な業務改善かもしれない。
だからこそ、手段より先に、
相手を理解する必要がある。
HSPの「気づく」を、技術に変える
ここは、HSPや内向型の人にも伝えたいことがある。
HSPや内向型の人は、
相手の表情や言葉の微妙な違いに気づきやすかったり、
相手の話を深く考えたりすることがある。
それは、一つの強みになり得る。
でも、「気づける」だけでは
仕事の価値にはならないと思う。
大切なのは、その気づきを技術に変えることだ。
観察する。
聞く。
問いを立てる。
情報を整理する。
構造化する。
相手に確認する。
そして、必要な提案につなげる。
ここまでできて、初めて「聞く力」が価値になる。
ただ優しく話を聞くことが「寄り添う」ことではない。
相手の言葉の奥にあるものを理解し、
それを整理し、必要な行動につなげる。
それもまた、技術なのだと思う。
覚悟を支えるもの
前回、
「覚悟とは精神論ではなく、根拠があることなのではないか」
と書いた。
その根拠をつくるものの一つが、技術だと思う。
もちろん、技術があれば失敗しないわけではない。
どれだけ経験を積んでも、わからないことはある。
初めてのこともある。
私自身、経験のないPMのような立場で
トラブル対応をしたこともあった。
それでも動けたのは、
「何を目指せばいいか」が見えていたからだ。
そして、そのゴールに向かって考え、
動くための技術を、
それまでの経験の中で少しずつ積み上げていた。
技術とは、完璧になることではない。
「今の自分に何ができるのか」
「何が足りないのか」
「足りないものをどう補うのか」
を考え続けることなのかもしれない。
「寄り添う」を、綺麗ごとで終わらせないために
ここまで、「寄り添う」「覚悟」「技術力」と考えてきた。
一見すると、別々の話に見える。
でも、私の中ではつながっている。
「寄り添います」と言う。
だったら、具体的に何をするのか。
それを実行するなら、どこまで背負うのか。
そのために、自分には何ができるのか。
そして、できないことは何なのか。
言葉だけなら、いくらでも綺麗にできる。
「寄り添います」
「伴走します」
「あなたのために」
どれも素敵な言葉だ。
私自身も、これから使うかもしれない。
だからこそ、自分に問い続けたい。
その言葉を言ったあと、自分は何をするのか。
言葉を使わないことが誠実なのではない。
綺麗な言葉を疑うことが正解でもない。
大切なのは、その言葉を具体的な行動に
うつせるかどうかだと思う。
そして、相手の本心を見抜くことも、
必ずしも必要ではない。
人の本心なんて、完全にはわからない。
だからこそ、相手の言葉を鵜呑みにするのではなく、
自分の中に生まれた違和感を大切にする。
そして、
自分が誰かに言葉を届ける側になったときには、
その言葉の裏側にある覚悟と技術を、
少しずつ積み上げていく。
「寄り添う」という言葉が、
ただの綺麗ごとにならないように。
私自身も、まだ答えを持っているわけではない。
だからこそ、
この問いはこれからも追い続けたいと思っている。
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