「音楽で人生が変わらないなんて嘘だ」 2.世代が違う
生まれる時代を間違えてしまったと思う。中学はおろか、自分で選んだ高校にも奏鳴無重力のファンがほぼいなかった。
それに私が好きなバンドは軒並み活動休止もしくは解散済みであり、SNSや動画のコメント欄で大人たちが語る思い出に焦がれる。
〈奏鳴〉の真似をして、同じ学校の軽音楽部に入った。彼らが卒業後、瞬く間に売れたのはよく知られており、ここにいれば私も何者かになれると信じて。
しかし、生まれて初めてバンドを組んで文化祭でコピーした曲は、滑りに滑ってスケートのようで、ボーカルの声はドラムに掻き消され、果ては悲しい哉、世代の違いによってオリジナルだと勘違いされる。
何しろ活動を止めて15年近く経ち、新たな音楽は続々と作られ、かつては頂点にいようとここが所謂〈聖地〉だろうと、情け容赦なく埋もれていく。
授業の中で、高校の出身者として先生がメンバーを誇らしげに紹介した際、私だけ身を乗り出さんばかりに話を聞いた。
クラスでロックバンドは流行っていない。友人は大抵、韓国のアイドルに夢中だ。魅力たっぷりなので頷ける。
そんな状況で軽音楽部の仲間らと長期休暇の度にフェスへ行く。
最初は先輩に連れられて訳も分からず。次第に自分から
「夏休みのあれ、行きませんか」
と誘うようになる。部活動の傍らアルバイトで貯めた金があっという間に溶けた。
そこでKilling me softlyというバンドに出会う。
変幻自在、型破りのスリーピースで、奏鳴のギタリスト・トイがサポートメンバーだった。インターネットを中心に爆発的な話題を呼び、今やメジャーデビューしてアニメ主題歌で世界に羽ばたき、フェスの常連である。
主にマニアックな音楽好きにウケているが20代半ばのメンバーに伴って若いファンも多く、奏鳴がもし現代にいたら彼らのような、止まらない快進撃を追い掛ける頃、本命バンドの復活が発表された。
とはいえ、私はフェスにしか行ったことがない。数人でわいわいしながら、は今回に限っては不可能と明らかで、チケットの申し込み画面からしばらく動けず、SNSを開けばタイムラインに痴漢、盗難、写真並びに動画撮影の禁止について、等の愚痴が延々と流れてきた。
繰り返される論争、安全な場所なのだろうか。春休みは強引なダイバーに耳を蹴られて痛かった、未だに思い出すとズキズキする。
『もっと早くに生まれたかったな』
16歳の本音をつぶやくと、フォロワーのクレバヤシさんが一番にいいねをつけてくれた。
更に『僕も』と同意して、私たちはダイレクトメッセージに移り、思いの丈を綴る。
『人気絶頂期の奏鳴が観たかった。だけど、いつの世も同じなんだよ。例えば、友達とカラオケで歌ったような、自分が高校生の時に流行ってた感じの音楽を今の中高生が羨ましがることもあってさ。近年の曲はロックじゃないとか。めちゃくちゃいい、って数年後に言う子が現れるかもなのに。何歳だからどうこう、関係ないよ。時代ならでは、それぞれの良さ。要するに、ワオちゃんの好きなもんを大切にしてな』
奏鳴のベースボーカル・コニーを思わせる文面に救われ、涙した。兄のように優しく、真っ直ぐな言葉を使うクレバヤシさんに会ってみたい。
背中を押されて申し込み、運良く1次先行でチケットを手に入れる。
ところがクレバヤシさんは外れてしまい、当選率の低いこと、私ごときが参加してもいいのか。
感情の土砂降り、ぐちゃぐちゃになった視界、事情を聞き付けた軽音楽部の親しい先輩に慰められた。
部室の壁には〈1997☆奏鳴無重力!小西/基/善〉と本名で書かれたサインもどきがあり、薄れたマジックの文字を指でなぞる。
いつぞやの卒業生が携帯電話で写真を撮ってインターネットに載せ、本校の情報と共に検索すれば出てくる、この距離感で。
嫌というほど実力を思い知り、最早コニー、トイ、ゼンのようになれるとは考えられなくとも、後輩として少しでも近付けたら。

初のライブハウスは、予想以上の壮絶なモッシュと、涙と、歌声と、汗に塗れて、とにかく苦しかった。
と思いきや、
「おう、お前ら。ちっとは落ち着けよ」
たまたま押されて、咄嗟に最前列の柵を掴んだ(隙間に挟まるくらい体が細くて助かった)。
途端に楽器をぶら下げたままステージを歩くコニーが目の前で嬉しげに頬を緩める。
「よしよし。泣くな、年取ったせいでつられやすいんだわ」
感動のあまり号泣した私を見て、立ち止まり、何と、スタッフにベースを預け、屈んでこちらの頭をそっと撫でた。
近くの女性ファンが「きゃー!」やら「やだあ」やら叫び、物凄い力でそのスペースから弾き出される。
当然の報い。恐らく容姿で子供扱いされての行為であろうと、人たらしのフロントマンに構われたのだから。手のひらの温もりと煙草の香り、一生忘れない。
「ワオちゃん、すっげえ!」
ライブハウスのロッカーでクレバヤシさんが声を上げ、周囲が振り返った。注目されて私は顔を真っ赤に染め、素早く荷物を引き取る。
「人いすぎだし、最前までは流石に見えなかった。しかもマイク通してないでしょ。なんだろ、夢叶った気分」
ふたりして同じバンドロゴの入ったコーチジャケット(物販で買ったばかり)を羽織り、駅に向かう。
他人の幸せを喜べる彼は歩くペースを私に合わせ、全国ツアーの話で盛り上がった。
「当たったら、パパママには内緒で遠征します。フェスも、行けるとこは既にチケット取りました。あんなの、ガチ恋まっしぐらじゃないですか」
「コニー、相当モテそう。頑張れ」
茶化さずにしっかり最後まで聞いてもらい、電車の上下線で別れる。
明日がどうなろうと、今日は楽しかった。
私の人生は、まだまだこれから(現在進行形のバンドと一緒に)。
もう、生まれた時代を恨んだりはしないと誓える。
★Killing me softlyの名前をはっきりと出したのは2年ぶりです。現在の彼らは音楽を生業にしています。
