「みやげ」話のあわいに
「ちょっと好きな、例の女の子と花火大会に行ったんだよ」
冒頭の〈ちょっと〉がどうも引っ掛かって耳をそばだてる。
観光地特有の一体いつからあるのだろうか、失礼ながら儲かっていないのでは、といった考えが渦巻くような、それはもう寂れた土産物屋で埃の被ったカラフルなアクリルの貝殻セットなどを見ていたら、何やら2人組の若い男性客が近くにやってきた。
「あの、アプリで知り合った子か。お前諦めたんじゃなかったの?」
話を切り出した方(Eとする)に対してFは呆れた様子で尋ねる。
すると、焼けた肌にサングラスが映える、ここら辺の海にはわんさかいそうなEが頷いて、店中に轟くほどの声で喋り始めた。
「夜空見上げて『キレーイ』って言ってきたら、ベタだけど『君の方が綺麗だよ』とかサラッと返して今度こそ告白しようと心に決めてたんだわ。なのに、実際は無感情。真顔の極み。スマホ掲げて連写。俺が話し掛けたら『いま動画撮ってるから黙ってくれる?』だってさ。脈どころじゃない、興味ゼロ」
さながら言葉の打上花火のようである(ちなみにフィナーレ寄りの、最後は残念ながら不発みたいな)。
聞き耳を立てて悪いが、こちらまで空しくなった。いまいち用途が不明な半透明のヒトデと目が合い、さっさと購入して土産物屋を後にすべきか、迷う。
と、Eとは対照的に不健康なくらい色が白くガリガリのFが口を開いた。
「そもそも、なんで誘いに乗ったんだ?」
次は本人にしか分からないであろう、複雑な乙女心もとい謎を解こうとしている。が、確実に迷宮入りするからやめておけ、と思う。
他の客はおらず、奥のカウンター上にて気怠そうに団扇で仰ぐ店主と見られる禿頭のお爺さんも強制的に彼らの話を聞かされていた。
「会場に屋台あるじゃん。遊んでみたくて、浴衣買ったはいいけど着る機会ないまま1年経ったんだと。嬉しそうに言ってきたし、まあ、俺の気持ちなんかとっくにバレてて、多分、転がされてるとこ。悔しー! でもかわいー!」
「うわ、いきなり叫ぶなよ。うるさいな」
なんだかんだで楽しげな2人組のそばを離れ、レジにちゃちな貝殻セットを持って行く(部屋の出窓にでも飾ろう)。
こちらはどこか思い当たる節があり、この騒ぎを急いで擦り抜けた。
「あめちゃんのこと……?」
苗字が天海(あまがい)なので、訛ってあめちゃん。
親友の呼び名だが、スマートフォンのメッセージアプリを遡って彼女との先月のやり取りを探すと、〈アプリで繋がった男と花火大会に行った話〉が出てくる。
親友同士で揃いの浴衣を買ったにも拘らず、こちらが風邪を引いたり、急きょアルバイトが入ってしまい、2年連続で断ったイベントに異性と足を運んだ。
しかし、いつの間にかあからさまな好意を持たれており、下手に交際の申し込みをさせまいと写真及び動画撮影にとことん集中した、というもの。
視点が変わるとこうも違う。
真夏の日差しを浴びたことも相まって、クラクラする。
『あっちは前よりもっとあめちゃんのとりこみたいだよ』
偶然の出来事で報告のメッセージを1件送って、これだから人に理解されずともひとり観光地巡りはやめられない、と笑みを噛み殺した。

