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スイカバーを信じろ

「お、スイカバーだ」

 私はスイカバーで夏の訪れを感じる女である。
スイカバー自体の販売は例年4月下旬ごろかららしいが、7月にもなれば夏の風物詩としてより前面に押し出される。本屋でいえば平積みポジションだ。

 わが家には常備アイスというものがない。そんなに頻繁に食べないからだ。
 それでも春の麗らかな日差しを感じ始めたタイミングだとか、セミが鳴き始める季節の夕方。時には真冬の暖房のもとで、アイスの気分が急に顔をのぞかせてくることがある。

 そして、アイス食べたいな〜と思ったら食べたくなった方が「アイス食べたい」と声をかける仕組みが、夫婦間で知らない間に成り立っている。
 わたしたちはなぜかアイス欲の波長が合うので、どちらかが声をかければたいてい、「自分もちょうどアイスの気分だった!」とコンビニ遠足を開催することになる。

 アイスの棚は、良い。とくに個包装タイプのアイスは、季節によっていろんな種類のアイスが入れ替わり立ち代わりするので飽きない。その中で、昔実家でよく食べていたものが復刻されていたり、久々にみたら全然知らないパッケージになっているものがあったりと、ちょっとした同窓会気分になることだってできる。
 
 人生ではじめて個包装のパッケージアイスを買った時には、なにか達成感のようなものさえあった。親兄弟の好みを気にする必要もなく、自分が好きなものを、自分のためだけに、ファミリーサイズよりもひと回り大きい量で堪能できる。
 お気に入りの抹茶パルムを買って、「これを当たり前にできるのが大人ってやつか」とか思っていた中学時代が懐かしい。
 安心したまえ。お前は30歳になっても個包装アイスにはしゃぐし、旅先のサービスエリアでは必ずソフトクリームを食べる大人に成長します。

 はじめて旦那とアイスのための外出をしたのは、ある冬の日の夜だった。当時は家から徒歩1分くらいのところにまいばすけっとがあって、それはそれは便利であった。「うちのでかい冷蔵庫」などと、よく勝手に所有権を主張したものである。

 その日も、私の「アイス食べたくない?」の一言をかわきりに、部屋着にコートを羽織ってそそくさとまいばすに入店。
 ふたりでひとつずつ、自分が食べたいアイスと、他に気になったものがあれば選んでレジへもっていき、セルフレジで支払いを済ませる。「まいばすってなんでペイペイ使えないんだろうね」という、わたしたちの定番となった会話を交わしながら、吐き出されたレシートを手元の小さなゴミ箱に放り投げた。

「よし、かえってアイス食べよう」
「いや、俺は今食べる」

 てっきり暖房でぬくぬくしながらアイスにかぶりつくという怠惰の極みをたしなむものだと思っていた私は、耳を疑った。

「え、今食べちゃうの?」
「帰りながら食べるの。だって溶けちゃうじゃん!」

 正気か?
今は気温7度もないような真冬の夜で、家まで徒歩1分だぞ?

 彼はアイスとバターの見分けがついていないのかもしれない。いや、バターだってスーパーで買ってから帰るまでに溶けるなんてそうそうないだろう。と思っていたが、旦那はいたって正気らしい。
 その当時ハマっていたあいすまんじゅうにかぶりつきながら、「ちめて~~!」とか言って歩いていた。そらそうだろ。もう一度言うけど、冬だぞ。

 しかも彼はいちど、帰ってからアイスをほおばる私を見て「いいなあ」と呟いたことがある。いや、あなたさっき食べてたじゃんか。
 もしかすると、旦那はいたって正気なうえで、ただ食い意地が張っているだけなのかもしれない。

 そんなわたしたちは今年から新しい家に住んでいて、やっぱり徒歩5分くらいのところにコンビニがあるし、たびたびアイスを買いに行く。
 そしてそのたびに、やっぱり旦那は買ったばかりのアイスを食べながら帰る。「もう食べるの?」「だって溶けちゃうじゃん!」「いや溶けねえよ」の一連のくだりは、もう何度やったかわからない。

 とうとう、旦那が家に着いてからアイスを食べる、という習慣を獲得しないまま夏が来た。

 いつも通りコンビニアイスを眺める私たち。どう考えても今年初スイカバー一択な私と、なんのアイスにするかしばし悩む旦那。この日にはとうにあいすまんじゅうブームは過ぎ去っていて、パッケージで気になったものを選ぶつもりらしい。
 エアコンの効いたコンビニの涼しさに感謝しながら、今日も旦那は食べながら帰るんだろうなあとか思っていた矢先、急に不安な気持ちが湧き上がってきた。

 外、もう30度近い気温がある。さすがに溶けることもあるのでは…?

 しかしここは「いや溶けねえよ」を担当してはや半年のツッコミとしてのプライドがある。
 ここで「溶けちゃうかも!」なんて帰りながら食べようものならば、旦那にニヤニヤしながら「はじめちゃんも食べながら帰るの~?溶けちゃうもんね~」と言われる未来が容易に想像できる。それだけは、なんとしても避けなくてはならない。
『私は家のソファでたしなむアイスこそ至高会』会長なのだ。

 コンビニを出ると、容赦ない陽射しが襲い掛かってきた。案の定旦那は「溶けちゃう!」とか言いながら早速アイスの袋を破いている。

 「さすがにもう溶けちゃうよ!食べながら帰ろうよ」という旦那の声に、確かに…と言いたくなる気持ちを押さえながら「大丈夫だし!」と強がって、足早に帰路につく。
 スイカバーはアイスの中でもヤワな部類ではない。たった5分間の帰り道なら、十分に耐えきれるはず。スイカバーを信じろ。

 家に帰りつくまでの道中、アイスを食べる旦那がニヤニヤしながら、さんざん「なんか、早足じゃない?」とからかってきた。う、うるせえ!黙って歩け!

 そうして普段は5分の帰り道を、4分程度で戻り切った。玄関のドアを閉めてから「暑かったね~!」と、夏場の外出に対するたがいの健闘を称えあう。
 家に着いてからも謎の強がりを発動している私は、「絶対溶けてなんかいませんよ」というアピールをかねて、アイスを冷凍庫にしまうこともせず洗面台に向かった。

 手洗いうがいを済ませて部屋着に着替えたら、いざ、アイスタイムである。ソファにどっかりと腰を掛けて、スイカバーをレジ袋から取り出す。
 この時点で、少なくとも形を保っていることは確定だった。しかし、包装についたおびただしい数の水滴が、スイカバーのHPが削られ始めていることを物語っていた。リビングにわずかな緊張感が走る。

 クッ…もしここで袋を開いて、溶けたアイスがたらりと指をつたうようなことばあれば、「ほら溶けたじゃ~ん!」と言われるに違いない。
どうか、どうかっていてくれ、スイカバーよ!!!!

 ペリリ

 袋の中から姿を現したのは、わずかに白い霜をまとったままの、カチコチのスイカバーであった。

「ほら!!溶けてない!!!」

 均衡のとれた二等辺三角形を目の前で振りながら、旦那に見せつける。やっぱり徒歩5分程度で溶けるアイスなんてそうそうないのだ。ははは、せっかちさんめ。おぬしはそこで指をくわえて私の優雅なアイスタイムを眺めるしかないのだ。

 勝利の余韻に浸りながら、人工甘味料です!と言わんばかりの甘い氷を楽しむ。氷に囲まれて冷えきったチョコレートチップが、チョコとは思えないほど滑らかさを失っているのがスイカバーの魅力だ。

 シャリシャリとスイカバーをほおばっている私。それを横で眺める旦那。
すると、とんでもない呟きが耳に飛び込んできた。

「いいなあ」

…おいおい、正気かよ。



こちらのエッセイは、マイキーさん主催、『#エッセイしりとりコンテスト』にて頂いたバトンで執筆いたしました。

▼コンテストの概要

さて、こちらのコンテスト、次に回す人を3人まで指名できるということでしたね。私からバトンを回したい方はこの方々!

1人目:相生エッセイさん

いつも読みに来て下さるし、いつも読みにいかせていただいているので、いつか交流したいなあ…と思いつつヒヨっておりました。コメント欄に文字を書いては消した回数数知れず。
こ、この機会にぜひお声がけさせてください!!(ガクブル)

2人目:エッセイのようなものさん

ナガタさん a.k.a. エッセイのようなものさん!私です!!受け取ってくれー!!
ナガタさんのnote、好きなんですよねえ。勢いあまってたびたびダル絡みしてる気がしてきました。すみません。私も土井善晴先生信者です。
最近少しお忙しいようなので、もしできればくらいの感じです。ご無理なさらず!

3人目:嗜まないワインさん

ふだんの投稿でもそうですが、たまにコメント欄に遊びに来てくれるたびに「絶対おもしろい人じゃん…」と思ってます。
「二ヤけたで賞」なる賞もあるそうなので、そのお茶目っぷりを思う存分発揮していただけないでしょうか。


作品の投稿期間は8月31日までと少し短い期間ではあるため、前提無理にとは言いません!気が向いたら受け取っていただけると嬉しい~くらいのふんわりしたやつです。

バトンを受け取っていただける場合、タイトルの指定は「ろ」から始まるタイトルです!
賞金も出るらしいですよ。詳細は上部、マイキーさんの概要記事をご覧いただけますと幸いです。

お手本になるエッセイを、なんていうとんでもプレッシャーなバトンを手渡されて冷や冷やしておりましたが、マイキーさんのご期待には添えたでしょうか笑
お題やタイトル指定からエッセイを書くという経験があまりなかったので、新鮮な挑戦として楽しませていただきました。
ご指名ありがとうございました!

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