写真詩|23時30分の香り
高架下の喫茶店。
荒いコンクリートと、古い木。
新しさはなくて、静けさだけが長居している。
時計は23時30分。
もうすぐ日付が変わるのに、僕らはまだ変わらない顔をして座っている。

目の前の彼女は、細くて、寂しさが似合う大人だ。
バーじゃなく、喫茶店を選ぶところも、なんだか彼女らしい。
酔って誤魔化すより、醒めたまま確かめたい夜がある。
会話は少ない。
少ないほうが、距離がよく見える。
近いのに、踏み込まない。

扉を閉めると、電車の音は遠のく。
この店の中だけ、現実が外に出ていく。
帰り道、ふと服からコーヒーが香る。
店の匂いというより、彼女と同じ夜を過ごした証拠みたいで、
少しだけ困る。
彼女にも同じ香りが残るだろうか。

日付が変わる前に席を立つ。
僕らはまた電車の音のする世界へ。
戻るのに、少しだけ名残が残る顔で。
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