若返りタンパク質DEL-1が関係する骨リモデリングについて解説
(アイキャッチは骨細胞のgettyimagesフリー画像より引用)
前回の記事で若返りタンパク質のDEL-1(デルワン)について紹介しました。
(前回の記事が未読でも読めるように今回の記事を書いています)
DEL-1は細胞の中でも特に骨の抗老化に効果があることについて研究報告があります。
人の骨は、一度作られたら一生同じ状態というわけではありません。
古い骨が壊され、新しい骨が作られるのです。
この仕組みを「骨リモデリング」といいます。
古い骨を壊す細胞が「破骨細胞」。
新しい骨を作る細胞が「骨芽細胞」。
骨の中に閉じ込められ、監視する細胞が「骨細胞」です。
なお、骨は骨リモデリングはじめ「ほね」でなく、「はこつ」や「こつが」など全て「こつ」と読みます。
若いときは、骨を壊す働きと骨を作る働きのバランスが保たれています。
しかし、加齢によりこのバランスが崩壊しやすくなります。
骨を壊すスピードに対して、新しい骨を作るスピードが追いつかなくなると、少しずつ骨が弱くなっていきます。
DEL-1はこの骨リモデリングに関係しています。
DEL-1は古い細胞を処理し、炎症を抑え、さらに新しい細胞を作るという3つの働きを助けると考えられているからです。
今回はDEL-1が関係する骨リモデリングについて解説をします。
(DEL-1による骨の抗老化についての研究は、次回の記事で紹介します)
1.骨は一生作り替えられている
「人の骨は一度作られたらそのまま老いるだけ」と考える人が多くいるかもしれません。
しかし、実際の骨は生きた組織であり、古い骨を壊し、そこに新しい骨を作るという作業を、生涯にわたって繰り返しています。
この骨の「壊す」と「作る」を組み合わせた新陳代謝が骨リモデリングです。
骨は、身体を支える柱のようなものです。
しかし、その中身はコンクリートのような無機物ではありません。
骨の内部では、多くの細胞が働き続けています。
古い骨を壊す細胞、新しい骨を作る細胞、骨の状態を監視する細胞などが互いに情報をやり取りしながら、骨の状態を調整しています。
骨リモデリングは、家の古くなった部分を壊して、新しい材料で修理するリフォームによく似ています。
ただし、家のリフォームとは大きな違いがあります。
骨の場合、この作業が全身の至る所で、休みなく同時進行しています。
そのため、骨全体が一度に壊されて新しくなるわけではありません。
小さな範囲ごとに古い骨が取り除かれ、その場所に新しい骨が作られるという作業が、全身で絶えず繰り返しされているのです。
成人の骨では、年間5%程度がリモデリングによって入れ替わるとされ、単純計算すると、全身の骨が一巡するのに20年に相当しそうです。
一方、一般的な解説では「約10年で骨が入れ替わる」と説明されることもあります。
ただし、これは「10年~20年経てば身体の中の骨が全部新品になる」という意味ではありません。
骨の種類や部位、年齢、ホルモン状態などによってリモデリングの速度は異なるからです。
重要な事実は、「骨は一生変化し続けている」という点です。
つまり、現在の骨は、子どもの頃に作られた骨をそのまま使っているわけではありません。
日々の生活の中で少しずつ修理され、新しい骨へと置き換えられているのです。
2.骨リモデリングを担当する3種類の細胞
骨リモデリングを担当するのは3種類の細胞です。
① 破骨細胞
② 骨芽細胞
③ 骨細胞
① 破骨細胞:古い骨を壊す
破骨細胞は古くなった骨を壊す細胞です。
骨の表面について、骨との間に小さな密閉空間を作ります。
そして、その場所に酸を送り込み、骨の硬さを支えているカルシウムやリンなどミネラルを溶かすのです。
さらに、骨の主成分の一つであるコラーゲンを分解する酵素も放出します。
こうして、古くなった骨が少しずつ取り除かれていきます。
つまり、破骨細胞は骨を弱くする悪い細胞ではないのです。
むしろ、古くなった骨や傷ついた骨を取り除き、新しい骨に置き換えるために必要不可欠な存在です。
家のリフォームでいえば、古い壁や床を取り除く解体業者に近い役割です。
骨リモデリングでは、この壊す作業が最初に行われます。
② 骨芽細胞:新しい骨を作る
破骨細胞が古い骨を取り除いた後に働くのが、骨芽細胞です。
骨芽細胞は、削られた部分に新しい骨を作ります。
最初に作るのは、いきなり硬い骨ではありません。
骨基質と呼ばれる、骨の土台となる材料を作ります。
この骨基質の中心となるのがコラーゲンです。
コラーゲンによって作られた土台にカルシウムやリンなどのミネラルが沈着すると、徐々に硬い骨へと変化していきます。
骨芽細胞は、家のリフォームでいえば、新しい材料を使って建物を作る建設担当です。
③ 骨細胞:骨の状態を監視する
そして、もう一つ重要なのが骨細胞です。
骨芽細胞が新しい骨を作っていると、その一部が自分で作った骨の中に閉じ込められるのです。
すると、骨芽細胞は骨細胞へ変化します。
骨細胞は骨の中に埋め込まれていますが、決して眠っているわけではありません。
骨の内部には細長い突起を伸ばして、周囲の骨細胞などとネットワークを形成しています。
このネットワークによって、骨にかかる力や変化を感知しています。
つまり、骨細胞は、骨の内部に設置されたセンサーのような存在です。
骨にどの程度の力がかかっているのか、どこに負担が集中しているのかなどを感知し、骨リモデリングを調整する重要な役割を担っています。
骨は単純に「壊す細胞」と「作る細胞」が働いているだけではありません。
骨細胞が骨の状態を監視し、その情報をもとに破骨細胞や骨芽細胞の働きが調整されているのです。
3.骨リモデリングは「壊す→掃除する→作る」で進む
骨リモデリングは、単純に「破骨細胞が働いた後、骨芽細胞が働く」というだけではありません。
実際には、5つの段階を経て進んでいきます。
① 開始
② 骨吸収
③ 反転
④ 骨形成
⑤ 休止
① 開始:修理する場所を決める
骨リモデリングは、骨のどこでも無差別に始まるわけではありません。
日常生活で骨に繰り返し力が加わると、微小損傷(マイクロクラック)や変化が生じることがあります。
こうした現象を骨細胞が感知すると、骨の修理が必要な場所に関する情報が伝えられます。
すると、その場所で骨リモデリングが開始されます。
骨細胞が「この場所を修理する必要があります」と知らせるわけです。
② 骨吸収:破骨細胞が古い骨を壊す
次に、破骨細胞が修理対象となった場所へ集まります。
破骨細胞は骨表面に密着し、酸や酵素を使って古い骨を取り除きます。
カルシウムやリンなどのミネラルを溶かし、さらにコラーゲンなどの有機成分も分解します。
こうして、古くなった骨が取り除かれていきます。
この過程を骨吸収(こつきゅうしゅう)と呼びます。
ここでいう吸収とは、腸から栄養を吸収するという意味ではありません。
骨組織が細胞によって分解され、体内へ戻されるという意味で使われています。
③ 反転:「壊す」から「作る」へ切り替わる
骨吸収が終わると、次は反転と呼ばれる段階に入ります。
ここは骨リモデリングの中でも非常に重要な過程で、「骨を壊す」から「骨を作る」へ切り替わるからです。
破骨細胞によって削られた部分には、分解された骨の残骸などが残っています。
そこで、骨の表面を整える細胞などが働き、次に骨を作る細胞が活動できる環境が整えられます。
同時に、骨吸収によって骨の内部から放出される物質や、破骨細胞などから出される信号が、骨芽細胞による骨形成を促すと考えられています。
つまり、骨を「壊す作業」と「作る作業」は完全に独立しているわけではありません。
前半の骨吸収が後半の骨形成につながるカップリングという仕組みが存在するのです。
④ 骨形成:骨芽細胞が新しい骨を作る
次に骨芽細胞が登場します。
骨芽細胞は、破骨細胞によって削られた場所に集まり、まずコラーゲンを中心とした新しい骨の土台の骨基質を作ります。
その後、その土台にカルシウムやリンなどが沈着し、徐々に硬い骨へと変化していきます。
この新しい骨を作る作業を骨形成(こつけいせい)と呼びます。
骨形成は骨吸収よりも時間がかかるのです。
つまり、骨リモデリングは「壊す」と「作る」が同じ速度で進むわけではありません。
そのため、骨を壊す量と作る量が正確にバランスを取ることが重要になります。
⑤ 休止:新しい骨が完成して次の修理を待つ
新しい骨が十分に作られると、その場所は再び安定した状態になります。
そして、しばらくすると別の場所で新たな骨リモデリングが始まります。
このようにして、全身の至る所の骨で「壊す→作る」という小さな修理工事が同時並行で行われています。
以上の過程が「骨が一生の間ずっと維持され続ける仕組み」です。
4.骨がはわざわざ「壊してから作る」理由
「骨が古くなったなら、壊さずにそのまま補強すればいいのではないか?」と考える人が居るかもしれません。
実は、骨リモデリングには非常に重要な意味があります。
① 骨にできた小さな傷を修復する
人は、歩く、走る、物を持つなど、日常生活の中で骨に繰り返し負荷をかけています。
その結果、骨の内部には目に見えないほど小さな損傷が生じることがあります。
これを微小損傷やマイクロクラックと呼びます。
一つひとつは小さな傷でも、それが長期間蓄積すれば骨の強度に影響する可能性があります。
そこで骨リモデリングによって、傷んだ部分を取り除き、新しい骨に置き換えます。
つまり。骨リモデリングは、骨の定期メンテナンスと考えることができます。
② 古くなった骨を新しい骨へ交換する
骨は、単純に硬ければ強いというわけではありません。
骨には硬さとしなやかさの両方が必要です。
古い骨が長期間残り続けると、骨の性質が変化し、骨の質を保つ上で不利になることがあります。
骨リモデリングは、古くなった部分を新しい骨へ交換することで、骨の状態を維持しています。
③ 血液中のカルシウム濃度を調整する
骨には、カルシウムの貯蔵というもう一つ非常に重要な役割があります。
体内に存在するカルシウムの大部分は骨や歯に蓄えられており、骨はカルシウムを貯蔵する巨大な倉庫のような役割を果たしています。
カルシウムは骨を作るためだけに必要な物質ではありません。
筋肉の収縮、神経の働き、血液凝固など、生命活動に欠かせない重要なミネラルです。
そのため、血液中のカルシウム濃度は狭い範囲に保つ必要があります。
血液中のカルシウムが不足すると、ホルモンなどによる調節を介して骨からカルシウムが動員されることがあります。
逆に、カルシウムが十分に供給されれば、骨形成によって骨に再び蓄えるようになります。
5.骨リモデリングのバランスが崩れると、骨粗鬆症になる
健康な若い成人では、基本的に「壊す量」と「作る量」が釣り合っています。
破骨細胞が古い骨を取り除いても、骨芽細胞がほぼ同じ量の骨を作れば、骨全体の量は大きく変化しません。
これを骨リモデリングのバランスが保たれている状態と考えることができます。
しかし、加齢とともにこのバランスが崩壊してきます。
特に中高年以降では、骨を壊す量に対して、新しい骨を作る量が十分に追いつかなくなることがあります。
すると、骨全体の量が少しずつ減少していきます。
この状態が進行すると、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)につながります。
重要なのは、骨粗鬆症は単純に「カルシウムが足りない病気」ではないということです。
骨を壊す働きと、骨を作る働きのバランスが崩れ、骨の量だけでなく、骨の内部構造や質も変化することが重要です。
骨の老化には、多様な要因が関係します。
その中でも、特に女性で重要なのがエストロゲンです。
エストロゲンは女性ホルモンの一つですが、骨に対しても重要な働きを持っています。
エストロゲンには、破骨細胞による骨吸収を抑える働きがあります。
ところが、閉経を迎えるとエストロゲンの分泌が大きく低下します。
すると、破骨細胞による骨吸収が活発になり、骨の入れ替わりそのものが速くなる高回転の状態になります。
骨形成が骨吸収のスピードに追いつかなければ、結果として骨が少しずつ失われるのです。
つまり、骨粗鬆症は「年を取ったから突然骨が弱くなる」という現象ではないということです。
長い年月をかけて、「壊す」と「作る」の差が少しずつ積み重なった結果として現れてくるのです。
まとめ 骨は「壊しているからこそ、強さを維持できる」
骨リモデリングとは、古くなった骨を取り除き、新しい骨へと作り替える、骨の生涯にわたるメンテナンスシステムです。
その中心となるのが、骨細胞・骨芽細胞・骨細胞です。
破骨細胞が古い骨を壊し、骨芽細胞が新しい骨を作り、骨細胞が骨に加わる力などを感知して、骨リモデリングを調整します。
骨リモデリングは、「開始→骨吸収→反転→骨形成→休止」という流れで進みます。
このバランスが保たれているからこそ、骨は日々の負荷によって生じる小さな損傷を修復し、強度を維持することができます。
骨には、カルシウムの貯蔵というもう一つ非常に重要な役割があります。
しかし、加齢や閉経に伴うエストロゲン低下などによって、骨吸収と骨形成のバランスが崩れると、骨量が徐々に減少することがあります。
これが骨粗鬆症につながる重要なメカニズムです。
つまり、骨の健康を考えるときに本当に大切なのは、「骨を壊さないこと」だけではありません。
「古い骨を適切に壊し、新しい骨をきちんと作る」という、骨リモデリング全体のバランスを維持することなのです。
骨は一度作られたら一生変わらない組織ではありません。
人が生きている限り、骨の中では解体と建設の繰り返しがされています。
その繰り返しが、人の身体を支え、動かし、生命活動を守っているのです。
今回はコラーゲンをリンクします。
以前はコラーゲンを経口摂取してもアミノ酸まで分解されるので骨に届かないと言われた時期がありました。
しかし、全てアミノ酸に分解されるのでなく、コラーゲンペプチドの状態もありますので、骨に届くというのが最近の見解です。
なお、カルシウムのサプリは飲まない方が良いと個人的に考えています。
飲むと、カルシウムパラドックスといって、むしろ骨のカルシウムが溶け出る現象があるからです。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の疾病の診断、治療、予防を目的とするものではありません。
体調に不安がある場合は、医師等の専門家にご相談ください。
次回は8月6日(木)午前10:00公開です。
DEL-1の研究で世界でもトップレベルの研究機関は新潟大学です。
2026年発表の新潟大学の研究について解説します。
最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでもご参考になれば、スキを押して下さい。
