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若返りタンパク質DEL-1(デルワン)とは何か?老化細胞と慢性炎症から体を守る抗老化因子

(アイキャッチはマクロファージのgettyimagesフリー画像より引用)

私たちの体の中には、年齢を重ねるにつれて増えていく老化細胞があります。
老化細胞とは、細胞分裂をほぼ停止した細胞のことです。
しかし、単に古くなって動かなくなった細胞というだけではありません。
一部の老化細胞は、周囲に炎症を引き起こす物質を放出し、近くにある正常な細胞や組織にも悪影響を及ぼすことがあります。
こうした老化細胞が体内に蓄積すると、慢性的な炎症が続き、組織の働きが少しずつ低下していくと考えられています。

このような老化の進行に関わる重要な因子として、近年注目されているのがDEL-1(デルワン)というタンパク質です。
DEL-1は、もともと胎児の発生や血管形成に関係する物質として発見されました。

ところが、研究が進むにつれて、DEL-1には、炎症を抑制する働きや、死んだ細胞を処理する働き、骨を形成する働きなど、多くの種類の役割があることが分かってきました。
つまり、DEL-1は、体の中で「古くなった細胞や傷んだ組織を整理し、正常な状態を保つ」ために重要な働きをしている可能性があるのです。

そのため、近年では、DEL-1は「若返りタンパク質」や「抗老化因子」として注目されるようになっています。
今回は、DEL-1の基本的な仕組みから、老化との関係までをできるだけ分かりやすく解説します。


1.DEL-1とは何か?

① もともとは胎児の血管に関係がある物質

DEL-1(デルワン)の正式名称を分解すると、DEL-1がどのような物質として発見されたのかが分かります。
 D=「発生に関係する(Developmental)」
 E=「内皮(Endothelial)内皮は血管の内側の細胞
 L=「遺伝子座(Locus)」遺伝子の存在場所

最後の「-1」は、同じような名前を持つ遺伝子やタンパク質の中で、最初に発見された意味ですが、2以降はありません。
したがって、DEL-1という名前は、「発生過程にある血管の内側の細胞に関係して発見された物質」という意味を持っています。

タンパク質とは、私たちの体を作ったり、細胞の働きを調節したりする重要な物質です。
DEL-1も、体内の細胞で作られた後、細胞の外側に分泌されて働きます。

そして、現在ではDEL-1は血管だけでなく、骨や神経、腎臓など、多様な組織に関係することが分かっています。
つまり、DEL-1は最初は「発生過程にある血管に関係する物質」として発見されましたが、その後の研究によって、体全体の健康状態を保つために幅広く働くタンパク質であることが分かってきたのです。

② DEL-1は細胞の外側で働く

DEL-1を理解するうえで重要なのが、DEL-1が主に細胞の外側で働くタンパク質だということです。
私たちの体を構成する細胞は、単独で存在しているわけではありません。
細胞の周囲には、細胞同士を支えたり、細胞と細胞の間をつないだりする物質があります。
これを細胞外基質(細胞外マトリックス)と呼びます。

DEL-1も、この細胞外基質の一部として働くタンパク質です。
イメージすると、DEL-1は細胞の中に入って直接働くというより、細胞の外側から細胞同士の関係や、細胞と周囲の組織との関係を調整する物質と考えると分かりやすいでしょう。

DEL-1には、他の細胞の表面のタンパク質である細胞接着分子と結合する部分があります。
細胞接着分子は、細胞が周囲の環境を認識するための「接着装置」や「アンテナ」のような役割を持っています。
DEL-1はこの細胞接着分子と結合することで、細胞の接着や移動、免疫細胞の働きなどを調節します。

また、死んだ細胞を処理する仕組みにも関係しています。
このようにDEL-1は、細胞の外側で働きながら、細胞と細胞の関係を調整する「橋渡し役」のような存在だと考えることができます。

2.DEL-1の形

① ドメイン=タンパク質の中で特定の機能を持つ部品

DEL-1の働きを理解するためには、そのを知ることも重要です。
タンパク質は、単純な一本のひもではありません。
長いアミノ酸の鎖が複雑に折りたたまれているのであり、その中にはそれぞれ異なる役割を持つ部分があります。

このようなタンパク質の中で、特定の構造や働きを持つまとまりを「ドメイン」と呼びます。
ドメインを分かりやすく例えるなら、一つのタンパク質を「多機能な工具」と考えるとよいでしょう。
一つの工具の中に、切る部分、物を挟む部分、ねじを回す部分など、異なる役割を持つ部品が組み込まれているように、一つのタンパク質の中にも、異なる働きをする複数のドメインが存在することがあります。

DEL-1も、このような複数の機能を持つ部分を組み合わせた構造をしています。
DEL-1には、大きく分けて2種類の特徴的なドメインがあります。
(正式な専門用語は英文字とカタカナだらけで混乱しそうなので、あえて避けます)

一つ目は、上皮成長因子に似たドメインです。
上皮成長因子は、細胞の増殖や成長などに関係しています。
DEL-1には、上皮成長因子に似た立体構造で同じ様な働きをする部分が3個あります。
(なお、DEL-1のEは内皮(血管の内側)であって、上皮は表皮とも言い表面の皮膚で別物です)

二つ目は周囲と結合するタンパク質に似たドメインです。
DEL-1にはある別のタンパク質と似た構造で同じような働きをする部分が2個あります。

(以下は「3個のドメイン」と「2個のドメイン」と仮で呼びます)

3個のドメインは、他の細胞の表面にある細胞接着分子と結合するという「接着装置」のような役割を持っています。
細胞接着分子と結合することで、周囲の環境を認識したり、細胞同士の接着や移動を調節したりすることができます。

一方、2個のドメインは、死んだ細胞の処理などに関係しています。

このように考えると、DEL-1は一つのタンパク質の中に、「細胞と結合するための部分」と「死んだ細胞の処理に関係する部分」など、異なる役割を持った構造を組み込んでいると考えることができます。
DEL-1が、炎症免疫細胞の処理組織の修復など、多様な生命現象に関係できる背景には、このような特徴的な構造があります。

② モチーフ=ドメインの中で特定の機能を持つ目印

DEL-1には、モチーフというもう一つ重要な特徴があります。
タンパク質の中には、特定の働きをするために重要な、数個のアミノ酸が並んだ特徴的な配列があります。
このようなタンパク質の中にある短い特徴的な配列で、特定の機能に関係する部分をモチーフと呼びます。

ドメインが「ある程度まとまった大きな機能単位」だとすると、モチーフはその中に含まれる、特定の働きをするための小さな目印重要な配列と考えると分かりやすいでしょう。

DEL-1のモチーフは3種類のアミノ酸が並んだ部分です。
このモチーフは、細胞表面の細胞接着分子と結合するための重要な「目印」のような役割を果たします。
イメージすると、DEL-1という大きなタンパク質の中にモチーフという小さながあり、その鍵が細胞接着分子という鍵穴に合うことで、DEL-1と細胞が結びつくと考えると分かりやすいでしょう。
DEL-1は、このモチーフを介して細胞接着分子と結合することで、細胞の接着や移動、免疫反応などを調節します。

次の様に考えると理解しやすいでしょう。
ドメイン=タンパク質の中で特定の機能を持つ部品
モチーフ=ドメインの中で特定の機能を持つ目印

DEL-1の場合、2種類のドメインという「機能を持つ部品」の中に、モチーフのような「特定の働きをするための重要な配列」が存在しています。
このような構造によって、DEL-1は細胞と結合し、細胞の働きを調節することができます。
そして、このDEL-1の特徴的な構造が、後に紹介する「老化細胞の処理」や「炎症の抑制」にも関係してくるのです。

3.DEL-1が抗老化因子という理由

① 老化を進める慢性炎症とDEL-1

DEL-1が老化研究で注目される大きな理由の一つが、炎症との関係です。
炎症というと、ケガをしたときに赤く腫れたり、熱を持ったりする状態を思い浮かべるかもしれません。
しかし炎症は、必ずしも悪いものではありません。
細菌やウイルスが体内に侵入したときや、ケガをしたとき、炎症は体を守るために必要な反応です。

問題になるのは、炎症が長期間続いてしまう場合です。
年齢を重ねると、体の中では弱い炎症が長く続きやすくなります。
このような状態は「インフラメージング」と呼ばれています。
インフラメージングとは、加齢に伴って起こる慢性的な炎症状態を表す言葉です。
インフラメージングはインフラメーション(炎症)とエイジング(老化)の造語です。

炎症が長く続くと、正常な細胞や組織にも負担がかかります。
これが、老化に伴う多くの機能低下の一因になると考えられています。

DEL-1は、この炎症をコントロールする働きを持っています。
例えば、炎症が起きた場所に免疫細胞が集まりすぎるのを抑制する働きがあります。
免疫細胞は体を守るために必要ですが、必要以上に集まってしまうと、かえって周囲の組織を傷つけることがあります。
DEL-1は、こうした免疫細胞の過剰な集まりを抑えることで、炎症が必要以上に広がることを防止すると考えられています。
つまり、DEL-1は、炎症を完全に止めるのではなく、「必要な炎症は残し、過剰な炎症を抑える」ための調整役として働いているのです。
これは、老化による慢性炎症を考えるうえで非常に重要な働きです。

② 老化細胞のゴミ処理

人の老化とともに体内に蓄積する「老化細胞」も、DEL-1との関係で注目されています。

人の老化agingで、細胞の老化senescenceで、英語では全く別の概念です。
senescenceは分裂・増殖の停止という現象に対する表現ですので、agingと同じ老化と訳すのは不適切な気が個人的にします。
老化細胞は不死の細胞ですから、俗称の「ゾンビ細胞」が本質を表していると思います。
しかし、ほとんどの文献ではゾンビ細胞でなく老化細胞を使用しているため、この記事でもあえて老化細胞を使います。

老化細胞の中には、周囲に炎症を起こす物質を放出するものがあります。
こうした物質が長期間放出されると、周囲の正常な細胞にも影響を与え、組織全体の機能低下につながるかもしれません。
そのため、老化研究では「老化細胞をどう処理するか」が重要な研究テーマになっています。

ここで重要なのが、体に備わっている「細胞のゴミ処理システム」です。
細胞が寿命を迎えて死ぬと、マクロファージという免疫細胞などが、その細胞の残骸を見つけて食べ、処理します。
表現を変えると、「死んだ細胞を免疫細胞が掃除する仕組み」です。
この掃除がうまく行われれば、死んだ細胞の残骸が長期間残ることはありません。

しかし、加齢などによってこの処理能力が低下すると、死んだ細胞の残骸が炎症の原因になる可能性があります。
DEL-1は、この「細胞の掃除」に関係する物質の一つです。
DEL-1は、死んだ細胞と免疫細胞の間を結合し、死んだ細胞を効率よく処理することを補助します。
その結果、炎症を収束させ、組織を正常な状態へ戻すことに役立つと考えられています。

ここが、DEL-1を「若返りタンパク質」と呼ぶときに重要なポイントです。
DEL-1は、単純に「老化細胞を直接殺す物質」ではありません。
むしろ、不要になった細胞を適切に処理し、その後に炎症を収めることで、組織を健康な状態に戻す仕組みを助ける物質と考えたほうが正確です。

今回はタンパク質をテーマにしましたので、タンパク質つまりプロテインのリンクをしておきます。

本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の疾病の診断、治療、予防を目的とするものではありません。
体調に不安がある場合は、医師等の専門家にご相談ください。

次回は8月3日(月)午前10:00公開です。
DEL-1の若返り効果というのがについて特に詳しく研究が進められています。
DEL-1が若返り効果を与える骨リモデリングについて解説します。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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