「60代から始めるシェア暮らし!?」世界が注目する、デンマークで8万人が望んだ【新しい老後の形】とは
「老後はどこで暮らしたいですか?」
ご家族と雑談していると、こんなお声をいただくことがよくあります。
「老人ホームは、少し抵抗があるんですよね」 「でも、ひとりで自宅にいるのも、いつかは不安かもしれない」 「家族には迷惑をかけたくないし…」
施設でも、自宅でもない。何か別の選択肢はないのか。
実は今、世界に広がっている「第3の選択肢」があります。それは、シニアによるシェア暮らしという住まい方です。
今回は、世界が注目するシニアシェア暮らしと、日本でも密かに広がってきた事例を、現役相談員として調べてみました。
デンマーク発祥の「コハウジング」

シニア共同生活の代表的な形が、デンマークで始まった「コハウジング」です。
1960年代に生まれたこの暮らし方は、北欧の福祉先進国らしい工夫が随所にあります。
それぞれの家には、自分専用のキッチン、バスルーム、リビング、寝室が完備されています。プライベートはしっかり守られる作りです。
その一方で、住民全員が使える共有のキッチン、食堂、庭があります。希望すれば、住民同士で集まって食事をしたり、庭で過ごしたりできる。
おもしろいのは、共有の中庭とは別に、各居室にも区切られた裏庭がついていることが多いという点です。「ひとりで外の空気を吸いたい」という時には、そちらを使えるんです。
つまり、人と関わりたい時には共有スペースへ、ひとりになりたい時には自分の家へ。「孤立を防ぐ」と「自立した生活」が両立できる設計なんです。
これは、デンマークの「高齢になっても誇りを持って自立した生活をしたい」という価値観から生まれた、極めて思慮深い住まいの形だと感じます。
爆発的に起こっている「シニア共同生活ブーム」
デンマークでは今、シニアコハウジングの需要が爆発的に増えています。
民間団体リアルダニアの2020年の調査によると、約8万人のシニアがコハウジングへの入居を検討しているそうです。
ところが、現状のシニアコハウジングはわずか約6,900軒。圧倒的な需要超過です。
なぜここまで希望者が多いのか。デンマーク社会科学研究センターの調査では、こんな声が挙げられていました。
子どもが家を出たので、小さい家に住みたい
庭仕事の負担を減らしたい
生活コストを下げたい
階段や廊下での何気ない会話で、人とのつながりを感じたい
そして、コハウジングに住むシニアの多くが、入居後に「体力が増えた」「気力が出てきた」と感じているそうです。
人とのつながりが、心と体の両方を支えてくれる。これは介護の現場で様々な方を見てきた私からしても、すごく納得感のある話です。
スウェーデン発祥の「コレクティブハウス」

もうひとつ、世界で注目されているのが、スウェーデン発祥の「コレクティブハウス」です。
1970年代にスウェーデンで生まれたこの住まい方は、コハウジングと少し違って「多世代型」が特徴です。
高齢者だけでなく、子育て世代、単身の若者、共働きの家族など、いろんな世代が一緒に暮らします。0歳の赤ちゃんから80代のお年寄りまでが、ひとつの建物で生活しているケースもあります。
共有のダイニングスペースで、週に2、3回、住民全員で食事をする。食材の購入や予算管理は、住民全員が当番で担当する。野菜や草花を一緒に育てる住民もいる。
「家族」とは違うけれど、「他人」でもない。助け合いの関係を持った『近くの他人』が、毎日の生活を支えてくれる形です。
シニアにとっては、子どもや若者と日常的に触れ合えることが大きな魅力です。一方、子育て世代にとっては、シニアの知恵や見守りが心強い支えになります。
これは、お互いが「持っているもの」を持ち寄って、足りない部分を補い合う、新しい家族の形だと言えます。
日本にもある「シニアシェア暮らし」

世界の流れを受けて、日本にもシニアのシェア暮らしの事例が少しずつ広がっています。
東京都荒川区にある「コレクティブハウスかんかん森」は、2003年から続く先駆的な取り組みです。0歳から80代までの大人と子どもたちが暮らし、週に2〜3回、共同の食事の時間を設けています。共有のダイニングスペースは、コワーキングスペースとしても、ママ友の交流の場としても、夜は大人がお酒を飲みながら語らう場としても使われているそうです。
山梨県大月市の「シェアハウス・さっちゃんち」は、特定非営利活動法人ラクーダが運営するシニアシェアハウスです。シングル高齢者の増加を背景に、ひとり暮らしの不安を解消する取り組みとして注目されています。
その他にも、高齢者向けシェアハウスは月家賃6万円前後で住める物件もあり、サービス付き高齢者向け住宅と比べて費用を抑えやすいのが特徴です。
最近では、多世代交流型、看護師や保健師が常駐する見守り付き、趣味特化型、ペット可など、多様な形のシニア共同生活が増えてきています。
「老人ホームに入る」「自宅でひとり暮らしを続ける」、その二択しかなかった時代から、選択肢は確実に広がってきています。
現役相談員として思うこと
20年この仕事をしてきて、ご家族から「親を施設に入れるのは抵抗がある」というお話を、本当に何度も聞いてきました。
施設に入ること自体が悪いわけではありません。でも、「親が自由に生きられる場所であってほしい」「周囲と家族のような関係を持ち続けてほしい」という気持ちは、誰しもが持つものです。
シニアシェア暮らしは、その願いに応える可能性を持った住まい方だと感じます。プライバシーは守られながら、人とのつながりも持てる。家事や生活の負担は減りながら、自分の生活は自分で決められる。
ただ、ひとつ大切な前提があります。シニアシェア暮らしの多くは、自立して生活できることが前提になっています。要介護度が上がって、常時介護が必要な状態になると、入居が難しくなることが多いです。
つまり、「人生の最終章のすべて」を担う場所ではなく、「老後の暮らしを豊かにする場所」だと考えるのが現実的です。また個人的にはこういった、人と関わる豊かな生活、暮らし方には認知症予防や介護予防の効果もあると思います。
その先、介護が必要になった時には、特養や老健、サ高住、介護付き有料老人ホームなどの選択肢に移っていく。そんな段階的な人生設計を考えておくと、ご本人もご家族も安心できると思います。
最後に
「人生の最終章を、どこでどう過ごすか」
これは、誰にとっても大切な問いです。
施設に入る、自宅で過ごす、家族と暮らす。これまでの選択肢に加えて、世界では「シニアのシェア暮らし」という第3の道が、確実に広がってきています。
日本ではまだ事例が少ないですが、いつか日本でも、こうした暮らし方が当たり前の選択肢になる日が来るかもしれません。
「あと10年、20年経った時、自分はどこで誰と、どんな暮らしを送りたいのだろう?」
そんなことを、ご家族みんなで話してみるきっかけになれば嬉しいです。
参考資料
本記事は以下の情報を参考に作成しました。
日本・デンマーク生活研究所「デンマークの高齢者住宅・介護型住宅」
第一ライフ資産運用経済研究所「デンマークの高齢者同士の共住から学ぶ」
ディチャーム株式会社「デンマークのシニアコハウジング」
「コレクティブハウスかんかん森」公式情報
日本財団ジャーナル「増加するシングル高齢者と高齢者シェアハウス」
その他、各種公開資料
よろしければこちらの記事もご覧ください
