「老人ホームにサウナ?」、「文化別老人ホーム?」 現役相談員×ケアマネが世界の高齢者介護を調べてみた②
先日書いた「世界の高齢者介護」の記事に、たくさんの反応をいただきありがとうございました。
前回の記事を書いているうちに、私自身もどんどん面白くなってしまい「他の国も知りたい」欲が抑えられず、この度さっそく第2弾を書くことにしました。
今回ご紹介するのは、フランス・オーストラリア・台湾・韓国・フィンランドの5カ国です。
前回とはまた違った発想や仕組みばかりで、調べていて、「本当に介護は国によって違うんだな」と感じました。
GW中の少し気軽な読み物として、楽しんでいただければうれしいです。
① フランス | 「EHPAD」と呼ばれる施設文化

フランスの高齢者施設の中心となっているのは、EHPAD(エパッド)と呼ばれる施設です。正式には「要介護高齢者滞在施設(Établissement d'Hébergement pour Personnes Âgées Dépendantes)」という名前で、自立した生活が難しくなった高齢者が入所する施設です。
フランスらしさが出ているのは、EHPADの多くが、国ではなく民間の大手企業によって運営されているという点です。OrpeaとKorianという大手2社がフランス国内のみならず、ヨーロッパやブラジルにまで進出していて、軍事産業やホテル産業と並ぶ「優秀企業」として知られています。
老人ホームを大企業がビジネスとして展開している、というのは日本ではあまり見られない光景ですよね。
ただし課題もあります。EHPADは入所者の人数に対して看護師が圧倒的に少なく、80人の入居者に対して看護師が1名というケースもあるそうです。お医者さんは個人のかかりつけ医が対応するため、ふだんは施設に来ないという話もありました。
日本の特養と比べると、医療体制はかなり厳しい印象です。正直、現場の人間としては、困難だと言わざるを得ません。
そしてもう一点、制度についてです。
フランスには日本のような「介護保険」という独立した制度はないものの、社会保障の一部としてAPA(個別自立手当)という仕組みがあります。
APAは運用面では日本の介護保険とよく似ているようです。要介護認定を受けて、援助プランを作り、サービスを利用する流れは、日本のケアマネジメントとほぼ同じ。
違いは財源で、日本が保険料中心なのに対し、フランスはすべて税金で運営されています。
② オーストラリア | 「文化別」の老人ホームがある国

オーストラリアの介護で一番興味深いのは、入居者の出身国別に運営されている老人ホームがあるということです。
多文化主義を掲げているオーストラリアでは、移民として渡ってきた高齢者がたくさんいます。年を重ねると、若い頃に身につけた言語や文化のほうが心地よくなる、という方も多いんです。
そこで、「ドイツ系の方ばかりが入居する老人ホーム」「イタリア系の老人ホーム」「中国系の老人ホーム」といった、文化別の施設が存在しているんです。
ある日本の介護関係者の方がドイツ系の老人ホームを訪問された記録を読みましたが、エレベーターの中の張り紙までドイツ語と英語で書かれていて、提供されるランチもジャガイモと肉料理。「ここはもう小さなドイツだ」と感じたそうです。
シドニーやメルボルンには日本人向けの老人ホームもあり、日本語でのサポートや日本食の提供が行われているそうです。
「自分の文化の中で老いる」という考え方は、すごく素敵だなと感じました。日本でも将来、もしかしたらこういった文化別の選択肢が必要になる時代が来るのかもしれません。
③ 台湾 | 住み込みの外国人介護士が支える国

台湾の介護事情は、日本とも他の欧米諸国ともまったく違います。
台湾では、約23万人の外国人介護労働者が高齢者の介護を担っています。そしてその約9割が、家庭に住み込みで働く介護士なんです。出身国はインドネシア、フィリピン、ベトナムなどで、ほぼ全員が女性です。
なぜこういう仕組みが定着したかというと、台湾には「親を老人ホームに入れることは親不孝」という儒教的な価値観が根強く残っているからです。家族で介護したい、でも仕事もある。その間を埋めるのが、住み込みの外国人介護士という存在になっています。
台湾の要介護者の約3分の1が、外国人によって介護されているという計算になります。日本では考えにくい数字ですよね。
ただし課題もあります。住み込みの介護士は労働基準法の対象外で、長時間労働や休暇不足が問題になっています。また、外国人介護士に頼ることで、台湾国内の介護制度の整備が遅れているという指摘もあります。
「家族で介護する」という伝統と、「外国人労働者に頼る」という現実。台湾はこの間で揺れている国だと感じました。
④ 韓国 | 日本のお隣さん、その介護事情

日本のお隣、韓国はどうなのか。実は韓国の介護保険制度は、日本の制度をモデルにして作られたものなんだそうです。
韓国の「老人長期療養保険」は2008年にスタートしました。日本と同じように要介護認定を受けて、デイサービス、訪問介護、施設サービスなどを利用する仕組みです。
ただし、日本にはない仕組みもあります。それが「家族療養保護士」という制度です。家族の中で「療養保護士」(日本でいう介護福祉士に近い資格)を取得した方が、自分の親や配偶者の介護をすると、賃金が支給される仕組みになっています。月20日、1日60分という条件付きですが、家族による介護を経済的に支えるユニークな制度です。
もう一つ面白いのが、「老人福祉館」という元気な高齢者向けの施設です。全国に約366カ所あり、コンピュータや芸術、語学、運動など、生涯学習プログラムが豊富に用意されています。安く昼食が食べられる食堂や、シャトルバスでの送迎があるところもあるそうです。
「介護される前に、楽しく学んで予防する」という発想は、日本の介護予防の考え方とも通じるところがありますね。
韓国の自己負担は、在宅サービスが15%、施設サービスが20%。日本の1〜3割負担と比べると、ほぼ同じくらいの感覚です。
⑤ フィンランド | サウナの国の高齢者ケア

フィンランドというと、ムーミンと美しい自然というイメージがあります。
介護はどうかというと、北欧諸国の中で最も人口高齢化のスピードが速い国でもあります。
フィンランドの高齢者ケアは、デンマークやスウェーデンと同じく「できる限り在宅で」が基本方針です。施設介護を減らし、自宅やサービスハウスでの暮らしを支える方向に大きく舵を切ってきました。
サービスハウスというのは、高齢者向けのケア付き住宅のようなものです。介護やリハビリ、レクリエーションのサービスを受けながら、自分の住まいで暮らせる仕組みになっています。
そして、フィンランドらしさが出るのがサウナです。サービスハウスやサービスセンターには、サウナが併設されているところが多くあります。フィンランド人にとって、サウナは日常生活そのもの。高齢になっても、サウナでゆっくり温まる時間は大切な暮らしの一部なんですね。
「介護施設にサウナがある」というのは、北欧の国ならではですよね。日本でいうと「お風呂とレクリエーションが組み合わさったような特別な空間」が特養にある、というイメージかもしれません。
ただし、フィンランドの介護にも課題はあります。リーマンショック以降、財政的に厳しい状況が続いていて、若い世代の失業率も高め。介護現場も民営化が急速に進んでいるそうです。福祉先進国と呼ばれる国でも、それぞれの課題を抱えながら模索しているということが分かります。
第1弾と合わせて見えてきたこと
第1弾と第2弾、合計10カ国を調べてみて、改めて感じたことがあります。
それは、どの国の介護も、その国の文化や歴史と深く結びついているということです。
オランダの「認知症の村」は、認知症の方の自由を尊重する文化があるからこそ生まれました。台湾の住み込み介護は、儒教的な家族観があるからこそ成り立っています。フィンランドのサウナケアは、フィンランド人の暮らしそのものです。
「介護」と一言で言っても、その国の人々が大切にしてきた価値観や、家族のあり方、暮らしのリズムが反映されているんですね。
そして、日本の介護も、日本という国の文化の中で発展してきたものなんだと改めて感じました。
相談員×ケアマネとして、調べてみて思ったこと
今回調べてみて、特に印象に残ったのはオーストラリアの「文化別老人ホーム」です。
日本でも、外国人労働者の方々が増えていきますし、海外から来た方が、今後日本で老後を迎えるケースも増えていくのだと思います。文化や言葉の壁をどう乗り越えるか——これはこれからの介護にとって、避けて通れないテーマだと感じました。
それから、台湾と韓国は隣同士の国でありながら、介護のあり方がここまで違うのかと驚きました。台湾は外国人介護士に依存し、韓国は日本に近い介護保険制度を整え、基本は家族が介護する。同じ「家族を大切にする文化」がベースにあっても、政策の選択で違いが生まれるんですね。
そして、フィンランドのサウナケアの話は、「介護はその人の暮らしの延長にあるもの」だと改めて思わせてくれました。日本でも、その方の暮らしや好きなものを大切にする個別ケアや看取り介護が少しずつ広がっています。本質は世界共通なのかもしれません。
最後に
第2弾を書いてみましたが、第1弾に続き調べれば調べるほど、「介護に正解はない」と感じます。
でも、どの国にも共通している思いがあります。それは、「高齢者がその人らしく、穏やかに暮らせる場所を作りたい」という願いです。
今回ご紹介した5カ国の中で、みなさんはどの国の仕組みに惹かれたでしょうか?
そして、日本の介護の良さや、世界の国々から見習うべき点など改めて感じられたでしょうか。
参考資料
本記事は以下の情報を参考に作成しました。
桐生大学紀要『フランスの介護保障と地域ケア』
国立社会保障・人口問題研究所『フランスの高齢者介護制度の展開と課題』
国立図書館『オーストラリア首都特別区の移民・難民へのケアサービス』
J-STAGE『台湾の外国人介護労働者受入れ制度と日本への示唆』
アジア経済研究所『台湾—コロナ禍は家庭介護における外国人労働者・雇用主・仲介業者の関係改善の転機になるか』
ニッセイ基礎研究所『韓国の老人長期療養保険制度の現状と課題』
国立社会保障・人口問題研究所『フィンランドの高齢者福祉』
厚生労働省『世界の厚生労働』
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