「認知症の村」があるって本当?世界の高齢者介護を現役相談員×ケアマネが調べてみた
先日、コメントで「TVで世界の老人ホームを見ました」というお話をいただきました。
考えてみれば、私自身介護の仕事を20年していても、海外の老人ホームについてはほとんど知りません。そこで今回、良い機会だと思って調べてみたのですが、想像以上に「えー、そうなの?」という発見の連続でした。
この記事では、5つの国の高齢者介護や老人ホーム事情をお届けします。日本の介護とは全く違う考え方や仕組みが多く、読んでいると日本の介護についても改めて考えさせられる内容になりました。
① デンマーク|「老人ホームを造らない」という選択をした国
デンマークは「高齢者福祉先進国」として世界的に有名な国です。
驚いたのは、1980年代にデンマークは「老人ホームを新しく造らない」という方針を打ち出したことです。日本とは真逆の発想ですね。
デンマークでは1982年に「高齢者福祉の三原則」が定められました。
① 自己決定の尊重 ② 継続性の尊重 ③ 残存能力の活用
この考え方に基づいて、「施設に入れて面倒を見る」のではなく、「高齢者が自宅で自立して暮らし続けられる」ことを最優先にする方向に舵を切りました。
その代わり、ケア付き住宅と24時間対応の訪問介護サービスが充実しています。介護は行政の仕事であり、家族は精神的な支えに徹するという考え方が文化として根付いています。
日本と全く違う点として、日本では「介護は家族の責任」という意識が今も根強くありますが、デンマークでは「身体的介護は行政の仕事」と明確に分かれています。この違いが、介護者の負担のあり方にも大きく影響しています。
② オランダ|認知症の人のための「村」
オランダのアムステルダム郊外に、世界中から注目を集めている施設があります。「認知症の村」と呼ばれるホグウェイです。
一見すると普通の街のようで、レストラン・スーパー・美容院・劇場まであります。入居者は自由に散策し、買い物を楽しみ、カフェでお茶を飲むことができます。
ただし、驚くべき仕掛けがあります。この「街」で働いている店員や美容師、すべてが介護スタッフなのです。入居者がお金を忘れても、計算ができなくても、自然にフォローしてくれる仕組みになっています。
ホグウェイの特徴は、入居者のライフスタイルに合わせた「ユニット」制です。
都会暮らしが好きな人向けの「アーバン棟」
家事が好きな人向きの「アットホーム棟」
芸術を楽しみたい人向けの「アート棟」
オランダの伝統を大切にする人向けの「トラディショナル棟」
など、7つのライフスタイル別に分かれており、似た価値観を持つ人が一緒に暮らします。
費用は月額5,800ユーロ(約94万円)と高額ですが、オランダの社会保障制度でほとんどカバーされるため、実際の自己負担は大きく抑えられます。
「認知症になっても、普通の日常を続ける」という考え方が、建物の隅々まで設計に反映されている驚くべき施設です。
③ ドイツ|介護保険発祥の国、でも自己負担は高額
日本の介護保険制度のモデルになった国がドイツです。ドイツの公的介護保険は1995年にスタートし、日本より5年早く導入されました。
ドイツの介護保険には、日本にはない特徴的な仕組みがあります。
① 年齢制限がない 日本では原則40歳以上が介護保険の対象ですが、ドイツでは医療保険に入っていれば自動的に介護保険にも加入します。
② 現金給付がある 在宅介護の場合、家族に対して現金が支給されます。「家族が介護する」ことが経済的に支えられる仕組みです。
③ 一部負担金がない サービス利用時の自己負担がなく、給付の範囲内なら追加の費用はかかりません。
ただし、施設介護の費用は非常に高額です。要介護度3の方が老人ホームに入所した場合の月額費用は約2,800ユーロ(約45万円)。介護保険でカバーされるのは一部で、自己負担は月20万円以上というケースも珍しくありません。
ドイツでは「老人ホームは高級なもの」という位置づけになっており、日本の特養のような「比較的安価で利用できる施設」はほとんどありません。
④ スウェーデン|「自宅で最期まで」を支える国
スウェーデンもデンマークと同じく、在宅ケアを基本とする国です。
スウェーデンでは、高齢者の約95%が自宅で暮らしているというデータがあります。これは日本と比べて圧倒的に高い数字です。
背景には、充実した訪問介護と、24時間対応の看護サービスがあります。「住み慣れた場所で最期まで暮らす」ことを国として支える体制が整っています。
興味深いのは、スウェーデンでは「寝たきり老人」がほとんどいないと言われていることです。高齢者の自立を最優先に考え、できる限り本人の力を活かすケアが徹底されているため、結果として寝たきりになる方が少ないのです。
一方で、本当に自宅での生活が難しくなった場合は、「特別な住まい」と呼ばれる施設に入居します。施設も個室が基本で、プライバシーが尊重される設計になっています。
⑤ アメリカ|「自分で選ぶ」が徹底された国
アメリカの老人ホーム事情は、他の国とかなり違います。公的な介護保険がないため、民間主導で多様なサービスが発展してきました。
代表的なのがCCRC(継続ケア型リタイアメントコミュニティ)です。アメリカ全土に約2,000か所あり、約75万人が利用しています。
CCRCは「老人ホーム」というより「高齢者のための街」に近い存在です。一つの広大な敷地の中に、以下の3段階の住まいが用意されています。
① インディペンデント・リビング 自立した高齢者向けの住まい。一般のマンションに近い。
② アシスティッド・リビング 軽い介護が必要な方向けの住まい。
③ ナーシングホーム 重度の介護が必要な方向けの施設。
元気なうちに入居して、介護が必要になったら同じ敷地内で段階的に移っていくという仕組みです。ゴルフ場・プール・劇場・カフェ・図書館などを備えた、リゾートのような施設も多くあります。
費用は入居一時金が1,000万円〜数千万円、月額費用が30〜50万円と高額で、富裕層向けの選択肢です。
ただし、CCRCには「高齢者だけの街になってしまい、周辺地域との交流が少ない」という課題も指摘されています。
世界を見渡して、日本の介護を改めて考える
今回5つの国を調べてみて、いくつかの共通点と違いが見えてきました。
共通点として、どの国も「高齢者が尊厳を持って暮らす」ことを目指しています。在宅介護を基本とする国が増えていること、認知症ケアは世界共通の課題であることも共通しています。
日本が世界の国々と大きく違う点としては、家族が介護を担う度合いが日本は特に高いこと、日本の特養のような「比較的安価で利用できる公的施設」は海外ではあまりないこと、「本人の自己決定」の尊重度合いは北欧の方が圧倒的に強いことが挙げられます。
日本の介護保険制度は、世界的に見てもかなり整った仕組みだと感じました。特養の費用負担の軽さは、海外と比べると驚くほど恵まれています。
誰でも利用できる仕組みは、世界随一といってもいいでしょう。
一方で、「家族の責任、負担」という面では、日本は依然として重い部分が多いと感じました。デンマークのように「身体的介護は行政の仕事」と割り切る文化は、日本ではまだ受け入れられていない気がします。
現役ケアマネ・相談員として、調べてみて思ったこと
正直、調べる前は「海外の方が進んでいるんだろうな」という先入観がありました。
実際に調べてみると、それぞれの国に「すごいな」と思う部分と、「日本の方がいいかも」と思う部分の両方がありました。
特にデンマークの「自己決定の尊重」、オランダの「認知症になっても普通の日常を続ける」という考え方は、日本の介護現場にも取り入れていきたい視点だと感じました。一方で、日本の特養のような「費用が抑えられた公的施設」は、海外から見れば貴重な財産だとも思います。
どの国の仕組みが一番良いかは、一概には言えません。その国の文化・歴史・家族観の中で発展してきたものだからです。
ただ、一つだけ言えることがあります。どんな仕組みの中でも、「ご本人とご家族が納得できる選択をする」ことが一番大切だということです。それは日本でも、デンマークでも、アメリカでも変わりません。
最後に
海外の老人ホームを調べてみて、改めて「介護に正解はない」と感じました。
でも、どの国にも共通している願いがあります。「高齢者がその人らしく、穏やかに暮らせる場所を作りたい」という願いです。
日本の介護は、世界と比べて完璧ではないかもしれません。でも、特養・老健・グループホームなど、ご家族の状況や希望に合わせて選べる選択肢は決して少なくありません。
今回いろいろな国を調べてみて、私自身も学ぶことがたくさんありました。みなさんはどの国のどの部分に惹かれ、日本の良さはどういうところに感じたでしょうか?
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