人生一番、ケツの話しかしない他人たち。
今回は4人部屋だった。
私はミソフォニアなので生活音が怖い。
要するに、他人の「ゴソ…」が、心の非常ベルを押してくるタイプだ。
だから4人部屋と聞いた瞬間、脳内で“効果音地獄アトラクション”の開園が決まった。
ところが、入ってみたら恐ろしく静かだった。
全員が全員、音を立てない。視線を投げない。存在を押しつけない。
修行僧の合宿か?と思った。
理由は分からない。節度が高いのか、尻仲間だからなのか。
基本はカーテンを閉めている。
でも、ご飯を下げるタイミングが一緒だったり、看護師さんが去ったあとに空白ができたりすると、会話がふっと立ち上がる。
話題は二択。
病院の話。
ケツの話。
今回は私と同年代が3人、おばあちゃんが1人。
私は人の名前が覚えられない。個体識別が弱い。
でも病院には“公式カンペ”がある。ベッドに名前が書いてある。
そのカンペがあるから、私は人間関係を起動できた。ラッキー。
「ここのご飯おいしいよね」
「先生、イケメンだよね」
こういう他愛もない情報共有を、
尻の痛みを抱えた人たちがやると、やたら平和になる。
誰も張り合わない。説教しない。正解を押しつけない。
そこでの病院用語
「今日痛み2で、5!」
「えー!いいなぁ。わたし6で7…」
「それは辛かったねぇ」
ほんとそれだけで盛りあがる
まぁ、余計なことを言う元気がない。最高。
癒し担当はおばあちゃんだった。
テレビを見てるのか、ときどき「ふふふ♡」と笑う。
あれは音じゃない。回復アイテムの効果音だ。
こちらまで幸せだ。
平和だ。ケツ以外は。
おばあちゃんは昨日、先に帰っていった。
LINEは交換しない。どこに住んでるかも聞かない。
共有したのは病院の話とケツの話だけ。十分すぎる。ほかの2人とも交換はしないだろう。
私にはこの距離感が合っている。縛られると疲れる。
もし街でまた会っても、たぶん気づかない。
でも、どこかで同時に座り直したら「あっ」ってなる。
最近どう?って。(ケツ)
それで十分だ。
尻だけの話のおしりあい。
たぶん一生に一度。
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