Web小説のタイトルを長くした犯人は誰なのか|書籍化ログ(#創作論 #Web小説 #note #ランキング #エッセイ #長文タイトル #なろう系)
こんにちは。こんばんは。
普段はラノベを書いている「うら表紙」と申します。
実は私、昔からWeb小説の長文タイトルが苦手でした。
本屋さんへ行けば、
『イン・ザ・メガチャーチ』
『コンビニ人間』のように、
短くても印象に残るタイトルが並んでいます。
一方、Web小説を開くと、
「追放されて」「実は最強で」「チートで」「溺愛されて」……
タイトルだけでお腹いっぱいになる作品がずらりと並ぶ。
正直なところ、
「ここまで書かなくてもいいんじゃないかな」
そう思っていた時期があります。
ところが、自分がその世界で作品を書くと、
その考えは少しずつ変わっていきました。
書籍化の際、私の作品もタイトルが長くなったのです。
最初は戸惑いました。
「もっと短く、格好いいタイトルじゃダメなんだろうか」
そんなことを考えたのを覚えています。
でも、市場の中で作品を書き続けるうちに、
分かったことがあります。
あの長いタイトルは、
流行だからでも、作者のセンスがないからでもありません。
あれは、膨大な作品の中で、
たった一人の読者さんに
「これはあなたが読みたい作品ですよ」
と伝えるために生まれた、
市場の必然だったのです。
●【実験】長文タイトルを5つ連続で読んでみよう!
今からちょっとしたゲームに付き合ってください。
下記のタイトルを読んでみて欲しいのです。
どれか一つでも「読んでみたい」と思ったら、私の負けです(笑)
『トップギルドを追放された底辺配信者、ダンジョン最下層で固有スキルが覚醒したおかげで俺だけ爆速でレベルアップ!ステータスがインフレしすぎて、気づけば最強のチート無双を世界中に配信していました』
『王家婚約者の裏切りで婚約破棄された私。偽の聖女にはめられて冷遇された令嬢ですが、過保護なシスコンお兄様と冷酷無慈悲と噂の辺境伯から異常なほどの溺愛を受けています。今さら婚約をやり直したいと言われても、すでに社交界の頂点に立っているので完全にお断りです』
『クラスカースト最底辺モブ男俺氏、TS転生して世界一の美少女に生まれ変わったら、なぜか女の子たちからの好感度が限界突破しました~イケメン勇者も幼馴染も聖女も王女もすべてNTRして最強のユリハーレムを構築し、甘々ライフを満喫しつつ国家を裏から牛耳る真の支配者になります~』
『ブラック企業勤めの廃ゲーマー、現実世界に出現したダンジョンで隠し経験値を荒稼ぎして規格外の報酬を獲得!圧倒的スピードでレベルを上げ続けていたら、いつの間にか世界ランク1位の最強探索者になっていた。世間の常識を破壊する無双プレイを何気なく配信したら、世界中で大バズりして最高のセミリタイヤ生活がはじまりました』
『会社を追放されたおっさん、異世界では俺だけチートな固有スキルと人生経験で最強の辺境伯へ成り上がる!なお、大人の余裕でモテモテになる模様。勇者? 知らん。他あたってくれ』
……お疲れさまでした(笑)
ちなみに、これらはすべて私が考えた架空のタイトルです。
中身はまだありません。でも「ありそう」と思った方も多いのではないでしょうか。
そして、ここで一つ質問です。
タイトルを五本読んだだけなのに、疲れませんでしたか?
私は疲れました。
作品を一つも読んでいないのに、タイトルだけでお腹いっぱい。
実は、その「疲れた」という感覚こそが、
今のweb小説市場で起こっていることの大きなヒントになります。
●選ばれるチャンスは「数秒」
では、なぜこんなタイトルが生まれるのでしょうか。
答えは、とてもシンプルです。
こうしないと、読まれないからです。
「いやいや、大げさでしょ」
そう思われるかもしれません。
でも、今のWeb小説市場は、想像以上に競争が激しい世界です。
毎日のように新作が投稿され、
人気ジャンルには何万、何十万という作品が並んでいます。
読者さんは、
その膨大な作品の中から一作を選ばなければなりません。
つまり作者に与えられているチャンスは、
「タイトルを見てもらえる数秒」
しかないのです。
その数秒で、
「これは自分が読みたい作品だ」
と思ってもらえなければ、
クリックされることなく次の作品へスクロールされてしまいます。
だから作者は、
タイトルにできるだけ多くの情報を詰め込みます。
「追放です」
「ざまぁです」
「無双します」
「溺愛です」
「配信もあります」
こうして長文タイトルが生まれました。
では、なぜここまで情報を詰め込まなければならなくなったのでしょうか。
そこには、今のWeb小説市場ならではの切実な事情があります。
●まるで分類図鑑?必然の進化
結論から言えば、それはインフレです。
最初は、「異世界転生」というだけで十分に目立ちました。
やがて作品が増え、
追放、悪役令嬢、ダンジョン、配信、スローライフ
といったジャンルが生まれます。
ところが、そのジャンルの中にも、
さらに何万という作品が投稿されるようになりました。
すると今度は、
「追放だけでは足りない」
「追放されたあと、無双するのか」
「溺愛されるのか」
「配信するのか」
「スローライフを送るのか」
そこまで伝えないと、
他作品との違いが分からなくなってしまったのです。
私は、この現象を見ていていると、
生物学の「分類階級」を思い出してしまいます。
異世界転生目、追放科、ざまぁ属、無双種、配信亜種、スローライフ変種
ランキングのタイトルがなんだか分類図鑑のように見えてくるのです。
つまり、長文タイトルとは「あらすじ」ではなく、
膨大な作品を分類し、
自分が探している一作へたどり着くための「分類ラベル」なのです。
私は書籍化を経験するまでは、
「もっと短いタイトルの方が格好いい」
そう思っていました。
でも、市場の構造を知ってからは考えがガラリと変わりました。
あの長いタイトルは、
作者にセンスがなかったからではありません。
膨大な作品の中で、
たった一人の読者に見つけてもらうために積み重ねられた、
市場が生んだ進化だったのです。
●読者を襲う「タイトル疲れ」
ただ、ここで一つ問題が起こりました。
作者が読まれるために積み重ねてきた努力は、
皮肉なことに、
読者さんへ別の負担も生み出してしまったのです。
それが「タイトルを読む疲労」です。
私もランキングを眺めることがあります。
上から順番にタイトルを読んで、
気になる作品は紹介文も読んで、
「これは違うかな」と思って次へ進む。
たったそれだけのことなのに、
数作品見ただけで頭が疲れてしまうんです。
「あれ……まだ一話も読んでいないのに」
そんな感覚になります。
試しに考えてみてください。
一つのタイトルが100文字近くあるとして、
それを20作品読むだけで約2,000文字。
さらに紹介文まで読めば、軽く数千文字になります。
つまり、本編を開く前から、
すでにちょっとした読み物を一本読めるくらいの
情報量を処理していることになるのです。
これでは、
本当に読みたい作品を探そうという気力も薄れてしまいます。
「もう疲れたからランキング一位でいいや」
そんな気持ちになるのも、
私は無理もないと思っています。
だって本当に疲れるから!!
だから最近のWeb小説では、
「面白い作品が勝つ」というより、
「探される作品が減る」という現象が
起きているように感じます。
作品数が増えたことだけが原因ではありません。
作品を探すための認知コストそのものが、
長文タイトルによって年々大きくなっているのです。
●Web小説はサプリメント
しかし、
認知コストが高くなったとはいっても
それでもまだ今のWeb小説の世界では、
長文タイトルの方に分があります。
なぜなら、Web小説のタイトルは「品質保証書」でもあるからです。
読者さんは、本屋で小説を選ぶときのような
「どんな物語なんだろう」
という未知との出会いをweb小説に求めているわけではありません。
もちろん、そういう読み方をする方もいますが、
おそらく今は少数派です。
今のweb小説では、
「今日は追放ざまぁが読みたい」
「無双でスカッとしたい」
「溺愛で癒やされたい」
というように、
最初から欲しい読書体験が決まっている
読者さんが非常に多いのです。
だからタイトルには、
「この作品には、あなたが求めているものがちゃんと入っています」
という保証が求められます。
この感覚は、
サプリメント売り場へ行く時を想像すると
分かりやすいかもしれません。
私たちはサプリメントが欲しい時、
「今日はビタミンCにしようかな。それとも鉄分かな」
とは思いませんよね?
最初から、
「ビタミンCが欲しい」
「カルシウムを補いたい」
という目的が決まっているはずです。
その上で、
「天然由来なのか」
「一日一粒でいいのか」
「マグネシウムも配合されているのか」
といった違いを見比べて、
自分が欲しかったものを選んでいるはずです。
Web小説も、これとよく似ています。
読者さんは、
「何でもいいから小説を読もう」
と思ってサイトを開くわけではありません。
特定の"欲しい栄養"を決めてから作品を探していることが多いのです。
だからタイトルには、
「追放です」
「無双です」
「溺愛です」
といった成分表示が並びます。
●この先、タイトルはどうなる?
私は、ラノベの中の人なので、
その切実な環境ごと長文タイトルを肯定するような話を書いてきましたが、
この状況が永遠に続くとも思っていません。
むしろ、今は一つの限界へ近づいているように感じています。
作者は、
「あと一つだけ特徴を伝えたい」
読者さんは、
「もうこれ以上は読めない」
そんな綱引きを続けています。
作者は情報を増やすことで読まれようとし、
読者さんは情報が増えすぎたことで探すことに疲れてしまう。
この二つは、どこかで必ず衝突します。
いや、もうすでに衝突しているから
ランキング上位しか読まれない現象が起こっているのかもしれません。
では、この先はどうなるのでしょうか。
正直なところ、それは分かりません。
異世界ではない全く新しいジャンルが爆誕して
プラットフォームの生態系がガラリと変わるかもしれないし、
ランキングの仕組み自体が変わってしまうのかもしれない。
もしくは、
読者一人ひとりに合った作品をAIが届けるようになるのかもしれません。
ただ一つ言えるのは、
タイトルは作者や作品そのものではなく、
市場環境によって決まるということです。
市場が変われば、タイトルも変わります。
どんな読者がいて、
どんな作品が溢れ、
どんな仕組みで選ばれるのか。
それが変わった時、
作者も読者も
長文タイトルからやっと解放されるのかもしれません。
それが早いのか遅いのかはわかりませんが、
その時はもうすぐそこまでやってきている、
私はそんな気がしています。
●創作がつらくなったら、うら表紙のnoteへ
●サクッと読める毎日note(日替わり猫ちゃん付き♡)
●中の人はこんな感じです
――――――――――――
最後までありがとうございました!
この記事を気に入っていただけたら、
スキやフォローをいただけると嬉しいです。
また明日の投稿でお会いしましょう。
――――――――――――
いいなと思ったら応援しよう!
読んでくれたこと、心より感謝します。いただいたチップは真心と思い、大切にします。私は時間がかかりましたが、あなたが私よりもっと短い時間で、自分の人生を愛せるよう願っています。