スタチン、なぜこの薬だったのか、聞かずに考えてみた
処方されたスタチンには、なぜこの薬が選ばれたのでしょう。
薬剤師の視点で処方箋を読み解きながら、医師の考えを推理してみました。
聞かなかった質問
先日、コレステロールの薬を飲み始めた話を書きました。
出されたのはピタバスタチンという薬です。
一ヶ月ほどで数値はきちんと下がり、効果には満足しています。
ただ、薬剤師という職業柄、どうしても気になることがありました。
なぜ、この薬だったのだろう、ということです。
コレステロールを下げる薬、いわゆるスタチンには何種類もあります。
どれも同じように効くわけではなく、少しずつ性格が違います。
その中からなぜこれが選ばれたのか。
ドクターに聞けば一言で分かることですが、あえて聞かずに考えてみました。
処方箋という紙一枚から、どこまで医師の考えを読み取れるか。
これは薬剤師にとって、ちょっとした知的な遊びなのです。
まず外れるもの
薬には、体の中で分解されるときに通る道筋があります。
この道筋が混み合っていると、他の薬や食べ物とぶつかることがあります。
グレープフルーツジュースと一緒に飲まないでください、と言われる薬があるのは、このためです。
スタチンの中にも、この混み合う道を通るものがあります。
私は他にも飲んでいるものがありますし、長く続ける薬ですから、ぶつかりにくいほうがありがたいということになります。
そう考えると、候補はいくつかに絞られます。
スタチンには、作用の強いものとそこまで強くないものがあります。
ドクターは、強力なスタチンを低用量から始めようと考えたのだと思います。
ここまでは、すぐに見当がつきました。
けれど、ここで行き止まりになりました。
その条件を満たす薬は、ピタバスタチンだけではないのです。
もう一つ、ロスバスタチンという薬も同じ条件を満たします。
しかもこちらのほうが、数値を下げる力はどちらかというと強い。
残ったひとつの違い
では、この二つを分けるものは何か。
考えていて思い当たったのが、血糖でした。
実はスタチンという薬は、血糖を上げやすい傾向があります。
このため、糖尿病の発症をわずかに増やすという性質が知られています。
ごく小さな差ではありますが、確かに報告されているものです。
ところが、ピタバスタチンだけは事情が少し違います。
血糖への悪影響が少なく、むしろ良い方向のデータも報告されている薬です。
日本で行われた研究でも、糖尿病を発症しやすい方では、その傾向が示されています。
そして、私にこの薬を出したのは、糖尿病を専門とするドクターでした。
ここで、線がつながった気がしました。
おそらくドクターは、血糖を考慮されたのだろうということです。
コレステロールを下げつつ、血糖のほうは崩したくない。
その両方を満たす薬として、これを選ばれたのではないかという推測です。
あくまで私の想像ですが、そう考えると腑に落ちるのです。
同じ専門医でも違う
面白いのは、ここから先です。
以前、糖尿病の患者さんが多い薬局に勤めていたことがあります。
そこのドクターは、同じ糖尿病専門医でありながら、ロスバスタチンをよく処方される方でした。
一見すると、正反対のようです。
けれど、これも考えてみれば矛盾しません。
すでに糖尿病を発症している方にとっては、これから発症するかどうかという心配はもう関係ありません。
むしろ糖尿病がある方は動脈硬化が進みやすいので、しっかり下げることのほうが大切になります。
だとすれば、下げる力の強い薬を選ぶのは理にかなっています。
つまり、患者さんの状態が違えば、選ぶ薬も変わるということです。
どちらの先生も間違っていない。
同じ専門医の間でも、目の前の人によって答えが変わる。
それが薬というものの面白さだと思います。
処方箋は手紙のようなもの
念のために書き添えておきます。
スタチンで糖尿病が増えるといっても、その差はごくわずかです。
それよりも、心筋梗塞などを防ぐ効果のほうがはるかに大きいことが分かっています。
ですから、これを理由に薬を怖がる必要はまったくありません。
あくまで、同じように効くのならこちらを、という細やかな配慮の話です。
そして今回の推理が当たっているかどうかは、実のところ分かりません。
ドクターには別の考えがあったかもしれません。
今度診察を受ける際に、聞くのがいいのか、もうしばらく考えて経過を見るのがいいか迷っています。
処方箋には、薬の名前、用法と用量しか書かれていません。
けれどその一行の裏側には、医師がその人をどう見て、何を守ろうとしたのかが隠れていることが多いです。
それを読み解くのが、薬剤師の仕事でもあると思いました。
みなさんも、ご自分の薬について気になることがあれば、遠慮なく薬剤師に聞いてみてください。
その一行に込められた意味を、一緒に考えてくれるはずです。
まとめ
・スタチンは種類ごとに作用や特徴が少しずつ異なる
・薬の選択ではコレステロールだけでなく血糖への影響も考慮されることがある
・同じ専門医でも患者さんの状態によって選ぶ薬は変わる
・処方箋には医師の治療方針や意図が込められていることが多い
・薬について疑問に思ったことは遠慮せず医師や薬剤師に相談することが大切である
