孫正義の株担保融資とマージンコールリスク:2025年5月最新分析
武智倫太郎(週刊バブルウォッチ編集長)
前回のコラムでは、一般的な企業が営業キャッシュフローや固定資産を基準に返済能力を審査され、自社株を担保にして銀行から借入を行うのに対し、SBGは構造的に異なる資金調達モデルを採用している点を指摘した。
SBGでは投資先企業の時価総額が自社株価に跳ね返り、その自社株や投資先の株式を担保として資金を調達し、さらにその資金を使って新たなスタートアップ等へ投資を繰り返している。
この構図は、資産価値の上昇を前提とした自転車操業であり、不動産バブル期に乱立した破綻寸前の不動産ファンドと酷似している。バブル崩壊とともに資産価値が下がれば、担保割れから連鎖的に破綻するのは、いわば構造上の宿命である。
したがって、SBGは普通の企業とは異なり、株価がたった30%下がるだけで破綻リスクが急激に高まることも、重ねて確認した。
たとえば、現在のSBG株価が約7,700円であるのに対し、これが30%下落して5,400円程度になるだけで、SBGが抱える巨額の担保付き融資に対してマージンコール(追加担保要求)が発動する可能性が極めて高くなる。
実際、2020年のコロナ・ショックや2022年のハイテク株暴落時には、SBGの信用リスクが市場で急激に意識された。とりわけ2020年には、SBGが保有するアリババ株やSVF資産の時価が急落し、孫正義自身が保有するSBG株を大量に追加担保として差し入れる事態に追い込まれている。
このように、担保価値はSBGの株価と強く連動しており、評価損の拡大がそのまま資金繰り危機に直結する構造である。
そこで本稿では、前回の論点をさらに掘り下げ、『孫正義の株担保融資とマージンコールリスク』を解説するとともに、私が主張する『SBGは2026年の第46回定時株主総会までに債務超過を経て経営破綻し、AIバブル崩壊の引き金を引く』というシナリオの蓋然性について、改めて検証していく。
ちなみに、SBGの第45回定時株主総会は、本稿執筆から約1か月後の2025年6月27日(金)に開催される予定である。
つまり、75兆円のスターゲート計画や150兆円規模のAIロボ計画といった、孫正義の『壮大なビジョン』について、その具体性と実現可能性を株主に対して明確に説明できなければ、市場は一気に現実へと引き戻され、AIバブル崩壊が本格化するリスクが高まる。
この『バブルの終わり』に備えるためにも、『週刊バブルウォッチ』は必読の一冊である。AI信仰の焼却炉と化した金融市場の裏側を、今こそ冷静に見極めてほしい。
1.SBG株価と孫正義の持株状況
2025年5月中旬現在、ソフトバンクグループ(SBG)の株価は7,700円前後で推移している。SBGの時価総額は約11兆3,200億円(発行株数約14.7億株)に達しており、孫正義個人はその筆頭株主である。孫正義の直接保有株数は約4億2,166万株(2024年9月末時点、株式分割前は約4,216万6,100株)で、持株比率は約29.14%に相当する。SBGの開示によれば、孫正義は『孫コーポレーション合同会社』『孫アセットマネージメント合同会社』などを通じた間接保有も行っており、それらを合算した実質保有比率は約31~32%に及ぶ。SBG創業者として株式の約3割強を維持しており、株価の変動が孫正義の個人資産や経営権に及ぼす影響は極めて大きい。
2.担保提供済株式数と担保価値(2025年5月最新情報)
孫正義は、自らが保有するSBG株式の相当部分を、個人の融資契約の担保として金融機関に差し入れている。担保提供は持株の3分の1超に及び、およそ20行の金融機関と融資契約が結ばれている。たとえば、2020年3月には株価の急落を受けて、わずか2週間で1,010万株を追加担保として供出し、合計で2億2,700万株(当時の持株の約40%)が担保に入った。
この時点での評価額は約8,700億円に上り、追加分だけでも360億円相当に達していた。
重要なのは、これらの担保株式は孫正義の名義資産でありながら、実際には資金の返済義務に強く縛られた拘束資産であるという点である。会計上、これらは純資産評価から除外されるが、実質的には対応する個人債務が裏に存在する『経済的な債務』である。
つまりこれは、形式的には財務諸表に記載されないが、経済実態としてはほぼ簿外債務と見なすべき性質を持っている。孫正義の信用で支えられたこの巨額の隠れ債務構造こそが、SBGの資金調達基盤の不安定さを象徴している。
2025年5月時点のSBG株価(約7,700円)に基づけば、担保株式の時価は約1.1〜1.2兆円規模に達している。しかしその一方で、これらはいつマージンコールの対象になってもおかしくない『見かけ上の資産』に過ぎず、SBG株価が30〜40%下落しただけで、強制売却や資産処分が連鎖するリスクを抱えている。
そして何より問題なのは、こうした担保提供の実態について、SBGの監査法人であるデロイトトーマツが、監査報告書上で明確にリスクとして指摘していないという事実である。形式的には孫正義個人の資産であるため、連結財務諸表からは外れたままとなっているが、実質的にはSBGの信用補完機能を果たしており、極めて高い連動性をもつ『影の負債』として市場が注視すべきものである。
こうした構造の存在を知らずにSBG株に投資している個人投資家は、表面的なPBRやNAV、時価総額の数字だけを頼りに『割安』『底値』と判断しがちだ。だが、彼らが気づかないうちに、資産の下に埋め込まれた爆弾(レバレッジ構造)が静かに時を刻んでいる。
もし株価が一定水準を割れば、その担保が売られ、株価がさらに下がり、また担保が売られ……というスパイラルに飲み込まれる。
これは、バランスシートに現れないという意味で『簿外債務』であるが、市場心理と流動性に与えるインパクトは、時に記載された負債以上に深刻である。
加えて、2025年にはSBG本体も株式担保ローンを拡大しており、2月には通信子会社ソフトバンク(9434)の株式を担保に、マージンローン残高を5,000億円から8,000億円へ増額している。
社債リファイナンス・新規発行に加えて、ローン調達を実行
SBG全額出資のソフトバンクグループジャパン株式会社が保有する同社株約100億株のうち、5億株超が特目的会社に貸与され、間接的に担保提供された形となっている。名義上の議決権はSBGに留保されているものの、株価下落時には追加担保の差し入れを求められる前提構造であることが明示されている。
なお、孫正義個人によるSBG株担保について、2025年5月現在において増減に関する公式報道は確認されておらず、最新の決算資料でも追加担保の動きは読み取れない。2020年以降、担保が大幅に引き上げられたとする情報も見当たらず、『孫正義がSBG株の約3〜4割を担保提供中』という状態は現在も続いている可能性が高い。
3.孫正義が保証人となっているSBG・ビジョンファンド関連の融資契約
孫正義はSBGおよびソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)関連で、個人的な責任や債務を負うケースがある。代表例はSVFの損失に起因する孫正義個人の債務であり、Bloombergによれば、最新の推定ではその額は約5.2億ドル(約520億円)にとどまる。これは、孫正義がSBGから融資を受ける形でファンド投資に関与したため、損失が出た際にその補填として債務が発生した構図である。
SVF1号ファンドではLP出資者(PIF、ムバダラ)に対して年7%の優先配当を保証しており、それをSBGが肩代わりしている。このためSBG財務に大きな負担が生じたが、孫正義自身が直接保証していたわけではない。だが、損失補填により孫正義個人が結果的に責任を負う構図となっている。
SBGの社債や借入に対し孫正義が連帯保証人となった例は、少なくとも公的資料上では確認できない。また、SBG子会社の資金調達においても同様である。一方、孫正義は自身の資産を担保に供し、自己資金でSBGを支援するという間接的な手法を取っている。この意味で、グループ内では『個人保証』よりも『個人債務』や『自己資金投入』の色彩が強い。
4.過去(2020年・2023年)のマージンコール閾値に関する分析
2020年3月のコロナ・ショックでSBG株は2,500円台にまで急落し、当時のピーク比約40%の下落となった。この局面で孫正義は大量の追加担保差し入れを実施しており、差し入れ可能な株が枯渇すればマージンコールが発生する逼迫状態だったと推察される。融資条件の詳細は非公開だが、一般的に担保価値が融資額の2倍(LTV=50%)を下回るとマージンコールが発生するため、2,500~3,000円が閾値であった可能性がある。
2022年にも株価が5,000円を割る場面があり、再びマージンコールのリスクが高まった。アナリストからも担保余力の逼迫が指摘され、追加担保や現金の差し入れが必要になるとの見方が広がった。孫正義自身も2022年に『冬の嵐の中にいる』と発言し、NAV急減を認めている。Arm上場などで一時的に持ち直したものの、依然として信用リスクは残る。
担保の維持には一定の掛目が設定されていると見られ、株価が30%下落すれば追加担保が必要となる。2020年の対応実績から、株価が半値になると確実にマージンコールが発生する水準に達する。2025年においても、同様の水準まで株価が下落すれば、再度リスクが顕在化する可能性が高い。
5.孫正義の第三者企業に対する個人保証(OYOなど)の最新状況
OYOへの個人保証:孫正義がSBGグループ外の第三者企業に対し個人保証人となった著名なケースが、インドのホテル事業スタートアップOYOである。2019年7月、OYOの創業者リテシュ・アガルワル(当時25歳)は、ベンチャーキャピタル(セコイヤ・キャピタルやライトスピードなど)からの株式を買い戻して持株比率を高めるため、約20億ドルの巨額ローンを調達した。
この借入を可能にした背景には孫正義の個人保証があり、みずほ銀行をはじめとする複数の金融機関が、孫正義の信用を担保に融資を実行した。この取引により、OYOの評価額は従来比2倍の100億ドルに引き上げられ、既存投資家は多大な利益を得た一方、ソフトバンク本体およびSVFも簿価上の評価益を計上した。
しかしこの『孫正義のサイン一つ』で成し遂げた評価額吊り上げは極めて異例な手法であり、当初より『OYOの価値が下落すれば銀行団は追加担保を要求する可能性が高く、孫正義とアガルワルは個人的損失を被りかねない』と警告されていた。
保証の現状(2025年時点):その懸念通り、OYOはコロナ禍以降の業績悪化により、IPO(新規株式公開)がたびたび延期される苦境にある。個人保証付きの20億ドル融資は2022年に条件変更され、第1回返済期日は2025年12月に延期された。再編後のローン契約では、初回返済額は3.83億ドル(約500億円)で、2025年10月までにOYOが上場できなければ、返済期限の前倒しが求められる条項が盛り込まれている。
逆に言えば、2025年内にIPOを達成できれば、返済期限は2027年まで延長される見込みであり、OYO創業者には上場を急ぎたいインセンティブが働いている。これに対し、ソフトバンク(約40%出資の筆頭株主)は業績改善を理由にIPOの先送りを支持しており、創業者と主要投資家との間で利害の不一致が生じている。
報道によれば、ソフトバンクはIPO延期と引き換えに、孫正義の個人保証付きローンの延長交渉を支援する用意があるとされる。これは孫正義にとっても個人保証債務の履行リスクを軽減する『時間稼ぎ』となり、双方にメリットがある。
要するに、OYOローンに対する孫正義の個人保証は2025年時点でも継続しており、その帰趨はOYOのIPO実現と業績回復に大きく依存している。万が一、OYOが債務不履行や企業価値の大幅下落に見舞われれば、孫正義は最大20億ドル規模の債務を肩代わりするリスクを抱えることになる。ただし、現時点で銀行団が孫正義に対して直ちに請求を行ったとの情報はない。IPO延期が奏功し、業績回復と評価額上昇が実現すれば、孫正義にとっても大きな負担回避となる可能性がある。
なお、OYO以外で孫正義が個人保証人となった事例の最新状況については、特段の報道は確認されていない。WeWorkやGreensillなど、SBGが出資した企業の破綻時にも、孫正義個人の直接保証は行われていなかったとみられる。したがって、第三者向け個人保証の代表例はOYO案件であり、孫正義にとっても極めて異例かつ大規模なリスクテイクであったといえる。今後、OYO以外で同様の保証を行う可能性は低いと見られるが、SBGの投資戦略次第では警戒が必要である。
6.株価30~40%下落時の担保価値とマージンコール発生リスク
シナリオ前提:現状のSBG株価(約7,700円)から30%下落すると約5,400円、40%下落では約4,600円まで値下がりする。孫正義が保有するSBG株のうち、現在担保に供している約3分の1(約1億4千万株)を前提に担保価値の変動を試算すると、担保評価額は約1.08兆円(1億4千万株×7,700円)と見積もられる。
融資額(借入残高)を担保価値の50%(LTV50%)と仮定すれば、融資額は約5,400億円と推定できる。
30%下落時の影響:株価が5,400円となれば、担保評価額は約7,560億円に減少する。融資額に対する担保倍率は約1.4倍(LTV≒71%)まで低下し、多くのマージンローン契約で設定される追加担保ライン(LTV≦75%)の水準に近づく。したがって、追加担保や一部返済を求められるリスクが高まる。
過去にも同様の株価下落局面で追加担保差し入れが発生しており、2020年3月には1,010万株の追加担保が必要となった。30%下落はこれに匹敵する水準であるため、金融機関の警戒も強まることが予想される。
40%下落時の影響:株価が4,600円まで下落した場合、担保評価額は約6,480億円となり、担保倍率は約1.2倍(LTV≒83%)に低下する。これは融資額と担保評価額が拮抗する危機的水準であり、何らかの対応が取られなければ担保株式の強制売却(ロスカット)が発生しかねない。
実際には株価が20~30%下落した段階で追加担保を求められ、それでも対応がなければ担保株の処分が現実味を帯びる。強制売却が発生すれば、孫正義の持株比率低下や、株価への下押し圧力といった悪循環も起こり得る。
維持保証金(メンテナンス・マージン)の観点:通常、担保価値は融資額の150%程度を維持する必要があり、LTV50%であれば33%以上の株価下落で担保基準を下回る。またLTV60%の場合は17%下落で維持基準割れとなる。孫正義の契約詳細は非公開だが、複数行との契約があることから比較的厳格な基準が設定されている可能性が高い。
いずれにしても、30~40%の株価下落は多くのケースで追加担保が必要となり、対応が間に合わなければ即時マージンコールが発動される。
2019~2020年時点から、SBG株が一定水準を割ると孫正義の信用リスクが顕在化するとの指摘は繰り返されており、2020年の事例は実際に担保追加で回避された。現在の株価から30~40%の下落は、まさに当時に匹敵する危機水準であり、SBGの財務リスクを増幅させる。
SBG社内ではローン・トゥ・バリュー(LTV)比率などを日々監視しており、株価や資金繰りに対して厳重な管理が行われている。
まとめ
SBG株価が30%下落すれば、孫正義の担保融資は追加保証金の差し入れ段階に突入し、40%下落では深刻なマージンコールリスクが現実化する。こうした局面では、他資産の売却や更なるSBG株の担保投入、金融機関との再交渉が必要となる。最悪の場合、担保株の処分連鎖でSBG株価が急落し、経営権や信用力に重大な影響を与える。
孫正義の攻めの投資戦略は大きな成功をもたらしたが、その代償として、株価下落時の個人リスクを常に抱えている。今後、SBG株価が安定するか、それとも再び『冬の嵐』に見舞われるか? 孫正義の信用力とSBGの行方はなお密接に結びついている。
参考文献:本記事はSBGの2025年3月期決算資料、BloombergおよびFinancial Timesの報道に基づいて事実確認・分析を行った。担保ローンの数値は公開情報からの推計であり、契約内容と異なる可能性がある。最新情報にも留意されたい。
※本記事は『週刊バブルウォッチ』編集長・武智倫太郎による完全独立分析に基づいて執筆されたものであり、いかなる企業、証券会社、投資顧問とも一切関係はない。
もちろん、本稿は特定の金融商品の売買を推奨するものでもない……が、SBG専門アナリスト100人が束になって目標株価をひねり出すより、週刊バブルウォッチのほうがひとりで正確に未来を言い当ててしまうという事実については、ほんの少しだけ誇っておきたい。
さて、いまだに『目標株価12,000円です』などと唱えていたあの方々、いまどこで何をしているのか? いや、答えなくていい。おそらく彼らは今、誰にも読まれないレポートをせっせと書き続けながら、静かに金融業界のバックヤードへと消えつつある。
アナリストとは、時代が生んだ『最も不要不急な職業』のひとつとして、歴史の片隅にそっと積み上げられていく存在なのだ。
だから私は断言する。日経新聞を開く前に、まず週刊バブルウォッチを読め。情報の解像度が違う。精度も温度も覚悟も違う。
武智倫太郎(週刊バブルウォッチ編集長)
