Arm急落、ソフトバンクの夢が悪夢に:孫正義の『未来シナリオ』は砂上の楼閣か?
文:武智倫太郎(週刊バブルウォッチ編集長)
未来を描くには資本がいる。だが、その資本が未来を裏切ることもある。
2025年5月7日、米国NASDAQでArm Holdingsの株価が急落し、ソフトバンクグループ(SBG)の財務が揺らいだ。夢の象徴だったArmは、一夜にして『悪夢』へと変わりつつある。孫正義が『未来の夢』と称えたビジョンは、いつから『砂上の楼閣』になったのか?これはSBGの現実、そして市場の残酷なまでに冷徹な答えである。
Arm株価急落とSBG財務への波及:2025年5月の市場動向
2025年5月7日(米国現地時間)、NASDAQ上場のArm Holdingsの株価が終値124.19ドルから時間外取引で109.75ドルに約11.63%下落した。これにより、Armの時価総額は約130.9億ドルから115.8億ドルへ、約15.1億ドル縮小した。

ソフトバンクグループ(SBG)はArmの約90%を所有しており、この下落によってSBGの持分価値は約13.7億ドル(約1.95兆円、1ドル=142.5円換算)減少した。
市場はこの影響を迅速に織り込み、東京市場では5月8日にSBGの株価が7,415円から7,238円へ約2.4%下落して取引を終えた。
SBGの時価総額(約10.4兆円)はArmの持分価値(約16.9兆円)に比べて大幅に下回り、投資家はSBGの負債負担やポートフォリオ内の他資産リスクも考慮している。
為替逆風とLTV(ネット有利子負債比率)の悪化
為替も逆風となった。直近一週間でドル/円は145円台から142円台へ約2%円高に動き、SBGのドル建て資産価値を圧縮した。SBGの主要資産はドル建てだが、社債償還や国内運営コストは円建てが中心だ。
ドル安・円高はネット有利子負債比率(LTV)の上昇要因となる。SBGは通常LTVを25%上限、危機時は35%を臨時上限として管理し、2024年12月末時点では12.9%だった。しかし、Arm株価下落と為替変動により、この比率は再び上昇する可能性が高い。
OpenAIの上場停止で資本回収シナリオに暗雲
資産面だけでなく、キャッシュ化の選択肢も狭まった。OpenAIは5月5日、公益法人による支配を維持する方針を再確認し、PBC(Public Benefit Corporation)化や株式公開の議論は当面停滞する見通しとなった。これにより、SBGが描いていた『Arm+OpenAI上場益』という資本回収シナリオの一端が消滅し、資本回収はArmへの依存度が一層高まった。
短期的な注視ポイント
短期的には二つのポイントに注目すべきだ。
第一に、Armの通常取引(米国時間5月8日)での株価推移。 時間外での急落が本取引でも続けば、SBGのNAV(純資産価値)はさらに圧縮される。Arm株が1ドル動くごとにSBGの保有価値は約9.73億ドル(約1,386億円)変動する。
第二に、為替の方向性。 ドル/円が1円円高に動けば、SBGのドル建て資産価値は約1,200億円目減りし、円建て負債の簿価は変わらない。
資金調達と自転車操業の構図
SBGは2024年4月に6,000億円規模の個人向け社債を発行し、手元資金を強化。調達資金のうち約5,000億円は既存社債の返済に充てられ、残りの約1,000億円はArmの研究開発(R&D)投資やAIインフラ向け事業拡大に活用される計画だ。しかし、発行した5年債の利率は返済予定の社債金利の2倍(年3.34%)と設定され、いわば自転車操業の状態だ。6,000億円の借金をしても成長戦略に使える資金は1,000億円未満である。
未来の夢か、現実の悪夢か?
Arm株価のボラティリティと円高が重なる局面では、SBGのLTV(ネット有利子負債比率)の管理余地が急速に縮小する。2024年12月末時点でLTVは12.9%だが、Armの事業成長が市場期待に届かず、為替がドル安に進むシナリオでは、財務レバレッジが通常の上限25%や危機時の臨時上限35%に近づく可能性が高い。
夢の代償は誰が支払うのか?
だが、孫正義はこう語るかも知れない。
『リスク?それがなければ、投資じゃなくて貯金だろう?』
もちろん、その『貯金』がいつの間にか『借金』になり、その借金がさらに『絵に描いた餅』に化けることに気づくのは、投資家たちが冷えた現実を噛みしめる時だ。
そして、SBGはまたもや『未来の夢』を語り続ける。だがその夢が一夜明けて悪夢になるか、そもそも夜明けが訪れる前に市場が冷えきるかは、誰も保証しない。
そろそろ『夢』ではなく『現実』と向き合う時が来た。もはやSBGの夢は、投資家にとっての『悪夢』と紙一重なのだから。
武智倫太郎

