岩手物語 第十五話 匂い
作者が思っているよりも手ごたえを感じてます。
「岩手物語」__さらに新たな展開へ。
第十五話 匂い
あの事件の時、
ミチザネは確かに居た。
弓道部の練習が終わると、僕はミチザネに声をかけた。
彼に聞きたいことがある。
「ミチザネ、帰りにラーメンでも食べにいかない?」
「ラーメン?」
訊けばミチザネはなんと、ラーメンを食べたことがないらしい。
ラーメンを食べたこと無いって、僕からすればありえないことだ。
そんなミチザネと話をしている僕の視界にチラリと、ユミ先輩が入った。
すると、同じ女子弓道部の坂上先輩がユミ先輩に声をかけた。
「ユミーっ!」
「なぁに?」
「なんかさぁ、ダブル菅原がラーメン行くみたいよ。」
「混ざらない?ホラ、コウちゃんも一緒だし、
イケメンのミチザネもいるよぉ~っ。」
「え、コウも!」
ユミ先輩は、思わず出た自分の声に、
びっくりして真っ赤になっていた。
坂上先輩がこちらを見て言った。
「ホラ、ホラ、コウくん誘いなよ~」
「いえ、あの、今回は、男同士のですね。」
僕は、汗が噴き出しているのを悟られまいか、
汗の匂いとか大丈夫かとか、どうでもいいことで
頭がいっぱいになっていた。
すると、ユミ先輩が、
「あの、私、今日は神社の手伝いがあるから。」
「えっ、なんで~」
「だって、家からさぁ……」
「え、じゃさ、終わるころユミん家、寄っていい?」
僕は恥ずかしくて、ミチザネを押してロッカーに向かった。
*
ミチザネは提供された初めてのラーメンを前にしていた。
「これは……」
「味噌豪メンだよ、ハイ、食って食って。」
「しかし、凄い匂いだぞ。」
「いいから、いいから、」
恐る恐るニンニクのたっぷり効いたみそ味のラーメンをすすると、
ミチザネは目を丸くした。
「これは……うまい!」
「だろっ。」
ラーメンをすすりながら僕は訊いた。
「なぁ、ミチザネは
……その、日本の伝統をずっと守ってるんだよなぁ、」
ミチザネは、少し天を仰いだ。
「伝統……そういう見方もあるか。」
「ミチザネがさ、転校してきたのってさ」
「おっ、これは……」
ミチザネは店自慢のチャーシューをかじると至福の表情だ。
クールなミチザネがこんな顔するんだ。
僕は嬉しくなった。
「な、ここのチャーシュー旨いよなぁ。」
「ところでコウ、よかったのか、
あの先輩を誘いたかったんじゃないのか。」
僕は、むせこんだ。
ミチザネはちょっと変わっているけど、勘が鋭いのか。
「いや、ミチザネ、ユミ先輩は今日、家で巫女の手伝いがあるって、」
「巫女……。」
ミチザネは眉間にしわを寄せ見上げ、思案した。
「いや、なに、なに……」
巫女姿、かわいいんだろうなぁ、とかそういう想像したのか。
僕はニンニクの効いたラーメンを見つめて、
いや、今日じゃなくてよかったと思った。
ふと気づくと、なんだか今日は山のほうがやけに騒がしい。
パトカーのサイレンがこだましていた。
横にいるミチザネの箸が止まった気がした。
