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岩手物語 第十五話 匂い

作者が思っているよりも手ごたえを感じてます。
「岩手物語」__さらに新たな展開へ。

第十五話 匂い

あの事件の時、
ミチザネは確かに居た。

弓道部の練習が終わると、僕はミチザネに声をかけた。
彼に聞きたいことがある。

「ミチザネ、帰りにラーメンでも食べにいかない?」

「ラーメン?」

訊けばミチザネはなんと、ラーメンを食べたことがないらしい。

ラーメンを食べたこと無いって、僕からすればありえないことだ。

そんなミチザネと話をしている僕の視界にチラリと、ユミ先輩が入った。

すると、同じ女子弓道部の坂上先輩がユミ先輩に声をかけた。

「ユミーっ!」

「なぁに?」

「なんかさぁ、ダブル菅原がラーメン行くみたいよ。」
「混ざらない?ホラ、コウちゃんも一緒だし、
イケメンのミチザネもいるよぉ~っ。」

「え、コウも!」

ユミ先輩は、思わず出た自分の声に、
びっくりして真っ赤になっていた。

坂上先輩がこちらを見て言った。
「ホラ、ホラ、コウくん誘いなよ~」

「いえ、あの、今回は、男同士のですね。」

僕は、汗が噴き出しているのを悟られまいか、
汗の匂いとか大丈夫かとか、どうでもいいことで
頭がいっぱいになっていた。

すると、ユミ先輩が、
「あの、私、今日は神社の手伝いがあるから。」

「えっ、なんで~」

「だって、家からさぁ……」

「え、じゃさ、終わるころユミん家、寄っていい?」

僕は恥ずかしくて、ミチザネを押してロッカーに向かった。

ミチザネは提供された初めてのラーメンを前にしていた。

「これは……」

「味噌豪メンだよ、ハイ、食って食って。」

「しかし、凄い匂いだぞ。」

「いいから、いいから、」

恐る恐るニンニクのたっぷり効いたみそ味のラーメンをすすると、
ミチザネは目を丸くした。

「これは……うまい!」

「だろっ。」

ラーメンをすすりながら僕は訊いた。

「なぁ、ミチザネは
……その、日本の伝統をずっと守ってるんだよなぁ、」

ミチザネは、少し天を仰いだ。
「伝統……そういう見方もあるか。」

「ミチザネがさ、転校してきたのってさ」

「おっ、これは……」

ミチザネは店自慢のチャーシューをかじると至福の表情だ。
クールなミチザネがこんな顔するんだ。

僕は嬉しくなった。

「な、ここのチャーシュー旨いよなぁ。」

「ところでコウ、よかったのか、
あの先輩を誘いたかったんじゃないのか。」

僕は、むせこんだ。
ミチザネはちょっと変わっているけど、勘が鋭いのか。

「いや、ミチザネ、ユミ先輩は今日、家で巫女の手伝いがあるって、」

「巫女……。」
ミチザネは眉間にしわを寄せ見上げ、思案した。

「いや、なに、なに……」
巫女姿、かわいいんだろうなぁ、とかそういう想像したのか。

僕はニンニクの効いたラーメンを見つめて、
いや、今日じゃなくてよかったと思った。

ふと気づくと、なんだか今日は山のほうがやけに騒がしい。
パトカーのサイレンがこだましていた。

横にいるミチザネの箸が止まった気がした。


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