岩手物語 【作品紹介】&第一話、水底からの呼び声
※創作大賞の規定により、冒頭にあらすじを記載しております。物語の驚きを大切にしたい方は、本編(第一話)から読み進めてくださいね
【あらすじ】
岩手で祖父と暮らす高校生・菅原コウ。
ある夜、謎の集団に襲われ瀕死の重傷を負ったコウは、漆黒の川へ突き落とされる。
しかし、目覚めた彼の身体からは致命傷の傷跡が消え去っていた。
時を同じくして現れた謎の転校生・ミチザネ。彼がもたらしたのは、平安の世から菅原家が代々引き継いできた「鵺(ぬえ)」の鎮魂祭の記憶だった。
そんな中、コウを襲った地元の少年たちが、遠野の河原で凄惨な変死体で見つかる。
「おまえの中におるぞ」耳の奥で囁く声の主は、敵か、それとも己を救った異形か。
土着の神「荒吐(アラハバキ)」の影が蠢く岩手の地で、血の宿命に巻き込まれた少年の伝奇サスペンス。
ーーーーーーーーーーーーーーー
第一話 水底からの呼び声
「なぁ、コウ、今晩バイトやんない?」
放課後、声をかけてきたのは
バレー部のコウジだ。
「いや、俺、用事あるから。」
「そうか……割のいいバイトだぜ、OBのガンさんに人集めてくれって言われてんだよなぁ。」
そう言うとコウジはちらりと僕を見た。
「じゃ、仕方ない、タケルに声かけてみるか。」
「ごめんな。」
謝りはしたが、仮に予定が無かったとして、コウジの誘いに乗ったかは分らない。
彼は、ねずみ講みたいなものを勧誘してきたりと、なんとなくだが胡散臭いのだ。
「いいよ……でもお前、付き合い悪いな。」
僕は溜息をついた。
なんだよ、その捨て台詞みたいなの。
明日、早くからじいちゃんの畑仕事の手伝いをしなくちゃいけないんだ。
僕にも都合があるんだぞ。
僕はじいちゃんと二人暮らし。
じいちゃんの手伝いは最優先だ。
最後の付き合いが悪いなという言葉に、なにかモヤモヤした気分になっていると、
「コウ居る? 弓道場行こっ。」
支度をしていた僕に教室のドアから「ひょん」と顔を出したユミ先輩。
長めのポニーテールが揺れた。
教室に残っていた男子から冷やかしに似た声が上がる。
僕はなんだか恥ずかしい気持ちになったけど、嫌な気分がぱっと晴れた。
「俺行きま~す!」
元気よく手を上げたのは阿部だ。
僕は、思わず噴き出した。
お前は伝統舞踊研究会だろ。
「行こ、行こ、先行ってるわね。」
ドアの向こうに軽やかに弓道場に向かうユミ先輩の後ろ姿が見えた。
「いいなぁ、ユミ先輩、俺好みだな。」
阿部の視線がその姿を追いかけた。
「阿部、先輩にも選ぶ権利あるぞ。」
僕のその言葉に阿部が、ふくれっ面をした。
「失礼だなぁ、で、コウジはなんだって?」
「いいバイトがあるってさ。」
「あ~、やめた方がいいよ、この間、小指の先ほどのガラス玉を五千円で買わないかとか言ってたぜ。」
僕はカバンに教科書を突っ込んでいた手を止めた。
「まじか、誰か買ったの?」
「コレ。」
阿部がズボンの前ポケットから、
海辺で拾ったガラスのかけらにしか見えないモノを取り出した。
「お前、何やってんの。」
「いや、最終的に二千円にしてもらったぜ、恋愛運が上がるんだってさ。」
「お前さぁ。」
僕は頭を掻いた。
阿部は、五千円の商品を値切った自分の交渉力を自慢したそうだったが、どう見てもその辺に落ちていたガラス瓶のかけらだ。
阿部は根は良い奴なんだけど、こういうところがある。
*
自宅に帰り台所で夕飯を片づけていると、こげ茶のビーズ暖簾の音がした。
「お、コウ、すまんな、アイス買ってきてけで。」
振り向くと、じいちゃんはパジャマ姿で首から下げたタオルで耳をほじっていた。
「いいよ、何喰いたい?」
じいちゃんが冷蔵庫から牛乳をだすと、手をさまよわせてコップを呼んだ。
「あれよ、ヨーグルト味の……」
「あれさ、生協にしか売ってないから、コンビニでいいべ。」
僕が洗い終わったコップを差し出すと、じいちゃんは頷いて牛乳を注いだ。
「うん、なんでもいい、コウが風呂さ入る前に買ってきてけで。」
「お小遣いやっからよぉ、後、明日の昼のなんか買てきてもいいし。」
「うん、分かった。」
テーブルの上の財布を取ると、じいちゃんが言った。
「二千円やったら足りっか?」
「よげだ(多いよ)、千五百円で大丈夫でない?」
「いいがら、あいった、アレ、コウの好きな、すっぱ……」
「すっぱムーチョ?」
「うん、買ってきたらいいじゃ。」
僕は自転車で田舎道をコンビニへ走らせた。
この辺は街灯もポツンポツンとあればいい方で、さみしげな夜道が続く。
家から出てすぐの、小さな橋で自転車を止めた。
静かな川のせせらぎが聞こえる。
僕は小さい時からこの水の流れる音を聴くのが好きだった。
数分、その場にとどまっていたが、再び自転車を漕ぎだした。
9月初めになっても涼しくは無かった。
気のせいか、背を向けた川から声がした気がした。
