写真の中の笑い声(12)空っぽ|目立っていた僕と、満たされなかった心
松山での僕は、バスケ部、生徒会、応援団長と、いつも人の輪の真ん中にいました。
けれど、たくさんの声に囲まれているほど、心の奥には説明できない空っぽさが残っていきます。
誰かに惹かれそうになるたび、僕の中にはいつも、ほのかという消えないものさしがあった第12章です。

中学に上がると、僕は、当たり前のように、バスケ部に入った。
もともと、目立つことも、仕切ることも、輪の真ん中にいることも、得意なほうだった。一年から、レギュラーになった。学級代表もやった。顔も名前も、すぐに、知られた。
いま思えば、ずいぶん、調子に乗っていた。
でも、いいことばかりじゃ、なかった。
一年の終わり頃、試合で、膝を、大きく痛めた。激しく動いてきた体は、もう、あちこちが、軋んでいた。僕は、バスケを、やめた。せっかく見つけた居場所を、また一つ、失った。
ふらふらしている僕を見かねたのが、一年のときの担任、清水先生だった。こわい人で、でも、生徒のことを、誰より、見ている人だった。先生は、半ば強引に、僕を、生徒会に引っぱり込んだ。選挙じゃない。先生の、推薦枠の、書記としてだ。
三年になると、今度は、応援団長を、任された。
全校生徒の前に立って、声を、張り上げる。
僕の声に合わせて、体育館が、揺れるように、返してくる。何百もの目が、僕を、見ている。手を上げれば、みんなが、それに、ついてくる。
入学してからずっと、僕は、どちらかといえば、目立つほうだった。団長をやっていたあの頃は、その中でも、いちばん、注目を浴びていたと思う。
はたから見れば、僕は、いろんなものを、手に入れていたんだと思う。
でも――その、いちばん真ん中で。
大勢の声に包まれている、まさにその真ん中で、僕だけが、どこにも、いないような気がしていた。
華やかな場所の、ちょうど真ん中で、自分だけが、すうすうと、風の通り抜けるみたいに、空っぽだった。
松山にいたあいだも、いいな、と思う子は、いた。
でも、不思議なことに、そういう子があらわれるたびに、僕は、心のどこかで、その子を、ほのかと、比べていた。
自分でも、気づかないうちに。
この笑い方は、ほのかとは違う。この感じは、ほのかじゃない。
そうやって、結局、誰のことも、本気では、好きになれなかった。
ほのかが、いつのまにか、僕の中の、ものさしに、なっていた。
それなのに、僕は、その根っこから、目をそらすようにして、生きていた。
目立っていたから、声をかけてくる子も、いた。誘いも、機会も、あった。
そして僕は、ずいぶん、いいかげんなことを、した。
その一つひとつを、ここで、細かく書くつもりはない。ただ、自慢できることは、ひとつも、ない。
あの頃の僕は、自分の気持ちというものを、ずいぶん、安く、雑に、扱っていた。
そういうことのあとには、いつも、同じものが、残った。
満たされた感じなんて、これっぽっちも、なかった。ただ、すうすうと風の通るような、空っぽさ、だけが、残った。
その底には、いつも、説明のつかない、後ろめたさが、あった。
ほのかと、何か約束をしていたわけじゃない。付き合っていたわけでも、もう何年も、会ってすら、いなかった。
それなのに、僕は、ほのかに、悪いことをしている気がして、ならなかった。
いまなら、少しだけ、分かる。
あの後ろめたさの底には、いつも、ほのかが、いたのだと思う。
小学校のとき、ほのかは、何も悪いことをしていないのに、汚いもののように、言われた。
僕は、たぶん、その逆だった。
誰に言われたわけでもないのに、自分で、自分の心を、少しずつ、雑に、扱っていた。
あの頃の自分を、僕は、いまでも、うまく、好きになれない。
ただ――この空っぽを、ずっとあとになって、笑いに変えてくれる人が、いる。
でも、それは、まだ、ずっと先の話だ。
松山にいた僕は、空っぽのまま。自分が空っぽだということにすら、半分しか、気づかずに、毎日を、過ごしていた。
*
あなたにも、「いつか会える」と思ったまま、
会えなくなってしまった人はいますか。
♪ 今回のBGM:es 〜Theme of es〜(Mr.Children)、ALIVE(Mr.Children)
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