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写真の中の笑い声(13)わからない四年|岡山で彼女が取り戻した笑顔

松山で過ごした四年間を、僕は覚えています。

けれど同じ時間を、岡山でほのかがどう生きていたのか、僕は何も知りません。

知らないことを勝手な想像で埋めないまま、それでも高校で再会した彼女の笑顔から、その四年間が彼女をもう一度ほのからしくしてくれたのだと感じていました。

第13章 わからない四年

 僕の松山での四年間は、そんなふうだった。

 にぎやかで、空っぽで、ほのかを忘れたふりをしていた、四年間。

 でも――その同じ四年間を、岡山で、ほのかが、どう過ごしていたのか。

 僕は、何も、知らない。


 どんな友達がいたのか、知らない。

 どんな学校に通って、休み時間に、誰と、どんな話をして笑っていたのか。相変わらず、ピアノを弾いていたのか。好きな人が、できたのかどうか。僕のことを、一度でも、思い出すことが、あったのかどうか。

 ――何ひとつ、知らない。


 その気になれば、いくらでも、想像はできる。

 岡山の教室に座るほのか。新しい友達と笑うほのか。誰かに告白されて、困っているほのか。

 でも、それは、ぜんぶ、僕が勝手に作った、ほのかだ。本当のほのかじゃない。

 知らないことを、知っているふりで埋めてしまったら、その瞬間、本物のほのかは、どこかへ、消えてしまう気がする。

 だから僕は、その四年間を、わからないまま、わからないものとして、ここに、置いておく。


 ほんとうのことを言うと――。

 高校で再会してからも、僕は、ほのかの岡山時代のことを、ほとんど聞いた覚えがない。

 もしかしたら、ほのかは、話してくれていたのかもしれない。なのに、僕の頭が、それを、覚えていない。

 そして、僕のほうから、進んで訊いたことも、なかった。

 なぜ、だろう。

 いま、こうして書きながら、はじめて、思い当たる。

 ――たぶん、僕は、聞きたく、なかったのだ。

 岡山の四年のあいだに、ほのかに、好きな人が、いたかもしれない。誰かと、笑い合っていたかもしれない。

 それを知るのが、こわかった。

 子どもみたいな、嫉妬だ。何年も会っていなかったくせに。何の約束も、していなかったくせに。

 それでも、聞きたくなかった。だから、訊かなかった。たぶん、聞いたとしても、忘れたふりを、したのだと思う。


 でも、ひとつだけ、たしかなことがある。

 高校で再会したほのかは、もう、あの「ふしだら」のあとの、口数の少ない子じゃ、なかった。

 いたずらっ子みたいに、けたけたと笑って、僕の逃げ道を、あっさり、ふさいでしまう。

 しかも――それは、僕の前でだけ、じゃ、なかった。

 男子とも、女子とも、誰とでも、屈託なく話して、笑っていた。

 あの日、世間に見せる顔を奪われて、僕の前でしか戻らなかった、あの笑顔が。

 いまは、誰の前でも、咲いていた。

 出会った頃の――いや、それよりもっと、まっすぐな。

 いちばん、ほのからしい、ほのかだった。


 だとしたら。

 岡山という場所は、きっと、ほのかにとって、悪いところじゃ、なかった。

 いい仲間に、恵まれたのかもしれない。

 そして――もしかしたら、恋も、したのかもしれない。

 

 そう思うと、いまでも、少しだけ、胸がちくりとする。

 でも、それ以上に、思うのだ。

 岡山は、ほのかが、広島で奪われた、本当の自分を、もう一度、取り戻した場所だったんじゃないか、と。


 だから、結局、僕は、ほのかの四年間を、知らない。

 知っているのは、その四年の向こうから戻ってきたほのかが、ちゃんと、また、笑っていた、ということだけだ。

 わからないままで、いい。

 むしろ、僕は、その知らない四年に、感謝しているのかもしれない。

 僕がそばに、いなかった、その時間が。

 ほのかを、ほのかに、戻してくれたのだから。

あなたにも、時間だけが過ぎても、
心の中では止まったままの思い出はありますか。

♪ 今回のBGM:Any(Mr.Children)

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#創作大賞2026 #恋愛小説部門



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