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海士町アンバサダーになってわかった関係人口施策の本質

記事概要

元公務員、現民間人、そして海士町アンバサダー。三つの立場を経験した僕が、実際にアンバサダーとして活動してわかった制度の魅力と本質を語ります。DAOへの興味から始まった関わりが、今は島の留学生との交流に。この期待と現実のズレが教えてくれたことをお伝えします。



はじめに

僕は海士町アンバサダーとして活動している。

国家公務員として20年以上、5つの省庁で地方創生施策に関わってきた。現在は民間のAI企業で地方創生支援に携わっている。そしてもう一つ、海士町アンバサダーとして、実際に関係人口施策の当事者になっている。

発注側(元公務員)、受注側(現民間)、そして当事者(アンバサダー)。この三重の視点から見えてくる、海士町アンバサダー制度の魅力と本質を語りたい。

公務員時代、僕は数多くの関係人口施策を見てきた。しかし正直なところ、本当に機能している事例は限られていた。形だけの登録制度、一方的な情報発信、数値目標だけを追う施策。多くの自治体が試行錯誤している中で、海士町のアンバサダー制度は明らかに異質だった。

だから、僕は当事者になってみることにした。

アンバサダーになる前に訪問した際の記録⬇️


僕が海士町アンバサダーになったきっかけ

海士町アンバサダーに興味を持ったのは、DAOという仕組みへの関心からだった。

DAO(分散型自律組織)は、中央管理者を置かず、参加者が自律的に意思決定し活動する組織形態だ。ブロックチェーン技術を活用した新しい組織のあり方として、ビジネスの世界でも注目されている。海士町がこのDAOの概念を地域づくりに取り入れようとしている、という情報を目にしたとき、僕は強く惹かれた。

元公務員として、僕は行政組織の限界を嫌というほど見てきた。縦割り、意思決定の遅さ、硬直的な組織運営。一方で民間企業に移ってからは、スピード感と柔軟性を実感している。

地方創生という文脈で、行政でもなく民間でもない、第三の組織形態が機能するのか。DAOという新しい仕組みが、関係人口という概念とどう結びつくのか。それを自分の目で確かめたいと思った。

もう一つ、僕には問題意識があった。

公務員時代に関わった関係人口施策の多くは、登録者数という数値目標を追うことに終始していた。登録はしてもらえるが、その後の関係が続かない。イベントには来てくれるが、一過性で終わる。施策として予算は確保できても、本当の意味での関係づくりには至らない。

海士町のアンバサダー制度は、その課題を解決しているのだろうか。DAOという仕組みを使えば、持続可能な関係人口施策が実現できるのだろうか。

「当事者になってみよう」

僕はそう決めて、海士町アンバサダーに登録した。

DAOへの興味から始まった海士町との関わり

実際にアンバサダーになって見えた「期待と現実」

アンバサダーになって、僕が最初に感じたのは「期待と現実のズレ」だった。

DAOのような先進的な組織運営を期待していた僕に与えられたのは、島の留学生との交流機会だった。オンラインで島留学に来ている高校生や、地域おこし協力隊として活動している若者たちと話をする。彼らの活動を聞き、時には相談に乗り、時には一緒に何かを考える。

正直に言えば、最初は少し拍子抜けした。

「これがDAO?」と。

しかし、この「ズレ」こそが、海士町アンバサダー制度の本質を教えてくれることになる。

島の留学生たちとの交流は、想像以上に面白かった。彼らは都会から離島に飛び込んできた若者たちだ。地域づくりへの熱意、新しいことへの挑戦、時には失敗や戸惑い。

オンラインでの交流が中心だが、時には実際に海士町を訪れることもある。島の人たちと一緒に食事をし、地域の課題について話し合い、留学生たちの活動を見る。そこには、制度設計書には書かれていない、人と人とのリアルな関係があった。

アンバサダー同士のつながりも面白い。アンバサダーには様々な背景を持つ人がいる。企業経営者、研究者、クリエイター、学生。それぞれが海士町に対して異なる関心を持ち、異なる形で関わっている。

僕のように「DAOに興味がある」という人もいれば、「島の教育に関心がある」「地域の食文化を知りたい」「移住を考えている」という人もいる。関わり方も、深さも、頻度も、みんな違う。

そして、それでいい、という空気がある。

「必ずこうしなければならない」という縛りがない。年に一度のイベント参加でもいいし、毎週オンラインで関わってもいい。何か特定のプロジェクトに参加してもいいし、ただ島の様子を眺めているだけでもいい。

この緩さが、逆に継続性を生んでいる。

オンラインでつながる、島と人との日常的な関係

元公務員として見る「海士町アンバサダー制度が機能している理由」

アンバサダーとして実際に活動してみて、元公務員の視点から「なぜこの制度は機能しているのか」が見えてきた。

多くの自治体の関係人口施策がうまくいかない理由は、大きく三つある。

一つ目は、登録だけで終わってしまうこと。登録者数という数値目標は達成できる。しかし登録後のフォローがなく、関係が続かない。結果として「名簿上の関係人口」が増えるだけで、実質的な関わりは生まれない。

二つ目は、行政からの一方的な情報発信になってしまうこと。自治体の広報誌やメールマガジンを送るだけ。イベント案内を流すだけ。関係人口側からのアクションが生まれる仕組みがない。

三つ目は、数値目標に追われること。登録者数、イベント参加者数、SNSフォロワー数。これらの数字を追うことが目的化してしまい、一人ひとりとの関係の質が疎かになる。

僕自身、公務員時代にこれらの問題に直面した。予算を確保するためには数値目標が必要だ。議会に説明するためにも、わかりやすい成果指標が求められる。しかし、本当に大切な「関係の質」は数字では測れない。

海士町のアンバサダー制度は、これらの落とし穴を巧みに避けている。

まず、登録後のフォローがある。定期的に島の様子が共有され、オンライン交流会が開催される。しかし、それは義務ではない。参加したければ参加すればいい。参加しなくても、それはそれでいい。この「緩さ」が、逆に関係を続けやすくしている。

次に、双方向のコミュニケーションがある。行政からの一方的な発信ではなく、アンバサダー側から「こんなことやってみたい」という提案ができる。島の留学生から相談を受けることもあれば、アンバサダー同士で何かを企画することもある。

ここに、行政の関わり方の絶妙なバランスがある。

海士町の担当者は、制度を管理するのではなく、つなぐ役割に徹している。アンバサダーと島の人をつなぐ。アンバサダー同士をつなぐ。やりたいことと機会をつなぐ。この「つなぐ」という姿勢が、制度を生きたものにしている。

制度設計の裏側にある、人を大切にする姿勢

民間人として、当事者として感じる「この制度の本質」

海士町アンバサダーとして活動する中で、僕は三つの立場から制度を見ることができた。

発注側(元公務員)として見ていた景色。それは、予算、数値目標、成果報告、議会対応。関係人口施策は、政策目標を達成するための手段だった。住民の税金を使う以上、成果を示さなければならない。その責任感と、実際の関係づくりとの間で、葛藤していた。

受注側(現民間)として見る景色。それは、自治体からの受注案件、プロポーザル、事業計画書、KPI設定。地方創生は、ビジネスの一領域だ。クライアントである自治体のニーズに応え、成果を出し、継続受注につなげる。そこにも、本質的な地域づくりとの間にギャップがある。

そして、当事者(アンバサダー)として体感する景色。それは、島の留学生との何気ない会話、アンバサダー同士の雑談、島を訪れたときの温かい空気。ここには、予算も契約も数値目標もない。ただ、人と人とのつながりがある。

この三重の視点から見えてきたのは、「関係人口」という言葉の本質だった。

関係人口は、政策用語としては「移住でも観光でもない、地域と多様に関わる人々」と定義される。しかし、言葉の定義と、実際の関係づくりは違う。

海士町のアンバサダー制度が教えてくれたのは、関係人口とは「制度」ではなく「関係」だということだ。

DAOという先進的な仕組みを期待していた僕に与えられたのは、島の留学生との交流だった。この「期待と現実のズレ」が、逆に制度の本質を照らし出した。

制度設計の巧みさではない。テクノロジーの活用でもない。数値目標の達成でもない。大切なのは、人と人との本物のつながりを、どう育むか。

これは、行政職員として簡単なことではない。数値目標がある。予算がある。議会がある。成果を示さなければならないプレッシャーがある。その中で、関係の質を保ち続けることは、相当な覚悟が必要だ。

民間企業としても、簡単ではない。契約がある。利益がある。継続受注がある。クライアントの要望に応えなければならない。その中で、本質的な地域づくりを追求することは、ビジネスとのバランスが求められる。

しかし、当事者としての視点に立てば、答えは明確だ。

僕が海士町と関わり続けているのは、義務でも契約でもない。島の留学生と話すのが面白いから。アンバサダー同士の交流が楽しいから。島を訪れると温かく迎えてくれるから。それだけだ。

この「それだけ」が、実は一番大切なことなのかもしれない。


おわりに

DAOへの興味から始まった海士町との関わり。実際は島の留学生と交流している。

この「期待と現実のズレ」こそが、関係人口施策の本質を教えてくれた。

制度設計の巧みさでも、テクノロジーの活用でも、数値目標の達成でもない。人と人の本物のつながりを育む姿勢。それが、海士町アンバサダー制度の魅力だと、僕は思う。

元公務員として、現民間人として、そしてアンバサダー当事者として。三つの視点を持つ僕だからこそ見えた、この制度の本質を、今日は書いてみた。

関係人口施策に関わる人、地方創生に取り組む人、あるいは海士町に興味を持っている人に、少しでも参考になれば嬉しい。

そして、僕はこれからも、島の留学生との交流を続けていくつもりだ。

あなたも、海士町アンバサダーになってみませんか?

この記事を読んで、少しでも海士町に興味を持った方へ。

海士町アンバサダーは、誰でも登録できます。登録したからといって、何か義務が発生するわけではありません。あなたのペースで、あなたの形で、島と関わればいい。それだけです。

島の留学生と話してみたい。地域づくりに関心がある。ただ島の様子を見ていたい。どんな動機でも大丈夫です。

海士町についてもっと知りたい方は、こちらのマガジンもご覧ください。

僕と同じように、「期待と現実のズレ」を楽しみながら、島との関わりを見つけていってください。


ハッシュタグ

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Hiroyuki A いつも温かい目で読んでくださり感謝しております。この記事が少しでもお役に立てたなら嬉しいです。皆さんからの応援が私の創作エネルギーとなっています。スキやコーヒー一杯のチップをいただけると創作の大きな励みになります。これからもよろしくお願いします。​​​​​​​​​​​​​​​​