六時過ぎのお迎え|ひとりじゃない⑩
五時半のお迎えラッシュ。保育園の玄関は慌ただしい。
お迎えにはしゃぎまわる子、待ちかねて泣き出す子、周囲をよそにひとり遊びを続ける子。一日中母親を恋しがっていたのに、その顔を見た途端帰りたくないとゴネる子。
「ママまだかな」
そうつぶやきながら、ゆうと君が不安そうに私の手を握る。ゆうと君のお母さんは若い看護師さん。夜勤明けの日はお迎えが少し遅い。お父さんはいない。
「大丈夫だよ、もう少し待っててね」そう言いながら、私はゆうと君の手をそっと握りかえした。
この子、最近少し大人びてきた。お母さんが疲れているのを察して、甘えるのを我慢している。以前ならとっくに泣き出していたところだ。
六時を過ぎてゆうと君と保育士だけになったところへお母さんが駆け込んできた。
「すみません、すみません」少しかすれた声。いつものように頭を何度も下げながらも表情が硬いのは夜勤明けだからというだけではないのだろう。私は努めて笑顔で応じる。
「お疲れさまでした。ゆうと君、とてもいい子で、お友達ともいっぱい遊びました」それを聞いたお母さんの表情が少し和らぐ。
「同僚に頼んでミーティングを抜け出してきたのですが、遅くなってしまって・・」
ゆうと君は母親に抱きついて、今日のできごとを一生懸命話し始めた。
それを聞きながら靴を履かせていたお母さんは小さくつぶやいた。
「もっと一緒にいてあげたいんだけど」
私に話しかけたのか、ゆうと君をなだめようとしたのかは分からない。
私は一生懸命なその肩にそっと手を置いた。
「ゆうと君、お母さんのことが大好きなのがよくわかります。
大丈夫です。お友だちもいます。私たちもいます」
それを聞いたお母さんの肩から、こわばりが少しだけ消えたような気がした。
「いつもいつもありがとうございます」再び何度も頭を下げながら、二人は帰っていった。
その後ろ姿を見送りながら、私は思う。この街には、ギリギリの状況でも頑張っている人たちがいる。そして、それを支えてくれる人たちもいる。特別な事はできないけれど、私もせめてあの親子を見守っていこう。誰も決してひとりじゃない。
ひとりじゃない――――――――――
シングルマザーの日常
☔雨の日のお迎え 🪑待合室の30分 😌お帰りなさい
🌊どこから来たの 📆特別な日 ☂ひとつの傘
🫴伸ばした手 👤憧れの後姿 36.5度の優しさ 6時過ぎのお迎え
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