どこから来たの|ひとりじゃない④|シロクマ文芸部
砂浜で息子のちいさな手を引きながら歩いていた。私たちの後ろには二人分の足跡。
そろそろ夏も終わり。潮風が心地よい。
と、息子が突然しゃがみ込んだ。
何事かと見ると両手で砂をすくい上げている。
「お母さん、この砂、どこから来たの?」
私も傍らに膝をついて、片手で砂をすくい上げてみた。
「どこからかしら?」
六歳の素朴な質問への答えは、私の手から少しずつこぼれ落ちていく。
「きっと遠いところからよ。山の上の岩が、雨や風に削られて、川を流れて、長い長い旅をしてここまで来たのね」
「どのくらい長い?」
「そうね...ここにたどり着くまで、何千年もかかったかもしれない」
そういうと私はすくった砂を一つまみだけ残して、掌に広げて見せた。
息子は驚いた様子でその砂粒に目を凝らした。
「すごいね。僕たちより、ずっとずっと長く旅してるんだ」
その言葉に、胸がきゅっと締め付けられた。私たちも旅の途中なのだ。離婚してから始まった新しい人生も、まだ歩き始めたばかり。
「この砂粒たちって、ひとりぼっちでばらばらに旅してきたのかな?」
私は砂浜を見渡した。無数の砂粒が波に洗われて、きらきらと輝いている。
「いいえ、たくさんの仲間と一緒よ。川でも、海でも、ずっと一緒に旅してきたの」
それを聞くと、息子はにっこりと笑って、手のひらの砂を空に向かってふわりと放った。風に舞い散るその様子は、夕日に照らされて小さな星のように見えた。
「僕たちもずっと一緒だね、お母さん」
息子の声に重なるように、波音が優しく響いて、私たちの足跡を静かに包み込んでいった。
(砂粒たちと同じように、私たちも長い旅路を歩いている。そして、確かにひとりじゃない。)
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