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【吹奏楽曲解説】交響曲第2番《The isle is full of noises》(ジョン・マッキー)

今回の吹奏楽曲解説はジョン・マッキーの最新作、『交響曲第2番《The isle is full of noises》』を紹介をします。

吹奏楽のための交響曲「ワインダーク・シー」の作曲から12年、待望の交響曲第2作目ということで待ち遠しかった方も多かったのではないでしょうか。

■参考音源

エルヴェ・グレラ(Hervé Grélat)指揮/ ルツェルン市吹奏楽団(Blasorchester Stadtmusik Luzern)による演奏
※2026年1月24日に行われた世界初演の音源

■作品について

▽作品解説・作品の基本情報

作品の基本情報は以下の通りです。

原題:The isle is full of noises : Symphony #2
邦題:交響曲第2番《響きに満ちた島》
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約25分(第1楽章:約6分、第2楽章:約13分、第3楽章:約6分)
難易度:とても難しい(Difficulty - Really hard)
出版:Osti Music
作曲年:2026年(スコア末尾には2025年11月18日に書き上げた記載あり)
委嘱:ルツェルン市吹奏楽団(Blasorchester Stadtmusik Luzern)による委嘱
初演:エルヴェ・グレラ(Hervé Grélat)指揮/ ルツェルン市吹奏楽団(Blasorchester Stadtmusik Luzern)により2026年1月24日初演

ジョン・マッキー公式ホームページより引用

マッキー公式ホームページ上やスコア冒頭には2026年作曲との表記されているので、このnoteでも2026年作曲扱いとしますがスコア末尾には2025年11月18日に書き上げた記載があります。

先日開設した『アスファルト・カクテル』でも同様でしたが、マッキーの作品は曲を書き上げた年=作曲年にならないケースが度々ありますね。初演日を作曲年扱いにしているのでしょうか…?

タイトルの「The isle is full of noises」は直訳すると《この島は騒音で満ちている》ですが、あまりに曲名らしくないのでそれっぽく訳すなら《響きに満ちた島》といった感じですかね。

この「The isle is full of noises」という一節はシェイクスピアの戯曲『テンペスト』に登場する怪物キャリバンのBe not afeard, the isle is full of noises"のセリフから引用されています。

▽楽器編成

楽器編成は以下のキャプチャの通りです。

交響曲第2番《The isle is full of noises》スコアより引用

○木管楽器について
ピッコロ1とフルート4を別々に用意する必要があり、オーボエ・ファゴットはそれぞれ2管編成でコントラファゴットまで必要、クラリネットもバスクラリネット2でコントラバスクラリネットまで必要という大所帯です。

マッキーのこれまでの作品の中では『タービン』や『アスファルト・カクテル』と同じ規模で木管楽器の編成が大きいです。

『ワインダーク・シー』ではオーボエにイングリッシュ・ホルン持ち替えがありましたが、こちらの交響曲第2番ではイングリッシュ・ホルンの持ち替えはありません。

○金管楽器について
トランペットは4パートともC管指定です。この指定の仕方は『翡翠』の2楽章と同様ですね。

トロンボーンはオプション指定とはいえコントラバストロンボーンと記載があるのは面白いですね。

後述しますが、かなり音域低いのでこれは確かにコントラバストロンボーンが準備出来るのであればコントラバストロンボーンの方が良さそうです…!

○打楽器について
打楽器の必要人数は最低7人、タンバリンのパートを専任で用意するなら8人との記載がありますね。

シンバルの種類の多さと指定の細かさは他のマッキー作品でも同様ですね。

楽曲構成

統治には不向きで、政治にも注意を払わなかったプロスペローは、自分よりも統治に関心のある者に公爵位を奪われたことを、さほど驚くべきではなかったのかもしれない。しかし実際には、彼は激しい怒りに駆られ、その怒りは12年の歳月を経てもなお募るばかりだった。

王位を追われ、島へ追放され、富も権力も故郷も失った彼は、復讐を企てることだけを糧として生き延びてきた。そして、その復讐の企てが、シェイクスピアの戯曲の題名にもなった「あの大嵐(テンペスト)」へと渦を巻きながら発展していくところから、この交響曲は始まる。

スコア記載のプログラムノートより要約して引用
(マッキーの妻であるアビー氏執筆のプログラムノート)

プログラムノートにも記載の通り、この曲のテーマはシェイクスピアの『テンペスト』です。

テーマが『テンペスト』ではあるものの、『ワインダーク・シー』のように分かりやすく物語を追うような楽曲構成ではなく、物語の主人公プロスペローの行う復讐、そして心の葛藤などを楽曲に落とし込んでいるような交響曲と言えそうです。

ウィリアム・ ハミルトン画『プロスペローとエアリエル』
(Wikipediaより引用)

マッキーの妻アビー氏によるプログラムノートも引用しながら楽章ごとに解説していきます。

第1楽章「魔術師の策略(The Enchanter’s Plot)」

流刑の地となった島から、プロスペローは持てる魔力のすべてを呼び起こす。

ひたすら魔術を研究し続けた歳月は、彼に計り知れない破壊的な力を与えた。天候、喪失、裏切り、そして潮流を一本の容赦ない縄のようにより合わせ、彼は自らを陥れた者たちの船を難破させる大嵐を生み出す。

スコア記載のプログラムノートより要約して引用
(マッキーの妻であるアビー氏執筆のプログラムノート)

シェイクスピアの『テンペスト』のあらすじを楽曲に関係ある部分だけ簡潔にまとめると

①主人公のプロスペローはミラノ大公だったが、弟アントーニオらの謀略でその地位を追われ失脚。娘のミランダと共に船に乗せられある島に流れ着く。

②流れ着いた島でプロスペローは復讐のため12年もの間、魔法の研究を進める

③プロスペローは手下の妖精エアリアルとともに嵐を呼び起こし、復讐相手である弟アントーニオ、ナポリ王アロンゾーらの船を難波させる

というような始まり方です。
なので、第1楽章のシーンは上記の③の場面(『テンペスト』の冒頭)という訳です。

楽譜上は付点四分音符=90というテンポでスタートしますが、6/8、7/8、5/8、4/4…と目まぐるしく拍子が変わる激しい始まり方です。

木管楽器のパッセージが複雑に絡み合い、まさに大嵐(=テンペスト)を表現しているかのようです。

その後、少しすると落ち着いた雰囲気になりサックスなどの木管楽器が一定のリズムを刻み、その上に様々な楽器が長い音符のフレーズで絡んでは消えを繰り返します。

『ワインダーク・シー』の冒頭ホルンのような分かりやすい核となるようなフレーズは出てこず、どちらかと言うと旋律ではなく何度も繰り返されるリズムを楽しむような楽章です。

一旦落ち着いた音楽も楽章終盤では徐々に盛り上がっていき、気がつくと冒頭の嵐のような音楽に戻っています。

楽章のラストは一瞬テンポを落とし荘厳な雰囲気になりますが、すぐに冒頭のテンポに戻り駆け抜けて終わります。

第2楽章「海がもたらす変化(Suffer a Sea Change)」

嵐は収まりますが、人々の心には新たな嵐が渦巻きます。

捕らえた敵たちに対し、プロスペローはそれぞれの恐怖や弱点を巧みに突き、幻覚や試練を与えます。しかし変化するのは敵だけではありません。復讐に執着するあまり、プロスペロー自身もまた、その復讐心によって心を蝕まれていきます。

スコア記載のプログラムノートより要約して引用
(マッキーの妻であるアビー氏執筆のプログラムノート)

楽章のタイトルになっている「Suffer a Sea Change」は何とも訳しにくいタイトルですね。ここでは「海がもたらす変化」という表現としました。

”Sea Change”という表現自体、シェイクスピアが『テンペスト』で初めて使った造語で、現在では「劇的な変化、大変貌」を意味する英語の慣用句として使われています。

四分音符=60~64で始まり、途中多少のテンポ変化はあれど全体としてはゆったりとしたテンポなので緩徐楽章の役割ですね。

スコア上この交響曲第2番は約100ページあってそのうち第2楽章は20ページという割合ですが、演奏時間としてはこの楽章が全体の半分近くを占めるという、楽曲全体の核となる楽章です。

木管低音、ユーフォニアム、コントラバスなどの蠢くような低音の四分音符のフレーズで楽章がスタートします。拍子は普通の4/4ですが、スラーの掛け方が微妙に小節線をずらしていて拍子感が分からなくなるようなフレーズです。

2楽章冒頭はこれらの低音楽器の四分音符フレーズの上に様々な楽器が二分音符・全音符主体の息の長いフレーズを乗せていき少しずつ盛り上がっていきます。

リハーサルマークBの手前で盛り上がりが一度頂点まで行くと一度収まり、低音楽器の四分音符フレーズの進行が無くなります。

リハーサルマークBからはややテンポを落として木管高音楽器の伸ばしのフレーズ中心になりますが、『ワインダーク・シー』の2楽章よりも悲痛な雰囲気が漂います。

リハーサルマークCからはフリューゲルホルン、オーボエ、フルートなどによって息の長いフレーズが受け継がれていき少しだけ盛り上がりますが、その後1楽章の入り組んだ嵐の拍子が差し込まれ不安定な雰囲気になります。

リハーサルマークIのあたりでフォルテの音楽になるものの「glacial(氷のような)」と表記がある通り、冷たい響きが印象的です。

リハーサルマークJからはクラリネットがソロで自由に語り始めるようなフレーズを奏でます。揺蕩うような、何か葛藤しながら語り始めるような雰囲気のソロです。

このフレーズはその後他の木管楽器にも受け継がれていきます。金管楽器はその後ろで少しずつエネルギーを溜めながら伸ばしのフレーズを演奏します。

リハーサルマークOからは2楽章冒頭の低音楽器の四分音符フレーズが再び演奏されます。この辺り、冒頭と同じ雰囲気ではあるものの、エネルギーが溜まってから爆発までのスパンが短くなっています。

2楽章ラストは最後の1,2拍で無理やりE♭durのハーモニーに着地します。「時間をかけてE♭durに辿り着く」という点だけ見ると、マッキーの『オーロラは目覚める』と同じと言えますが、こちらはかなり無理やりな辿り着き方です。

この無理やりさは「納得出来ないような理不尽なことを、自分の中で無理やり納得させる」のような心理描写を表しているかのように思います。

ちなみにこのE♭durで注目すべきはバストロンボーンに書かれているオプションのペダルE♭(!)の音。
リヒャルト・シュトラウスの『アルプス交響曲』でもここまで低い音は出てこないような、とんでもなく低い音が書かれているのには驚きました。

『アルプス交響曲』のトロンボーン4thパート譜(IMSLPより引用)

この曲ですらペダルGまでなのに、それよりも更に低いとは…笑

第3楽章「荒ぶる魔法(Rough Magic)」

目的を果たし、王位を取り戻したプロスペローは、最後に魔法を捨てます。

しかし、それでも彼の心は満たされません。今度は観客からの称賛や崇拝までも求め始め、その欲望は次第に切実さと執着へ変わっていきます。そして最後には、「自分が養ったものに、逆に飲み込まれてしまう」という皮肉な結末が示唆されます。

テンペストの物語も終盤、ブロスペローの魔法によって錯乱状態となるアロンゾー一行。

実際のテンペストのあらすじではラストは「プロスペローは更なる復讐を思いとどまり、過去の罪を悔い改めさせて赦すことを決意する。」という”赦し”のテーマに変わっていくのですが、実際に曲を聴いてみるとそんな「めでたしめでたし」を表現しているような様子ではありません。

この楽章のプログラムノートを見ても、”赦し”に着目しているというより、”復讐”の方にフォーカスが当たっているように見えます。

3楽章の始まりは冒頭こそゆったりしたテンポですが、すぐに付点四分音符=136の速いテンポに変わります。

1楽章同様木管の絡み合いがメインではあるものの、「嵐」を表現していた1楽章とは異なり深刻な雰囲気はあまりないですね。スケルツォ的な雰囲気が漂います。

行進曲とまでは言わないものの、跳ねるようなフレーズで推進力を持って音楽が進んでいく様子と映画音楽を思わせるようなチャーミングさ・華やかさは、どこかコルンゴルトの「ヴァイオリン協奏曲」の第3楽章と似たような雰囲気も感じます。

この楽章も1楽章と同様『ワインダーク・シー』のような分かりやすいフレーズはあまりないですね。木管のリズムの絡み合いや響きを楽しむような楽章でしょうか。

曲のラストはDes durの和音で閉じられます。

■収録CD

2026年7月時点ではこの曲を収録したCDはリリースされていません。

日本でも海外でも人気なマッキーの新作交響曲なので、そのうちどこかしらの団体がレコーディングするとは思っていますが、私の予想としては

本命:毎年新作を意欲的にリリースしているユージーン・コーポロン(福本信太郎)/昭和ウインド・シンフォニー

対抗:2026年2月にアメリカ初演を行っており『ワインダーク・シー』のCDをリリースした実績のあるジェリー・ジャンキン/テキサス大学オースティン校ウインド・アンサンブル

次点:昭和ウインドと同様新作の演奏に意欲的な飯森範親/武蔵野音楽大学ウィンドアンサンブル

あたりがCDリリースしてくれるのではないかと思っています…!

■最後に

ジョン・マッキーの最新作、そして待望の交響曲第2番ということで注目している方も多い作品かと思います。

『ワインダーク・シー』ほど分かりやすいフレーズがある訳では無く、コンクールなどで演奏するにしても抜粋箇所が難しそうな印象で大流行するかと言われると個人的にハテナではありますが、どこかしらの団体が演奏・CDリリースするとは思っています。


その他、ジョン・マッキー作品の解説noteは以下からどうぞ。

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