【吹奏楽曲解説】翡翠(J.マッキー)
前回に引き続き今回もジョン・マッキー作品の楽曲解説で、本日は『翡翠』を紹介をします。
マッキー作品を私のnoteで取り上げるのは『ワインダーク・シー』『アンダートウ』『付喪神』『レッドライン・タンゴ』『サスパリラ』『タービン』『ストレンジ・ユーモア』に続いて8作品目です。
マッキー作品の楽曲解説がだいぶ増えてきたので、以下にリンクをまとめています。
■参考音源
日野謙太郎指揮/光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部による演奏(2020年2月19日 サドラー賞受賞記念アメリカ演奏旅行報告コンサートより)
■作品について
作品解説・作品の基本情報
翡翠は、光り輝くとても美しい色の羽を持った鳥で、太陽の光に照らされたその姿は、あたかも燃えているようです。非常に恥ずかしがりなので、私たちは滅多に見ることはできませんが、その美しさは疑う余地もありません。
第1楽章は、激しい雨が止んだばかりの静かな朝、翡翠がゆっくりと巣から現れる希望を静かな雰囲気で表現しています。第2楽章は、翡翠が太陽の光に向かって飛び立っていく様子をイメージしています。そして、ストラヴィンスキーのバレエ音楽『火の鳥』を彷彿とさせるエンディングになっています。
この楽曲は、オプションとして客席の後方で演奏するトランペットが用意されています。第1楽章ではトランペットのソロがホールの後方で演奏され、第2楽章ではトランペットのファンファーレ隊が登場します。
原題:Kingfishers Catch Fire
邦題:翡翠
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約11分
難易度:難しい(Difficulty - Hard)
出版:Osti Music
作曲年:2007年
委嘱:仲田守、日野謙太郎、松本壮史、楊鴻泰、岩田俊哉、奥山泰三、福本信太郎による共同委嘱
初演:齊藤一郎指揮/JWECC '07スペシャルバンドにより2007年3月17日初演
楽器編成
楽器編成は以下のキャプチャの通りです。

編成が1楽章「雨上がりに…」と2楽章「焔の如く輝き」で大きく異なるのが特徴です。1楽章は楽譜を見ると分かる通りかなり薄い編成で「静」の音楽、2楽章は編成が大きくなり「動」の音楽となります。
この作品で中心的な役割をしているC管トランペットには1楽章では「舞台裏、可能であれば聴衆の後方」、2楽章では「追加のトランペットが使用可能であれば、聴衆の後方に対向配置」というような配置の細かい指示があります。
この配置の指示によって『翡翠』の魅力のひとつであるホール全体の"空間性"を利用した音楽となります。
『翡翠』の委嘱の経緯
委嘱者を見ると日本の吹奏楽指導者7名の名前が並んでいますが、これはコンソーシアム(複数人・団体による共同委嘱団体)という形式で、当時東京佼成ウインドオーケストラに所属していた仲田守氏がオーガナイザー(主催者)となってマッキーに委嘱を依頼したそうです。
コンソーシアムのメンバーほぼ全員が2005年にアメリカで行われたイベントにてマッキーの『レッドライン・タンゴ』を聴き、衝撃を受けて『翡翠』の委嘱に繋がったという経緯だそうです。
このあたりの経緯は東京佼成ウインドオーケストラの「第2回TKWO吹奏楽カフェ」の動画内で詳しく語られていますので、ぜひこちらも聞いてみてください。
「『翡翠』の委嘱に総額130万円かかった(現在のレートだと200万円超)」「締切を過ぎて送られてきた楽譜が1楽章のみで、音の少なさから委嘱の失敗を覚悟した」など、様々なエピソードが当事者から語られています。
楽曲構成
1楽章「雨上がりに…(Following falls and falls of rain)」

1楽章は非常に静かな雰囲気から始まります。マッキー氏の解説でも「大雨が止んだばかりの早朝の静けさ」と語られている通り、どこか靄(もや)がかかったような音に揺らぎのあるような雰囲気で音楽が始まります。
ちなみに現在出版されている楽譜だと1音目を出すのはフリューゲルホルンですが、初稿版だとウィスパーミュート付きトランペットとなっています。
初演時の楽譜と現行版の楽譜の違いは先述した「第2回TKWO吹奏楽カフェ」でも触れられており、マッキー氏のホームページ上で閲覧出来る『翡翠』のスコアでも確認できます。
朝の澄んだ景色を表現するようなクラリネットのソロが奏でられると、遠くからC管トランペットのソロでカワセミが徐々に姿を表す様子が表現されます。
楽曲解説によるとカワセミは「非常に恥ずかしがり屋で滅多にその姿を見せない鳥」とのことで、静かに人目につかないように佇むカワセミを表現する為に"舞台裏、可能であれば聴衆の後方"という演奏場所の指定がされています。
細かい部分ですがバンダトランペット、B♭管トランペットではなくC管トランペットというのが良い味を出していますよね。B♭管と比べてC管の方が明るく輝かしい音になるので「輝かしい姿の翡翠が遠くにぽつんと佇む」という様子が上手く表現されていると思います。
1楽章は一貫してテンポは四分音符=52と遅め、音量も全体的に小さめながらもどこか希望を感じさせるような音楽が奏でられ2楽章に続きます。
2楽章「焔の如く輝き(Kingfishers catch fire)」

2楽章の「Kingfishers catch fire」は原文を直訳すると"カワセミが燃え上がる"といった訳になると思いますが、日本では「焔の如く輝き」という詩的なタイトルで訳したものが定着していますね。
意訳しすぎ感もありますが、この訳は2楽章の雰囲気を端的に表現していて個人的には非常に好きな訳し方かと思います。
1楽章とは打って変わってテンポも速く、音数も多い「動」の音楽になります。作曲者の解説によるとカワセミが太陽の光に飛び立ち、その羽根が火のごとく輝く様子を描写しているとのことですがその解説の通り非常にキラキラとした楽章です。
1楽章は音量も控えめでしたが、2楽章は終盤に向けて大きなクレッシェンドで向かっていくような楽章のため「静」と「動」という対比だけでなく音量の「小」から「大」という対比もされています。
2楽章冒頭で常動曲のような連符で動きまわる木管楽器も印象的ですが、この楽章で目立つのはやはり金管楽器の輝かしい音色でしょう。
2楽章の中盤~後半にかけてはC管トランペットに「plus optional antiphonal trumpet:オプションで(客席後方に)対抗配置したトランペットをプラス」という指示があり、これにより更に金管楽器の派手さが加わります。
2楽章終盤ではテンポを落とし、ストラヴィンスキー『火の鳥』の終曲ラストを彷彿とさせるような四分音符の連続するフレーズを経て、クライマックスへ向かいます。
曲のラストでは舞台上および客席後方のトランペットがあえて16分音符のフレーズを少しずつずらして演奏することでカワセミが太陽に向かって羽ばたく様子を表現し、劇的に曲が閉じられます。
1楽章のトランペットソロもそうでしたが、客席後方での演奏が非常に効果的で、楽譜の指示通りに演奏した場合はホール全体の空間を利用したスケールの大きい音楽となります。
舞台上だけでなく客席も使ってサラウンド効果を狙った点はコリリアーノの『交響曲第3番「キルクス・マクシムス」』を彷彿とさせ、非常に上手く書かれた楽譜です。
『翡翠』の中で特徴的なのは打楽器の使い方がこれまでのマッキー作品と異なる点です。
これまでに作曲された『レッドライン・タンゴ』『タービン』などは打楽器がリズムの中心を担うような使い方をしていました。(=楽曲中、常に何かしらの打楽器がビートを刻んでいる)
ですが、『翡翠』ではリズムの中心を担うのは管楽器の方で打楽器は効果音的な使い方に留まっています。2楽章を聴いていただくとこの点は良く分かると思います。
『タービン』などで特に顕著ですが、打楽器がリズムパートを担うと無機質な感じが出やすいので、『翡翠』ではカワセミの生命力などを表すためにあえて打楽器の使い方をあえて変えてきたのでは無いかと思っています。
■収録CD
ジョン・マッキー作品の中でも人気の高い作品なので、ノーカットの演奏が収録されたCDも10種類以上存在します。
以下のnoteにCD聴き比べとしてノーカット音源を別途まとめていますので、収録CDについてはぜひこちらを参照ください。
■最後に
今回はジョン・マッキーの人気作『翡翠』を紹介しました。
演奏時間も長くなく、打楽器の種類もマッキー作品の中では控えめ、そしてホール全体の空間を活かしたスコアで人気になるのも納得の作品です。
輝かしい楽曲なだけに金管楽器(特にホルン、トランペット)の負担は凄まじく、ホルンに至っては楽曲最後のグリッサンドはなんと1st~4thまで全員ハイFという、オケだとショスタコーヴィチでもマーラーでも滅多に要求しないような(吹奏楽だとC.T.スミス作品並の)音域で驚きです。笑
大量のトランペットと腕利きのホルンが居るような楽団はぜひチャレンジしてみてください!欲を言えばコンクールではなく定期演奏会などで楽譜通りホール全体を使って演奏することで楽曲本来の良さを味わえるように演奏してみてください。
