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【吹奏楽曲解説】アスファルト・カクテル(ジョン・マッキー)

今回の吹奏楽曲解説はジョン・マッキーの人気作、『アスファルト・カクテル』を紹介をします。

強烈なオープナーの作品で、マッキー作品の中では知名度も高い作品なので好きな方も多い作品かと思います。

■参考音源

池上 政人指揮/洗足ウインド・シンフォニーによる演奏

児玉 知郎指揮/龍谷大学吹奏楽部による演奏

近畿大学附属高等学校吹奏楽部による演奏

■作品について

▽作品解説・作品の基本情報

作品の基本情報は以下の通りです。

原題:Asphalt Cocktail
邦題:アスファルト・カクテル
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約5分半
難易度:難しい(Difficulty - Hard)
出版:Osti Music
作曲年:2009年(スコア末尾には2008年11月11日に書き上げた記載あり)
委嘱:ハワード・J・ガーウィッツ (Howard J. Gourwitz )による個人委嘱
※ケヴィン・セダトール(Kevin Sedatole)とミシガン州立大学ウインド・シンフォニー(Michigan State University Wind Symphony)への贈呈としてマッキーに作曲を委嘱
初演:ケヴィン・セダトール(Kevin Sedatole)とミシガン州立大学ウインド・シンフォニー(Michigan State University Wind Symphonyにより2009年3月28日初演

ジョン・マッキーホームページより引用

マッキー公式ホームページ上やスコア冒頭には2009年作曲との表記されているので、このnoteでも2009年作曲扱いとしますがスコア末尾には2008年11月11日に書き上げた記載があります。

いずれにせよ、この2008年~2009年頃は『アスファルト・カクテル』『ハーヴェスト』『オーロラの目覚め』と系統の異なる代表曲が立て続けに作曲されているので、マッキーの創作活動が充実していた時期だと分かります。

▽作曲のきっかけについて

まず触れたいのはこの印象的なタイトルについてです。

ジョン・マッキー作品は『翡翠』しかり、『オーロラの目覚め』しかり、『ワインダーク・シー』しかり、妻のアビー氏が名付けることが多いのですが、『アスファルト・カクテル』についてはアビー氏が名付け親ではありません。

この曲のタイトルはマッキーがマンハッタンで作曲家仲間のジョナサン・ニューマンと歩いていたとき、ニューマンが『アスファルト・カクテル』というタイトル案を口にしたことがきっかけです。
(厳密にはこの単語自体、ニューマンが思いついたものではなくニューマンの妻メリッサが発案したもののようです。)

ニューマンも作曲家なので自分の作品にこのタイトルを名付けようと温めていたようですが、マッキーがこのタイトルを大変気に入って、その後数年に渡って「タイトルを譲って欲しい!」と頼みこんだことでニューマンが根負けしてマッキーにタイトルを譲ったそうです。

この辺りの経緯はマッキーの2008年6月27日の以下ブログに詳しく記載されています。

マッキーによるアスファルト・カクテルのプログラムノートでも「ニューマンが『アスファルト・カクテル』というタイトルを譲ってくれなかったら『Bandtastic! : A Concert Prelude』のようなタイトルになっていたかもしれない」と触れられています。

たかがタイトル1つではありますが、マッキーが例に挙げたようなタイトルだったらここまでこの作品が流行らなかったかもしれない?と思うと、このタイトルを譲ってもらって正解だったかと思います。

▽楽器編成

楽器編成は以下のキャプチャの通りです。

「アスファルト・カクテル」スコア冒頭より引用

○木管楽器について
聴く分には金管楽器・打楽器主体の作品のように思ってしまいますが、木管楽器も編成は大きめです。

ピッコロ1とフルート4を別々に用意する必要があり、オーボエ・ファゴットはそれぞれ2管編成でコントラファゴットまで必要、クラリネットもバスクラリネット2でコントラバスクラリネットまで必要という大所帯です。

マッキーのこれまでの作品の中では『タービン』と同じ規模で木管楽器の編成が大きいです。

○金管楽器について
トランペットやホルンのハイトーンが印象的ですが、マッキーがこの作品で金管楽器の中で1番重要視しているのはトロンボーンです。

スコア冒頭にはトロンボーンのみ必要に応じて増員可の表記があります。

また、ユーフォニウム・テューバはそれぞれ1パート表記であるものの、ユーフォニウムに関しては「2名が望ましい」、テューバに関しては「2名もしくはそれ以上が望ましい」との表記があります。

○打楽器について
マッキー作品はどれも打楽器に関する指定がかなり細かく具体的です。

この作品で特徴的な楽器としては、まずプレイヤー3と5が担当している「ナットなどを入れた金属製カクテルシェイカー(metal cocktail shaker with nuts, etc. inside;)」です。

カクテルシェイカーはバーテンダーがカクテルを作るときに振っているアレですね。中にナットなどを入れるので、ガチャガチャとした音が欲しいのだと思います。

金属製カクテルシェイカー

プレイヤー5の「ケブラーヘッドのフィールドドラム(field drum with Kevlar head;)」はずいぶん具体的な指定ですが、要は硬めで歯切れの良い音のフィールドドラムを求めているのかと思います。

コンサートフィールドドラムのCFM1414
(ヤマハ社ホームページより引用)

そして、この曲で視覚的に嫌でも目に入ってくるプレイヤー3の「金属片を入れてテープで密閉した金属製の小型ゴミ箱(small metal trash can filled with metal, taped shut)」

どんな音が欲しいのかについてもスコアに記載されており、マッキーとしては「床に叩きつけて使用し、鎖が制御された形で激しくぶつかるような音を出す(will be slammed to floor, sounding like a controlled crash of chains)」という想定のようです。

この楽器についてはマッキーも個別に色々と試行錯誤していたようで、作曲当時のブログを追っていくとその試行錯誤の過程が分かります。
以下で当時のブログを掘り下げて詳しく見ていきましょう。

○「金属製ゴミ箱」に関する試行錯誤について
①作曲時点(2008年11月11日)のブログ

アスファルト・カクテルが完成した直後のブログでは
「スコット・ハリス(Scott Harris)によるアイディアで高さ約12インチ(約30cm)程度の小型の金属製ゴミ箱を使用する」という内容が記載されています。

(ゴミ箱から話は逸れますが、上記のブログでは「金管楽器の音域、無茶じゃないか意見ちょうだい!」的に広く意見を求めていて、マッキーらしさが全面に出ています。笑)

②初演前のリハーサル時点(2009年2月18日)のブログ

ここでは
・小型のゴミ箱と書いていたが演奏では30ガロン(約110リットル)級の非常に大きな金属製ゴミ箱が用意された
・重すぎるため床にぶつける勢いが出ず、中に入れた金属片も十分に鳴らなかった
・一方で視覚的には観客に非常に強いインパクトを残せた
という内容が語られています。

”30ガロン(約110リットル)級のゴミ箱”は高さで言うとおおよそ27~31インチ(約69~79cm)なので、元々マッキーが想定していたサイズの倍以上の大きさのゴミ箱になります。

リハーサルで実際に使用されたゴミ箱
(ジョン・マッキーのブログより引用)

③初演から約半年後(2009年10月5日)のブログ

ここでは「ゴミ箱の中で金属片が当たる音は聴こえなくとも、視覚的には見えるようにしたい」という内容が書かれています。

このときは結局背の高いゴミ箱を逆さまに置く+小型のゴミ箱をそこに叩きつけるという方法で演奏したようです。

背の高いゴミ箱を逆さまに置く+小型のゴミ箱をそこに叩きつけるイメージ
(ジョン・マッキーのブログより引用)

これらの試行錯誤の経緯を踏まえるとスコアには金属製の小型ゴミ箱と記載があるものの、視覚的な効果が果たせれば大きさは何でも良さそうですね。
個人的には最後に挙げた「背の高いゴミ箱を逆さまに置く+小型のゴミ箱をそこに叩きつける」の案が好みです。

実際のところ、このゴミ箱をどう演奏するかはバンドによって違いが出る部分かと思います。

参考音源として冒頭に挙げたバンドがどう演奏しているか見てみると、洗足ウインドはスコアの表記に忠実なサイズのゴミ箱(一斗缶)を、龍谷大学は視覚的な効果を優先で大きめのゴミ箱を使っているようです。

洗足ウインド(冒頭に挙げた参考音源のYouTubeより引用)
龍谷大学(冒頭に挙げた参考音源のYouTubeより引用)

近畿大学附属高は逆さまにした金ダライに一斗缶を叩きつけるように演奏しているように見えます。こうして比べてみると三者三様ですね。

近畿大学附属高(冒頭に挙げた参考音源のYouTubeより引用)

▽楽曲構成

テンポは四分音符=174で5分半突っ走る強烈なオープナーの楽曲です。拍子はマッキー作品らしく2/4、7/8、4/4、7/8…とほぼ毎小節のように変わりますが、それにより作品全体を通して独特の推進力があります。

冒頭のトランペットのD・E♭の半音のぶつかりもまるでクラクションのように強烈な印象を与えます。

冒頭のトランペットに限った話ではないですが、この曲は全体的に半音でのぶつかり、ホルンのゲシュトップ音、金管のフラッタータンギング、木管楽器のグロウルなど、ノイズ的な音を求めている箇所が多いですね。

また、発想記号も変わったものが多いです。
例えば、リハーサルマークAの一部の木管楽器に書かれている「nasty」は直訳だと「汚らしい、不快な、嫌な」といった意味です。
同じく、リハーサルマークDのトランペット・ホルンなどに記載されている「extremely jarring」は「極めて耳障りな音で」という意味です。

これらの独特の発想記号や、ノイズ音を求めるようなスコアを踏まえると、マッキーがこの作品で求めているのは荒々しさ、下品さがあればあるほど良いといったところでしょうか。

その他にも独特の発想記号の記載、特殊奏法の指示が楽譜上散りばめられているので、この作品を演奏する際はこれらを一つ一つ読み解いてみると参考になると思います。

リハーサルマークAの木管楽器やリハーサルマークBのトロンボーンによるこの曲のテーマ的なフレーズ、リハーサルマークDの傍若無人なクラリネットソロなど印象的なフレーズは多いですが、なんと言ってもこの曲の中心は5分半暴れまわっている打楽器パートでしょう。笑

楽器編成にドラムセットこそ含まれていないものの、各種シンバル・フィールドドラム、4トムトム、バスドラムなどが絶えず鳴り響いている様はまるでロック音楽のようです。

そう考えると、マッキーは管楽器の荒々しさ・ノイジーな音と、打楽器のリズム・ビートのエネルギーや推進力で「吹奏楽によるロック音楽」を表現したかったのかもしれませんね。

■収録CD

マッキー作品の中でも人気かつ全曲通しで演奏しても5分半と短い作品なので、コンクール音源含めフルの音源は多数CDリリースされています。

以下に別途noteでCD聴き比べをしていますので、良かったらこちらをご覧いただければと思います。

■最後に

速いテンポで最初から最後まで駆け抜ける思い切りの良さ、そして「金属製のゴミ箱」などの視覚的な面白さなどもあり、人気なのも頷けるマッキーのオープナー作品の解説でした。

金管と打楽器の負担が大きい作品ですが、上手な高校生バンドや大人のバンドであれば演奏は可能かと思いますので、腕自慢のバンドはぜひ挑戦してみてください💪

余談①

マッキーとしてはオープナーのつもりで作曲したこの作品をアンコールで演奏している団体もちらほらあるようですね…笑
(どちらもそこそこ重いプログラムのあとにこの曲を演奏していて、演奏者の唇のタフさが凄いですね😇)

余談②

マッキー自身のプログラムノートでは「ニューヨーク時代に感じた荒々しいイメージ(タクシーが曲がり角を滑らせ、トラックが四方から迫るイメージ)」でこの曲を作曲したようなことが書かれていますが、実際のニューヨークの道路事情ってこんなに激しいのですかね…?

以下の動画はじめ、YouTubeでいくつかニューヨークでの運転風景がアップされていますが、(クラクションの頻度は日本より多いと感じるものの)さすがにこの曲ほどの激しい運転、荒々しい運転は見当たらないので、個人的には若干誇張したニューヨークのイメージなのかなと思っています…😂

この曲のイメージを膨らませるという意味では、外国のカーチェイス映画などを見た方がマッキーの表現しているイメージを掴みやすいかもしれませんね。


その他、ジョン・マッキー作品の解説noteは以下からどうぞ。

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