人質司法
人質司法(ひとじちしほう、英語: Hostage Justice)とは、被疑者が否認供述や黙秘している場合に、検察官が裁判所に対して保釈に反対する意見を述べることで、被告人を長期間勾留すること(本来、無罪推定を受ける被告人を人質のように扱うこと)、及び、捜査機関が、被疑者の取調べに際して、起訴後の長期間の勾留を脅しの材料として、自白等を強要することをいう。 主に、弁護士の側から、日本の刑事司法制度(保釈に反対する検察官と保釈を却下する裁判官)を批判する用語として使われている。
保釈反対意見による自白強要の仕組み
[編集]捜査機関(警察官・検察官)は、被疑者段階の勾留最大20日間に、自白を獲得するために、被疑者の取調べを行う。 もっとも、被疑者には、黙秘権があるため、何も話さない権利が憲法上保障されている(日本国憲法第38条1項)。 警察官や検察官は、被疑者に対して、「黙秘や否認をすると、起訴後に保釈が認められなくなる」ことを(明示・黙示に)伝えることで、自白を促している。
一般に「死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪」(刑事訴訟法89条1号)にあたる重大犯罪を除いて、裁判所は保釈を許可する可能性が高い。 そのため、被疑者は、被疑者段階の勾留の後、仮に、起訴をされた場合にも、早ければ起訴後1週間以内に保釈の許可がされて釈放される可能性がある。
ここで、保釈には、弁護人等の保釈請求のうえ、裁判所が保釈決定をする必要がある。 保釈の審査にあたり、裁判所は、検察官の意見を聞かなければならない(刑事訴訟法92条1項)。 検察官は、被告人が(被疑者段階で)自白をして事件を認めていれば保釈に強く反対しない傾向にある。 しかし、検察官は、被告人が(被疑者段階で)黙秘または否認をしていると、保釈に反対する傾向にある。
検察官は、保釈に反対する理由として「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」(刑事訴訟法89条4号)と意見をする。 これは主に、被告人が事件を認めていない(黙秘・否認)ということは、裁判所で無罪主張をする可能性が高く、 検察官請求証拠に含まれる関係者の供述調書に関して不同意の証拠意見を述べる(証拠の不採用を求める)可能性が高く、 そうなると、保釈中の被告人が、裁判の中で登場予定の関係者へ不当な働きかけを行い、証拠隠滅をする可能性が高い、という検察官の理屈である。
被告人は、保釈が認められない結果、裁判が終わるまで数ヶ月間、身柄拘束をされることになる。 被疑者は、(起訴前に)この人質司法の仕組みを知らされてることで、(起訴後に)保釈が認められないことを恐れて、被疑者段階で不本意な自白をすることになる。 実務において、捜査機関(警察官・検察官)は、人質司法の仕組みを自白獲得のカードとして利用している。
人質司法に関する見解
[編集]検察官は、人質司法の存在を認め、勾留を利用している。 一方、最高裁判所及び法務省は、人質司法の存在を否定している。
このことから、各プレイヤー(検察官と裁判官)は、以下の理解のもとで行動している。
・検察官は、特に否認する被疑者から自白を獲得するために、起訴後に弁護人等から保釈請求があっても、(被疑者段階で黙秘・否認した)「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」こと(刑事訴訟法89条4号)を建前として、保釈に反対意見を述べている。 検察官は、意図的にカードとして「人質司法」を利用している。
・裁判所は、保釈の決定の前に、「検察官の意見を聴かなければならない」(刑事訴訟法92条1項)。裁判官は、検察官の保釈反対の意見が、実際には人質司法の意図(被疑者段階で黙秘・否認したことへの実質的懲罰)にあることを見抜けない。検察官が「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」こと(刑事訴訟法89条4号)を建前とした保釈反対意見書を提出すると、裁判官は建前を真に受けてしまい、保釈を却下する。 裁判官が、検察官の意図を見抜けずに保釈却下する結果として「人質司法」を助長している。
法務省の見解(人質司法の存在を否定)
[編集]Q3 日本の刑事司法は,「人質司法」ではないですか。
A3 「人質司法」との表現は,我が国の刑事司法制度について,被疑者・被告人が否認又は黙秘している限り,長期間勾留し,保釈を容易に認めないことにより,自白を迫るものとなっているなどと批判し,そのように称するものと理解しています。 しかし,日本の刑事司法制度は,身柄拘束によって自白を強要するものとはなっておらず,「人質司法」との批判は当たりません。 日本では,被疑者・被告人の身柄拘束について,法律上,厳格な要件及び手続が定められており,人権保障に十分に配慮したものとなっています。 すなわち,日本の刑事訴訟法の下では,被疑者の勾留は,捜査機関から独立した裁判官による審査が求められており,具体的な犯罪の嫌疑を前提に,証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合等に限って,認められます。 また,被疑者は,勾留等の決定に対して,裁判所に不服申立てをすることもできます。 起訴された被告人の勾留についても,これと同様であり,証拠隠滅のおそれがある場合などの除外事由に当たらない限り,裁判所(裁判官)によって保釈が許可される仕組みとなっています。 その上で,一般論として,被疑者・被告人の勾留や保釈についての裁判所(裁判官)の判断は,刑事訴訟法の規定に基づき,個々の事件における具体的な事情に応じて行われており,不必要な身柄拘束がなされないよう運用されています。 日本の刑事司法制度は,身柄拘束によって自白を強要するものとはなっておらず,「人質司法」との批判は当たりません。
最高裁判所の公式見解(人質司法の存在を否定)
[編集]最高裁の係官(髙橋幹事)は、障害者郵便制度悪用事件を受けた「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会」の中で、人質司法の存在を否定している。[2]
まず,被疑者や被告人が黙秘あるいは否認している場合に,そのことゆえに直ちに罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとか,あるいは,逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとか,こういう判断をしているものでは決してございません。 では,どうやって判断しているのかといいますと,罪証隠滅の関係で御説明いたしますと,これは基本的にはいろいろな要素を総合的に考慮して判断しております。具体的に言いますと,当該事件において,犯罪の内容とか,あるいは罪の重さというものを見た上で,そもそも罪証隠滅の対象となり得る事実はどういうものなのだろうか,それに対して,罪証隠滅の方法としてどういった方法が考えられるのかというのを検討して,まずは客観的に罪証隠滅の可能性がどの程度あるのかというのを考えます。さらには,被疑者・被告人に罪証隠滅の意図を抱きやすい状況にあるのかという,いわゆる主観的な要素についても併せて考えます。その上で具体的かつ現実的に,本当に罪証隠滅の危険性があるのかと検討していく次第であります。
最高裁の公式見解では、人質司法の存在を否定しているが、元裁判官の中には、人質司法の存在を認め、批判する者が存在している。
(元)裁判官の見解
[編集]人質司法の存在を否定する元裁判官
[編集]龍岡資晃は、「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会」の中で、元裁判官の立場から、最高裁の係官(髙橋幹事)に同調して、人質司法の存在を否定している。[3]
裁判官時代に令状部で専門的に令状事件を扱った経験などから申しまして,先ほどのような御意見の前提(注:人質司法の存在)については,私は違和感を覚えます。裁判官としては,やはり身柄を拘束するということは非常に大事なことであるということを考えて慎重に事件を処理しているというのが現状であります。ここのところを理解していただきたいということで少しお話をさせていただきたいと思うのですが,要件について,罪証隠滅のおそれとか,そういったものについては,先ほど髙橋幹事から説明されたとおりであって,これは非常に慎重に検討しているわけでして,否認しているから直ちに罪証隠滅のおそれがある,勾留もするし保釈の除外事由に当たるというような,そういう簡単な判断をしているわけではないということを御理解していただきたいと思います。資料を慎重に検討し,要件があるかどうかを常に慎重に判断しているというのが実際の令状処理に当たっている裁判官のやり方であると私は信じています。私自身もそう努めてきましたし,私の知る限り裁判官はそうやってきていると言えると思います。 もう少し触れさせていただきますと,いわゆる比例の原則の主張についても,言われる趣旨は理解されており,これを全く無視しているということでは決してない。身柄を拘束されるということは社会生活上大変な不利益になることは否定し難いところなわけで,これは勾留の要件,刑事訴訟法60条1項各号の要件があることのほかに,その必要性があるかどうかという必要性の判断の中で考慮されているわけでして,全くこういったことを無視しているわけではないということを申し上げておきたいと思います。 このように,裁判官は身柄の拘束については慎重に判断しているのが実情でありまして,保釈の要件についても,十分に検討し,適正な運用に努めているといえます。また,その判断の当否については刑事訴訟法上,準抗告とか抗告等の手続によって判断の適正が確保されるようになっているわけです。そのようなことからも勾留や保釈の要件を見直したり,あるいは,御指摘の点について明文化する必要性というのが,どの程度あるのかというのが私にはまだ疑問に思われます。
松本芳希は、「裁判員裁判と保釈の運用について」(ジュリスト2006年6月1日号(1312号)141頁)の中で、人質司法の存在を否定している。
人質司法批判は,被告人に事実を認めさせるために保釈をしないと決めつけるもので,誤りというほかない。事実を争わせないようにするために保釈をしないということは決してない。罪証隠滅のおそれが認められ,裁量保釈も適当でないと判断されるから,保釈を却下せざるを得ないのである。
人質司法の存在を肯定して批判する元裁判官
[編集]秋山賢三は、1999年の論文「保釈運用の病理―『人質司法』の根源を探る」の中で、人質司法の存在を認め、批判している[4]。
「人質司法」とは、わが国の刑事裁判が、基本的に、終始、検察官主導のもとに行われることの別称である。 いったん起訴されたが最後、被告人とされた者は検察官の前に平伏し、公訴事実を素直に認めない限り、自らの身柄拘束の解消自体が容易ではない。 このことは、検察官が刑事裁判の進行を意のままに支配して行くための強力な支柱となっている。
木谷明は、2014年の論文「人質司法について」(法学セミナー713号37頁)の中で、人質司法の存在を認め、批判している。
(人質司法は)『検察官司法』が最も端的に表れている部分である
検察官は,捜査を主宰し証拠の内容を知悉している。 その検察官の反対を押し切って保釈したり接見禁止を解除したりした結果事件が崩れたら,裁判官が責任を負わなければならなくなる。 これに対し,検察官の意見に従って身柄拘束を続けている限り,社会の批判は裁判官に向かわない。
公判段階では,当事者対立構造の下,公開の法廷で証拠調べが遂行される。 それによって,裁判所も証拠上の問題点などを徐々に理解し,最終判断の時点においては,検察官の主張の弱点なども知ることができる。 これに対し,捜査段階の裁判官は,検察官と比べ情報量が圧倒的に少ない。勾留や保釈の段階で,検察官に一件資料を提出させて検討はするが,しょせんは短時間の検討であって,事案の本質を見抜けるとは思われない。 そうなると,裁判官は自信が持てないから,事案を最もよく知っていると思われる検察官の意見に頼ることになる。検察官が『罪証隠滅の恐れあり』と主張している事案について,事情をよく理解できていない裁判官が,『いや,その恐れはない』と判断するには勇気が要るし,そこで無理をすると,折角の決定が上級審で取り消される。そういう結果を恐れる裁判官は,ますます臆病になる。
藤井敏明は、2026年の論文「『罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由』について」再論─ 「人質司法」と裁判官の責任について ─(日本大学大学院法務研究科・法務研究 第23号)の中で、大坪弘道(元検察官)の書籍の記載を引用する形で、人質司法の存在を認め、批判している。[5]。
これは,刑事弁護に携わる弁護士や,この仕組みによって事実に反する不本意な供述をさせられたと主張する人達,さらには,マスコミ関係者等から批判される「人質司法」という自白獲得のためのシステムが現に存在することを検察官が明言したものである。
元検察官の見解(人質司法の存在を肯定・検察がカードとして利用)
[編集]元検察官である大坪弘道は、書籍の中で、人質司法は「検察の常套手段である。」「これは検察官の大きな武器である。」「検察に残された唯一のカードがこの人質司法である。」と指摘して、人質司法の存在を認めている。
否認する被疑者の保釈を阻み,長く拘置所に閉じこめておくのは,検察の常套手段である。これを人質司法という。否認を続けると保釈が容易に認められず長く勾留されてしまうのでは……という被疑者の不安・恐怖心理を利用し,自供を迫る。それをほのめかすか,暗黙のうちにやるかは人それぞれだが,これは検察官の大きな武器である。弁護士接見の拡大,被疑者国選弁護人制度の導入など,検察に対して種々の掣肘が加えられる中にあって,ある意味で検察に残された唯一のカードがこの人質司法である。 (大坪弘道「勾留百二十日 特捜部長はなぜ逮捕されたか」282頁より引用。ISBN-13:978-4163749600)
人質司法の用語
[編集]「人質司法」の用語は、弁護士発出の言葉である。 確認できる最も古い時期では、1980年代後半から刑事弁護業界で使われ始めた。 1990年代初頭から使われ始めた、とする文献もある[6]。
日本弁護士連合会
[編集]日弁連では、1989年9月に開催した第32回人権擁護大会の第一分科会の報告書『刑事裁判の現状と問題点──刑訴法40年・弁護活動の充実をめざして』の中で「人質司法」の用語が使用されたことが確認されている(同報告書54頁)[7]。 また、1997年10月に開催した人権擁護大会において、「人質司法」の用語が使用されたことが確認されている[8]。
日弁連は、1999年以降、140件を超える声明文や資料の中で「人質司法」の用語を使っている。 日弁連の会長声明では、1999年7月発出の「安田好弘弁護士保釈問題に対する会長声明」の中で、「刑事手続のこのような傾向は、「人質司法」という不名誉な呼称まで付されるに至っている。」との記載が初出である。 日弁連は、1999年10月発出の「新しい世紀の刑事手続を求める宣言 -刑事訴訟法施行50年をふまえて-」の中で、4回「人質司法」の用語を使っている。
季刊刑事弁護
[編集]1995年創刊の季刊刑事弁護(現代人文社発行)では、創刊号より「人質司法」の用語が使われている。 季刊刑事弁護創刊号(1995年1月25日発行)では、木上勝征(掲載当時の日弁連刑事弁護センター委員長)の論文「日本の刑事裁判と刑事弁護の課題」の中に「法廷は検察官の提出する証拠引継ぎの場となっており、刑事裁判は形骸化し『人質司法』と指摘されている。」との記載が存在する [9]。
また、「人質司法」が題目に記された最初の論文は、同誌2号(1995年4月25日発行)の秋山賢三の論文「保釈運用の病理―『人質司法』の根源を探る」(同88ページ)である[10]。
刑事弁護業界では、1995年の時点で、「人質司法」の用語が広く認知されていたと考えられる。 実際、秋山論文は、[特集2]こんな身柄拘束許せるか!? 身柄拘束制度運用の実態と問題点「人質司法」と呼ばれる安易・長期の身柄拘束の現状をいかに打破するか、との特集に組み込まれているほか、同誌2号掲載の大手良知の「アンケート結果に見る身柄拘束の実態」(同86ページ)や、刑事判例レビュー②のキーワード(同188ページ)にも「人質司法」が用いられている。
人質司法が指摘された例
[編集]カルロス・ゴーンの逮捕
[編集]AFP通信元東京支局長のフィリップ・リエスは、フランスの経済紙『Les Echos』で、カルロス・ゴーンが逮捕され、身柄を東京拘置所において108日に渡り身柄拘束されたことについて、自身が40年前にポーランド統一労働者党政権下のポーランド人民共和国で、スパイ容疑で収監された経験と比較し「当時は独房ではなく、日常着でいられた。妻と毎日、数分間面会する権利も得た」日本の検察は「途方もない権力」を担い、容疑者に自白を迫っていると訴え、「それが有罪率99%の原因。スターリン政権下のソ連でも、これほど高率ではなかった」と批判した[11]。
フランスの新聞『フィガロ』は、ゴーンの逮捕・勾留について『人質司法』であるとの見解を示した[12]。CNNは、ゴーンの事件について hostage justice の英語を用いて報じた[13]。2019年(平成31年)4月25日、東京地方裁判所の保釈決定に対して、検察庁幹部(氏名不詳)は「裁判所は『人質司法』という言葉に完全にひよっている。」との見解を表明した[14]。また、ヒューマン・ライツ・ウォッチはゴーンの身体拘束等を含んだ人質司法に関する報告書を公表し、「日本は、保釈に関する規定を、無罪の推定と個人の自由に関する国際基準に沿ったものに改正すべきである。」との見解を表明した[15]。
一方、中華人民共和国出身で比較刑事法学が専門の王雲海一橋大学大学院法学研究科教授は、フランスでは予備審問で劣悪な環境下において公訴の判断がされないまま4年以上勾留されることがあり、過少記載を2段階に分けて再逮捕した手法に関しても、欧米でも同様の手法が取られていると指摘し、海外からの批判に関して「筋違い」であるとした[16]。
大川原化工機事件
[編集]大川原化工機事件では、2020年3月に噴霧乾燥機が生物兵器に転用される疑いから勾留されていたが、装置内に病原性細菌を死滅させられない温度が低い部分があったことから2021年8月1日に無罪が報道された事件である[17][18]。勾留されていた間に容疑者とされる一人のAは東京拘置所の中で体調を崩しても保釈は認められず、胃に悪性腫瘍があると診断された後にようやく勾留の執行停止が認められた。Aは入院先で胃がんと診断され、約三ヶ月後に死去した[19][20]。この事件では、保釈が認められない長期の拘束と悪性腫瘍が見つかっても「罪証隠滅のおそれ」があるとして入院などが認められなかったことから、朝日新聞などから人質司法と指摘されている[21][22]。
東京五輪汚職事件
[編集]2020年東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、贈賄罪で起訴された出版大手KADOKAWAの角川歴彦前会長は2024年6月27日、「無罪を主張したことで長期間、身柄拘束される『人質司法』で身体的、精神的苦痛を受けた」として、国に2億2000万円の賠償を求めて東京地裁に提訴した。角川氏は2022年9月、東京五輪大会組織委員会元理事への贈賄容疑で東京地検特捜部に逮捕され、同10月に起訴された。逮捕前から一貫して無罪を主張し、23年4月に保釈されるまで約7カ月間、勾留された。[23]逮捕・起訴された当時、角川氏は79歳の高齢で不整脈等の持病があり、拘留中に体調悪化も治療認められず、拘置所の医師から「死なないと出られない」と言われた[24]。角川氏は「訴えたいのは、『人質司法のあり方』です。国家賠償請求の形を取っていますが、賠償金が欲しいわけでもありません。」と主張している[25]。
釈放後に摂食障害で死亡
[編集]2025年2月15日に、障害者福祉施設に勤務していた当時16歳の女性が、施設で行われたイベントに参加していた障害者に暴力を用いたなどとして兵庫県警察に暴行容疑で逮捕された。女性は否認を続け、勾留中の7月3日には嘔吐の症状も見られ、同月4日に処分保留で釈放され不起訴となったが、その間、女性の体重は約10kgにわたり減少し、摂食障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、その後同年12月に低栄養状態が元で死亡した。女性の遺族は、県警と神戸地方検察庁による違法な逮捕や取り調べが死亡の原因であるとして神戸地方裁判所に提訴している[26]。
法制審議会
[編集]2014年(平成26年)の法制審議会特別部会では、居住先の指定など条件を課す代わりに、身柄拘束しないで捜査する「中間処分制度」を創設すべきか議論になったが、警察や検察出身の委員から「証拠隠滅の恐れが高まる」との否定的な意見が相次ぎ、見送られた。裁判官出身の委員から「手続きは適切」と一蹴され、村木厚子らは「我々の感覚とずれている」と温度差があったことを明らかにした[27]。
人質司法に終止符を打つための訴訟
[編集]2025年3月24日、人質司法を受けた4人の男性が東京地方裁判所に民事訴訟を起こす。各人は110万円の国家賠償を求めて、長期間の勾留や保釈拒否を許容する刑事訴訟法の規定が憲法に反することを訴える。この訴訟は、複数の被害者が原告となって、人質司法の根拠条文の違憲性を正面から争うの種類のものとしては初めてのものである[28][29]。
脚注
[編集]- ↑ “日本の刑事司法は,「人質司法」ではないですか。”. 法務省. 2023年4月2日閲覧。
- ↑ “法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会 第17回会議(平成24年12月25日開催) 議事録35頁・39頁”. 法務省. 2026年7月13日閲覧。
- ↑ “法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会 第17回会議(平成24年12月25日開催) 議事録35頁・39頁”. 法務省. 2026年7月13日閲覧。
- ↑ “季刊刑事弁護 第2号”. 現代人文社発行. 2026年7月14日閲覧。
- ↑ “「『罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由』について」再論─ 「人質司法」と裁判官の責任について ─(日本大学大学院法務研究科・法務研究 第23号)”. 藤井敏明. 2026年7月13日閲覧。
- ↑ “第31回 近畿弁護士会連合会人権擁護大会 シンポジウム 第2分科会 「解放します!!私たちの依頼者~人質司法の打破・不拘束原則の実現を目指す弁護実践の追求」(1ページ)”. 近畿弁護士会連合会. 2026年7月14日閲覧。
- ↑ “「きみは、人質司法の本当のおそろしさを知らない(下)江口大和」”. 刑事弁護オアシスコンソーシアム. 2026年7月14日閲覧。
- ↑ “第61回日本弁護士連合会市民会議議事録(4ページの刑事調査室嘱託 和田恵弁護士の発言より)”. 日本弁護士連合会. 2026年7月14日閲覧。
- ↑ “季刊刑事弁護 第1号”. 現代人文社発行. 2026年7月14日閲覧。
- ↑ “季刊刑事弁護 第2号”. 現代人文社発行. 2026年7月14日閲覧。
- ↑ ゴーン容疑者勾留「共産党時代の東欧よりひどい」と酷評 産経新聞 2018年12月19日。
- ↑ 【環球異見】ゴーン被告保釈 英紙「司法制度がカントリーリスク」 仏紙「国際的圧力の作用は確実」 - 産経ニュース
- ↑ Carlos Ghosn case puts Japan's system of 'hostage justice' under scrutiny - CNN.com
- ↑ 検察幹部「裁判所は完全にひよっている」 ゴーン氏保釈:朝日新聞デジタル
- ↑ “日本:「人質司法」による人権侵害”. Human Rights Watch (2023年5月24日). 2023年8月21日閲覧。
- ↑ 日産 ゴーン前会長、越年攻防 識者の話 王雲海・一橋大大学院教授/宗像紀夫・元東京地検特捜部長毎日新聞2018年12月31日
- ↑ 日本放送協会 (2023年7月2日). “異例の起訴取り消し 現役捜査員が証言“ねつ造かもしれない””. NHKニュース. 2023年11月28日閲覧。
- ↑ 日本放送協会. “無実の逮捕なぜ~狙われた中小企業 300日の記録~”. NHK クローズアップ現代 全記録. 2023年11月28日閲覧。
- ↑ “ある技術者の死、追い込んだのは「ずさん」捜査 起訴取り消しの波紋:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2021年11月3日). 2024年7月26日閲覧。
- ↑ “勾留中にがん悪化で死亡、国の責任認めず 大川原化工機事件:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年3月21日). 2024年7月26日閲覧。
- ↑ “命を削る「人質司法」~がん診断されても保釈は認めず・大川原化工機事件(江川紹子) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2023年11月28日閲覧。
- ↑ “事実上の刑罰、取り返しつかない結果に 元裁判官が語る「人質司法」:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2022年4月15日). 2023年11月28日閲覧。
- ↑ “角川歴彦前会長が「人質司法で苦痛受けた」と国を提訴 五輪汚職「無罪」を主張し続け…7カ月勾留:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2024年7月26日閲覧。
- ↑ 村上幸将. “角川歴彦前会長、拘留中に体調悪化も治療認められず 拘置所の医師から「死なないと出られない」 - 社会 : 日刊スポーツ”. nikkansports.com. 2024年7月26日閲覧。
- ↑ 「週刊文春」編集部. “「残りの人生を賭けて闘う」KADOKAWA・角川歴彦元会長が「人質司法」で6月27日に国を提訴へ 「週刊文春」に明かした“前代未聞の公共訴訟”を起こす理由とは”. 文春オンライン. 2024年7月26日閲覧。
- ↑ 釈放後死亡 遺族が提訴 国と県に損賠求め 否認続け摂食障害 地裁 /兵庫 毎日新聞 2026年6月18日
- ↑ 中日新聞2014年7月10日朝刊
- ↑ 吉岡, 利代 (2025年3月24日). “人質司法に終止符を打つための集団訴訟”. ヒューマン・ライツ・ウォッチ. 2025年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年3月25日閲覧。
- ↑ <!–– 言及なし ––> (2025年3月25日). “人質司法に終止符を!訴訟”. Call4. 2025年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年3月25日閲覧。
関連文献
[編集]- 清水晴生, 石村耕治「対談 【清水晴生教授に石村耕治PIJ代表が聞いた】再びわが国の「人質司法」を問う《20問》 あなたが日本語も英語も通じない国で逮捕・勾留されたら?? ゴーン氏の海外逃亡で問われるわが国の「人質司法」」(PDF)『CNNニューズ』第101号、プライバシー・インターナショナル・ジャパン、2020年4月、21-26頁、CRID 1520291855315522560。