大暑の翡翠 #私の二十四節気
今回も参加させていただきます。
はしさんの
#私の二十四節気
本当にいい企画ですので、みなさんご参加ください。
目線を変えると、うだる暑さも少しは許せるようになる…かも?
今回は川端康成のオマージュから文学的に始まる、ショートショートの構成となっています。
先に謝っておきます。大変申し訳ありません。
大暑の翡翠
高架下の短いトンネルを抜けると、真夏であった。
私の視界が白くなった。
アスファルトは日に焼かれ、踏みしめるたびに靴底から熱が伝わってくる。遠くの景色は湯気の向こうにあるように揺れ、道路脇の雑草さえ、青々としているというより、暑さに耐え、意地だけで立っているように見えた。
連日の暑さのせいか、蝉の声も例年より少なく感じる。
この暑さのなか、元気に叫べる生き物がいるという事実には少しだけ安心するのだが、鳴いている蝉すら、心なしか苦しそうに声を詰まらせているように聞こえた。
軒先では、室外機が低い唸り声を上げている。
どこかの家の風鈴が、一度だけチリンと鳴った。
それは風が吹いた証しというより、この町のどこかには、まだ風の残っている場所があるのだと知らせる便りのようだった。
そんな道の途中に、一匹の猫がいた。
白く美しい毛並みに、翡翠を閉じ込めたような瞳をしている。
彼女は、民家の塀が落とす細い影の中に体を正確に収め、前足を投げ出し、腹を地面につけていた。
私の気配に気づくと、顔を上げ、こちらを一瞥した。
その姿は凛として気高く、大暑の陽射しなど寄せつけないような佇まいだった。私は思わず足を止めた。
そんな私には興味もないらしく、彼女はゆっくりと目を閉じた。
まるで、真夏の太陽さえ自分より格下であると知っているようだった。
私はしばらく、彼女に見惚れていた。
そして、鞄からスマホを取り出し、レンズを向けながら、ゆっくりと近づいていく。
それに気づいた彼女は身をひるがえし、背を向けて塀の奥へと消えていった。
止まっていた時間が動き出し、容赦ない日差しが私を照らす。
日陰に入り先ほどの美しい猫の写真を確認する。
立派なフグリがついていた。
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