さよなら薬指。第5話「逆転」【#創作大賞2025】
百合 32歳食品会社事務。料理が得意で、子ども好き。
真由美 32歳、百合の大学時代からの友人。デザイナー。モテるが束縛しやすい。
孝明 真由美の夫、32歳。和弘とは大学のサークル仲間。幼馴染の百合を和弘に紹介する。
和弘 百合の夫、33歳。孝明の取引先相手。建築会社の営業課長。
ミドリさん 和弘が通うバーのママ。2話で登場。
(これまでのあらすじ)
百合と真由美は同時期にそれぞれ離婚を考えていた。真由美は夫の孝明の不倫、百合は夫の和弘の秘密を知ってしまったから。2人は空いた薬指をながめ、それぞれに指輪を贈りあう。これまでの百合と真由美に起こったできごとは、実は2人の夫たちによる計画だった。離婚から半年後。女たちは傷心旅行に出かけた伊勢で、元夫たちと鉢合わせする。
同じ旅館で一夜を過ごした2組の元夫婦は、ただUNOをしただけでは終わらなかったようだ。
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第5話 #逆転
「もうほんとーにごめんね、昨日は!」
真由美は手をあわせて謝った。結局いつも許してしまうのだ。同い年なのに妹みたいで。素直に謝られると弱い。
何せ昨夜のUNOからの記憶は全くないらしく、もちろん彼女は楽しく遊んで目覚めると、布団に寝ていたことになる。お酒の失敗をやりがちなこの子だが、ついつい長い付き合いで面倒を見てしまう。
私と和弘が散歩から旅館に戻り「おやすみ」と別れると、部屋には大股に脚を広げてぐうすか寝ている真由美が待っていた。部屋の隅には、私の幼馴染の孝明が苦笑いしながら保護者の顔をして真由美を見つめている。
「孝明」
私は運んでくれてありがと、と声をかけた。
「いや、俺はなにも。真由美は相変わらずだな。自由で、誰にも媚びない」本人の前ではまゆたん、なんて目を細めているくせに私と2人きりのときは少し大人びているように見える。
昔から気の弱そうな彼は同級生からからかわれがちで、それこそ小学生のときから長女気質のわたしの後ろに隠れていた。当時からこちらは弟のようで、かわいくて手を引いてはお姉さん面をして遊びまわっていたものだ。
「大人になったね、あんたも」
と私は笑うと短髪の彼の頭を撫でた。なんだよ、改まってと笑った彼を見て、ああ孝明には本当に好きな人と幸せになってほしいと願った。赤いランドセルの後ろに隠れた、黒いランドセルの気弱な男の子はもういない。
私の初恋の人は、親友の真由美の夫になり、元夫の和弘の恋人になった。
なんてややこしい。
次の日の朝食会場で、けろっとした顏を見せた真由美を見て、男性2人はほっとした表情を見せた。和定食のだしとごはんの炊けたいい香りがする。
「あ、焼き魚おいしい」
やたら綺麗に魚を食べる和弘。昔から和食は上手だ。箸使いに結婚していたときからうっとりしていた。
「ねえ、2人は今日どこいくの?」
真由美はおかわりのごはんを元夫たちのぶんもあわせて、自分の分もしっかりよそっていた。
「私たちノープランなんだよ。昨日は伊勢神宮みて歩いてきた」
「……いいじゃないか。じゃあおはらい町のあたりまで一緒に観光しないか。赤福もあるぞ」
和弘が私たちを誘うとは意外だった。
孝明が僕たちは昨日鳥羽まで行ってきてと付け足す。ガイドブックもかなり買って準備していたようである。何のショーがよかったか、おみやげはこれがいいとか逐一教えてくれる。まめな男だと思うとともに旅行が楽しみだったことが伝わってくる。
私たちは特にプランを決めずに、宿だけ決めて出発してきたので気楽な旅だ。気晴らし旅行にプランは禁物だ。自由にその場で決めて気の向くままに、が昔からの真由美との旅のポリシーだ。
でも、まさかこの2人とともに行動すると思わなかったけど。
「一緒に観光!いいの?赤福!」
真由美はかなり乗り気になったようだ。
この子は本当にどこまでも自由だ。私の手を取り、今朝ごはんを食べたばかりだというのに食べ歩きのことを考えてはしゃいでいた。
おかげ横丁やおはらい横丁をぶらぶら歩きながら、店をひやかしに歩く。途中、着物着付け体験や招き猫の絵付けのお店をのぞいていく。着付けがしたい!と真由美が主張したが、人気で行列ができていたのでしぶしぶあきらめてもらう。そのあと、真由美念願の赤福本店で4人はそれぞれおみやげを購入した。
いいにおいと活気につられ、ついついだんごや「伊勢ひりょうず」など食べ歩きを楽しんでしまった。お腹が心地よく満たされていく。
もうそこには「過去の関係」とかなくて。
知り合ったころや結婚度、何度となく一緒に行った旅行の空気そのままだった。
「ね、そのイルカのストラップってさ」
孝明の鞄についていたイルカをそっとふれた。おそろいでしょ?2人で。
「見覚えがあると思ったんだ」と悪戯そうに真由美は笑った。気がつかなかった。シルバーに青いわっかで象った目立たない色合いのイルカ。和弘は、さりげなく鞄のジップの部分につけていて、真由美の指摘に、あたふたとしていた。昨日鳥羽水族館でさ、と少し言い訳がましく和弘が言う。
私は和弘が普段ならつけないお揃いをまさか孝明とつけていることに驚く。嫉妬、ではないんだけど。
しっかりお揃いを見つけてくる真由美にも、さすが今まで数々の男の嘘や隠しごとを暴いてきただけあると人ごとながら感嘆した。
でも、なんだかいい、元夫もこれから変化していくのだ。
私たちはこれから鳥羽水族館のある鳥羽方面に向かうことにした。2人の話を聞いているうちにすっかりジュゴンに夢を抱いてしまった。ジュゴンは人魚のモデルとも言われているのだ。
レンタカー乗り場に来た。2人は出張のついででもあるので、さっそく仕事の打ち合わせをしだした。じゃあ、ここで、と和弘が別れようとしたので、真由美が「ちょっと待って、2人とも」と呼び止めた。あのさ、と改めて切り出す。
「わたしたちもね、この薬指取り戻そうと思って」
元夫たちはえ、と動きを止める。
真由美は左手を広げて見せた。すっきりとした薬指。
実は今は小指にピンキーリングがはまっている。真由美と私、2人ともだ。チャンスを引き寄せ、願いごとを叶えると言われる小指の指輪。2人でピンクゴールドの小さな石のついたものを選んだ。
半年前、私たちは離婚届を出し、夫たちからの指輪を外した。2人でカフェで思いを打ち明けあった。そして、指輪を贈りあい、自由に生きることを誓った元妻の私たち。
離婚の記念日に2人でそれぞれ指輪を贈り合おうとなるべくカジュアルなアクセサリー店に入った。
切れ長の目の店員さんが、慇懃無礼に「お2人ともご主人はどちらにお見えですか?お好みもありますのでご一緒に選ばれては」と礼をした。綺麗なマニュキュアが塗られた指で何通りか結婚指輪のサンプルを出してくれる。
真由美は「いえ自分たちのもので」と何故か胸を誇らしげに張った。
一瞬固まった店員さんは、何とも言えない顏でお揃いの指輪でも素敵なものがありますよ、とピンキーリングのケースを出してきてくれた。
「ピンキーリングは、チャンスを呼び込みたい方は右手に、幸せを大切に守りたい方は左手につけるといいとも言われています」
私たちは迷いなく2人が好きなピングゴールドで、左手につけるものを選んだ。
その時だった。
私はまばゆく指輪が展示される空間の中で、何年も一緒にいた女友達の指輪を選ぶ横顔が心底美しく、ずっとこの子といたいと思ってしまった。
一目惚れ?女の子に?そんな野暮なことは突っ込まないでほしい。
「ね、孝明と和弘が先に言ってくれてよかったよね。私たちが先じゃ言いづらかったもんね」と私はくっくと笑った。手を真由美の小さな手にそっと重ねた。
「そういうことなの」
和弘と孝明は「何だか僕たち驚いてばかりですね…」「悔しいけど、何だか何もいえないな」とぶつぶつ言っていた。
私はお互い様じゃないの、としてやったり顔で言ってやる。私たちだって驚いたわよ、ラインも下着も2人はうまくカモフラージュしたりしてーー。
元妻たちの逆転劇か、はたまた夫婦逆転劇か。
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした元夫2人を残し、私たちは手をつないだまま、人魚に会いに行く。
ジュゴンはどんな顔をして待っていてくれるだろうか。
1年後、元夫たちにより、再び会合が開かれた。
続く
今日もお付き合いいただきありがとうございました。
さあ、次は最終話。
どうぞ最後までおつきあいくださいませ~♪

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