【掌編】気障な珈琲屋。
今駅に、薔薇の花を一本だけもった大学生くらいの男の子がいて…
— ゆず| 「がんばりすぎない」7つのメンタル習慣 (@yuzu_mitsuketa) September 22, 2025
ちょっと微笑んでて…
彼がそれをどうするのか、
おねえさん、ちょっと付いていきたくなりました…!#ショートショート書けそう
さあ、この物語の続きです。
ひとを追いかける趣味はもちろんない。
でも十和子は、彼に目を奪われてしまった。駅のホームで丁寧にラッピングされた薔薇を持ち、ほほをゆるめていた彼。
まだ20代前半だろうか。綺麗な黒髪と、メガネのバランスが見とれるほどだった。すっとした背筋に、ネルのチェックシャツがよく似合う。
彼が持っていたのは、たった一本の薔薇の花。花束ではない。
彼は誰にその花を届けるのか。
何だか見届ける使命がある気がした。
十和子は会社帰り、彼をたびたび見かけていた。30代前半独身、彼なし。会社では係長までたどり着いたが、プライベートはからきしだ。でも仕事に明け暮れている今の日常を愛しくも思っている、フリをしている。
まあ、ご縁はね。あったらいいけど。
十和子はウェーブのかかった髪をゆるく結んだ。仕事帰りはパサパサで、自分でも目も当てられない。
会社帰り19時。会社最寄り駅のホーム。
出した企画書が通らないことで同僚に嫌味を言われ、子育て中の女子社員から「また保育園呼び出されちゃって」と大して悪びれもせず残業を押し付けられる。やって当然、という空気がイラつかせるのだ。お互いさま、という心でやってくれたら、もう少しこちらの気持ちも変わるのだけど。
協力してほしいという言葉も、謝罪の言葉もあった試しがないんだから。しかもこのママ社員、十和子より年下だ。
顔に皺が刻み込まれていく。
そんなときに、薔薇の彼に会った。
なぜだろう、吸い寄せられるように、彼が乗ろうとした、反対側のホームの電車に飛び乗った。
途中の各駅停車しか止まらない小さな駅で彼は降りた。いつくしむように、薔薇の花を見つめている。
あれ、これはストーカーなのか。いやいや、そんな。彼はそんなあやしいわたしに一瞥もくれず、駅からもゆっくりとした足取りで、路地裏に入っていった。
彼の後をついていくと、小さな古びた喫茶店に行き当たった。珈琲屋アッフェタート。文字は薄くなり、すっかり錆びついていた。
コーヒーじゃなくて、珈琲。ここ、重要ね。
カランコロン。何て気の抜けてしまうかわいい音だろうか。彼は真っすぐにカウンターの中に入っていく。
十和子はいかにもたまたま見つけて入りました、という風情で、奥の2人がけ席に座った。ちらちらとカウンターを見やると、一人の老人、いやマスターか、彼に向って「おかえり」と言った。彼は、にこやかに「ただいま、後はカウンター、僕が代わるよ」と言った。
店内は静かなジャズが流れる純喫茶だった。
珈琲屋さん、なんて久しぶりだ。昔ながらの分厚いメニュー表には、ホットケーキ、パフェ、プリンアラモードなんてものまで。
珈琲屋なので、豆の卸もしているらしい。挽き方もオーナーがこだわっているという。
もう夜遅いし、とデカフェコーヒーを頼んだ。コロンビア豆。デカフェの中でも人気、とメニュー表にある。
あと、甘いもの…。20時半。ぎりぎりチーズケーキなんて許される時間かな。店内のショーケースに飾られたベイクドチーズケーキをちらりと見やる。
「デカフェのコロンビア、後チーズケーキを。」わたしは少しだけ大人の余裕を見せつける。誰にだかわからないけど。
メガネの先ほどの彼がトレイに載せて珈琲とケーキを運んできてくれた。
「いらっしゃいませ。当店自慢の挽きたて珈琲をどうぞ」
黒いエプロンがやたらと似合う。珈琲は彼が入れるんだろうか。
他にお客さんはいない。
少しぶっきらぼうだが、低く優しい声だった。
珈琲を目を閉じて味わう。胃腸にも負担をかけにくい、チョコレートやナッツのような味わいのデカフェ。深煎りの優しい味わいだ。そんなに珈琲に詳しいわけではないけれど、夜中に喫茶店にかようのが最近の楽しみなので、ついつい豆の種類など詳しくなってしまう。
薫り高い、幸せが満ちる。
チーズケーキにそっとフォークを入れる。
眠れない夜に。お酒ではなく珈琲を味わうようになった。
ウイスキーもいいけれど、静かに黒い液体に身を焦がす夜もいい。
気づくと、カウンターのすみに、先ほどの薔薇が一輪挿してある。
「あの、あの薔薇は…?」
お冷を注ぎに来てくれた彼に聞いた。
「おねえさん」
彼は突然十和子をじっと見たので、どきまぎした。
「駅からずっと一緒だったでしょ。薔薇が気になって?…それとも僕が気になって?」
「あの薔薇はね、あそこで待ってるんだ。枯らしちゃいけないの。
あの椅子は、おねえさん。いつか、あなたに座って欲しかったんだ」
なんて気障な珈琲屋さん。
どこからか、マスターが顔を出す。
「一本の薔薇の意味はあなたしかいない、ひとめぼれ。まったく、若いころのわしと同じ手を。血は争えんな」
マスターは駅でひとめぼれしたらしいぞ、とくつくつと笑う。薔薇には花束の本数で意味が変わるというのである。
「…ちょっと黙っててよ、おじいちゃん」
あらためて、いらっしゃいませ、おねえさん。
珈琲屋アッフェタートへ。
イタリア語で気障な、気取ったなんて意味があるという陽気な珈琲屋だ。
珈琲は楽しく飲まなくちゃ、ね。
またまたなんのはなしですか企画に参加させていただきました✨
路地裏にある、古ぼけた珈琲屋さんのお話。
薔薇を持った青年から連想、いや妄想しました。
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だいすきなチーズケーキと小説につかわせていただきます!よりよい作品のエンジンにいたします。