創作メモ|ネタ切れしにくくなる物語の書き方
今回は短編小説そのものではなく、
物語を書くときの考え方や手順について書いています。
創作に興味のある方だけ、
気楽に読んでいただければ嬉しいです。
「どうやって物語を書いていますか?」
最近になって、
そうした有難い質問をいくつか頂くようになりました。
そこで今回は、
僕が物語を書くときに実際に使っている方法の一部、
「企画」と「構成」について紹介します。
これから物語を書き始める方の、
何か一つの参考になれば嬉しいです。
また、すでに創作をされている方の中で、
次のような悩みを感じている方にも、
関係する話だと思います。
ネタが浮かばない、あるいは尽きたと感じる
書きたいのに、手が止まってしまう
僕は普段、別の仕事をしています。
物語を次から次にひらめく才能があるわけでもなく、
商業小説家でもありません。
そんな僕が書くときのベースにしているのが、
山修さんの
Research Creation Model(RCM)です。
本来は研究開発のために整理されたものですが、
僕はその構造を、物語づくりの思考を
整理するための骨格として使っています。
その根底にあるのが、
「創造は、ひらめきではなく、手順として整理できる」
という考え方です。
では、
RCMとはどのようなモデルなのでしょうか。

この図が示しているのが、RCMです。
左側の『入力』から始まり、
右側の『出力』へと流れていくプロセスです。
RCMは、創造をひらめきや才能ではなく、
要素と手順の組み合わせとして整理するモデルです。
RCMの詳細や理論的な背景、
また他の思想との比較については、
詳しくは山修さんの記事をご覧ください。
▶︎世界制作と知識創造|山修さん:https://note.com/re_blogroom/n/nd9065f2144c4
なお、ここから先で紹介する手順は、
RCMをそのまま再現したものではありません。
RCMの構造をベースにしながら、
物語を書くときに使いやすい形へと、
僕自身が運用として置き換えたものになります。
まずは、このプロセスを使って書いた、
とても短い物語を一つ載せます。
洗濯物を干していて、ふと後ろを振り返る。
子どもがテーブルにつかまって、立っている。
「あっ……立ってる」
声が出たあと、遅れて実感が追いつく。
手を止めたまま、しばらく動けなかった。
洗濯物を持ったまま、気づく。
わたしは、その瞬間を見ていなかったのだと。
立ち上がるところも、
ふらつきながら踏ん張ったところも。
それでも、視界が少しだけ潤んだ。
では、この短い物語を、
どんな順番で組み立てたのか。
以下の順番で書きました。
※本来は「目的・手段」から整理しますが、
今回は説明を単純にするため、
仮の目的として「読後に余韻を残す」ことだけを置き、
ネタ切れに直結する工程に絞って紹介します。
①入力
ここでは「意味」や「解釈」は考えず、
わたしの生活の中で起きた出来事や反応だけを
書き出します。
洗濯物を干していた
ふと後ろを振り返った
子どもがテーブルにつかまって立っていた
思わず声が出た
②抽象
なぜ、この出来事が印象に残ったのか。
①入力を眺めながら、自分に問いを一つだけ投げます。
「自分は、何に一番引っかかっていたのだろう?」
考えてみると、
子どもの成長そのものがうれしかったというより、
その瞬間を見ていなかったことに、
あとから気づいた点のほうが、強く残っていました。
そこで、この話のテーマを次のように決めます。
「成長の一瞬を、見逃していたこと」
③分解
②抽象で決めたテーマに関係する部分だけを、
①入力から残します。
【①入力を見直したうえで、構造として残す要素】
日常の途中で起きた出来事であること(洗濯物を干していて、振り返った)
結果だけを見たこと(すでに子どもが立っていた)
決定的な瞬間を見ていない欠落(立ち上がる過程は見ていない)
【①入力では、あえて扱わないもの】
立ち上がるまでの詳しい様子
どれほど感動したかという説明
ここでは、「うれしさ」を増やす方向ではなく、
“見ていない部分が残っている構造”だけを残す
ことを意識します。
④比較 ⇔ 計測
②で決めた抽象を、一番壊さない形はどれか。
③で残した要素を、どの出し方で書くかを考えます。
ここで比べるのは、新しい設定ではなく、
同じ出来事の「切り取り方」です。
ここでは、③であえて捨てた選択肢も含めて並べ直し、
どの形が②で決めた抽象を最も強く残すかを確かめます。
ここで、次の二つを並べて考えます。
立つまでの過程を詳しく書く
すでに立っていた事実だけを書く
この二つを頭の中で並べて考えます。
そのうえで、次の点を測ります。
②抽象「成長の一瞬を見逃していたこと」が
ちゃんと残るか、説明っぽくならず、
読者が自分の経験を重ねられるか
今回は、
「すでに立っていた事実だけを書く」ほうが、
②の抽象に合うと判断しました。
⑤結合
②で決めた抽象が、
読んでいて自然に伝わる順番はどれか。
③で残した要素を、そのまま並べるのではなく、
あとから気づく体験になるように、
一つの流れにまとめます。
今回は、次の順に並べました。
日常
結果の発見
遅れてくる実感
見ていなかったことへの気づき
この順番にすることで、
読む人は主人公と同じタイミングで事実を知り、
同じタイミングで「見逃していた」と
気づくことになります。
⑥適応
どこまで書けば、②で決めた抽象が伝わるか。
今回は「読後に余韻を残す」という目的に照らして、
情報を足すのではなく、
あえて「書かない」判断をします。
今回は、次のことを書かないと決めました。
子どもの年齢
主人公の性別
子どもが立ち上がるまでの過程
感動の説明
書きすぎると「見逃していた」というテーマが
薄れるため、意味や感情はあえて説明しません。
個人的には、この工程が一番難しく感じます。
わかってもらおうとして、
つい説明したくなってしまうからです。
でも、ここではその気持ちを抑えて、
あえて真逆の選択をします。
なお、この「削って残す」考え方は、
感情をそのまま吐き出したいエッセイや、
勢いを優先する文章では、窮屈に感じる場合もあります。
もし削りすぎてテーマがぼやけたと感じたら、
②抽象に戻って「何の話にするか」を決め直します。
⑦出力
ここまで整理した内容を、
一度そのまま文章にします。
この段階では、
うまく書こうとしないことも意識しています。
①〜⑥で決めたことを守れているかだけを確認し、
文章の巧さよりも、
企画と構造が破綻していないかを整えたものが、
冒頭の短い物語です。
なお、ここで生まれた物語や
書いてみて残った違和感そのものが、
また次の物語の①入力としてつながっていきます。
まとめ
初めて見ると、少し難しく感じるかもしれません。
でも、やっていること自体はとても単純です。
①入力で素材を集め、
②抽象で「何の話にするか」を決め、
③〜⑥でそれを裏切らないよう整理し、
⑦で文章にして確認します。
ひらめきを待つのではなく、
決めて、削って、並べる。
それを順番にやっているだけです。
最後に
今回ご紹介したやり方は、
すべての文章に向くものではありません。
ただ、RCMを思考のベースにした整理方法の一例として、
「何を書けばいいか分からない」
「途中で手が止まる」という状態から
抜け出す助けにはなるはずです。
「こういう考え方もあるんだ」と感じてもらえたなら、
行き詰まったときに、立ち戻れる場所が一つ増えたなら、
この記事を書いた意味はあると思っています。
以上が、僕が物語を書くときに使っている方法の一部、
企画と構成についての紹介でした。
物語の書き方は、人の数だけやり方があると思います。
もし「自分はこうして書いている」という
考えや工夫があれば、差し支えない範囲で、
コメントなどで教えてもらえたら嬉しいです。
読んでくださって、本当にありがとうございます。
補足:なぜネタ切れしにくくなるのか
①入力と②抽象を切り替えるだけで起きる例
ここから先は「ネタ切れしにくくなる理由」を
具体例で確認したい方向けの補足になります。
ここまでの例では、
「いま起きた出来事」を①入力にし、
「成長の一瞬を見逃していたこと」を
②抽象に選びました。
今度は、①と②だけを切り替えてみます。
ここでは、
「ネタ切れしにくくなる最小の変数」を確認するため、
③〜⑥の考え方や手順はいっさい変えずに進めます。
まず①入力です。先ほどは、
洗濯物を干していた
ふと振り返った
子どもが立っていた
という「その場で起きた出来事(体験の現在)」を
素材にしていました。
ここを、次のように切り替えてみます。
子どもが巣立ったあとの家にいる
いつもの家事をしている
ふと、昔のことを思い出した
新しい出来事は足していません。
「いま起きたこと」ではなく、「思い出したこと」に
入力を差し替えただけです。
出来事の数や対応関係ではなく、
「どの時点の体験を入力にするか」を切り替えています。
次に②抽象です。先ほどは、
成長の一瞬を見逃していたこと
をテーマにしました。
今回は、ここを次のように変えます。
もう戻らない時間を、思い出すことしかできないこと
「立った瞬間」という事実は同じでも、
何の話として扱うかを変えています。
①と②だけを切り替え、
③分解、④比較、⑤結合、⑥適応は同じ基準で
判断した場合、
⑦出力は次のようになります。
洗濯物を干しながら、テーブルに目が止まった。
ふと、昔のことを思い出した。
この家で、子どもがはじめて立った日のことだ。
あのときも、わたしは少し目を離していて、
気づいたときには、
テーブルにつかまって、もう立っていた。
今は、
別の場所で暮らしている。
干しかけの洗濯物が、手の中にあった。
やっていることは、とても単純です。
新しい出来事を足していない
構成の手順も変えていない
①入力(現在 → 記憶)
②抽象(成長 → 失われた時間)
この2点を切り替えただけです。
それでも、
明るいエッセイ風の話
切なさが残る回想の話
と、まったく別の物語になり、
余韻の種類と強度が変わります。
今回は説明を単純にするため、
①入力と②抽象だけを切り替えていますが、
実際には③〜⑥のどこを選び直すかによって、
物語はさらに別のかたちになります。
ネタが増えたのではありません。
同じ出来事を、別の構造で使っただけです。
出来事を「結果から見せる構成」にもできるし、
欠けている部分が、
あとから浮かび上がる構成にもできます。
並び順や残す要素を変えるだけで、
同じ体験が、喜びとして読まれたり、
喪失として残ったりします。
同じ体験から、別の物語を作れます。
だから僕は、
「新しい出来事を探す」よりも、
同じ出来事を、どの構造で読むか
を考えるようにしています。
これが、ネタ切れしにくくなった一番の理由です。
※本稿はRCMの思想を創作向けに解釈した一例であり、
研究・開発用途におけるRCMの定義や
厳密な運用とは異なります。
あらためて、山修さんには、
貴重なモデルと記事のご紹介を快く許可していただき、
心より感謝いたします。
僕の作品はこちら👇
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