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「わかっているのにできない」は、誰の問題か─IQ100でも起きる“実行のズレ”

「理解しているなら、できるはず」
そう思ってしまう場面は、職場にも支援の現場にも溢れています。

本人は真剣で、知識もある。それでも行動が安定しない
──このズレは、能力や意欲の問題ではありません。

本記事では、IQ100でも起きる「実行のつまずき」を、
発達特性と実行機能の視点から整理し、
個人を責めずに現場を変えるための
“仕事の設計”という選択肢を提示します。


「わかっているのにできない」は、誰の問題か

「やり方はわかっているんですけど……」
「頭では理解しているはずなんですが……」
こうした言葉は、決して一部の人だけのものではありません。

若手社員の面談でも、支援者とのやり取りでも、
管理職の相談の場でも、驚くほど頻繁に聞かれます。

本人は真剣です。
やる気がないわけでも、ふざけているわけでもない。

それなのに、行動が伴わない。結果が安定しない。
すると、周囲には次のような違和感が残ります。

  • 「理解しているなら、できるはずでは?」

  • 「何度も説明しているのに、なぜ同じところでつまずくのか」

  • 「結局、本人の意識の問題なのではないか」

この違和感は、立場が違っても共通しています。

若手は「自分はダメなのかもしれない」と感じ、
支援者は「どう支えればいいのかわからない」と迷い、
管理職は「どこまで求めていいのか判断がつかない」と立ち止まる。

ここで、一段踏み込んで考えてみたいのです。
実はこの現象、
IQが低いから起きているわけではありません。

「できない=能力が低い」
「できる=能力が高い」
この二分法で考えてしまうと、
多くの“わかっているのにできない”は説明できなくなります。

理解力はある。会話も成り立つ。知識もある。
それでも、行動に移す段階でズレが生じる。

このズレをどう捉えるかで、
本人の自己評価も、支援の方向性も、
マネジメントの質も大きく変わります。

まずはここで、
「能力がある/ない」という単純な見方を、いったん脇に置く。
この記事は、そのところから話を始めます。

第1章|IQ100でも起きる「できなさ」

「IQが平均なら、仕事で大きく困ることはないはず」
「理解力があるなら、あとは実行するだけでは?」
これは、職場でも支援の現場でも、ごく自然に共有されている前提です。

実際、IQという言葉は「知的な能力の目安」として広く知られており、
100前後であれば「平均的」「問題なし」と受け取られがちです。

けれど、現場で起きていることは、もう少し複雑です。
現実には、IQが100前後であっても、
仕事で強い困りごとを抱える人はいます。

しかもその多くは、
いわゆる「わかりやすく困っている人」ではありません。

説明をすると理解が早い。
会話も自然で、質問にも的確に答える。
資料を読めば要点を押さえているように見える。

だからこそ、周囲はこう感じます。
「ちゃんと理解している」
「能力は十分ある」
「あとは本人次第ではないか」

結果として、行動のつまずきは見過ごされやすくなります。
「できない理由」を探すよりも、
「なぜやらないのか」「なぜ続かないのか」
という問いに置き換えられてしまうのです。

ここで大切なのは、
IQの“全体の数値”と、その“中身の構成”は別物だという視点です。

同じ100という数値でも、
どの力が強く、どこに負荷がかかりやすいかは
人によって大きく異なります。

得意な部分が目立つ人ほど、
苦手な部分は「見えにくく」「理解されにくい」。

その結果、
「できるはずなのに、できない」という違和感だけが残ります。

この章で押さえておきたいのは、
“できなさ”は数値の問題ではなく、
構造の問題として現れることがある
という事実です。

では、その「中身の構成」の違いとは何でしょうか。
その点について、もう少し踏み込んでいきます。

第2章|定型発達の100と、発達特性の100は同じではない


前章で触れたように、IQ100という数値だけでは、
仕事上の困りごとは説明しきれません。
その理由は、IQが「一枚岩の能力」ではないからです。

IQは、ひとつの力を測っているように見えて、
実際には複数の力の組み合わせで成り立っています。

考える力、理解する力、情報を処理する力、状況を整理する力――
そうした要素の“総合点”が、ひとつの数値として表れているにすぎません。

ここで重要になるのが、下位項目のバランスです。
同じIQ100でも、
ある人は全体がなだらかに平均付近に分布しており、
別の人は、得意な領域が非常に高く、
その一方で苦手な領域が平均以下に出ていることがあります。

いわば、同じ高さに見える山でも、
なだらかな丘のような形もあれば、
高い峰と深い谷が同時に存在する地形もある、という違いです。

一般に、定型発達と呼ばれる人の場合、
能力の凸凹は比較的なだらかになりやすく、
大きな偏りが目立ちにくい傾向があります。

一方で、発達特性がある場合、
能力の凸凹の差が大きくなりやすいことがあります。

理解力や発想力、言語化といった一部の領域が非常に高い一方で、
段取りや切り替え、同時に複数のことを処理する場面では、
強い負荷がかかる。

結果として、こうした状態が生まれます。
「話せばわかるのに、動けない」
「考えは深いのに、実務が不安定」
「得意なところと苦手なところの差が大きい」

ここで押さえておきたいのは、
これは能力が足りないという話ではない、という点です。

同じ100という数値でも、
その中身が「均等なバランス」なのか、
「大きな凹凸を含んだバランス」なのかで、
仕事で現れる姿は大きく変わります。

だからこそ、
「できる/できない」を一律に評価するのではなく、
どこが強く、どこでつまずきやすい構造なのかを見る必要があります。

続いて、この凹凸がなぜ「実行」の場面で
表れやすいのかを見ていきます。

第3章|なぜ「実行」だけが難しくなるのか

ここまで見てきたように、発達特性がある場合、
能力の「凹凸」は理解や思考の力そのものではなく、
使われる場面によって表に出てきます。

特に差が現れやすいのが、「実行」のプロセスです。
多くの人が、ここで混同しがちになります。

理解できているのに、なぜできないのか。
考えられるのに、なぜ動けないのか。

そんな場合には、まず、得意になりやすい領域を整理してみます。
・内容を理解する
・情報を分析する
・新しい発想を生み出す
・考えを言葉にする

これらは、会話や説明の場面で発揮されやすく、
周囲からも「できる人」として認識されやすい力です。

一方で、負荷がかかりやすいのは次のような場面です。
・仕事の段取りを組み立てる
・いくつもある中から優先順位をつける
・状況に応じて切り替える
・同じ作業を安定して続ける

これらは、行動を現実の中で調整し続ける力が求められます。
この差があると、次のような現象が起きます。
・説明すると理解は早い
・会議では的確な意見が出る
・それなのに、作業が進まない
・期限や手順でつまずく

本人にとっては、
「わかっているのに、なぜかできない」という感覚です。
一方、周囲から見ると、
「理解しているはずなのに、なぜ?」
という“不思議さ”として映ります。

ここで位置づけたいのが、「実行機能」という考え方です。
実行機能とは、
理解したことを、現実の行動として成立させるための調整力のことです。

・考えを行動に移す。
・途中で立ち止まらずに進める。
・状況が変わったら切り替える。
・終わるまで保ち続ける。
これらをまとめて担っているのが、実行機能です。

重要なのは、
実行機能は「やる気」や「意識の高さ」とは別の働きだという点です。

だからこそ、
理解力が高く、思考力もある人ほど、
実行でつまずいたときに誤解されやすくなります。

続いて、こうしたズレを「努力」で埋めようとすると、
なぜうまくいかなくなるのかを見ていきます。

第4章|努力や根性で埋めようとすると、なぜうまくいかないか

「もっと意識してやってみよう」
「ちゃんと考えれば、できるはずだよ」
「自分で管理できるようにならないと」

実行がうまくいかない場面で、
職場や支援の現場では、
こうした言葉が自然に使われます。

言っている側に悪意はありません。
むしろ、相手を信じているからこその声かけです。
けれど、この対応が続くほど、
状況が悪化していくケースは少なくありません。

なぜでしょうか。
理由はシンプルで、
苦手な領域に、さらに負荷をかけてしまっているからです。

実行機能に負荷がかかりやすい人に対して、
「意識する」「管理する」「自分で考える」という要求は、
そのまま実行機能への追加課題になります。

結果として、本人の中ではこんな状態が起きます。
・やらなければならないことは理解している
・でも、どう動けばいいか整理しきれない
・うまくいかない理由も説明できない
・それでも「努力が足りない」と言われる


ここで見逃されがちなのが、
得意な領域「理解する力や考える力」が、
ほとんど使われていない
という点です。

説明を聞けば理解できる。
考える力はある。
言葉で整理することもできる。

それなのに、
「実行は自分で何とかして」と切り離されてしまう。

すると、周囲からはこう見えます。
・理解しているのに、動かない
・能力はあるのに、努力しない
・本気を出していないように見える


こうして、本来は構造の問題であるはずのズレが、
「努力不足」に見えてしまう
のです。
これは、本人の問題だけではありません。
支援者や管理職にとっても、非常に疲弊しやすい構造です。


言っても変わらない。
フォローしても定着しない。
次第に、関わりそのものが重荷になっていく。

努力や根性で埋めようとすればするほど、
実行機能のズレは深まり、
誤解と摩擦だけが積み重なっていきます。

それでは、この見方をどう切り替えればよいのか、
「能力」ではなく「配置」の視点から考えていきます。

第5章|発達特性を“能力差”ではなく“配置の問題”として見る

ここまで見てきたように、
「わかっているのにできない」状態は、
本人の能力不足や意欲の問題として片づけられるものではありません。

では、どこに目を向ければよいのでしょうか。
鍵になるのは、見方を変えることです。

 能力が足りない → ✕
 能力の使いどころが合っていない → ◯

同じ人でも、置かれる仕事や役割が変われば、評価は大きく変わります。
実際、ある場面では力を発揮できているのに、
別の場面では急に「できない人」になることは珍しくありません。

マネジメントの視点で重要なのは、次の問いです。
 ・その仕事は、「実行機能」にどれだけ依存しているか
 ・その工程を、本当に本人一人に任せる設計になっていないか

仕事の中には、理解力や発想力が活きる場面もあれば、
段取り、切り替え、継続といった
実行機能への依存度が高い場面もあります。

もし後者が多いにもかかわらず、
「できるはず」「自分で何とかしてほしい」
という前提で任せているとしたら、
ズレは拡大していきます。

ここで強調しておきたいのは、
これは発達障害のある人に限った話ではないという点です。

・タスクが増える。
・判断のスピードが上がる。
・複数の役割を同時に求められる。
こうした環境変化が重なると、
誰であっても実行機能への負荷は高まり、
これまで問題にならなかったズレが一気に表面化します。

だからこそ、
個人の「能力差」を測ろうとするよりも、
仕事の配置や設計が、その人の強みと合っているか
を見直すことが重要になります。

発達特性とは、
「できないことのリスト」ではありません。
どの力が、どの場面で活きるかを考えるための手がかりです。

こうした視点をもとに、
支援やマネジメントで実際に
どこを調整すればよいのかを整理していきます。

第6章|支援・マネジメントで変えるべき焦点

ここまでの話を踏まえると、
支援やマネジメントで最初に変えるべきものは、
「本人」そのものではないことが見えてきます。
まず見るべきなのは、仕事や関わり方の側です。

個人を変える前に、確認したいこと

タスクの構造
仕事がどこで始まり、どこで終わるのかが明確になっているか。
「いい感じに進めておいて」といった曖昧さが、
実行機能に過剰な負荷をかけていないか。

判断の回数
仕事の途中で、本人に委ねられている判断はどれくらいあるか。
優先順位や進め方をその都度考えさせていないか。

自己管理前提の強さ
「各自で調整」「自分で管理」といった前提が、
暗黙のうちに置かれていないか。

これらは一見、普通の働き方に見えます。
しかし、実行機能への依存度が高い設計ほど、
ズレは拡大しやすくなります。

効果が出やすい方向性

支援や調整のポイントは、意外とシンプルです。

  • 得意な認知を活かす
    理解力や言語化、分析が得意なら、
    それを使って仕事の意味や全体像を共有する。

  • 苦手な実行は「仕組み」に逃がす
    段取りや継続を本人の努力に任せず、
    見える化、チェック、役割分担などで外に出す。

これは「甘やかし」ではありません。
力の使いどころを調整しているだけです。
この視点に立つと、
支援者や管理職自身も楽になります。

毎回声をかけ続ける必要がなくなり、
「できるかどうか」を監視する関係からも距離を取れる。
人に張りつく支援ではなく、
仕組みで回る関係に近づいていきます。


まとめ|「できない」は、その人の限界ではない

発達特性とは、
能力の低さではありません。
能力の偏りです。

同じIQ100であっても、
その中身のバランスによって、
仕事で現れる姿は大きく変わります。

「わかっているのにできない」が起きるのは、
能力が足りないからではなく、
バランスと働き方の相性が合っていないからです。

最後に、あらためて問いを置きたいと思います。

その人に合わせるべきなのは、
指導の言葉でしょうか。
それとも、
仕事の設計でしょうか。

この問いをどこに向けるかで、
支援の質も、組織の疲れ方も、確実に変わっていきます。


では、実際の職場では
どこをどう見直せば、
「わかっているのにできない」は減らせるのか。

次の記事では、
実際の相談現場で使っている
「実行機能に負荷をかけない仕事設計の具体例」を整理します。


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