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【映画批評】『敵』元老教授の孤独を描くデジタル実相寺で和製デイヴィッド・リンチな作品。

はじめに

映画の表現形式に正解はなく、どんな表現方法もあって良いのだ。ストーリーティングでテーマを描く作品もあれば、その枠を壊す突飛な作品もある。後者のような作品は最近少ないなと思っていた。
評判が良いので映画館に足を運ぶと、テアトル新宿は満席だった。
そして、私は、物語が進むにつれ、夢と現実が交差する、デジタル実相寺で和製デイヴィッド・リンチ、ダーク『パーフェクトデイズ』な世界観に誘われ、魅了されていった。日本映画でこんな映画を見たのは久しぶりだった。


概要

本作は、筒井康隆の同名小説を、「桐島、部活やめるってよ」「騙し絵の牙」の吉田大八監督が映画化。穏やかな生活を送っていた独居老人の主人公の前に、ある日「敵」が現れる物語を、モノクロの映像で描いた。
主人公の儀助役を12年ぶりの映画主演になる長塚京三が演じ、教え子役を瀧内公美、亡くなった妻役を黒沢あすか、バーで出会った大学生役を河合優実が演じ、松尾諭、松尾貴史、カトウシンスケ、中島歩らが脇を固める。

物語・撮影・演出

フランス演劇を専門としている元大学教授の渡辺儀助(77)は、仕事をリタイアし隠居生活を送っている。教え子たちからは慕われてるが、大学を辞めてからは普通の生活をしている。祖父の代から続く日本家屋で毎朝決まった時間に起床し、料理は自分でつくり、衣類や使う文房具一つに至るまでを丹念に扱う。毎日のルーティンをこなし、淡々と普通の生活をしているのに観客には不気味に思える。

それを特に変わった絵ではない絵で撮っているはずなのに編集されると不気味に見える絵で撮影されている。撮影は、『ドライブマイカー』の四宮秀俊。インサートも不気味である。モノクロームの変な絵は、デジタル実相寺昭雄と言わんばかり。

渡辺は、松尾貴史演じる友人と酒を酌み交わし、教え子を招いてディナーも振る舞う。この生活スタイルで預貯金があと何年持つかを計算しながら、日常は平和に過ぎていった。
渡辺の行きつけのバーでオーナーの姪っ子と言うバイトの女の子に会う。
そんな穏やかな時間を過ごす儀助だったが、ある日、書斎のパソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくることをきっかけに夢の世界に導かれる。

後半どんどん和製デイヴィッドリンチになっていく。そしてラストには、イングマール・ベルイマンの『野いちご』のような味わいもある。

説明を排した、ダークな『パーフェクトデイズ』

無口でセリフで説明されることはないのだが、渡辺儀助の欲望や葛藤が夢と物語によって感覚的に観客に伝わる。
ルーティンワークを日々こなす主人公の生活を淡々と描きつつ、それに狂気を感じるのは、まさに「ダークな『パーフェクトデイズ』」といったところだ。

序盤は、狂気は画面にしか感じないのだが、物語も次第に狂気に蝕まれ、夢と現実が交差していく。教え子への愛。亡き妻の亡霊。死と生への葛藤。気がついたら知らない人が立っていたり、犬のフンを注意するおじさんと女性、見えない謎の男の存在など次第にシュールな展開になっていき、渡辺は、とあるフィッシングメールから「敵」への恐怖へ慄き始める。

敵とは何者か

タイトルにもなっている「敵」は、この社会に蔓延している不安そのものなのではないか。主人公の生活、講演料を固定して、貯金が尽きる前に死ぬ日を決めるというのも社会的背景がある。

私自身歳は30代だが、多数の70、80代の知人友人恩師がいる。今でも働いてる人が多く仕事や専門的な教養がありながらも、仕事がなければ話せる人も少ないといった人が多いように思う。
主人公の渡辺は、年金だけでは豊かには生活できず、貯金を切り崩す日々。仕事もしていなければ、いくら教養や仕事ができていても、人間関係は孤独だ。
この映画が描きたかったものとは、そんな現代の老いの悲しみなのではないか。

スタッフキャストの素晴らしさ

監督は以前から筒井康隆原作の『敵』を映画化したかったそうだ。四宮秀俊のキャメラも素晴らしかった。

長塚京三自身もフランス文学に詳しく、渡辺のキャラクターに重なる。3人の女性を演じた 瀧内公美、黒沢あすか、河合優美も素晴らしかった。
友人を演じた松尾貴史も良かった。
一人称の映画なのに脇役の厚みも豊かで素晴らしい映画になっていた。

総括

社会と内面が生活と夢の狭間で描けていて、シュールさで時々笑えるのも良い。

老いの孤独を描いた映画としては、物語で説明しない分、厚みと重厚さがある日本映画の新たな名作なのではないか。撮影の四宮秀俊は改めて天才だと思ったし、編集もかなり良かった。

日本映画でこのようなタイプの作品を映画化し、しかもヒットしていることはとても大きなことなのではないか。今後も日本映画の多様性の発展を祈って!!

演出☆☆☆☆
映像☆☆☆☆
物語☆☆☆☆
テーマ☆☆☆☆
80点


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