一般社団法人BowLの歴史をつまびらくインタビューシリーズ第1章:創業期|2013年〜2014年(後編)
本記事は、一般社団法人BowLの歴史を紐解く「つまびらきプロジェクト」を立ち上げられた徳里政亮さん(まっきー)にお声がけいただいてスタートした、BowLの歴史を紐解くインタビューシリーズ第1章の後編です。
前編の記事は以下のリンクをご覧ください。
インタビューシリーズ第1章の後編では、株式会社BowLとして創業された当時の組織文化および荷川取佳樹さん(ニカさん)が心掛けていた業務上のスタッフのあり方について伺いました。



創業当時の組織文化について
―2013〜2014年当時の組織づくりのスタイルや文化はどのようなものでしたか?
ニカさん:
この頃の組織づくりのスタイルは、『ティール組織』(英治出版)で言うところの※アンバーに近い形態だった。
※安定した組織づくりを行うための明確な階層構造、命令と統制によるリーダーシップ、秩序を生み出すためのルールとプロセスといった特徴を有する組織。レッド組織に見られる短期的視点から予測と計画を持つ長期的視点の獲得や、明確なルールと規定による属人的な権力の行使からの脱却といったブレイクスルーが見られる。
自分が独立するまでは外資系生命保険会社で※オレンジ的なスタイルでやってきていて、BowLという新しい組織の形を整えるためにまずアンバー的な組織づくりに取り組んでいたように思います。
※アンバー組織の限界を克服するために現れてきた組織形態。人々は世界を同じ事象の繰り返しではなく動的なものと捉え、既存のルールや秩序、枠組みに疑問を呈し、新たな発見や改善をめざすようになる。組織内では変化と革新が奨励され、競争優位の獲得・生産性の向上をめざす数値管理や実力主義が取り入れられるようになる。依然としてピラミッド的な階層構造は残されるものの、その役割は固定的なものではなく、実力に基づいての昇進への道が開かれる。
朝からミーティングをガッツリやり、社員に対しては細かくフィードバックもしていました。
まっきー:
当時、20代〜30代前半くらいまでの社員が多く、まだまだ未熟だった。だからニカさんは指導・育成のような関わり方がどうしても多かったように思います。
ニカさん:
当時の私はオレンジ的な働き方・組織づくりもやり尽くしていて、同時にマネージャーとしてトップダウンとボトムアップ、双方に取り組んできた経験もありました。
だから社員の話を聞こうというスタンスも持ちつつ、推進力を出していたように思いますね。
まっきー:
その頃もただ厳しい、辛いというわけではなくて、毎月一回の飲み会をサタデー・ランチという名前でやっていたのですが、これが楽しかったですね。毎月、研修生の皆さんとBowLの社員が一緒になって美味しいものを食べに行けるぞ、という機会でした。
このサタデー・ランチも、もとを辿れば研修生の皆さんの通所率を上げたい、開所できる日数をフルで開けたいという考えから始まったものです。
でも、土曜日にどうやったら来てもらえるだろう?と考えた時に、「だったら楽しいことをやろうよ」となって。みんなで食事を囲んで対話する機会になっていました。
ここでもニカさんが「周りを見てごらん」と僕に言うわけです。
26歳の僕は、自分が真っ先に食事を取りに行っていて、場をホールドする役割や食事を取りに行きやすくする空気感を作るといった、スタッフとしての役割の理解が乏しかった。
ファシリテーションや場づくりについて学んだことはなかったけど、ニカさんの視点からのフィードバックを受けながら、実地で学んでいたように思います。
ニカさん:
当時はスタッフと朝ミーティングをがっつりやって、終えたら研修生へのリワークプログラム提供。そしてお昼ご飯も一緒に食べて過ごし、そこから再び午後のリワークプログラムを終えると夕方の5時となっている。
支援するというより研修生とずっと対話しているような、そんな過ごし方をしていましたね。
だから、この頃の1期生、2期生の研修生とは距離感がとても近く、関係性も強いです。プログラムを修了して復職、再就職してからも何度も足を運んでくれたり。
BowLの原点であり、起点だなと思います。
2013年の10月頃に、現在はリワーク支援のコアを担ってくれている大田真央香が、大学生インターンとしてジョインしてくれました。
―創業当時は社員同士の関係性や社会人経験の差、さらにはベンチャーとして売上を立てないといけないということが同時進行で起こっていて、まずはニカさんの強いリーダーシップや推進力が必要な局面も多かったように思います。そこから、何か変わる出来事はあったのでしょうか?
ニカさん:
5月のオープンから2ヶ月ほど経った7月のある日。スタッフ一人ひとりの仕事ぶりを見ながら、研修生の面談や個別支援計画の作成も全員でやったほうが良いんじゃないかと考えて、ミーティングで話しました。
まっきー:
この提案、当初はスタッフの星野さんも僕も困惑していました。当時、精神保健福祉士であり、サビ管の城間さん以外の社員はリワークプログラムの運営に注力していたり、僕は総務経理などの仕事に取り組んでいたんです。
ニカさん:
当初はサビ管の城間が支援の中心となり、一人ひとりの研修生への面談や個別支援計画の作成、それに基づいたスタッフへの指示などをやっており、他の社員もリワークプログラム運営や総務経理などの仕事も一人ひとりに任せて、分担されている状態でした。
ただ、この進め方では創業当初の少ないメンバーの状態でもそれぞれの仕事の進捗が見えなくなってしまったり、支援の全体像や繋がりもわからず、情報が遮られている状態でした。
また、星野やまっきーも支援者として知識、技術を高めるため産業カウンセリングを学んでいました。
なら、面談も個別支援計画の作成も、チームで分担してやっていこうよと。
まっきー:
ただ、いきなりすべてを任せられたわけではなく、初めのうちはニカさんや城間さんと2名体制で面談をして、BowL流の面談のあり方・やり方を明確にできて……と少しずつ1人で面談を受け持つ準備をしていきました。
そして、1ヶ月後ぐらいには一人立ちして研修生の皆さんの面談を受け持つようになり、四苦八苦しながらチャレンジしていましたね。これが、現在の僕の支援の起点です。
この出来事から、それぞれが個別支援計画作成や個別面談を行うようになり、城間さんは支援全体を把握して助言するという体制になっていきましたね。
責任者に業務や責任を一極集中させた旧来的な福祉の組織体制から、メンバー全員で責任を分担し、自律分散型の組織体制にシフトしたきっかけです。
ヒアリングシートや個別支援計画書についても、民間企業出身の僕からするとより書きやすい形式にできることも見えたので、フォーマットの必要な要素は押さえつつ改変するなどの提案もしていました。
福祉の仕事に外の業務経験をプラスするなどして、より福祉施設からBowLになっていったところかもしれないですね。
2014年3月にはBowLとして初めての一泊研修も実施していますね。
―ルールブック(就業規則)づくりや一時金(ボーナス)の支給、No残業デーなどに関する記述も当時のニカさんのブログの中で伺えました。この頃から、社員が健康的に働ける職場づくりを体現しようとされていたのですね。
業務の中で特に意識していたことは?
―当時の仕事に取り組む際、ニカさんが意識していたことは何でしょうか?ここまでの話を伺うと、社員に対しても研修生の皆さんに対しても「観る」ことを意識されているように感じました。
まっきー:
何を観ればいい?となった時、ニカさんの答えは「場を雰囲気を観る」だった。場を観る時のポイントでよく話されるのが、「いつも観なきゃいけない。いつも観ているからこそ、違いに気づける」というものだね。
ニカさん:
前職の生命保険会社の頃から「観る」ことは心がけていましたね。
また、この頃から営業そのものではなく、人を育てることにやりがいを感じていました。
当時のことを振り返ると、自分は推進力を発揮していたと話しましたが、社員のみんなは着いてくるのが精一杯だったかもしれません。
まっきー:
毎日、ミーティングもやってましたからね。売上の話から支援の話に至るまで何でも。
ニカさん:
まっきーにはよくフィードバックをしていたかな。
まっきーと一緒にやろうと感じたポイントは、スピード感。
理解が早くて、納得するまで動けないというわけではなく、言われたら「はい!」と動いていた。
コアメンバーとしての要素がなければ、そんなに力を入れてコミュニケーションを取ることもないです。
人を見極めてコミュニケーションを取らなければ、本人のキャパオーバーになってしまいますから。
―創業したばかりのベンチャー企業にとっては、そのスピード感こそが求められる要素だったのではないかと感じます。
まっきー:
確かに、ニカさんのフィードバックやリクエストに関して打ち返すことはできていたのかな。とはいえ、納得感がないとニカさんが言わんとするところを体現することは難しくて。当時言われていたことが、最近になって腹の底から納得できるということもありますね。
ニカさん:
2014年の終わり頃には社員は7名ほどに増えていて、この頃になると組織として安定してきましたね。それぞれの強み弱みを補いあい、フォローしあう体制ができつつありました。
ここから2015年に首里に事業所を開設し、さらに人が増えてくると、また状況が変わっていきますが。
―研修生の皆さんとの関係の中では、「観る」はどのように活かされていたのでしょうか?
ニカさん:
ドクターたちがBowLに見学にきた時があったのですが、「うつ病ってどう思います?」と専門家であるはずの彼らが尋ねてくるんです。
人って、大体習慣で生きてるじゃないですか。
だから、じっと観察しているとその人の行動の傾向やパターン、それに至る背景にも考えが及び、観えるようになってくる。
私たちは日々、プログラムの中などで研修生の皆さんに向き合って一人ひとりの症状を観察して、彼らに何が必要なのかを考えることができました。
まっきー:
支援の現場では、BowLへの通所を「欠席したいです」「休みたいです」と研修生が話すのをどう通所に繋げていくか?についてニカさんからよく言われましたね。
ニカさん:
BowLに通わずに家にいることは「後退に繋がるんじゃないか?」と考えていました。
もちろん無理強いや強要はできませんが、社会復帰をめざすということを考えると、家にいるという選択は社会との接点を減らすことや、他者とのコミュニケーションの機会の損失に繋がります。
思い悩んでぐるぐる考えてしまうこともあるかもしれないけど、人といる場でそれを出した方がいいんじゃないか?自分の回復のためにどう切り替えてもらうか?
この考え方を社員と徹底的に対話し、共有していましたね。
―研修生の皆さんとの関わりを伺うと、従来のケアする側・される側といった関係性とは違ったあり方を体現しようという姿勢が感じられました。この辺りは、どのような想いがあったのでしょうか?
ニカさん:
やはり、私の友人の存在が大きいです。
起業のきっかけとなった私の友人は優秀な男でしたが、うつ病になり、病院に通って支援を受けるようになりました。そのことに寂しさを感じたんですね。彼が本来、持っているはずの素晴らしさを蔑ろにせず、活かすことができたなら、と。
BowLを立ち上げてからは、学校の先生が心を壊してしまい、私たちのもとを訪れる様子も見てきました。聖職者と言われ、子どもを教え導く立場にあるはずの人たちがです。
私は、そうした方々をうつ病患者ではなく一人の人として受け入れようと思いました。
BowLは支援者としてまだまだ発展途上で、足りない存在だからこそ、目の前の研修生を一人の人として知っていき、それぞれの良さを活かしていこう、ポテンシャルを開かせようと考えていました。
こうした背景もあり、ある時からBowLが行うサタデー・ランチやクリスマスパーティなどのイベントは、研修生主体で取り組んでもらうようになりました。自分たちにできないことも、研修生たちにはできるんです。
役割を任され、それを担うことは人の可能性を開かせ、コミュニケーションを円滑にし、希望を持つことに繋がります。それを通じて、自信を持って職場へ復帰してほしいと願っています。
これもやはりBowLの原点ですね。
まっきー:
うつ病について理解を深めていくと、これは内的な問題であると同時に、当事者の職場や家族との関係の問題でもあることがわかってきます。メンタルヘルスを考え抜くと、つまるところ人材育成と組織開発といったテーマに行き着くんですね。
ニカさん:
保険会社の時代から、私は営業ではなく人を育てることにやりがいを感じていました。
マネージャーとしてはトップダウンの限界を感じ、ボトムアップで一人ひとりの能力を活かす方が全然良いじゃないかと感じて、実際に取り組むなどもしてきました。
BowLの事業は言わば、私がビジネス現場で学び経験した人材育成の視点を、医療・福祉領域の中に持ち込んで実施しようというものです。そして、下流から上流に向かうにつれて組織開発もBowLの事業に含まれ、club B、bowl+、ポリネへと形を変えつつも取り組むようになりました。
まっきー:
ここまでくると、いかに(研修生それぞれの主体性に委ねて)私たちがやらないか、という「何もしない支援」といったことも考えるようになりましたね。専門職の方からは「何もしないって、私たちの仕事がなくなるの?」みたいな声も出たりしましたが。
ニカさん:
表でやらない代わりに、裏でやってることも多いんだけどね。
―ありがとうございます。最後に、2013〜2014年という創業期についてここまで振り返ってきましたが、この時間を振り返って改めてどんなことを感じられましたか?
まっきー:
今の土台はこの頃、作られたんだな、と思います。
それから、以前の自分だったら過去を振り返った時、足りなかったことや至らなかったところを見てたかも。でも、今振り返ってみると、あったことに目が向いてる感じですね。
そして、昔はニカさんが一人で、エネルギーを強く出してたけれど、今はみんながこれから行く先を見据えて一人ひとりがエネルギーを出してる感じがします。
ニカさん自身もリーダーからエルダーに変わったからかな。
ニカさん:
土台もそうだけど、源流、かな。源流を一生懸命、掘って流そうとしていた。
源流って、元は小さな湧水じゃないですか。それが時間と共に大きな川になる。
今では400名近くの研修生がBowLから巣立っていった訳だけど、この頃の話はその源流だな、と。
一生懸命、土を掘って耕して、ようやく小さな水が湧いた。そんな話を、創業期の仲間や今のメンバーにも聞いてほしいですね。
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次回、インタビューシリーズ第2章に続きます。
公開した記事は以下のマガジンにも掲載しています。記事の一覧をご覧いただきたい場合はこちらをチェックいただけると幸いです。
一般社団法人BowL、一般社団法人ポリネについての関連情報は、以下のリンクもご覧ください。
連載「BowLの挑戦」(全5回)|沖縄タイムス
BowLのリワーク説明動画|一般社団法人BowL
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