一般社団法人BowLの歴史をつまびらくインタビューシリーズ第2章:種蒔期|2015年〜2017年(前編)
本記事は、一般社団法人BowLの歴史を紐解く「つまびらきプロジェクト」を立ち上げられた徳里政亮さん(まっきー)にお声がけいただいてスタートした、BowLの歴史を紐解くインタビューシリーズ第二弾です。
2013年1月に創業された株式会社BowLは、沖縄県浦添市に拠点を置く、県内初のうつ病特化型のリワーク(復職・再就職)専門機関です。これまでに500名にのぼる方々の復職・再就職を実現されてきました。
うつに陥った方のサポートだけではなく、そもそもうつにならない社会づくりをめざすBowLは、新しい働き方・組織の作り方・制度設計を自社自ら積極的に挑戦し、BowL独自の「チームシップ経営」及びチーム、組織、経営支援アプローチの開発を行ってきました。
2020年には、うつを発症させず、健康的に働ける組織づくりをポリネーション(他花受粉)していくことをめざし、一般社団法人ポリネを設立。ポリネでは、経営者・マネジメント層を起点に、人と組織がより健やかな状態へ変容していくための独自プログラムを提供されています。
さらに、株式会社という法人形態と諸制度が、BowLが志向する経営のあり方と乖離しているという点から一般社団法人BowLへの移行を決断。
2024年10月1日を以て一般社団法人BowLとして第二創業されました。
第2回となる今回は、荷川取佳樹さん(ニカさん)と徳里政亮さん(まっきー)のお二人から、多事業所経営へ展開した先の試行錯誤があった2015〜2017年あたりのBowLについて伺いました。



また、これまでに公開した記事は以下のマガジンにも掲載しています。記事の一覧をご覧いただきたい場合はこちらをチェックいただけると幸いです。
事業の成長:多事業所経営へ
事業の全体像のアップデートへ
―本日もよろしくお願いします。今回は、前回扱った2013〜2014年の続き。2015〜2017年までの株式会社BowLについて伺っていきたいと思います。
徳里(以下、まっきー):
2015年から2017年は、BowLが従来の福祉事業者の枠組みを超えて事業領域や支援対象が広がっていく一方、自分たちがどうありたいのかについて内に向けて探っていくような、外にも内にも向かっていく時期でした。
組織としては、この頃に出会ったさまざまな領域の哲学や手法の実践、試行錯誤によって、新しい組織づくりの基盤が整いつつあるタイミングでした。
前回お話ししたように、BowLは2013年1月にうつ病の方の復職を支援する生活訓練(自立訓練)の事業所として始まり、就労移行支援事業者としての認可も受け、再就職支援に取り組んでいました。
しかし、従来通りの精神保健分野で学んだ支援だけを続けていくと、BowLの利用者、研修生はどんどん弱い存在になっていってしまいます。BowLが助ける側、研修生は助けられる側といったように関係も固定化されたり、役割や立場への依存状態も助長されてしまうことになります。
そうではなく、BowLのスタッフ、研修生の一人ひとりの自立と良さが、エンパワーメントされていくような支援のあり方を模索し、アップデートしていく必要がありました。
そのためこの時期は、インプットのために沖縄を飛び出して隣接領域や関係するテーマの講演会、シンポジウム、学会、プログラムにも参加していました。
そういった場で、BowLの哲学に共鳴する新たなキーワードや概念にいくつも出会い、それらを事業やプログラム、組織づくりに取り入れ、統合していきました。
2015年当時のBowLの考える事業の全体像が以下の図です。

うつ病を発症された方に対する直接的な支援としての復職・再就職支援(3次予防)から、そもそもうつ病にならない組織づくり支援やメンタルヘルスの普及啓発を行う0次予防という全体像です。
2015年2月には、BowLと有志の協力者と共に0次予防を行うためのNPO法人メンタルケアLinkを設立しました。
この0次予防の活動は、2020年に設立される一般社団法人ポリネに繋がっていますね。
また、このNPO法人メンタルケアLink設立時に記念講演会を行ったのですが、僕はこの時のことがとても印象に残っています。
この記念講演会には「嫌われる勇気」著者の岸見一郎さんを登壇者として招待することになるのですが、この「嫌われる勇気」で紹介されている「アドラー心理学」の考え方はBowLとして大切にしたいあり方が語られていると感じました。岸見一郎さんには京都まで出向いて登壇を直談判して、沖縄にきていただくことになったのです。
このような、沖縄の外に積極的に出ていくことや第一人者と繋がりを持とうとし始めたのも、これがきっかけだったような気がします。
そして、従来の精神保健福祉とは異なる、よりBowLらしい取り組みとして一歩踏み出している感覚もありました。
沖縄での岸見さんとの対話をきっかけに、研修生の支援検討の在り方も変わりました。直接的な外的要因を探すのでなく、メンタルダウンを選択せざるを得ない内的要因にも目を配るようになり、支援の幅も広がったなぁと感じています。僕にとってはすごく印象に残ってるんですけど……ニカさんはいかがですか?
荷川取(以下、ニカさん):
岸見さんもそうだけど、火がついたのは斎藤環さんの本との出会いかな。
彼の「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか―」を手に取ったとき、「人薬」というキーワードが印象的で、人は対人関係で心が傷つくが、人によって癒やされる考え方がとてもいいなと思って。医療機関でないBowLだからこそできることはこれなんだと確信を得たよね。
それまで従来の精神保健福祉に関する書籍も学んでいましたが、教科書的な知識ばかりで、自分たちの実践に活かせるものが少なかった。
フレデリック・ラルー『ティール組織』もそうだけど、自分たちとしてこれが大事だ、と思っていたことをある本が言語化してくれていることがあって、そうした本に出会った時に既にあった大切にしたいものが固まっていく瞬間がある。
アドラー心理学の話で言うと、アドラーはフロイト、ユングに次ぐ3番目くらいの位置付けで知られるようになったけど、自分たちがやりたいのはこれだ!となったよね。
既存の心理学は病気になった原因を探す原因論が多く、アドラーは「人は何かの目的があって、今の状況を作り出している」とする目的論を唱えていた。
ただ、「どうすれば病気にならずに済んだのか?」という問いだけだと、復職や再就職に向けたこれからに繋がるヒントが少ない。
その点でアドラーは、「目的のために今の状況が生み出されている」という異なる視点を紹介してくれている。
アドラーの言う「課題の分離」は研修生、スタッフ双方にとって役立つ考え方だったし、「勇気づけ」や「共同体感覚」もBowLの哲学と響くものがあった。
斎藤環さんもまた「共同体感覚」に共通する「関係性」について述べていて、こうした探求や発見からBowLの方向性が形になっていったような感じだな。
まっきー:
沖縄の外や既存の精神保健福祉領域の外にアンテナを貼っていく中で、2015年頃には「ヘルシー・カンパニー」「マインドフルネス」、2016年頃には「レジリエンス」や「幸福学」といった概念に出会いましたね。
こういったことが自分たちの大事にしたいことだよな、と学びを深めつつ、研修にも取り入れていくようになっています。
ロバート・H. ローゼン 『ヘルシー・カンパニー: 人的資源の活用とストレス管理』は今日の人的資本経営や健康経営の基礎、古典のような位置付けをされているもので、経営と健康管理を統合していく、ということを述べています。
もう、この頃から自分たちは意識していたんですね、ニカさん。
2事業所目のオープンとその後の違和感
―2015年の末にはBowL Bizという2事業所目を那覇市首里にオープンされています。この背景について伺っても良いでしょうか?
まっきー:
まず、浦添にオープンしたリワーク・ステーションBowLの利用者、研修生が増えていたため一事業所としての一月あたりの稼働率の超過の懸念がありました。
また、創業当初からもありましたが、メンタルヘルス不調の回復から復職をめざす方と、無職状態からの再就職をめざす方がそれぞれ半々といったところで、再就職支援に焦点を当てたサポートのニーズもありました。
そこで、浦添の事業所を再就職支援を中心とするBowL JoB、2015年12月に新しくオープンさせる首里の事業所をリワーク(復職)を中心とするBowL Bizとして整理し、多事業所展開に踏み出しました。

2事業所となると採用して人も増えてきて、組織のビジョンや方向性を共有することも難しくなりました。この時、4名くらい新たに増えてるかな。
そして、利用者もそれぞれの事業所に二分されて、事業所ごとの利益率を考えたりするようになり、財務的な課題も抱えるようになりました。
この時初めて、経営が難しいと感じていたかも。創業期に単月黒字化を達成してからは、プログラムの内容を考えることに注力していて、経営については難しいとは感じてなかった。多事業所経営をきっかけに経営課題があらわになったね。
ニカさん:
多事業所展開は、人を増やすことにチャレンジすることだよね。そして、2つの事業所の人をどうリンクさせていくか、というのを考えていたね。
ただ、1事業所体制において、社長としての自分は一つの事業所でいることができたけど、2事業所体制になると事業所を往復するようになって、結果的に不在の時間もできるようになった。でも、そうする他なかった。
経営面でみると、1+1=2とならず、1.5くらいにしかなっていなかった。どうして1+1=2、3、4となっていかないんだろうと。この方向性で良いのかな?と考え始めていたね。
首里のオープンから1年ほど経った頃、スタッフ間でコミュニケーションの質が低下し、話が噛み合わないことが増えてきて、スタッフそれぞれの自己判断で行動してしまう事態が出始めた。その様子を見た新しいスタッフが戸惑い始めたりと、どうにもうまくいかない。
最終的に、オープンから2年ほどで首里の事業所は閉じることになりました。
2事業所に増えて、何が起こっていたのか?
―2年ほどで最終的に事業所を閉じるというのは、本当に組織にとって大きな意思決定だったのではないかと感じました。
うまくいかないとなった時、具体的にどのようなことが当時、起こっていたのでしょうか?例えば、人を雇って増やすとなった時にBowLの文化とミスマッチな方が増えたといったこともあったのでしょうか?
まっきー:
まずは、人を雇うプロセスから話した方がいいですね。
事業所を2つに増やすとなると、社員は9〜10名ほど必要になります。なので、その話が出た頃からアンテナは張っていました。
僕は産業カウンセラーの講座に通っていたけれど、そこの参加者でどこか良い職場がないかな、となった時にBowLを紹介したり、精神保健福祉士などの専門家や病院の仲間にも声をかけてみたりと、意識が共有できる人がいないかと探していました。
そこで繋がることができたらBowLに来てもらって、ニカさんに会ってもらう。この時にニカさんにビビッと来てくれるかが重要です。
また、BowLの文化は非言語でスタッフ間に共有されているので、その人がニカさんに会いに事業所に入ってきた瞬間に「あ、BowLっぽい人だね!」って、みんながわかっちゃう感じがあります。その人が醸し出す雰囲気やエネルギーで、一緒に働けそうな人かどうかビビッと感じちゃうんでしょうね。
実際に小一時間ほどニカさんと話した後、部屋から出てくると「入社すると決まりました」となったケースもありました。
ニカさん自身も「あなたがやりたいというなら、一緒に働こう」というスタンスだから、転職する側もちゃんと自分で意志決定することで入社が決まります。
また、2016年には学生インターン、アルバイトとして働いてくれていた2人に新卒で入社してもらいました。
BowLは紛れもないベンチャー企業だったし、大人を支援するビジネスモデルでもあったので、社会人経験を積んでいない新卒を受け入れるのは大きな挑戦でした。新卒のスタッフに支援を任せて良いものか葛藤もあったけれど、学生の頃からBowLらしくいてくれた2人なので、同時に雇い入れることに決めました。
ニカさん:
私は保険会社時代は、スカウティングと公募をメインの採用手段としていました。目をつけていた人にアプローチしていく、あるいは公募で人を採用するということを数多く経験してきました。
ただ、これら2つは難しい面もあって、例えば入社以前に関係性や文化を共有できていないし、入社してから馴染むにも時間がかかる。そして、結果的に馴染まないこともある。
そう考えると一番良いのは、やっぱり口コミだった。当時はまだまだ小さな会社で、しっかり自分たちの文化を共有化していく時。多くを採用することもない。
だから、私たちの周りでどう良い人を探そうか、どう縁を使っていこうかと考えていたところです。
まっきー:
今でいう「リファラル採用」をやっていたと思います。当時、そんな言葉は一般的ではなかったけれど。
ニカさん:
今、少し変わってきているのは、2024年現在のBowLはスケールを広げていこうという時期にあること。
だから、いかにBowLの文化に同期しやすい人に来てもらうか?という思考に変わってきています。
この先を考えると、もう口コミで採用できる範囲を超えているしなぁ。
まっきー:
当時は、採用後のオンボーディングや教育体制がまだまだ形になっていなかったですね。
2015〜2016年あたりでニカさんはダイアログと言い始めてるけど、当時、言葉は理解してても、BowL内でそれを実践できていたかどうかは微妙かも。
BowLのカルチャーをいかにして暗黙知から形式知に上げていくか、All for Empowermentを現場でどう実践するか、また、どう評価していくかというコンピテンシーも整理されていなかった。頭や思考で議論していたかもしれないけど、対話して深めることはやっていなかったかもしれない。
ニカさん:
そもそも、当時の沖縄で、民間企業でリワークに取り組んでいたのはBowLしかなかった。
なので、専門職もその他のスタッフも、BowLにチャレンジしに飛び込んでくる訳です。
また、精神保健福祉に関して、教科書通りにやっている部分とBowL独自にやっている取り組みの両方があり、複雑性も高い。それでもまずは「まずやってみようぜ!」という文化を大事にしていたけど、いざやってみるとBowLとして大切にしたいことや意図したことと違った行動や表現が起こったりしていた。
ある時、私が事業所を覗きに行った時、スタッフルームを訪ねてきて「話を聞いて欲しいのですが、担当の〇〇さんはいますか?」という研修生がどんどんどんどん来ていた。そして当のスタッフは、集団プログラムを運営する傍ら、空き時間で一人ひとり個別面談もこなす訳です。みんな本当に忙しそうにしていた。
みんなこんなに頑張ってるが、余裕をなくしていた。つまり、それは経営者として意図を明確にできていなかったという、私自身の問題でした。
あの光景を見た時に、どうすれば良いんだろう?と思っていました。
All for Empowermentの実践は、個別対応というやり方で本当に良かったのか?と。
そんな自問自答を繰り返す日々でした。
まっきー:
そうでしたね……。当時は1人の研修生に2時間の個別面談というケースもありましたね。
スタッフが増え、利用する研修生が増え、そして支援の意図がチームに明確に浸透していないと、研修生のその時その時の悩みや苦しさに、自分たちが合わせる形になっていましたね。
そして、個別面談後は長文の記録を書くことになり、残業も発生する。夜9時をまわる頃に面談記録のチャットがアップされることもありましたね。
ニカさん:
当時は今ほどBowLの方向性や特性にあった支援対象かどうかの見立てもできず、研修生を受け入れていた。そんな中、復職や再就職をめざす場である以上、支援者が推進力を持って支援にあたったとき、逆に苦しくさせてしまうケースもあったね。
まっきー:
病院からクレームがきて、ニカさんが直接主治医に出向いて謝りに行くこともありましたね。
そして、研修生にもよくない影響が起こっていた時期でもありました。こちらの意図が伝わらず、問題行動が起こっていたり、それにスタッフも反応的に注意して悪循環になったり。
―ピーター・カーニック氏が提唱したソース原理(Source Principle)では、ソース(活動の創造性の源として最初にリスクを負い、一歩踏み出した人)の意図が曖昧になると、その周りに集った人たちも混乱したり、創造性を損なう脱線のような振る舞いも起こると言います。
お話を伺うと、そのようなことも当時は起こっていたのではないかと感じますね。
まっきー:
個別支援の限界を感じていました。本当に研修生一人ひとりを個別支援すべきなのか?
自分たちはAll for Empowermentを掲げて、自立を大事にしている。それなのになぜか、自立支援よりも援助する方向に向かってしまうのか?
研修生一人ひとりの力を信じてこそ自立支援だが、信じきれない。その結果、やりすぎてしまう。
そうなると、今度は企業も研修生も援助されることを当たり前だと思ってしまう。
ニカさん:
そうなんだよ。
まっきー:
「なんで面談してくれないんですか?」
「なんで企業との間に入って調整してくれないんですか?」
「復職・再就職した先の企業が〇〇で……」
それはあなた(研修生自身)が担う責任、それは企業の側が対処すべき課題、それは……。
今ならそういった形で、課題の整理・分担ができるけど、当時はこの渦に巻き込まれていた。
ニカさん:
2016年の1年の間に、そういった問題が凝縮されていたね。
まっきー:
それまで、2014年から2015年の途中くらいまでは、一事業所としてはスタッフも多かったし、数字も上がってた。それが、事業所が増えて、余裕がなくなって、2016年に顕在化して……。
そんなタイミングでU理論に出会いましたね。
ニカさん:
そうそう、2016年3月。みーちゃん(由佐美加子さん)とU理論に出会ったことが転機だったね。
U理論(Theory U)とはマサチューセッツ工科大学C・オットー・シャーマー博士(C.Otto Sharmer)によって提唱された経営理論です。
過去のベストプラクティスからではなく、今ここにあるものを観察、内省することで出現する未来から学習し、行動するという一連のプロセスをアルファベットのUの字になぞらえて説明しています。
また、過去のパターンを脱却し、新しい未来を作るために個人の内省を進め、内面の変容を遂げることで、個人が関わる組織、コミュニティ、社会にまで変化を及ぼしうるといいます。
由佐美加子さんは、中土井僚さん(オーセンティックワークス株式会社)と共にオットー・シャーマー博士の書籍を翻訳出版し、国内におけるU理論の普及啓発に尽力された人物です。
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次回、インタビューシリーズ第2章(中編)に続きます。
以降、公開した記事は以下のマガジンにも掲載しています。記事の一覧をご覧いただきたい場合はこちらをチェックいただけると幸いです。
一般社団法人BowL、一般社団法人ポリネについての関連情報は、以下のリンクもご覧ください。
連載「BowLの挑戦」(全5回)|沖縄タイムス
BowLのリワーク説明動画|一般社団法人BowL
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