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舞台 「奇跡かな」 観劇レビュー 2025/12/29


写真引用元:劇団かもめんたる 公式X(旧Twitter)


写真引用元:劇団かもめんたる 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「奇跡かな」
劇場:本多劇場
劇団・企画:劇団かもめんたる
作・演出:岩崎う大
出演:岩崎う大、槙尾ユウスケ、もりももこ、土屋翔、野口詩央、宮下雄也、高佐一慈、尾関高文、成松修、平岡純米、平田敦子、酒井若菜
期間:12/25〜12/29(東京)
上演時間:約1時間40分(途中休憩なし)
作品キーワード:コメディ、ヒューマンドラマ、地方創生、笑える
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


お笑いコンビ「かもめんたる」の岩崎う大さんが主宰する「劇団かもめんたる」の新作公演を観劇。
「劇団かもめんたる」は、岩崎さんが2015年に旗揚げした劇団で、岩崎さんが作演出を務めてこれまで14回公演を行ってきた。
岩崎さんは、第64・65回と2年連続岸田國士戯曲賞最終候補に選出されたこともある。
私自身、「劇団かもめんたる」の公演は『HOT』(2020年12月)のみ観劇したことがあり、本作で2回目の観劇となる。

物語は、「沼島」と呼ばれる東京から離れた田舎の蛙が沢山いてKAWAZUという伝統文化が残る町を舞台にした物語となっている。
布袋ソラ(野口詩央)は頭巾を被って昔話のように沼島に起きた出来事について語り始める。
ある日、沼島に東京から中森未可子(酒井若菜)という女性がやってくる。
インフルエンサーと言わんばかりの非常に煌びやかなオーラをした中森は、沼島で蛙を探していると言い町に暮らす布袋ソラや布袋タエ(平田敦子)に尋ねてくる。
ソラは中森を蛙のいる池に案内する。
この町のイケメンと呼ばれていた緑沢光(平岡純米)は、中森の美貌を惹かれて恋をし、同じく布袋敬二郎(岩崎う大)も中森のことを気になっている。
一方同じタイミングで、力士でありかつてパワハラなどの犯罪でしばらく世間を騒がせていた、地元が沼島の隣町である龍堂司(成松修)が沼島にやってこようとしていた。
龍堂には小竹文則(尾関高文)というマネージャーがいたが、いつも龍堂に叱られていた。
龍堂は沼島にやってくるが、イケメンと称えられていた緑沢を小馬鹿にして、変人扱いされていた渋川恭一(高佐一慈)をイケメンだと気に入る。
その後、蛙を先に鳴かせた方が勝ちという沼島特有の勝負事をしに、龍堂は大舞台へ登場するが...という話である。

私は「劇団かもめんたる」の公演をそこまで沢山観てきた観劇者ではないが、『HOT』と比べると本作は非常に面白かった印象を受けた。
特に戯曲や演出に捻りがあるわけではないのだが、誰もがとっつきやすく分かりやすいテーマで面白くコメディ演劇を成立させて、非常に楽しむことが出来た。

ストーリーとしては分かりやすいのだが、戯曲の中には今の日本の事情を反映したかのような要素が散りばめられていた点も見逃す訳にはいかない。
例えば、沼島という蛙が沢山住んでいることを伝統文化として末長く続いてきた田舎町が本作の舞台だが、沼島の人々はこぞって東京からやってきた中森に近づいていく。
それは、過疎化が進んで沼島を活性化したいという住民たちの願いがあるからであろう。
それが、今の日本の地方に至る所に存在する町おこし・村おこしとも重なってリアリティがあるように見えた。
中森のようインフルエンサーらしき人が現れたら、それは彼女を引き込もうとすると思う。
また、数々の犯罪を犯してきた力士の龍堂が復活して沼島にやってきてしまうというのも、今の日本の問題をどことなく反映しているようにも思えた。
一度犯罪を犯したら社会的に抹消すべきなのに、特に田舎だと凄い人が来るという理由で贔屓して持ち上げてしまう風潮があって、妙にリアルにも感じられた。

演出面でも様々な部分で工夫があって好きだった。
例えば、みんなで蛙同士が対決する際の歌と踊りがとても愉快で楽しそうだったし、高知からやってきた屈強そうな連中と「竜馬」と呼ばれる蛙もセンスがあって良かった。
布袋敬二郎が大事そうに抱えている蛙を閉じ込めておく用のミニチュアのお家も素敵だった。
あんな豪華なお家の中で蛙を飼うという行為自体が愛おしく感じられた。

また、本作に登場するキャラクターの個性も非常によく練られていて個人的には大満足だった。
特に、緑沢光のイケメンキャラから蛙星人のキャラクターにイメージを変えられてしまう点や、渋川恭一の謎に蛙川柳を口づさむキャラクター、そして龍堂司のマネージャーである小竹のダメっぷりがとても面白くて好きだった。
う大さんは、出演者の個性に応じてキャラクター作りを適切に形作る才能があるなと感じた。

出演者の演技も素晴らしく思えた。
特に個人的に素晴らしく感じたのは、布袋ソラ役を演じた「劇団かもめんたる」所属の野口詩央さん。
まず、野口さんの序盤と終盤で老婆が昔話を語るように沼島の蛙について語る語り部がとても引き込まれる演技で上手かった。
そして、その他のシーンでもおそらく出演メンバーの最年少として、若さ溢れる感じと台詞の話し方などにも工夫があって素敵だった。
「ヨーロッパ企画」の藤谷理子さんみたいな感じで、コメディ演劇団体には若い主役を飾る女性が一人いることが多いが、野口さんは「劇団かもめんたる」でその地位を確立していっているのではないかと感じた。

本作は難しいことを考えずに誰もが気軽に楽しめるコメディだと思った。
決して大声で爆笑するシーンが多い訳ではないのだが、面白さもありつつ物語にもしっかり没入できる演劇なので、配信もあるので多くの人に届いて欲しい。




【鑑賞動機】

「劇団かもめんたる」の公演は、5年前の『HOT』の観劇以来ご無沙汰になっていたが、本多劇場に初めて進出するということで気になって、久しぶりに観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

年老いた布袋ソラ(野口詩央)が頭に頭巾を巻いて登場する。これから話をするのは、沼島というKAWAZUという蛙を戦わせる伝統文化が継承される町の話で、今では人気があるが、昔KAWZUの人気が乏しかった時代の話である。沼島に東京から一人の女性がやってくることから始まる。
中森未可子(酒井若菜)という東京からやってきた女性が、沼島の布袋家にやってくる。布袋家には、幼少期の布袋ソラと布袋タエ(平田敦子)がいる。中森は、KAWAZUが見てみたいと東京からやってきた様子であった。そこへ途中からやってきた布袋マモル(宮下雄也)は、中森の要望に答えようと、KAWAZUに出場する蛙たちを古池に見に行こうと案内をする。
中森という美しい女性が東京からやってきたという情報は、すぐに沼島中に広まった。槙坂大地(槙尾ユウスケ)、緑沢光(平岡純米)、渋川恭一(高佐一慈)は中森のことを噂している。中森は、東京から来たインフルエンサーのようだから、KAWAZUのことを広めてもらうチャンスだと話している。渋川はアーティストのようで、存在感が独特で槙坂や緑沢に突っ込まれていた。
再び、布袋家に戻る。中森はマモルに蛙たちを見せてもらえて大興奮であった。そこへ、緑沢や槙坂、渋川もやってきて中森に自己紹介する。緑沢は随分と馴れ馴れしく中森に接近していく。緑沢は沼島屈指のイケメンなので、二人はお似合いだと周囲からは声が飛んでくるが、中森は辟易している様子である。
布袋敬二郎(岩崎う大)がやってきて、布袋家でKAWAZUで戦わせる蛙であるトケザルをお披露目する。中森は大興奮する。
渋川は、いきなり川柳のようなものを読み上げたりと場の雰囲気を乱すなどして周囲に怒られる。渋川は、かつてはKAWAZUにはカワズ詠みという五七五二の川柳のようなものも必須だったので復活させたいと言うが、周囲から却下されてしまう。

一方、KAWAZUを好む力士として知られている龍堂司(成松修)は、今度沼島に行ってKAWAZUに出場することが決まっていて、そこでのイベントの練習をしていた。
そこへ龍堂のマネージャーの小竹文則(尾関高文)がやってくる。小竹のせいで龍堂は練習が遮られてしまって龍堂は小竹を叱責する。
場面は変わって、沼島では龍堂がやってくるということで、田川和人(土屋翔)と田川良子(もりももこ)がKAWAZUの準備をしていた。龍堂は、沼島の隣のサル島の出身であるが、密輸やパワハラなど数多くの犯罪歴があって、ようやくその犯罪から釈放されて復帰したということだった。
再び布袋家に場所は戻る。敬二郎は中森にトケザルによるKAWAZUを披露した。蛙を2体向き合わせて、先にゲコと鳴いた方が勝ちである。トケザルが鳴くことによってKAWAZUは勝利する。周囲は盛り上がる。渋川はカワズ詠みを実施しようとするが、周囲から反対されて止められる。
龍堂は沼島に到着するが、小竹は蛙が苦手であると言うことで沼島から逃げてしまう。
夜、タエとソラは二人で話している。ソラは、緑沢は中森のことが好きそうだと噂する。そして敬二郎も中森のことを気に入っていると。

KAWAZUの大会の当日になる。布袋家の人々はみんな応援している。龍堂が観客に向かって挨拶をして会場を盛り上げる。歓声が起こる。
緑沢もやってきて歓声が巻き起こる。しかし、渋川が登場してカワズ詠みをすると大ブーイングが巻き起こる。
いよいよKAWAZUでトケザルとの対戦が開始される。みんなで歌を歌って踊りながらkAWAZUを盛り上げる。
KAWAZUの大会が終わる。みんなが集まっている所に龍堂がやってくる。周囲からイケメンと持て囃されている緑沢に向かって、お前何調子乗ってるんだと絡む。お前なんか全然イケメンでも何でもないじゃないか、ネタかと。緑沢は涙目になりながら萎縮する。龍堂は緑沢のことを今度は蛙星人とあだ名をつける。
一方で龍堂は、渋川のことは褒め称える。こっちの方がよっぽどイケメンだと。渋川は調子に乗る。
そんな中、龍堂のマネージャーの小竹がやってくる。蛙が苦手だと行ってKAWAZUから逃げてしまって申し訳なかったと。お詫びに蛙を触るというが、触った結果嘔吐してしまう。そんな中、小竹は中森に出会って趣味はノンフィクション映画を観ることですなんて自己紹介して彼女に好意を寄せる。龍堂は小竹をコテンパンに叱って窓越しで顔面パンチをする。
和人は、一心の都合でKAWAZUを閉めて東京に行かないといけないと言う。そうなってしまったら沼島がまずいと言うことで、みんなで必死に沼島を盛り上げる案を考える。結論、KAWAZUが行われているのが全国に4箇所あるので、KAWAZUの全国大会を開くことになる。
夜、敬二郎はミニチュアのお家の中にトケザルを入れて散歩させる。中森も同行する。敬二郎は、こうやってトケザルと一緒に散歩する時間が良いのだと言う。

ところが、トケザルを連れた敬二郎と中森は夜の車の走行中に事故を起こして危篤状態となってしまう。どうやら、車の前に小竹がいきなり飛び出してきたらのようである。
敬二郎、中森は入院しており、東京にいた龍堂も戻ってきて、龍堂と小竹の二人で謝罪をする。
敬二郎と中森は戻ってきたが、トケザルの中身が中森になっていて、中森は蛙になってしまっていた。つまり、トケザルと中森が入れ替わってしまっていた。
そんな中、沼島でKAWAZUの全国大会が開かれる。決勝は、沼島と高知である。高知からは、大黒洋一(土屋翔)と大黒渚(もりももこ)が竜馬(平田敦子)というトノサマガエルのような蛙を連れてKAWAZUに参戦していた。
竜馬とトケザルによるKAWAZUが始まる。しかし、胴体は人間になってしまったトケザルは、竜馬を一握りにして潰してしまった。

布袋家では大黒家に謝罪の電話を入れる。こちらが反則をしたので優勝は大黒家だと、しかし竜馬を握りつぶされてしまった怒りは収まらないらしい。
そんな中、中森がここへやってきた時の手紙が出てくる。どうやら、中森は死んでしまった布袋家の父の腹違いの娘であり、中森は敬二郎やマモルと兄妹であった。中森は8歳の時に東京で父に会ったきり会えてなかったのだと言う。父からはKAWAZUのことは聞いていて、いつかはこの目でKAWAZUを見てみたいと思っていたが、余命3ヶ月の病気にかかってしまって、最後にKAWAZUを見にきたのだと書かれていた。小竹は、敬二郎と中森が結ばれることはないと言う、兄妹なので。
その後、敬二郎はメスガエルになってトケザルと結婚して沢山の子供を生んだそうである。そのように老婆のソラは語る。ここで上演は終了する。

「劇団かもめんたる」というとコメディの色が強いのかと思うが、コメディ色よりもむしろドラマとしての完成度の高さに驚いた。各キャラクターの個性の深掘りや、物語の設定も、日本の地方にあるような村おこしや町おこしに通じるものがあってリアリティあって好きだった。
そして、龍堂というかつては犯罪を犯した力士が、物語のキーマンとなって展開を駆動するが、彼は悪ではなくむしろ良いキャラクターとして描いている点も興味深いポイントだった。決して犯罪を肯定する物語ではないけれど、だからこそ罪を償った身として活躍する感じが良かった。また、伝統を継承するということに、いささか今の価値観にそぐわない部分もあることも物語で言及していて、例えば蛙を戦わせるのは動物虐待みたいな捉え方の価値観も登場するのは興味深かったし、だからこそ伝統文化を守るとはどういうことかを考えさせてくれる展開で良かった。
そしてなんと言っても、子供からお年寄りまで誰もが楽しめる演劇として完成されていたと思う。非常に物語が分かりやすくて、それが物足りない感じには全くならなくてむしろ好感が持てるくらいの脚本運びだった。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

「劇団かもめんたる」の過去公演は『HOT』しか観劇していないが、どこかファンタジーっぽくて温かみのある印象を受ける世界観だなと思う。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出についてみていく。

まずは舞台装置から。
舞台装置は凄くシンプルで、ステージ上には布袋家の家として使われるセットが固定で置かれている。KAWAZUなどの蛙同士の勝負に使う台が中央に置かれ、その台が置かれているスペースはステージ床面よりも少し高くなっている。ステージ後方には下手側と上手側に丸い巨大な窓ガラスがあり、まるで舞台セットそのものが蛙の頭部のような形になっている。下手側の窓ガラスでは、その後ろで龍堂が小竹の顔面を殴るシーンで使っていて、小竹が窓ガラス越しに手だけ当てて倒れていく様が滑稽だった。
舞台セットはそのくらいで、後は敬二郎が持っていたトケザルを保管しているミニチュアのお家がとても可愛らしくて丁寧に作られていて素敵だったのと、小竹が蛙を触ろうとして嘔吐してしまう時の蛙の作りものが良かった。私は前方から三列目で観劇していたので、蛙の作り物をはっきりと観ることが出来たが、なかなか可愛らしくて結構リアルに見える蛙だった。

次に衣装について。
基本的にジャージのような格好をしているキャストが多くて、それがまた合っていた。特に、緑沢光の緑色のジャージが良くて、髪型がちょっと濡れているのも含めて蛙っぽさがあった。
渋川恭一の黒い和装の服も独特なオーラを出していて良かった。カワズ詠みを繰り広げるのに似合った衣装だった。
また、高知からやってきた大黒洋一、大黒良子、竜馬の格好が好きだった。特に平田敦子さんが竜馬というトノサマガエルのような感じの存在感ある蛙をやっていたのがツボだった。

次に舞台照明について。
基本的には日中、夜間のシーンによって照明を明るくしたり、青白くしたりしていたが、印象に残ったのはKAWAZUの大会のシーンの照明で、あのシーンだけはかなり奇抜にライブのように派手に照明を使っていた。沼島の住民たちがKAWAZUに合わせて歌ったり踊ったりするので、まるで一つのパフォーマンスとして完成されていて、それを盛り上げるかのように照明も上手く活用されていた。
また、序盤と終盤で年老いたソラが、昔話を語るかのようにモノローグをするが、その際の中央に白くスポットが当てられる照明も好きだった。

次に舞台音響について。
まず客入れ時に、ゲコゲコと蛙の鳴き声がステージから聞こえてくるのが良かった。また、KAWAZUの試合の時に、決着はどちらかの蛙の鳴き声になるが、その時のゲコという鳴き声も良かった。
あとは、KAWAZUの最中に、みんなで歌って踊る時の歌が良かった。歌は一から作られたオリジナルソングだと思うが、よく出来ているなと感じられた。そういう意味でも、他のコメディ演劇とは一線を画しているというか、演劇として完成された作品だよなと改めて思った。

最後にその他の演出について。
野口詩央さんが演じる幼少期のソラと年老いたソラで、頭巾を被って腰を屈めるか否かで演じ分けているのが良かった。そして、序盤と終盤に映画『タイタニック』みたいに現在の時間軸の年老いたソラが、回想する形でメインで過去を描くという形式も昔話っぽさがあって良かった。
あとは、脇役だが「劇団かもめんたる」の土屋翔さんともりももこさんのコンビも良かった。二人は途中で早着替えして、高知からやってきた大黒家の人間にもならないといけなくて大変だが、凄く良いコンビネーションに感じられた。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

脚本上のキャラクター自体が皆個性豊かなので、それに合わせて出演者たちも皆魅力的に思えた。
特に印象に残った出演者についてみていく。

まずは、東京からやってきた中森未可子役を演じた酒井若菜さん。酒井さんの演技は初めて拝見する。
いかにも東京からやってきた、田舎での暮らし経験がない煌びやかな女性という役がはまっていた。周囲の沼島の雰囲気に押されてびっくりしている感じが良かった。
また、終盤では車で事故を起こして、トケザルと心身が入れ替わってしまった後に、蛙のように振る舞う演技もとても良かった。酒井さんがそのような役をやるイメージがなかったので、ギャップが面白く感じられた。

次に、緑沢光役を演じた平岡純米さん。平岡さんの演技は初めて拝見する。
少しクロムモリブデンの森下亮さんに似ているなと感じた。これは言っては失礼だと思うが、そこまでイケメンでもないのにイケメンキャラを自称していて、ちょっと寒い感じがとても良かった。最初からこれってネタだよなと思いながら観劇していたが、龍堂がちゃんと突っ込んでくれて良かった。
時には大きい態度で出て、いざとなると萎縮するキャラがとても良かった。

個人的に一番良かったのは、布袋ソラ役を演じた「劇団かもめんたる」所属の野口詩央さん。野口さんの演技は、ロロ『校舎、ナイトクルージング』(2025年7月)でおばけちゃん役を演じていたのを拝見したことがある。
まず序盤、終盤の老婆のソラの一人語りが物凄く上手くて、観客をグッと引き込ませる魔法のような語り部で素晴らしかった。そこから、メインのストーリーでの幼少期のソラは、話し方もリアクションもとても良い意味で子供っぽくて役作りとして完成されていた。
祖母のタエと恋バナをする辺りのシーンも良いなと思う。きっとあの人は中森のことが好きだとか、そういうのに勘付いて話すあたりも良いシーンだなと思った。
野口さんは、「劇団かもめんたる」の最年少劇団員だと思うが、「ヨーロッパ企画」の藤谷理子さんのように、コメディ団体のヒロイン的ポジションになれるなと思った。今後の活躍を期待したい。

あとは、お笑いコンビ「ザ・ギース」の二人である高佐一慈さんと尾関高文さんも良かった。高佐さんは渋川恭一役で、尾関さんは龍堂司のマネージャーの小竹文則役である。テレビでお笑いとして観たことがあったが、劇場観劇は初めてである。
高佐さんの独特で知的な雰囲気を活かして、あのような渋川のカワズ詠みをいきなり語り出すキャラクターを演じられるのは、高佐さんも素晴らしいし、配役を当てたう大さんも素晴らしいと思う。
そして、尾関さん演じる小竹マネージャーのポンコツぶりは非常に愉快で印象に残った。蛙触れないし、中森のこと好きになってしまうし、肝心なKAWAZUにはいないし、挙げ句の果てに敬二郎と中森の車を事故らせて中森とトケザルが入れ替わってしまうという大失態は、本当に小竹のダメっぷりを物語っていて良かったし、役も合っていた。

龍堂司役を演じた成松修さんも良かった。成松さんも初めて演技を拝見したが、アントニオ猪木のような力のある元気な演技が特に印象的だった。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、本作の戯曲について私が思ったことをつらつらと述べようと思う。

先述した通り、本作には伝統文化の継承と地方創生みたいなトピックが含まれているよなと感じた。KAWAZUという蛙を競わせる伝統文化が日本のどこかで残っているかどうかは定かではない。しかし、そうやって何代にも渡ってその地に伝統文化が継承されて、それを守ろうとする土着の住民たちがいるという構造は、日本の至る地域であるだろう。
また、KAWAZUが滅亡してしまう風前の燈みたいな状態だったが、日本の伝統文化の多くもそうやって滅亡の危機に瀕しているもの数多いだろう。だからこそ、沼島の人々が一致団結して伝統文化を守ろうと奮闘する姿に、私たちはグッと引き込まれるのだと思う。

本作でリアルだなと思ったのが、KAWAZUという蛙を戦わせるという行為自体が、動物虐待につながるのではないかという懸念だった。こうやって価値観の変容によって伝統文化が否定されてしまうというのは、なかなかにリアルだなと感じた。
伝統文化が先細りするだけでなく、そもそも伝統文化を継承していくということ自体の行為を否定するものにも繋がってしまうので、なかなか伝統文化を守ろうと奮闘しても、それが世間から見たら批判対象になってしまうのは世知辛いなと思う。
いつかの舞台で、動物の毛皮を売って生計を立てる職業の物語を観劇したことがあったが、まさに動物虐待に繋がるということで、その職業の存在自体も否定されつつあり、同じような問題を感じた。

沼島みたいな地方の田舎のその地で生まれ育って、自分たちの伝統文化を継承するために生きている人々にとっては、中森のような東京からやってきた存在はとても貴重で有り難かったに違いない。女神のような存在に感じるだろうし、地方創生の顔としても期待されるだろう。そういう田舎の空気感は、私も地方の村出身なのでよく分かった。

ラストの展開はそうくるかと驚いた。中森とトケザルが入れ替わり、実は中森と敬二郎、マモルは腹違いの兄妹だったなんて。でもよく考えると、そういう理由がない限りいきなり東京に暮らす女性がKAWAZUを見たいと田舎にやってこないよなとも思う。
でも中森としては死ぬ直前に、本物のKAWAZUを見ることが出来て本当に良かったなとも思う。全ての伝統文化がそうという訳ではないと思うが、やはり伝統文化はその地にひっそりと残っていれば、いつか誰かの楽しみや生きがいにも繋がるのかなと思った。きっと中森は、一度見てみたいと思っていたKAWAZUを見ることを最後は夢、生き甲斐にしていた部分もあったと思う。

「劇団かもめんたる」は確かにコメディ演劇なのだけれど、岸田國士戯曲賞最終ノミネートされただけあって、コメディよりもドラマとしての要素の方が強くて、演劇好きの私には非常に楽しめた。今後も岩崎う大さんの描く作品を楽しみにしたいと思う。


↓劇団かもめんたる過去作品


↓岩崎う大さん過去出演作品


↓槙尾ユウスケさん過去出演作品


↓土屋翔さん過去出演作品


↓もりももこさん過去出演作品


↓野口詩央さん過去出演作品


↓平田敦子さん過去出演作品


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