生理休暇は「女性なら休める制度」ではない—体調不良と働く責任をどう考えるか
連載シリーズです。
女性の就労と産業保健として5記事あります
毎週火曜日・木曜日20時にあげていきます。
誰向けの記事か
この記事は、生理休暇の運用に悩む企業経営者、人事責任者、管理職に向けて書いています。
生理休暇は、女性であれば毎月自由に使える休暇ではありません。生理日の就業が著しく困難なとき、本人が請求すれば企業は就業させてはならない、という制度です。休む必要がある人が休めない職場は問題です。しかし、権利だから積極的に取得しましょう、という話だけでもありません。本人の体調、仕事への責任、同僚への影響、企業の職場設計を一緒に考えなければ、この制度は納得感ある形で機能しません。
生理休暇は、何のためにあるのか
労働基準法第68条は、「生理日の就業が著しく困難な女性」が休暇を請求したとき、使用者はその人を生理日に就業させてはならないと定めています。ここで重要なのは、「生理中であること」ではなく、「就業が著しく困難であること」です。
腹痛、腰痛、頭痛、吐き気、強い倦怠感などによって、仕事ができる状態にない。そのときに無理に働かせてはいけない。半日や時間単位での取得も可能で、会社が一律に取得日数を制限することもできません。
私は、この制度を女性だけに与えられた特別な休暇だとはあまり考えていません。
体調が悪くて仕事ができないなら、休む。これは生理に限らず、人が働くうえで当たり前のことです。高熱がある、激しい頭痛がある、嘔吐が続く。その状態で「それでも働きなさい」とは、普通は言わないでしょう。
ただ、月経に伴う体調変化は、女性には反復して起こる可能性があります。症状の程度は人によって違い、同じ人でも毎月同じではありません。しかも外からは分かりにくい。だから法律が、企業と本人の説明コストを下げるために、明確なルールとして置いたと私はそのように捉えています。
一方で、法律上は一般の病気休暇と同じではありません。一般的な病気休暇は企業が任意に設ける法定外休暇ですが、生理休暇は要件を満たして本人が請求した場合、企業が拒めない法定の仕組みです。
「生理だから休む」ではなく、「働けないから休む」
生理休暇について議論すると、極端な方向へ行きがちです。
「女性の権利なのだから、もっと取得を促進すべきだ」という話になる。もう一方では、「乱用する人がいるから、証明を厳しくすべきだ」という話になります。
私としては、どちらも少し極論だなと見ています。
生理休暇は、体調にかかわらず使える自由休暇ではなく、「就業が著しく困難」という要件があります。生理中であっても通常どおり働けるなら、制度の対象ではありません。
ただし、症状は外から見えず、本人しか分からない部分も大きい。そのため、厚生労働省は原則として診断書のような厳格な証明を求めず、本人の請求に基づいて休暇を与える考え方を示しています。手続きを複雑にすれば、本当に必要な人も使えなくなるからです。

制度の乱用が疑われるケースは、個人的にも経験するものです。
ただし、取得回数が多いから乱用とは限りません。月経困難症やPMS、PMDDによる症状には個人差があり、時期による差もあります。通常の勤怠問題と同じように、具体的な事実を見て個別に対応するしかありません。
辛くても働いている人は、かなり多い
生理休暇の取得が少ないから、女性の仕事への影響も小さい、とは言えない状況です。
Ponzoらが米国のFloアプリ(月経管理アプリ)利用者を対象に行った研究では、月経周期に伴う症状によって、年間平均23.3日、生産性が低下したと回答していました。77.2%が集中の難しさ、68.3%が仕事の効率低下を報告しています。
この研究が示しているのは、休む人が多いというより、出勤しているけれど本来の力を発揮できていない人が多いということです。
月経困難症のある就労者668人を調べたCookらの研究でも、痛みを抱えながら働く「period pain presenteeism」が検討されています。症状の重さ、上司への開示、リモートワークの有無などが、痛みを抱えたまま働くことと関連していました。相関研究(因果関係は不明)なので原因までは言えませんが、「休めばよい」と言うだけでは解決しないことは分かります。
シフト勤務で、その人が休めば同僚の負担が増える。顧客対応の途中で、代わりの人がいない。そういう状況で、痛みを抱えながら仕事をしている人もいます。「無理しないで休めばよいのに」と言うのは、少し乱暴だと思っています。
本人は、自分の体調だけでなく、仕事への責任や周囲への影響も考えています。もちろん、体調が悪くても働くこと自体を「正しいこと」とするべきではありません。
ただ、無理のない範囲で仕事を支えようとした努力には、きちんと感謝してよいと思います。その一方で、自分が休んだときに誰かがシフトを埋めてくれたのであれば、別の機会に自分も積極的に支える。そうした持ちつ持たれつの関係は、現場を回すうえで必要です。
また、チームへの貢献は、必ずしも現場に出ることだけではありません。現場に入れない日でも、引き継ぎ、事前準備、情報共有など、別の形で支えることで、「休み」によるチーム貢献が弱くなった点を補強することは可能です。
PMSやPMDDは、生理休暇だけでは解決しない
PMSやPMDDは、主に月経が始まる前に症状が現れます。そのため、「生理日」の就業が著しく困難な場合を対象とする生理休暇だけでは、仕事への影響を十分に扱えません。
スウェーデンの女性1万5,857人を追跡した前向きコホート研究では、PMSやPMDDを含む月経前障害のある女性は、その後の病気休業や失業のリスクが高いことが示されています。月経前障害は、その日の集中力や気分だけでなく、長期的な就業継続にも関係する可能性があります。
また、19か国の女性4,032人を対象にした調査では、中等度から重度のPMS・PMDDが疑われる女性は、症状がない、または軽い女性と比べて、欠勤と仕事の生産性低下が大きい結果でした。
職場から見ると、月によって集中しにくい、判断に時間がかかる、対人関係で余裕がないといった変化がアップダウンして起きることがあります。その変化だけで「能力が落ちた」「性格に問題がある」「メンタル不調だ」と決めつけない方がよいでしょう。
一方で、上司や人事が本人の月経管理することも違います。仕事への影響が繰り返し発生している中で、仕方がないという形で放っておくこともよくありません。事例性に対して向き合いつつも、疾病性での支援を会社として促していくことは重要です。特に、産業医や産業保健看護職を通して、婦人科医へ繋いでいく。その間は必要に応じて、可能であれば勤務時間や業務内容を調整するといった配慮もあってう良いでしょう。
ちなみに、2013年とちょっと古く、PMSに限定した研究ではありませんが、日本人女性の研究もあります。
日本人女性1万9,254人を含む大規模調査です。月経関連症状が重いほど、仕事の生産性損失や医療機関の受診が増える傾向が示されました。
医療機関に受診し、適切な治療を受けることでの改善率もこれだけあります。
月経困難症
NSAIDs:45〜53% (中等度または著明な疼痛軽減Cochraneレビュー、35 RCT)
子宮内膜症治療薬:57.4%
月経困難症治療剤:64.3%
PMS / PMDD
抗うつ薬SSRI:60-70%
婦人科への受診はしにくいかもしれませんが、改善率は比較的高いものだと思います。
私はこう考えています
生理休暇を取りやすくしましょう、という言葉だけでは、働く現場の難しさを汲み取ることができません。体調が悪ければ何の説明も責任もなく休んでよい、という話でもありません。逆に、同僚へ迷惑をかけるから体調が悪くても働くべきだ、でもありません。
飲食・医療介護福祉・教育などの「場所・時間」で仕事としての成果を出しているような業界においては、チームでやっている以上、仕事の特性を十分に理解したうえで、自分自身の状態のことを上司や同僚にも理解を進めながら協働してチームの成果に貢献していくといった方法しか、納得感が出ません。
生理休暇は、そのバランスを考える制度だと思っています。女性を一方的に配慮される存在にする制度でもないですし、働けないほど体調が悪いときには休めるようにし、働ける範囲があるなら仕事を調整していく、繰り返す症状や仕事への影響が出ている場合には医療へつないで治療をしていくことが重要だと思います。
企業が次に行うこと
人事は、現状の定量的な勤怠の把握、生理休暇の対象、申請方法、賃金の扱い、時間単位取得の運用をあらためて確認することが良いでしょう。
そのうえで、一人が急に休んだ場合に業務をどう引き継ぐかを決めましょう。生理休暇だけの問題ではなく、すべての体調不良が発生した場合にも耐えられる職場をつくるためです。
一方で、自己保健義務(社員は不調自体を自ら治す義務)という観点からも知識がない、理解できていない社員へ産業保健看護職や産業医へ繋いでいくことをしていきましょう。
まとめ
生理休暇は、女性なら自由に休める制度ではありません。生理日の就業が著しく困難なとき、本人が請求すれば企業が就業を強制できない制度です。
休む必要がある人が休めない職場は変えなければなりません。ただし、取得を促進することだけが目的化してはいけません。本人の就労責任、周囲への影響、企業の業務設計まで含めて考える必要があります。
「休んだ人を責めない」と「頑張って働いた人を認める」は、両立すると思っています。
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著者プロフィール
iCARE代表取締役CEO。産業医・労働衛生コンサルタント。健康管理総合ソリューションCarelyで、健康管理システム、産業保健DX、健診管理、ストレスチェック、メンタルヘルス対策、健康経営・人的資本経営を支援。
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