「生で見る」ことの方がよっぽど重要なのだ 〜藤本壮介さんの建築シンポジウムに参加して〜
昨日は虎ノ門ヒルズにて、シンポジウム「建築の可能性をめぐって―藤本壮介の建築を起点に」に参加してきた。会場はステーションタワー46階。窓から一望できる皇居周辺の景色にドキドキした。

このシンポジウムは、森美術館で開催中の「藤本壮介の建築:原初・未来・森」展に関連したプログラムで、定員は先着300名だったので参加できたのは幸運だった。建築に関してはズブの素人ながら、丸3時間たっぷり楽しんできた。
最初に森美術館シニア・キュレーターの近藤健一さんから、「藤本壮介の建築」展の概要と少し詳細な見どころが紹介された。ぼくは先日訪れたばかりだったので良い復習になるとともに、知らなかったこともたくさんあった。「あわいの図書館」でゆっくり過ごしたかったな、とか、「思考の森」をもっとじっくり見たかったな、なども思った。
メインプログラムは、セッション1とセッション2に分かれていた。セッション1は、藤本さん、妹島和世さん、塚本由晴さんの3名でのトーク。妹島さんと塚本さんは、藤本さんにとって同時代を生きる先輩建築家であるということで、森美術館の展示や大屋根リングについての感想を述べる際は藤本さんの緊張感も感じられ、聴講者としては面白かった。藤本さんはこの日も赤いペンでメモを取られていた。
セッション2は、藤本さん、田中仁さん(株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEO)、宮田裕章さん(データサイエンティスト、慶應義塾大学教授)の3名。今度は仕事仲間でありながらフランクな友人同士でもあるいうことで、藤本さんのリラックスした様子が伝わってきた。
どちらのセッションも話はどんどん広がり、時間が足りなかった。
個人的には、妹島さんのお話を直接聞けたことが、嬉しい思い出となった。金沢21世紀美術館を設計されたことで有名だが、ぼくが妹島さんの建築でより感動したのは、2年前にシドニーで訪ねた「ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館」の新館である。本当に素晴らしかった。

拝聴しながら、妹島さんがこれまでに手掛けてこられた建築をパソコンで調べていると、「あれも、これも、妹島さんだったのか」というさらなる発見があった。
山形県鶴岡市を初めて訪れた際、市街を歩いていて突然現れた文化会館のインパクトに驚いた。「荘銀タクト鶴岡」と呼ばれるこの施設も、妹島さんの建築だった。

また、パリでは老舗百貨店サマリテーヌの「ポン・ヌフ館」の美しさに感動したが、その改修にも妹島さんが携わっていた。全面改築された同「リヴォリ館」は設計から担当されたとのことなので、しっかり見ておけば良かったと今にして思う。

これからは、旅と建築はセットにしたい。例えば、今度高松へ行く予定があるので、昨年11月に竣工した「あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)」を外観だけでも見ておきたい。この設計も妹島さんが担当された。(※正確にはいずれの建築も、妹島和世さんと西沢立衛さんによる建築ユニットSANAAによるもの)
とはいえ、いくらかでも生で見た経験があるのは、とても大きいことだと思った。セッションで「例えば妹島さんのシドニーのは・・・」という発言があった瞬間、ぼくの頭には「ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館」の絵が浮かんでいた。知らなければ、シドニーの何のことなのかピンとこないだろう。
"「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない" とはレイチェル・カーソンの言葉だが、今朝いつものスタバへと向かう途中、この言葉を思い出していた。ぼくは妹島さんの建築とは知らずに鶴岡やパリの建築にふれていたが、それでもいいのだ。知るだけで終わるくらいなら、たとえ知らなくても「生で見る」ことの方がよっぽど重要なのだと自分に言い聞かせたい。だからとにかく、世界各地、国内各地にどんどん足を運びたい。生の体験、生の感動をエンジンにして、自分を駆動させていきたい。それは藤本さんのエッセイ集を読んでいて感じたことでもあった。
ところで、大屋根リングの感想について、塚本さんは「木造の高速道路があって、その上を人が歩いているイメージ」と表現した。確かにしっくりくる。数字的な大きさや高さは言及していないのに、そのサイズ感が的確に伝わる表現で素晴らしいなと思った。
一方妹島さんは、「リングの上から同じ空を見上げるのは良かった」としつつも、「あのリングは、高過ぎるわよ」とズバッとした感想を述べていて面白かった。さすがの大御所である。ぼくは「リングの2階部分がもう少し低かったら、どんな景色になっていたのだろう?」と思いを巡らせた。今のままで良かったかもしれないし、あるいは意外なことが起こったかもしれない。
ぼくは森美術館の藤本展の、最初の展示室である「思考の森」の空間の使い方がすごく好きだった。それについては妹島さんも塚本さんも称賛されていたので、もしあのような空間の使い方が大屋根リングを通して何か実現できていたら、別のワクワクする展開もあったのかもな、なんて思った。とにかく首都圏の方は、ぜひ藤本壮介展へ足を運んでほしい。

セッション2では、白井屋ホテルをはじめ前橋でのプロジェクトに興味を持ったのと、あとは藤本さんと宮田さんが進めている飛騨古川のプロジェクトにも期待が高まった。

共創拠点「soranotani」は盆地の地形を生かしたお椀のような形で、飛騨らしさがあるのに今まで飛騨にはなかった建築だという。新たな大学もここにできるそう。完成したら絶対に見に行きたい。

質疑応答で「転機になったプロジェクトは?」と聞かれた藤本さんは、「2013年のロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」だと述べていた。森美術館でもその模型が展示されていた。サーペンタイン・ギャラリーの仕事によって海外での知名度が高まったとともに、あの時期以降、藤本さんの建築はより自由で、気楽で、開かれていったと話していたのが印象的だった。

シンポジウム終了後、藤本さんのところへ行き、少しだけ直接お話することができた。緊張して、「どうしてスケッチブックはある時期から赤いペンで描くようになったんですか?」という質問を聞き忘れてしまったけど、それでもご挨拶できただけで嬉しかった。Xの画面をお見せしたら、ぼくのことも認識してくださっていたようで、「いつも発信ありがとうございます」とおっしゃっていただけた。お名刺もいただけた。万博が始まって以降、大ファンだったので嬉しい。刺激的な一日だった。
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