ココロを洗浄して差し上げます|ショートショート
息を止めているかのような静けさの世界。
「・・・」
ワタシは目の前に広がる大海原を見つめていた。
これより1日前。
街で開催されている祭りの最中、親とはぐれてしまい路地裏をとぼとぼと歩いていた少年が、ある店にたどり着いた。
看板にはこう書かれていた。
「アナタのココロ、丸ごと洗浄して差し上げます」
何だか随分と長い店の名前だな
「洗浄」という字が読めず、その場でしばし首を傾げていたところ、お店の戸が開き、中から栗色をした長い髪の女の人が出てきた。
「もしかして迷子でしょうか?」
少年がこくりと頷くと、その女の人は顔と顔がつくのではないかというくらいに近づき、まじまじと少年の顔をのぞき込んだ。
「せっかくだから、ワタシのお店に寄ってみますか?」
女の人はそう言うと、少年の手を取り店の中に誘った。
店内に入ると、部屋一面が淡い水色になっており、ほんのり海の香りがしていた。
「ワタシの名前は「ミズキ」。いろいろな人たちのココロを洗い落とす仕事をしているの。本来ならお金を頂いているんだけど、貴方はまだ子どもだし特別にタダでやって差し上げます」
「ココロを洗い流す仕事?」
「そうです。この世の人々は常に煩悩を抱えて生きております。それによって行きづらい社会が作り出され、とても苦しんで生きている人々が多いのです。だから、そういった人々の気持ちを楽にしたいため、ワタシのチカラで汚れたココロを洗い流しているのです」
「ふーん?」
少年は、「ぼんのう」やら「よごれたこころをあらいながす」やら何を言っているのかよく分からないまま曖昧な返事をした。
「そちらに立ってください」
少年を壁際に立たせると、ミズキが目を瞑りながら右手を伸ばし、手のひらを少年に向けると、
「では、参ります!」
思い切り息を吸い込むと、カッと目を見開き、
「浄化!!」
こう叫んだ途端、凄まじい風が少年を吹きつけた。
その風は青白く、まるで洗濯機で洗われているような、水しぶきを浴びているようなひんやりと感じた。
そのあまりの強さに、少年は壁ごと一緒に外まで吹き飛ばされるのかという気持ちになり、必死に堪える。
「終わりました」
風が止むと、ミズキは大きく息を吐いた。
「・・・」
「貴方にはまだ煩悩という煩悩はないようですね。そのままの気持ちを大切にしてくださいね」
少年は、ポカーンとしたまま突っ立っていると、店の外の道を母親が通り過ぎるのが見えた。
「お母さん!」
少年はミズキに何も言わずに店を飛び出すと、母親の下に走っていった。
「お嬢ちゃん、ここは身体を洗ってくれる店なのかね?」
少年を見届けていると、不意に背後から声をかけられた。
振り向くと、身なりがボロボロで大きなビニール袋を持ったおじいさんが立っていた。
おじいさんからただならぬ臭いがしてきた。
どうやらホームレスのようだ。
「え、ええ。身体というか、ココロを洗って差し上げるお店です」
体臭の強さに対して何とか平静を装うとする。
「ワシも洗ってくれんかの。銭はないんじゃが・・・」
申し訳なさそうな表情を見て、居たたまれなくなったミズキは、
「いえ、お金は頂かなくて結構です。では中へどうぞ」
お店の中へ誘うと、早速先ほどの少年のように壁際に立たせた。
「では、参ります!浄化!」
少年の時と同様に、凄まじいほどの青白い風がおじいさんに吹きつけた。
「!!」
びっくりして目を真ん丸にするおじいさん。
「??」
浄化を施している間、ミズキは何度も首を傾げた。
「おじいさん、貴方には煩悩というものがないようですね。ココロが全く汚れておりません」
「・・・」
ミズキからそう言われたおじいさんは落胆した表情を向けると、
「ワシはてっきり身体を洗ってくれるのかと思っておったのじゃが、何にも変わっておらんな・・・何をされたのか分からんが、ありがとうな」
そう言うなり、おじいさんは大きなビニール袋を抱えると、とぼとぼとお店を出て行った。
「・・・」
ミズキはしばし考えた。
この仕事を始めてから何百人も浄化してきたけど際限がない
もうこうなったら「あれ」をやるしかない
だけど、それをするとこの地球は・・・
「・・・」
足元には、海の中に沈んでいる街。
その中にたくさんの人々がいるが、皆眠っているように動かない。
ミズキが出した答え。
それは地球丸ごと「つけ置き洗浄」することだった。
世界は全て海に覆われ、標高が高い山々のてっぺんだけが見える程度だ。
しばらくつけ置きして、地球上のあらゆる煩悩を浄化させる
でも、この選択で本当に良かったのか
結局、ワタシ自身も独りよがりという「煩悩」に振り回されていた一人だったのかもしれない
浄化が終わり、再び世界が動き出したとき、人々はどうなるのだろうか
果たして煩悩がない世界とは・・・
この浄化がいつ終わるのか、ミズキにも分からなかった。
1年後なのか、10年後なのか、100年後なのか、それ以上なのか。
ワタシも皆さんと一緒に海の中で眠り、ココロが洗われるのを待とう
そうつぶやくと、ミズキは眼下に広がっている海の中へと自ら沈んでいった。
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今回のサムネは、ひいろさんからお借りしました🎵
いつもステキなイラストをありがとうございます😌

次回の「よしまるショートショート劇場」は、4月19日(土)よる9:00に投稿します✨️

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