第5回 就業規則作成 労働者代表の意見書とは?正しい手続きと作成方法
こんにちは。社労士 米澤裕美です。前回は、就業規則作成の全体的な流れについてお伝えしました。
その中で登場した「労働者代表からの意見聴取」について、多くの方が疑問を持つはずです。
「労働者代表って誰?」
「意見書には何を書くの?」
「反対意見が来たらどうするの?」
今回は、こうした疑問にお答えします。意見書の取得手続きは、就業規則が法的効力を持つための必須プロセスなので、必ずおさえておきましょう。
意見書とは何か:基本を押さえよう
まず、意見書の位置づけを理解しましょう。
意見書とは、就業規則を作成・変更する際に、労働者代表から意見を聴取し、その意見を書面に記録したものです。
法律(労働基準法第90条)で「使用者は、就業規則の作成又は変更について、労働者の代表の意見を聴かなければならない。また、その意見を記した書面を労働基準監督署に提出しなければならない」と定められています。
ここで重要なのは、この手続きは「意見を聴く」プロセスであり、「同意を得る」プロセスではないということです。
つまり:
• 労働者代表が「反対です」と言っても、その就業規則を作成できます
• 意見書に「異議あり」と書かれていても、届出は可能です
• 意見書がなくても、届出自体は形式上は進みます
ただし、意見聴取という「法的な手続き」を踏んだことが重要なのです。この手続きを踏まずに届出すると、法違反になります。
労働者代表は「誰」なのか
意見書を作成してもらう相手が「労働者代表」です。では、誰が労働者代表になるのでしょうか?
法律では以下のように定められています:
①労働組合がある場合
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合を代表する者から意見書を作成してもらいます。
②労働組合がない場合、または労働組合の組合員が過半数を占めていない場合
この場合は、労働者の過半数を代表する者を選出する必要があります。
これを「過半数代表者」と呼びます。従業員の意見を公平に代表するためなので、経営者と一体的な立場にある人はなれません。
過半数代表者の正しい選出方法
ここが多くの企業で誤解が生じるポイントです。
経営者が「Aさんに決めました」と一方的に指名することはダメです。
ステップ1:選出することを全員に周知する
まず、全従業員に「労働者代表を選出します」と告知します。
これは、社内掲示、メール、朝礼など、全員に伝わる方法で行いましょう。
ステップ2:民主的な方法で選出する
民主的な方法とは、以下のようなものです:
• 投票:
• 挙手:手を挙げてもらう方法
• 話し合い:従業員同士が相談して決める方法
• 持ち回り決議:紙を回して署名をもらう方法
これらの中から、自社に合った方法を選んでください。
※管理監督者は代表者になれません。
過半数代表者の選出時に、避けなければならないことがあります。
それは、管理監督者を代表者にしてしまうことです。
意見書に何を書くのか
それでは、実際に意見書にはどのようなことを書くのでしょうか?
厚生労働省は「意見書」の様式を公開しています。その様式には、以下の項目があります:
①日付
意見書を作成した日付を記載します。
例:「2026年3月1日」
②会社情報
• 会社名
• 代表者の役職と氏名
例:
会社名:株式会社○○
代表者:代表取締役 ○○太郎
③就業規則案の受取日
労働者代表が就業規則案を受け取った日付を記載します。
例:「2026年2月25日」
④意見内容
ここが最も重要です。3つのパターンがあります:
パターン1:異議なし(賛成)の場合
当組合は、提示された就業規則案に異議ありません。
シンプルにこれだけでOKです。
パターン2:異議あり(反対)の場合
就業規則案全体に反対する場合は:
提示された就業規則案に異議があります。
理由:現在の就業規則案では、残業代の支払基準が曖昧であり、
従業員の給与に不利益が生じる懸念があります。
より明確な基準の策定を要望いたします。
⑤労働者代表の記名
最後に、労働者代表の記名(署名ではなく、記名でOK)が必要です。
パソコンで入力した名前でも構いませんし、手書きの署名でも構いません。
例:
労働者代表: ○○太郎 ←(記名)
意見書が完成したら:その後のステップ
意見書が完成したら、以下のステップに進みます:
ステップ1:意見書の内容を検討する
経営者は意見書の内容を確認し、反映すべき内容があるかを検討します。
「反対意見が来たからどうしよう…」と思う方もいるかもしれませんが、反対意見があっても、それに応じる義務はありません。
ただし、可能な範囲で従業員の要望に耳を傾けることが、労使関係の円滑化につながります。
例えば、意見書に「残業代の基準をもっと明確にしてほしい」という要望が来た場合、なぜそのように思うのか、誤解があるかもしれません。大事な話し合いの機会にできるとよいでしょう。
ステップ2:修正が必要な場合、再度意見聴取する
もし就業規則の内容を大きく修正した場合は、再度、労働者代表から意見を聴取する必要があります。
ステップ3:最終版が決定したら、労働基準監督署に届出
修正が完了し、意見書も完成したら、いよいよ労働基準監督署に届出です。
提出書類は以下の通りです:
• 就業規則(変更)届(厚生労働省の様式)
• 意見書
• 就業規則本体
これらをセットで提出して初めて、手続きが完了します。
事業場ごとの意見聴取:複数拠点がある場合の注意点
小規模な企業でも、本社の他に支店や営業所がある場合があります。
この場合、注意が必要なポイントがあります。
例えば、本社と支店で別の就業規則を作成する場合は、本社用と支店用の両方の意見聴取が必要です。
つまり:
• 本社の就業規則 → 本社の労働者代表から意見聴取
• 支店の就業規則 → 支店の労働者代表から意見聴取
逆に、本社と支店が全く同じ就業規則を使う場合は、どうなるのでしょうか?
この場合でも、各事業場ごとに意見聴取が必要です。
つまり、本社の労働者代表と支店の労働者代表の両方から意見聴取しなければなりません。
今回は、就業規則作成時の意見書取得手続きについて、お話ししました。
次回は、「就業規則の変更時の手続き」についてお伝えします。
初めて作成するときと、その後、変更するときでは、手続きに違いがあります。
「部分的な変更でも意見聴取が必要なのか?」
「別冊規程の扱いはどうなるのか?」
「新旧対照表って何?」
こうした疑問に答えていきます。
第6回:就業規則の変更手続きを解説 — 部分的な変更と別冊規程の扱い
【今回のまとめ】
意見書とは、就業規則作成時に労働者代表から意見を聴取し、その意見を書面に記録したものです。労働者代表は、労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は民主的な方法で選出した過半数代表者です。管理監督者は代表者にはなれません。意見書には、異議の有無と具体的な意見内容を記載します。反対意見があっても、それに応じる義務はありませんが、労使関係の円滑化のため、可能な範囲で従業員の意見を尊重することが大切です。
この記事は一般的な情報提供です。個別の法的相談については、社労士にご相談ください。
執筆者:特定社会保険労務士 米澤 裕美
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