La Story(Les Echos)解説:SACEMのCécile Rap-Veber──著作権17億ユーロ徴収・仏米映画祭・AI学習と創作者保護
2026年8月11日
概要
フランス経済紙Les Echosの日次ポッドキャストLa Storyでは、8月の特別企画として「経営者と文化」をテーマに、5人の企業トップへのインタビューをシリーズでお届けしています。今回の第2回は、記者Martine Robert氏が、SACEM(Société des auteurs, compositeurs et éditeurs de musique=作家・作曲家・音楽出版者協会)の総支配人Cécile Rap-Veber氏を訪ねた対談です。
SACEMは1851年設立の音楽著作権管理団体で、作家・作曲家・音楽出版者の権利を守ってきました。Rap-Veber氏は、その創設以来初めての女性トップです。対談では、SACEMの成り立ちと世界規模の徴収の仕組み、Rap-Veber氏自身の芸術一家に育った生い立ち、フランスの私的複製制度を原資とした文化支援事業、そして音楽におけるAI(人工知能)と著作権の問題が語られます。
芸術の伝承(トランスミッション)を軸に、地方や郊外にまで文化を届ける取り組みと、AI時代における創作者保護への強い問題意識が、この回の中心テーマです。
SACEMとは何か──世界最大の著作権徴収団体
Rap-Veber氏は、SACEMを「フランスの至宝」と表現します。その起源は1851年にさかのぼります。当時、カフェなどでオーケストラに演奏された作品に対して、音楽の配給側が作家・作曲家に権利料を支払うことを拒んでいました。そこで作家・作曲家・音楽出版者たちが、協同組合のように団結すれば強くなれると考え、組合を結成しました。それが非営利の民事会社SACEMへと発展したのです。
以来175年間、SACEMは世界中で創作者と音楽出版者の著作権を徴収し、社会的な保護も担ってきました。運営費を差し引いた分はすべて会員と世界中の創作者に還元され、175年間、1ユーロの利益も出していないといいます。
設立当初から国際的な性格を帯びていた点も特徴です。VerdiやWagnerといった作曲家も、自作がフランスで演奏された際に報酬を得るためSACEMに加わりました。その後、イタリアのSIAE、ドイツのGEMA、米国のASCAPなど、SACEMをモデルとした姉妹団体が世界各地に生まれ、相互に権利を徴収し合うネットワークが築かれました。David Guetta氏が米国でコンサートを行えば、姉妹団体のASCAPがSACEMに権利料を還元する仕組みです。
こうした効率性と信頼から、Elton John氏、Taylor Swift氏、K-popや、ブラジルのアーティストなども、SACEMを通じて世界での権利管理を任せるようになりました。SACEMの年間徴収額は約16億ユーロ(約2936億円。1ユーロ=183.59円換算)です。ストリーミングの普及により権利収入は近年伸びており、SACEMは現在、150か国以上でデジタル著作権を徴収しています。GoogleやSpotify、Appleとの契約は、彼らの世界中のストリーミング事業をカバーしています。
17世代の芸術家系に育つ
Rap-Veber氏は、17世代にわたる創作者を輩出した家系の出身です。詩人のJosé-Maria de Heredia、劇作家のTristan Bernard、そして脚本家である叔父のFrancis Veber氏など、多くの創作者を先祖・親族に持ちます。母はジャーナリストで劇場のディレクター、父はファッションデザイナーでした。
しかし彼女は、自分に先祖や家族のような才能はないと早くに気づき、「彼らを守ること」こそが自分の担うべき最良の使命だと考えるようになったといいます。
母がジャーナリストとして演劇評を担当していたため、幼い頃から劇場に通い、théâtre Édouard VII、théâtre Marignyなど、作品そのものより劇場という場所の記憶が強く残っていると語ります。当時、劇場のディレクターたちが情熱に私財を投じる姿にも心を打たれたそうです。
最初のコンサートはÉtienne Daho氏、Alain Chamfort氏、France Gall氏でした。SACEMに来てから、Alain Chamfort氏が理事を務めていたり、Daho氏の名盤『Pop Satori』を手がけたArnold Turboust氏と再会したりと、自身の芸術的嗜好を形づくった人々と再び出会えたことを喜んでいます。Frankie Goes to HollywoodやINXSといった英米のポップロックにも親しみました。
執務室にはThe Rolling Stones、Gainsbourg、Birkin、France Gallの写真が飾られています。両親が日曜にオペラを聴かせる一方、旅行中の車内ではDelpech、Sardou、Julien Clerc、Gainsbourg、Brelといったフランスのシャンソンやバラエティを流しており、フランスの歌に一目惚れしたといいます。「音楽は私の血の中を流れている。一日たりとも音楽なしでは生きられない」と語り、音楽をセラピーのようなものだと表現しました。
なお、Rap-Veber氏は楽器を演奏しませんが、イヤホンで練習できる「エア・ドラム」を購入したことも明かしています。学生時代には、90年代のシットコム『Hélène et les garçons』や『Le miel et les abeilles』でエキストラを務めたこともあり、法学の学費を賄っていたそうです。友人グループとCastelやRégineといった店でパーティーを企画していた思い出も語られました。
音楽の嗜好については、自分は「保守的」だと認めます。運動用に始めたプレイリストに曲を足し続け、200曲規模になっても繰り返し聴くといいます。Jean-Louis Aubert、Elton John、Supertrampのアルバムを愛聴し、朝は明るい曲で気分を上げるため、この年はTaylor Swift氏やClara Luciani氏のアルバムをよく聴いていると語りました。
仏米映画祭と私的複製制度
SACEMは、ロサンゼルスで開かれるFrench American Film Festivalのパートナーでもあります。これは、フランス特有の「私的複製(copie privée)」制度を原資とした、世界でも類を見ないプロジェクトです。
私的複製とは、公衆が私的な目的で好きな文化コンテンツを複製することを認める制度で、1985年のLoi Lang(ラング法)に始まります。かつてのカセットテープからVHS、USBメモリ、ハードディスク、そして今日のスマートフォンへと、複製の手段は技術革新とともに移り変わってきました。
米国のスタジオは、この私的複製の機会を理解し、フランスで複製される自作映画の権利を徴収するパートナーとしてSACEMを選びました。そして、その資金を単なる自らの収益とせず、フランスと米国の文化交流、とりわけ映画の振興に充てることを決めたのです。こうして設立されたのがFonds culturel franco-américain(仏米文化基金)で、SACEMが会長を務めています。参加団体には、Directors Guild of America(全米監督組合)、Writers Guild of America(全米脚本家組合)、Motion Picture Association(米国映画協会)が名を連ねます。
毎年10月末から11月にかけて開かれるこの映画祭では、米国で公開を目指すフランス映画が上映されます。過去には『Emilia Perez』や『Le Comte de Monte Cristo』が取り上げられ、『Emilia Perez』ではNetflixが配給を担いオスカー・レースにも臨みました。前年にはJodie Foster氏出演の『Vie privée』や『Nouvelle vague』も上映されました。米国の映画学校の学生や一般の観客に向けて、フランスと米国の製作者・脚本家・監督が交流する場となっています。今年は基金創設30周年を迎えるといいます。
フランス最大の民間音楽支援団体として
私的複製制度では、スマートフォンなどから徴収される金額の25%がSACEMの文化事業に投じられます。その額は年間約1700万ユーロ(約31億円。1ユーロ=183.59円換算)にのぼり、これによりSACEMはフランス最大の民間音楽支援団体となっています。
支援は創作者のプロジェクトだけでなく、上映・配給のプロジェクトにも及びます。「創作は、配給されて初めて生きる」とRap-Veber氏は強調します。フェスティバル、ライブ制作者、映画・ドキュメンタリー製作者、プラットフォームは、いずれもSACEMにとって重要なパートナーです。SACEMは年間3800件のプロジェクトを、フランス全土で支援しています。
Rap-Veber氏が特に力を込めるのが、地方や郊外といった「文化の最後の1キロメートル」まで文化を行き渡らせることです。看板事業の一つ「Tous en Live」では、村や小さな町の小さなカフェが、若手グループやアーティストの活動を支援できるようにしています。人々がカフェに集い、音楽を通じて地域の社会的なつながりが再生されることを狙いとしています。
寄付基金による事業の拡大と学校での音楽教育
Rap-Veber氏の就任後、私的複製による文化事業を補完する寄付基金(fonds de dotation)が新設されました。私的複製の原資には限りがあるため、民間のメセナ(篤志家)を募って事業を何倍にも拡大しようという狙いです。
この基金には、Julien Doré氏、Vitaa氏、Bigflo & OliのOli氏、Woodkid氏、Tété氏、Princess Erika氏といったアーティストが参加しています。さらに、メセナへの扉を開くビジネス寄りの理事として、BETCのMercedes Erra氏、元Samsung社長のDavid Héberlet氏、カンヌ映画祭とDeezerの会長を務めるIris Knobloch氏、音楽出版者のBruno Lion氏らが加わっています。
基金が最も重視する事業の一つが、学校での文化・芸術教育です。「Fabriques à Musique(音楽工房)」と呼ばれる取り組みでは、アーティストが約20時間にわたり教室に滞在し、生徒たちと一つの音楽作品を共同で創ります。ジャンルは現代音楽からラップ、映像音楽、シャンソンまで多岐にわたります。
この取り組みには二つの意義があるとRap-Veber氏は言います。一つは、SNSによる若者の孤立が進む中で、集団での創作を通じて「共同性」を生み出すこと。もう一つは、14〜16歳の生徒に「自分にも創作の才能があるかもしれない」という将来への可能性を開くことです。従来は年間125〜130件ほど実施してきましたが、より多くの中学校から要望が寄せられており、資金を確保できるメセナを探しています。狙いは、すでに音楽院や豊かな文化的環境がある場所ではなく、そうしたものがない地域に届けることです。予算削減が進む地方でも、アーティストが担う民間の取り組みとして、多くの地方議員が高く評価しているといいます。
「Fabriques à Musique」で創作に目覚めた若者が、いずれ「Tous en Live」で地元のカフェのコンサートに登場する——そんな循環も期待できます。5年間で、SACEMは約2000か所で5000回のコンサートを開催し、3800人のアーティストに仕事を生み出してきました。伝承(トランスミッション)こそが、次世代の創作を更新していく鍵だとRap-Veber氏は語ります。
AIと著作権──「公に利用できる」ことは「著作権フリー」ではない
Rap-Veber氏は、知的財産法を専門とし、弁護士、Universal Musicの法務担当を経て、新規事業を統括してきました。YouTube、TikTok、Meta、Netflixとの交渉も手がけており、Jean-Michel Jarre氏からは「SACEMを21世紀に合わせて立て直した」と評されたといいます。ただし本人は、SACEMは1300人の従業員と、作家・作曲家・音楽出版者からなる理事会が戦略を練る組織であり、自分一人の力ではないと強調します。
対談の締めくくりで語られたのが、AIをめぐる問題です。Rap-Veber氏は、AIは音楽を配給する新技術であるだけでなく、人間に代わって創作してしまう点で、人間の創作にとって非常に大きな懸念だと指摘します。
一方で、彼女はAIそのものに反対しているわけではありません。蓄音機、ラジオ放送、映画、テレビが登場するたびに「適応できない」と言われながらも、SACEMは常に適応してきた歴史があると振り返ります。Jean-Michel Jarre氏の「ヴァイオリンがなければVivaldiはVivaldiになっただろうか」という言葉を引き、コンピューターがなければDaft PunkはDaft Punkになっていなかったと述べ、革新は常に創作の源であり続けてきたと語ります。すでに多くの創作者がAIを活用しているとも述べました。
彼女が戦っているのは、AIが世界中の創作者の作品を利用する際に、著作権が尊重されることです。すべてのAIが、公に利用できるものを学習に使ったことを認めていますが、文化は本質的に、より多くの人に届けたいがゆえに公に利用できる状態にあります。「しかし、公に利用できることは、著作権フリーであることを意味しない」——ここが彼女の主張の核心です。
創作者の作品を利用し、その利用に対価を払い、成功すればその成功が学習を可能にした創作者にも及ぶ。この均衡を取り戻すことが論理的だと彼女は言います。2019年のEU指令によりデジタルプラットフォームが権利者団体と契約を結ぶことを求められた際も、「GoogleやSpotifyが破綻する」との声が上がりましたが、結果としてこれらの企業はかつてないほど好調だと指摘しました。
最後に、Jean-Michel Jarre氏の「世界を移動できるのは運転免許があるからだ」という言葉を引き、ルールなく誰もがどこでも運転すれば事故と死者が生まれると述べ、「創作者がその死者の一部になることは、まったく望んでいない」と締めくくりました。
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