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La Story(Les Echos)解説:Accor会長Sébastien Bazinが語る文化経営──Lido再生・Orient Express・Art Explora


2026年8月10日

概要

フランス経済紙Les Echosの日次ポッドキャストLa Storyの今回のエピソードは、夏の特別シリーズ「経営者と文化(Les patrons et la culture)」の第1回です。普段のホストPierrick Fay氏に代わり、メセナと芸術を専門とする記者Martine Robert氏が、文化への情熱を持つ5人の経営者を訪ねる企画で、その初回として世界的なホテル大手Accor($AC)の会長兼CEOであるSébastien Bazin氏に話を聞いています。

年に250日を旅するというBazin氏は、112か国・36万人の従業員を抱えるグループを率いながら、舞台芸術・現代美術・遺産・音楽への深い関心を語ります。単なる個人的な趣味ではなく、文化を「顧客体験」「従業員のアイデンティティ」「ブランド戦略」に結びつける発想が一貫しています。

パリの老舗キャバレーLidoの再生、伝説的ブランドOrient Expressの復活、メセナ事業Art Exploraによる美術館の民主化など、Bazin氏が手がけてきた取り組みを通じて、文化がいかにホテル事業の「もう一つのソフトウェア」として機能しうるかが語られる回です。

旅と文化、そして舞台芸術との出会い

Bazin氏は、年間250日の移動生活の中で文化をどう味わうのかという問いに対し、「感じ、眺め、感嘆し、立ち止まる。そして時々買い、しばしば買わなかったことを後悔する」と答えます。自分と異なる人、なじみのない言語、遠い宗教であればあるほど関心が湧くといい、旅は自身にとっての酸素だと表現しました。

舞台芸術への情熱については、2015年から2022年までシャトレ座(Théâtre du Châtelet)の理事会議長を務めた経緯を語ります。きっかけはBertrand Delanoë氏(当時のパリ市長)から理事会入りを打診されたことでしたが、決定的だったのは演出家Jean-Luc Choplin氏との出会いでした。Choplin氏はパリ・オペラ座、ディズニーランド、シャンゼリゼ劇場(Théâtre Marigny)などを渡り歩いた舞台プロデューサーです。

Bazin氏は「シャトレ座からはいつも笑顔で出てきた。入る前より強く、楽しく、幸せになって出てきた」と振り返り、この体験が後のホテル戦略にもつながったと説明します。

Lidoの再生と「Augmented Hospitality」

Accorは2021年にパリの老舗キャバレーLidoを買収しました。Bazin氏はChoplin氏とともにシャトレ座を離れた同じ週に、ちょうど売りに出ていたLidoの話が持ち上がったと語ります。老朽化していた従来の演目を残す気はなかったものの、その場所と歴史に価値を見出し、「君なしではできない」とChoplin氏を口説いて再建に乗り出しました。

改装後のLidoは客席が没入型に生まれ変わり、英米流のミュージカルの殿堂となりました。Bazin氏自身『Titanic』を4回観るなど熱心な観客で、同じ演目を何度も観るのは「見えるものが毎回違い、異なる感動を持ち帰れるから」だと説明します。舞台裏の技術スタッフ全員に挨拶に行くのも習慣で、最終公演でチーズやソーセージ、ワインを分け合いながら、普段は見えない裏方と表舞台の俳優が一緒になる瞬間を何より愛すると語りました。

こうした取り組みの背景にあるのが、Accorがかつて「Augmented Hospitality(拡張されたおもてなし)」と呼んだ概念です。パリのホテルに泊まる顧客には、ホテルの外に出てパリの人々と出会い、感動し、意味を感じてほしい――そのためにコンテンツが必要だったといいます。

Bazin氏はグループの経営委員会(COMEX)全員をLidoの公演に連れて行くとも明かします。約300人いるパリの各ホテル総支配人が最良のアンバサダーであり、Lidoには1晩に約1000席あるため、彼ら自身が体験して自分以上に上手く語れるようになることを重視しているのです。文化はコストであり、上場企業として株主の資金を預かる立場だからこそ、その支出には顧客体験・ロイヤルティプログラム・記憶に残る効果という経済的な裏付けがあると強調しました。

文化は社会的責任か──ESGに「C」を

「文化は社会的責任であり、RSE(企業の社会的責任)にほぼ「C」を加えるべきではないか」という問いに、Bazin氏は以前から主張してきたと応じます。ESGに「C(=文化)」を加えるべきだという考えです。

「文化はあなたを連れ去り、目を開かせ、違いをよりよく理解させる。それは今日の世界を理解することだ」と語り、人々が旅をしてアフリカ・南米・アジアの世界を知るほど、相手が自分と同じように考えたり行動したりしないことを受け入れられるようになると述べます。文化と旅がもっとあれば、戦争は減るだろうというのが持論です。

Accor本社のエントランスには、Anish Kapoor氏の鏡のような作品とJaume Plensa氏の目を閉じた女性の顔の作品が並べて展示されています。Bazin氏自身がFIAC(パリの現代アートフェア)で数年の間隔を空けて偶然出会い、購入したものです。Plensa氏の作品は「内側で起きていることは外側で起きていることより重要だ」というメッセージを持ち、鏡と対にすることで意味が生まれると説明しました。ただし、これらは企業コレクションとして意図的に築いたものではなく、大手銀行や保険会社が長年持つコレクションを少し羨ましく思っている、と率直に語ります。

ホテルの「もう一つのソフトウェア」としての文化

かつてBazin氏は、従業員に客室を「わがもの」として飾ってもらう試みを世界各地で行いました。1人あたり50ユーロ(約9121円。1ユーロ=182.42円換算)を渡し、客室番号を外して自分の名前を掲げ、私物の写真やラジオ、椅子などを持ち込んでもらう企画です。ベッドとバスルームには手を触れられないという条件でしたが、ポーランドとブラジルのスタッフが徹底的に取り組み、荷物係や受付、配管工が「私の部屋を見せます」と案内する姿に大きな感動を覚えたといいます。

Bazin氏は文化を、物質的で制約が多く硬直的な「客室(ハードウェア)」の対極にある「ソフトウェア」と位置づけます。文化は読んだ本、観た舞台、愛した物であり、宗教・国・人・教育の間に巨大な橋を架けるものだと述べ、「文化は私の指揮者のようなものだ」と表現しました。

グループの存在意義(レゾンデートル)については、2年前に5万人の従業員が参加して策定したものだと明かします。「責任あるおもてなしのパイオニアとして、情熱と寛大さをもって文化を対話させる」という共通の幹であり、グループのシグネチャーは「Powered by Emotion(感動を原動力に)」です。36万人の従業員は「HARTIST」と呼ばれ、これは心(heart)と舞台芸術家(artist)を掛け合わせた造語だと紹介しました。

Accor Arenaと従業員への還元

Bazin氏は2013年にAccorのトップに就任し、その2年後の2015年にはパリの大型アリーナのネーミングライツを取得しました。当初は「Accor Hotels Arena」でしたが、長すぎるとして「Hotels」を外し、現在は「Accor Arena」として定着しています。

また、Ibis系列のボランティアを年に一度、Accor Arenaでのプライベートコンサートに招待する取り組みも紹介しました。「こうした場所に行く手段を持たない人々に感謝を伝える瞬間が必要だ。人生で一度でも体験し、語れるようにしたい」と語ります。

Orient ExpressとArt Explora──遺産と革新の両立

伝説的ブランドの再活性化について、Bazin氏はブルターニュのベル・イル島の要塞(Citadelle de Belle-Île)を例に挙げます。歴史的・遺産的な建物を荒廃させないのはグループの責任だとし、フランスの預金供託公庫(Caisse des dépôts)と組んでヴォーバン様式の要塞に命を吹き込むと述べました。

一方、140年の歴史を持つブランドOrient Expressの再生は、自身のピラミッドの頂点に位置する「勲章のような」プロジェクトだと語ります。遺産・歴史・神秘というブランドの魅力を尊重しつつ、1920年代に回帰するのではなく、創造性・革新・現代アートという明日の世界の次元へ引き上げることが狙いです。列車のOrient Express、そして数週間後に引き渡される予定の帆船で構成される、大胆でありながらグループの20年の変遷を裏づける賭けだと位置づけました。

メセナ事業Art Exploraについては、Frédéric Jousset氏が手がける美術館カタマラン(双胴船)を紹介します。フランス人の90%が一度も美術館に入ったことがないという現実を出発点に、美術館が近づいてこなければ人々が来ないのなら、船で欧州各地の都市に美術館を届けようという発想です。地中海の15の寄港地を巡るフェスティバルとして、ルーヴル美術館などのコレクションを現地の人々に届け、地元のアーティストや職人にも寄り添います。Bazin氏はこの事業を「非常に高貴で美しいアイデア」と評し、美術館を怖がったり無縁だと感じたりしていた層に、次は別の美術館へ足を運ぶきっかけを与えられると期待を語りました。

そのほかにもAccorは、World Monument Fundによるソルボンヌ礼拝堂の保護、ラテンアメリカのインカ道、ギリシャの遺産、UniFranceを通じたフランス映像産業の支援、オートクチュールの連盟との協業など、多様な文化的取り組みを展開しています。Bazin氏は、モードとホテルという2つの世界が本来一緒であるべきなのに30年間別々に共存してきたと指摘し、両者の連携がようやく動き始めていると述べました。

文化戦略の加速と経営者の一線

Bazin氏は、この13年間を振り返って「文化にもっと関与すべきだった」という小さな悔いを口にします。若い才能にもっと手を差し伸べられたはずだといい、今後は文化をグループ戦略の中でさらに加速させると明言しました。理由は「感動こそが旅の記憶だから」です。

ただし、その条件として、あくまで産業的・株主的に意味があり、経済的に成立するプロジェクトでなければならないと釘を刺します。「従業員と株主のために価値を創造する」という自らの使命を尊重しなければならず、個人的な情熱がCEOとしての役割を上回らないよう常に注意を払っていると語り、インタビューを締めくくりました。

▶ 同じシリーズの前回: La Story(Les Echos)解説:ランニングが生む観光ビジネス──マラソン旅行「racecations」とTrail the World https://note.com/yondo/n/n64fb91a4656c

▶ このテーマの記事をまとめ読み: マガジン「日本語で読めない海外ビジネス番組」 https://note.com/yondo/m/mefd2fd5a305c

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