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La Story(Les Echos)解説:ランニングが生む観光ビジネス──マラソン旅行「racecations」とTrail the World


2026年8月6日

概要

フランス経済紙Les Echosの日次ポッドキャストLa Storyの今回のエピソードは、夏休みの新しい過ごし方を追うシリーズの第4回として、「休暇=スポーツ、とりわけランニング」というライフスタイルを取り上げています。ホストのClara Groussus氏が、走るために国内外を旅する人々と、その旅を丸ごと手配する旅行代理店の創業者に話を聞きました。

近年、ランニングを目的とした旅行は「racecations」(race=レースとvacation=休暇を組み合わせた造語)と呼ばれ、大金を払ってでも遠方のレースに出かける旅行者が増えています。この動きは、開催地となる自治体や地域にとっての集客の武器であると同時に、ランナーの旅程を手配する専門代理店にとってのビジネスにもなっています。

エピソードでは、EU27カ国すべてでマラソンを走ることを目標に旅を続ける市民ランナーのMaxime Legrand氏の体験談と、トレイルランニング専門の旅行代理店Trail the Worldを共同創業したMaud Debs氏へのインタビューを軸に、この新しい観光トレンドの実態を描いています。

走るために旅する人々

37歳のMaxime Legrand氏は、3年半前にベルギーのブルージュで初めてのマラソンを走って以来、EU加盟27カ国それぞれでマラソンを走るという目標を自らに課しています。これまでにブルージュ、パリ、フランクフルト、バルセロナ、そして今年3月にはローマと、5つのマラソンを走り終えました。次のレースは9月27日のワルシャワです。

興味深いのは、これらの都市を彼が訪れるようになったのはランニングがきっかけだったという点です。「レースがなければフランスから出ることはなかったと思う」と語り、初めて飛行機に乗ったのもバルセロナマラソンに出るためだったといいます。ヨーロッパ各地を走って巡るのは意外に手頃だ、というのが彼の実感です。

Legrand氏の一家は全員がマラソンランナーで、ゼッケンは販売開始とともに1年前から購入し、確保できた段階で宿泊と航空券の手配を始めます。義理の兄弟と、時には家族全員で、水曜か木曜に出発し、レース前の数日で観光も楽しむのが恒例です。彼にとって最も印象的だったのはローママラソンで、チルコ・マッシモをスタートし、15〜16キロ地点でバチカンのサン・ピエトロ広場に差しかかる、まるで屋外の美術館を走るような体験だったと振り返ります。主催者はコースに地域の遺産を盛り込もうとするため、事前に観光しなくてもレース中に街を「観光」できるのだといいます。

もっとも、ゼッケンの入手は容易ではありません。パリマラソンは最低でも135ユーロ(約24576円。1ユーロ=182.05円換算)かかり、価格は年々上昇しています。メジャー大会でなければ比較的入手しやすいものの、ベルリン・ロンドン・シカゴといった主要大会は、ツアーオペレーターを通すか抽選(ロッタリー)に頼るしかありません。ロンドンでは10万枠に対して140万人以上が応募したといいます。

トレイルランニング専門の旅行代理店Trail the World

なぜracecationsがビジネスになったのかを探るため、ホストはアビニヨンを訪れ、トレイルランニング専門の旅行代理店Trail the Worldを共同創業したMaud Debs氏に話を聞きました。

Debs氏がランニングに目覚めたのは25歳ごろのことです。2013年のパリ・ハーフマラソンで、10キロ地点で走れなくなりながらも友人に支えられて完走した瞬間に「何かがカチッとはまった」といい、そこからマラソンなどの目標を次々に立てるようになりました。当時は高給の仕事に就いていましたが、走りながら「これは自分のやりたいことではない」と気づき、2014年に世界一周の計画を立て、2015年から30カ国で20ほどのレースを走る旅に出ます。参加したいレースと、走りやすい気候を基準に旅程を組み立てたそうです。

Trail the Worldは、この時期の一つの出会いから生まれました。同じころ「Trail the World」という名の協会(アソシエーション)を立ち上げていたFrédéric氏が、世界を走って巡るDebs氏のプロジェクトを見つけて連絡し、意気投合したのです。二人はチリのトーレス・デル・パイネで6名のテスト旅行を実施し、手応えを得ました。その後、1000人規模のアンケート調査で需要を確認し、2017年末に会社を設立、2018年4月に旅行代理店の認可を取得しました。なおFrédéric氏は、いまではDebs氏の人生のパートナーでもあります。

代理店が取り除く「不安」と顧客像

Debs氏によれば、海外レースへの参加には言葉の壁、必携装備の把握、シャトルバスの時刻、ゼッケンの受け取り場所、周辺でできる活動など、数多くの心配ごとが伴います。せっかくの夢であるレースを、こうした些細なトラブルで台無しにしないために、そこを代理店が肩代わりするのが同社の提供価値です。

旅行の平均単価は5〜7日で1500ユーロ(約27万円。1ユーロ=182.05円換算)ほどで、求められる手配によってはさらに高くなります。手配には大きく二つのタイプがあります。

  • 既存のレースに出るための手配:ゼッケン、航空券、美術館見学までロジスティクス全般を請け負う

  • レースではなく「縦走(traversée)」の手配:整備された、あるいはアクセス可能なトレイルを走る旅を組む

顧客層は主に二つに分かれます。一つは長年走ってきて、より難しい目標や縦走に挑みたいが、渡航まわりの手間はかけたくない層。もう一つは1〜2年前に始めたばかりで、土地の勘所を持たないため、確実にサポートされて走りたい初心者層です。年齢は35〜45歳が中心で、旅行にはそれなりの予算が必要なため、購買力のある現役世代が多くを占めます。実践がより根付いている男性が多数ですが、女性は友人同士やカップルで旅する傾向があり、単独で相談に来る女性は少ないといいます。

各国の現地パートナーがガイドとして同行することもあります。ネパールでヒマラヤの一角を縦走したカップルの例では、参加者の走力を事前に確認したうえで、土地とランナーの水準を知るガイドを付けました。米ユタ州のステージレース「Grand to Grand」に出る顧客には、必携装備や補給食のアドバイスも行っています。Frédéric氏はもともとトレイルのコーチでもあり、遠隔での練習サポートも提供します。目標は顧客を勝たせることではなく、良い時間を過ごし、目標を果たし、無事に帰ってくることだといいます。

世界に広がるトレイルと人気の目的地

Debs氏によれば、フランス国内のトレイル・レース数はこの数年で3000から5000ほどに増え、海外を含めると世界には1万〜1万5000ものトレイル・レースがあるといいます。ロードレースも加えれば、地政学的に難しい地域を除き、世界中ほぼどこでも走れる状況です。

人気の目的地としては、マデイラ島やレユニオン島(飛行機での移動が必要なため、フランス本土外の旅行として扱われる)が定番です。ヨーロッパではコルシカ島なども挙がり、より遠方ではカナダやニュージーランド(北島を1000キロ以上縦走した顧客もいる)といった、専門家の助言が特に必要な行き先が選ばれています。フランス国内では、既存のレースよりGR20の縦走のようなガイド付きの旅に強みがあるといいます。

現在、代理店は3名体制で、量より質の完全オーダーメイドに絞っています。2026年について、旅行の依頼は年末に翌年分が集中するため、Debs氏にとって2026年はほぼ終わりで、次は9月から2027年分を見ていくとのことです。カーナビでの言及がありましたが、燃料費の上昇やインフレによる購買力の低下といった逆風があるなかでも、旅行以外にフランス国内のイベント運営という収益の柱があるため、事業を続けていけるといいます。

backyard ultra形式のレース「Infinity Trail」

同社が2019年に立ち上げたのが「Infinity Trail」というレースです。6.7キロを1時間以内に走り、1時間ごとに一斉スタートがかかる。時間内に戻れば次の周回に進め、間に合わなければ失格という「backyard ultra」形式です。最後に走り続けている一人になるまで終わらないため、仲間と周回を重ねる連帯感が生まれるのが特徴です。

この形式は、著名なレース「Barkley」の創始者Lazarus Lake氏が自宅の裏庭で始めたことから「backyard ultra」と呼ばれています。1周が6.7キロなのは、24時間で約160キロ、すなわち米国で神話的な距離とされる100マイルに達するためです。24時間で160キロという計算が成り立つわけです。

2019年に50枠で募集したところ2週間で満席となり、コロナ禍で延期のうえ2020年7月31日にルーアン近郊で45名を集めて第1回を開催しました。その後、オソゴールや、車のないエクス島(島を1周すると6.7キロ)など各地から開催の要望が寄せられ、6年で12ものイベントに拡大しています。世界記録は4日以上(120時間超)で、同社のレースでもこれまでに77時間、500キロ超に達したことがあるといいます。

現在では、収益・時間ともに旅行が4割、イベント運営が6割ほどの比率になっており、企業向けにチームビルディングを兼ねたBtoBの提供も行っています。Debs氏自身は1カ月半前、娘の出産後の復帰レースとして、夫婦でカナリア諸島ラ・パルマ島の75キロレース「Transvulcania」を完走したそうです。走ることを軸にした旅は、二人にとって情熱であり仕事でもあるのだといいます。

▶ 同じシリーズの前回: La Story(Les Echos)解説:Slow Villageに見る高級キャンプ「グランピング」の再興 https://note.com/yondo/n/n42a83a3adde0

▶ このテーマの記事をまとめ読み: マガジン「日本語で読めない海外ビジネス番組」 https://note.com/yondo/m/mefd2fd5a305c

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