La Story(Les Echos)解説:Slow Villageに見る高級キャンプ「グランピング」の再興
2026年8月5日
概要
フランス経済紙Les Echosの日次ポッドキャストLa Storyの今回のエピソードは、夏のバカンスの新しい過ごし方を追う特集シリーズの一つとして、高級キャンプ場グループの共同創業者Baptiste Bonnichon氏へのインタビューをお届けしています。ホストはClara Grosis氏です。
昨年フランスの辞書Larousseに収録された「グランピング(glamping、グラマラスとキャンピングを合わせた造語)」という言葉が象徴するように、フランスのキャンプは、タイニーハウスや木の上の小屋、ユルト(移動式住居)など、自然に囲まれた変わった宿泊施設へと進化しています。2024年から2025年にかけて宿泊延べ数は4.5%増加し、INSEE(フランス国立統計経済研究所)によれば2024年には宿泊延べ数の60%が4つ星・5つ星キャンプ場で行われるなど、快適さを求める層が拡大しています。
インタビューでは、2021年に設立され「Slow Village」ブランドを展開するInspire Village社が、自らを「キャンプ場」ではなく「大自然のホテル」と定義し、スロー・ツーリズムの潮流に乗って急成長してきた経緯が語られます。同社はフランス国内で新規のキャンプ場を作れない事情を背景に、既存施設の買収と全面改装による拡大戦略を採り、環境認証やホテル並みのサービスを武器に、快適さと自然回帰の両立を目指しています。
キャンプ場ではなく「大自然のホテル」という定義
Baptiste Bonnichon氏が率いるグループの正式名称はInspire Villageですが、全施設で展開するブランド名Slow Villageの方がよく知られています。同氏は、自分たちを「キャンプ場」とは定義していないと語ります。
同氏によれば、多くの人が抱くキャンプ場のイメージは、ウォータースライダーが並び、白いPVC製のモービルホーム(移動式住宅)が列をなして置かれた、騒がしくクラブ的な場所です。Slow Villageはこれとは異なる、よりゆっくりとして静かで、心が休まり、自然に深く根ざした場所を目指しました。そのため「村(village)」あるいは「大自然のホテル(hôtel de pleine nature)」という言葉で自らを表現しているのです。
コロナ禍が生んだ「自然への回帰」というコンセプト
同グループは2021年、コロナ禍の直後に、共同創業者のDavid氏とともに立ち上げられました。閉じ込められ、自由を奪われる経験を経て、多くの人が自然や広大な空間、そして自分自身や家族との再接続を人間の根源的な欲求だと気づいた、というのが出発点です。
そこで同社は、環境に配慮した、責任ある持続可能な観光という道を提案しました。度重なる歴史的な猛暑を経験している今、この方向への取り組みをさらに強める必要があると同氏は強調します。
最初の実験の場となったのは、シャラント=マリティーム県のMarais d'Oléron(オレロンの湿地)にある村でした。牡蠣の養殖池やサイクリングルート「ヴェロディッセ」に囲まれた立地で、3つ星・4つ星ホテルに匹敵する寝具やシャワー、テラスの質を備えた宿泊施設を用意しました。2022年に買収し全面改装、2023年にブランド化したところ、快適さと地域の豊かな食や文化を求める顧客から急速な支持を得たといいます。
買収と全面改装でしか広げられない成長戦略
Bonnichon氏によれば、フランスでは新規にキャンプ場を作ることができません。フランスには7,500のキャンプ場があり、その80%は今なお個人によって所有されています。そのため、新しいコンセプトの施設を作る唯一の方法は、既存施設を買収して作り替えることだと言います。
同社の立地選定基準は、徒歩や自転車でアクセスできる強い観光資源が周囲にあることです。Marais d'Oléronは、牡蠣の養殖池の真ん中にあり、海岸まで100メートル、周囲にはシャラント=マリティーム県の文化・遺産体験が広がる場所でした。加えて、木々の緑に包まれた「繭」のような環境が重視されます。木々や自然は投資で作り出せるものではなく、すでにそこにあるかどうかが決め手になる、と同氏は語ります。
投資家を惹きつけるキャンプ市場の魅力
2022年には保険大手のSwiss LifeがInspire Villageに資本参加しました。キャンプ市場は広い意味で収益性が高く、デジタル化や新しいブランド構築の余地がある、変革途上の市場だからだと同氏は説明します。80%が個人所有という構造は、今後の資産の入れ替わりと外部成長の機会を意味します。
フランスの観光市場はGDPの約9%を占める最大級の産業の一つで、キャンプ市場は米国に次ぐ世界第2位、欧州では第1位です。市場は誕生以来つねに成長を続け、購買力の危機やコロナ禍にも耐える強靭さを持っています。キャンプ場は夏に営業しており、ロックダウンが主に冬だったことも幸いしました。
競合Slow Villageの買収とブランド選択
2024年、同社は競合だったSlow Villageグループを買収し、そのブランド名を残しました。買収時、自社は5施設、Slow Village側は6施設とほぼ同規模だったため、どちらのブランドを残すかが論点になりました。
通常は買い手のブランドを使いますが、同社は謙虚に、市場でより知名度が高く、製品や理念をよく表すブランドはどちらかを問い直しました。Slow Villageは同社より歴史が長く(当時、Slow Villageは7年、自社は2年)、「スロー」という語が持つ豊かなイメージが自分たちのプロジェクトと合致していたため、この名を選んだのです。
ただしSlow Villageは、当時より素朴(roots)な立ち位置にありました。そこで、Inspire Villageが持つホテル的なサービスの側面と、Slow Villageが欧州エコラベルなどで積み上げてきた環境への取り組みという、両者の長所を組み合わせる形でブランドを再構築しました。
顧客像と「スロー」を体現する仕掛け
顧客は、0歳から12〜13歳の子どもを1〜3人連れた家族が中心で、40%が外国人(オランダ、ベルギー、スイス、英国など)、60%がフランス国内客です。都市に住み、自然に身を置いて速度を落とし、家族と再びつながりたいと願う、比較的購買力の高い層が中心です。7月と8月の平均滞在は4〜7泊と長く、シーズンの端では週末を中心とした2〜3泊が多くなります。
滞在費用は時期と施設によって異なります。Marais d'Oléronで8月最盛期に2部屋のプレミアム・コテージに4人で1週間滞在する場合、料金は2000ユーロ(約36万3300円。1ユーロ=181.65円換算)ほどになります。
「スロー」を体現する仕掛けとして、同社はキッズクラブを「Slow Club」として作り替えました。モンテッソーリの考え方に着想を得て、自然や自分との再接続、廃材を使ったものづくりを重視した内容です。各施設には羊やヤギがいるミニ農場「Slow Farm」があり、子どもたちが動物の世話を通じて自然を学べます。宿泊施設は木を多用した造りで、レストランはすべて自社運営、80%の食材を地元で調達し、「スロー・フード」に着想を得ています。
既存のキャンプに居場所を失った顧客の受け皿
同氏によれば、顧客の一部は既存のキャンプ場に自分の居場所を見出せなくなった人々です。かつてキャンプに親しんでいたものの、周囲の客層と価値観を共有できず、巨大なウォーターパークや騒がしさになじめなかった人たちが、より静かで快適な場所を求めて同社にたどり着いています。
欧州エコラベルという厳格な環境認証
現在営業する11村のうち6村が欧州エコラベルを取得しています。この認証は、エネルギー消費やCO2排出、水の使用、化学製品の利用、廃棄物、輸送に伴う排出の削減を求めるものです。
同社にとってこれはマーケティングの道具ではなく、「エコラベルだから来てください」とは言わないと同氏は強調します。67の基準からなる非常に厳格な認証で、いかなる工程でもプラスチックは認められません。たとえばリネン類は通常ビニールに包まれて届きますが、それが使えないため、屋外で埃や雨からどう守るかといった運用の工夫が必要になります。さらに、2年ごとの更新のたびに評価を改善しなければならず、継続的な改善を迫られる点が重要だと語ります。
水への依存を減らすプールの工夫
環境への取り組みは水利用にも及びます。Biscarrosseの施設は湖から50メートルの位置にあり、プールを設けていません。Gard県の施設では、川で泳げるうえに、コンクリートを一切使わず、地形を活かして防水膜と砂を敷いた自然の「ラグーン」を作り、化学薬品を使わずに太陽熱で温めています。
歴史的にプールがある施設については、壊すのではなく運用を工夫します。Ré島では今年、より環境に配慮した消費の少ないヒートポンプの導入に数万ユーロを投じました。5年前の創業時から、水への依存が最も少ない夏の観光地のモデルを作る必要があると考えてきた、と同氏は述べます。
Belle-Île出店と1億ユーロの資金調達
同社は最近、フランス国内で製造した70弱の宿泊施設を、悪天候の続いた冬の間に設置するという技術的な難題を経て、11番目の村をBelle-Île(ベリール島)に開業しました。船でしか行けない、手つかずの自然が残る島です。宿泊施設はヴァンデ、ブルターニュ、Véronといった施設の近くで製造することを重視しています。
さらに同社は、新たな出店のために1億ユーロ(約181億6500万円。1ユーロ=181.65円換算)を調達しました。現在14の目的地を持ち、2030〜2031年までに30ほどへと倍増させることを目標としています。年に3〜6施設を買収する計画ですが、重要なのは金額ではなく、ブランドのDNAに合致した場所を厳選し、持続可能な観光と地域の雇用創出を実現することだと同氏は語ります。
インフレ・地政学・猛暑がもたらす需要の揺れ
今シーズンについて同氏は、地政学的な不安定さから海外旅行をためらう顧客が増え、フランス国内観光にはむしろ追い風になっていると分析します。購買力の低下については、高級路線ゆえに影響を受けにくいものの、レストランなど付随サービスへの支出が抑えられる可能性には注視しています。それでも家族はバカンスの予算を守る傾向があるといいます。
猛暑については、地域によって予約傾向が変わると指摘します。気温が35度や40度に達する地域の住民は、暑さでぐったりして計画を立てられず、直前予約が増えます。また暑いときには涼しい場所が好まれるため、南部の予約が減りブルターニュが伸び、涼しくなると逆転する、という不安定さが生じます。
さらに深刻なのがフランス各地の山火事です。長期的・資産的な投資を行う同社は、新しい立地を選ぶ際に気候リスクを検討せざるを得ず、その結果、フランス北部・北西部を好むようになりました。機会があればノルマンディーに村を開きたいと語ります。本当のぜいたくとは、時間をかけて自分自身と本当の欲求に立ち返り、何もせずに休むことだ、というのが同氏の結びの言葉でした。
▶ 同じシリーズの前回: La Story(Les Echos)解説:読書キャンプThe Bookmates──SNS発の一人参加ブーム https://note.com/yondo/n/n3999b7047176
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