艶めくな、秋
「泣いてるの…?」
そう言って彼は私を抱きしめた。
開け放った窓からは、湯煙と雨の匂いがゆったりと入り込んでくる。
違ェ…!
花粉だ、推定イネかブタクサの花粉だ。
すまんな、ロマンのかけらもなくて。
群馬ブギウギ鼻はズビズビ飯はウマウマ安中〜
である。
↑
「マシュマロ焼く用着火マン」とかいう謎アイテムを群馬県に回収しに行く話。
訳:墓参り+旅行
吾輩レーダーによると、イネとブタクサがキテいる。
キテくれなくていい、イッてくれ。
鼻と目がヤられた。
ついでに、胃の具合もかんばしくない。
それは単純にここぞとばかりにありとあらゆるものを喰らいに喰らったためだろう。
キャパオーバーっていうんだぜ、そういうの。
吾輩は心に次いで脳、次点で胃のキャパが狭いからな。
9月13日、旅立ちの朝、私の鼻は凪であった。
目も凪であったが調子に乗ってサングラスをかけた。
格好つけたつもりが、なり損ないの不審者になっちまった。
そうだな、“一般市民以上不審者未満”である。
道中、娘が
トンチンカンと一般市民以上不審者未満に
「しりとり」をふっかけてきた。
よって車内は戦場と化した。
順番が、
娘→天野→私だったので
必然的に我がクセツヨワード攻めと“ら行攻め”をくらうのは娘である。
いかんせん私は妖怪字引き網だからな。
【妖怪字引き網】
夜な夜な辞書をペラリペラリとめくっては文字を貪り食っている妖怪。
人様の言い間違いや言葉尻を捉えては揚げ足を取る不愉快な妖怪。
特にしりとりでその異様なまでのウザさを発揮する。
相手が誰だろうが私は容赦しない。
かつて出張で上司としりとりした時も容赦しなかった。
そして、支店長を倒した。
それくらい空気の読めない妖怪である。
しかし、さすがは妖怪字引き網の娘・子字引きである。
我が鉄槌の如き攻撃に耐え、
それなりにクセツヨワードを繰り出して天野を困惑させる。
約30分程死闘を繰り広げた結果、子字引きが突然睡魔に連れて行かれた。
ここからは大人の時間である。
スフィンクス
↓
スイス
↓
スタンス
↓
スタンスミス
↓
スパイス
↓
ストレス
↓
スライス
↓
スラックス
↓
ストロークス
・
・
・
“す”で叩きあった。
天野「シリンダー!」
私「ダース・ベイダー!」
ここで子字引きが目を覚ました。
「…まだやってたの…?」
明らかにどんびいている。
どんびきのどんちゃんが降臨している。
【どんびきのどんちゃん】
大学時代のワシがシラフで言い放った意味不明ワードが仲間内で大流行。
何かにどんびいた時に現れるとされる妖精。

8歳児をどんびかせるなんてマジで何やってんの俺ら。
と盛大に反省した。
と見せかけてスターウォーズ。
シューコー…シューコー…
もうライトセーバーで切腹。
もはやダース・ベイダーですらない。
侍。
サムライトセーバー。
シューティングスターウォーズ!
いやはやさすがにふざけすぎましたが許してください。
乗り物酔いにより湧き上がる胃酸にいらいらしていたのです。
八つ当たりの“当たり”が悪ふざけに向かっていった次第です。
夕食を終え、あくびの止まらぬ娘。
シューコー…シューコー…
あっという間に眠りの世界に旅立った。
ここからは大人の時間である。
私は窓を開け、しとしとと温泉街を濡らす雨を眺めている。
ふんわりと入り込んでくる街灯がぼやける。
目をこすり、指が涙で湿るのを感じる。
わずかに感じる雨の匂い。
すぅっと吸い込もうとしてもわずがにしかその空気を肺に運べずにいる。
「泣いてるの…?」
そう言って彼は私を抱きしめた。
ビヤァァアクシッ!!!!
彼の腕の中で私は…
盛大にくしゃみをぶちかました。
それはそれはもう、群馬県全体に轟くようなくしゃみ(独唱)であった。
「こりゃあダメだ。季節の進みが早ェ…秋の花粉トレンド先取りだぜ…」
そう呟いた私に彼は言った。
「東京に帰ったら、病院で検査しよう…」と。
そこから先の記憶がない。
次に目を開けた時、私の頬は娘の足で押し潰されていた。
鼻は半詰まり、それなりにズビズビしていたが
宿の朝食でばあちゃんを思い出して泣いてみたり、
博物館のヘラジカに興奮してホモ・サピエンスではなくなってみたり、
パンをモリモリ食ったり、
芝生の上に転がっているキノコを見て爆笑したりしていた。

青空キノコ工場。
(天気:曇のち雨)
笑っていられるのも今のうちだぞ俺。
「東京に戻ればたぶん大丈夫っしょ!だってまだ夏じゃん、あっち。」
じゃないんだよ。
それ、ただの花粉スヌーズだからな。
カーナビ「おキムチ左側です。」
私「え?!」
天野「え?!」
娘「え?!」
天野「いや、え?何?!」
娘「何?!」
私「え?」
娘「お母さん、何?」
私「え?」
天野「よもちゃんが急に叫んだんじゃん!」
私「いやカーナビが“おキムチ左側”とか言うから…」
天野「…おキムチとは言ってないはずなんだけどね。」
娘「そうだよ、キムチはないと思う。」
トンチンカンとチッチキチー(?)から総攻撃される俺。
まあ確かにな。
今時お嬢さまだってキムチに“お”はつけねェよな。
しかも左側にあるわけもないよな。
何と聞き間違えたのか、全くをもってわからない。
そんなこんなで渋滞にも巻き込まれずに東京に舞い戻ってきた俺は現実に打ちひしがれることとなった。
東京ブギウギ鼻がズビズビ目玉ゴロゴロ充血〜
県境超えて花粉連れて
秋はムズムズ!ヘイ!
そろそろ笠置シズ子さんに怒られんぞ。
秋の花粉を群馬で先取りしたと思ったら
あのムーヴメントはすでに東京に…
いや、違うな。
俺があのムーヴメントを連れて帰ってきたんだ!
東京でもすっかり流行っちまってんだ。
秋の花粉がな。
艶めくな、秋。
マットに行こうぜ。
…鼻も、肌も。
↑
くしゃみ+スヌーズと言えば、隣の隣の家のおじさんである。
日の出が遅くなればなるほど一度目のおじアラームも遅くなる。
【参考資料】
◽︎ダース・ベイダーの呼吸音
生命維持装置と連動したマスク(仮面)を通した「シューコー、シューコー」という独特の機械的呼吸音 は単独で通用するほど世界に広く知られている。
アメリカ国内では2009年5月12日付で音の商標として権利登録された。
米国特許商標庁登録申請日:2008年3月11日
登録日:2009年5月12日
登録権利者:ルーカスフィルム
US登録商標:第3618322号
音の制作方法:スクーバダイビング用レギュレーターによる
音の定義:スクーバタンクのレギュレーターを使って呼吸することで作り出される、周期的で機械的な人間の呼吸音
原文:The mark consists of the sound of rhythmic mechanical human breathing created by breathing through a scuba tank regulator.
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