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網タイツ現代文教師ナオミ

ミニスカに網タイツ、18cmのピンヒールで胸の谷間を露出させた攻めのスタイルで授業する高校現代文教師になる。

──それがナオミの夢である。
そしてその夢は今、現実となり早幾年も続いている。

これは、彼女が掲げた五つの夢とその挫折、挑戦の記録である。
……と美談のように語り始めたいのに、
クセツヨ×教師という名詞に掛かるクソ長修飾語が気になり過ぎて
それが叶わないことが悔しい。
そもそも、五つをカウントする力さえ残されていない。
(開幕早々)

プロジェクトNエンヌッ…!

飯の上の牛肉 つゆだくの牛丼
みんな腹へった 何の躊躇いもなく
晴れ渡る青空 曲がり角の松屋
みんなそこへ行った 指図されることもなく
消え去った吉野家 誰も覚えていない 人は松屋ばかり見てる
ナオミよ その教壇から教えてよ 源氏物語
ナオミよ 消え去った吉野家 今どこにあるのだろう

プロジェクトN主題歌:外島よもぎ「机上の吉野家」
(プロジェクトX主題歌:中島みゆき「地上の星」)


ナレーション「“ミニスカに網タイツ、18cmのピンヒールで胸の谷間を露出させた攻めのスタイルで授業する高校現代文教師になる。”これはあくまでも主題に過ぎない。真の夢は……」

ミニスカに網タイツ、18cmのピンヒールで
胸の谷間(Hカップ)を露出させた攻めのスタイルで授業する
“埼玉県の女子校の”高校現代文教師になる。
〜トイレが緑色の部屋に住んで〜

「夢というものは、そう簡単には叶わないもの。
だから燃えるんじゃん」
とナオミは語る。

──大学三年の夏、
私たちは屋上でおろし牛丼を食べていた。

恋が始まる予感しかない曲がり角にある、例の牛丼屋で買ったいつものおろし牛丼だ。
もちろん、何も始まってなどいない。

ナオミは言った。
「高校で現代文教えようと思う。」
夢を語るナオミの瞳と降り注ぐ陽の光が眩し過ぎて、
私はうつむいたまま
「いいんじゃない?」
と答えた。
キラキラと輝く大根おろしが季節はずれの雪のようで、依然としてまっさらな自分の将来を映しているようであった。

彼女はこう続けた。
ミニスカに網タイツ、18cmのピンヒールで胸の谷間を露出させた攻めのスタイルで授業する高校現代文教師になる。

あまりの具体性に度肝を抜かれた。
「パンクロッカーのモヒカン並みに意志固まりすぎじゃね?」
と叫びながらナオミの方を向いてしまった。
彼女の後ろから後光の如く照りつける太陽に眼を灼かれる。
その影は、牛丼をかき込んでいる。
某滅びの呪文を唱えずして我が眼を滅ぼしてしまった。

「っ!!! 目がァ!!! 目がァ!!!」

セルフバルスにより五分ほど瞬きのたびに視界を大きめの黒い視覚が明滅し、困惑する私に構わず夢の続きを語る。

「ミニスカと網タイツとピンヒールで中原中也を語りたいし……」
「牛丼の上に降る雪は おろしのようでありました」
(元ネタ:中原中也「生い立ちの歌」)

ナオミの夢は陽の下で
私の髪を揺らします
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

私の夢はいざ知らず
手元のどんぶり揺らします
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

中原中也のこととなると止まらなくなるナオミを静止する気力もなく、
自分が中也になりきることで逃れんとするいまだ視界の明滅と共に陽炎と共に溶けては揺れる我が身である。

溶ける身体とはうらはらに、目がやられているからこ想像力が研ぎ澄まされている。
ナオミの夢は随分とくっきりとした輪郭を得て私の脳で立体的に再生される。

ようやくナオミの夢の輪郭が崩れた時、おろしたての白いTシャツの中では
カート・コバーンが鼻に米粒くっつけて、
顔中汁だらけにしておろし牛丼に舌鼓を打っていた。

依然として語り続けるナオミに向かって、
「ニルヴァーナなのに全然ニルヴァーナじゃない!!」と叫ぶ。
煩悩の炎が燃え上がる逆ニルヴァーナ、逆涅槃である。

そのくせ冷静に、
汚れちまったTシャツは
洗えど落ちぬ油染み
汚れちまったTシャツに
染み入るアブラゼミの声
なんて中原中也になりきって、妙な心境を歌にするなどした。

涅槃は逆行しても、時は一定に流れる。
一年後の秋のこと。
相変わらず涅槃は凄まじい速さで圏央道あたりを逆走している。

私は社会学か何かの授業のレポートに“治安維持霊”などという今後が良くなりそうな霊を降ろしただの誤変換、シャーマンキングと化していた。
時を同じくして、ナオミは教育実習先で涙を流していた。

二十一歳と十七歳は分かり合えない。
否、自分は若者の心がわからぬ。
と。

きっと、秋風に心が冷やされたのだ。
それでもなお、逆行する涅槃には煩悩の炎が轟々と音を立て燃え上がっている。
私は煩悩で暖を取り、雪の降りそうな軽井沢で文豪のふりをしながら卒論を書いている。

互いに遠地で冷えたり、温まったりを繰り返した。

そして、ナオミは埼玉県にある某女子高の採用試験に合格した。

──入職当日。
自身の母校であるため「初めまして」でもないし
だからといって「オッハー!」は古い。
そして胸に秘めたる真に言いたいことを抱えているからこそ、自分の頭に浮かぶあいさつがどれも白々しい。

「明日から網タイツ・ミニスカ・ピンヒールで来てもいいですか?」
単刀直入にナオミは言う。

「え?!さすがにやめてください。」
と出鼻をくじかれた。
当然だ。

学校からしてみれば、
何のための風紀委員会、何のための生活指導、ひいては校則なのだ!である。

生徒にはギチギチに
「肩につく髪は結べ」だの、
「カーディガンはだめだ、セーターにしろ」
それも、
「白はダメ」。
「ならばピンクとか水色ならいいんですか?」と聞かれれば
「常識に則って考えろ!」と一蹴する。
“私の常識、あなたの非常識”になぞらえて言えば、
“学校の常識、私の非常識”と生徒は言いたい訳で、
それを封じ込めるべく教員は自己を押し殺し、まじめ腐った仮の姿でそこに存在しているというのに、
入職初日の卒業生がその辺りを意に介さず、
明日から網タイツ・ミニスカ・ピンヒールなどという突拍子もない格好であの桜並木の下を歩いてこようと言うのだから、それは脊髄反射的に阻止したくもなるだろう。

しかし、こんなことで諦める彼女ではない。

まずは1ヶ月、“生徒を魅了する授業”で信頼と実績を積み上げる作戦に出た。
持ち前のおふざけ能力アビリティと優れた分析力で、芥川龍之介「羅生門」の1人劇を決行。

「やっぱり、死体から髪の毛引っこ抜くシーンやったの?」
「やってない」
「え?」
「干し蛇を“ほれ、魚だぞォ”って言いながら生徒に売った。」
「そっちかよ!!」
「そっちだよ!! そのロックオンした生徒が財布出すまで待機した!」
「怖!! トラウマになるわ、国語嫌いになるわ!!」

評論に関しては、わざわざ大阪弁をマスターして
コント仕立てにしたらしい。

半ばホラーな文学系授業と笑いで畳み掛けるコント評論との温度差に、生徒は堕ちた。

「私がメロメロ信頼と実績の授業を繰り出したら、担当クラス全員メロメロになった。」
※本人談&本人比
らしい。

ナオミの勤務先は女子校なので♀から♀にメロメロを使ったわけで、
ポケモンなら無効化されるところだが
ナオミはSDGsの五番で性別的相性をねじ伏せた。

メロメロ】(ポケモンにおける技名)
オスなら メスに メスなら オスに わざが だしにくくなる

性別云々より、“その人”を見よ、という教訓を得た。
性的嗜好云々も置いておいて、誰かを魅了できるというのは類稀な才であると見た。

そもそもここは現実世界で、ポケモンの世界ではない。

ナオミが現実世界で着実に信頼を積み上げている頃、
依然として怒りの炎でパスタを茹で、残り二本となった親知らずを全抜きするなどしていた。

私のコックコートがトマトソースに染まるなどしているうちに、一ヶ月が経過。

禁断の質問
「明日から網タイツ・ミニスカ・ピンヒールで来てもいいですか?」
を再度繰り出すナオミ。

前回は脊髄反射的に却下されたが、今回は前頭前野を経てからの却下であった。

やはりめげぬナオミは食い下がり、
「ロングスカートに網タイツならいかがでしょうか?」
と提案。

上司はいかにも困り果てた顔をして腕を組む。
しばしの沈黙のあと、
「網タイツを露出させなければ可。」
と、重々しく口を開いたそうだ。

「秘められし網タイツ…フフフ…かっこよくない?」
彼女は不敵に微笑んだ。

結局、ミニスカートと18cmのピンヒールは完全アウト。

理由としては、例の授業のおかげでナオミ先生リスペクトの生徒が増え過ぎた為
まだ見ぬミニスカ×網タイツ×18cmのピンヒールというナオミスタイルを真似るものが出るともはや手に負えんということだそうだ。

確かに、ウエスト部分がゴロンゴロンになるまでスカートを折り上げ、上履きやローファーに18cmのピンヒールを後づけした女子高生が大量発生する埼玉県など想像しただけで脳がぬれ煎餅の如く新感覚に支配されてしまう。

夢は未完、今後に期待である。

もしかして、もしかすると、
今までの人生において私自身が受けてきた授業もあれ全て教員によるメロメロだったという説が浮上してきた。
つまり、メロメロは教員が必ず覚えなくてはいけない技である。
おそらくレベルアップ技で習得する技で教育実習終盤、“教員”への進化前に覚える。

パワーワードを聞き逃すまいと常に目をかっぴらき、聴神経を研ぎ澄まし、ものすごい集中力で授業を受けていた私は
まんまと教員のメロメロをくらっていたちょろい生徒だったというわけだ。

こんなにも美しく伏線を回収できる人生を歩むナオミ。
一刻も早くその生涯を伝記として残すべきだし、
小学校の図書室に並んでしかるべきだろう。

べきべきべきべきうるさい奴だ!

「早々にだいぶ夢叶えまくってね? すごくね?」
「お忘れじゃあないだろうか! “胸の谷間を露出”させた攻めのスタイルのことを!」
「ああ! 失礼つかまつった! なんかもう情報の圧で廃車の如くスクラップされたから!」

ナオミと私は廃車のような互いの上半身を勘付かれない程度に視界に入れつつ話を続ける。

「Hカップどころか谷間すらない。極めて盆地。」
「安心しろ、こちとら平地通り越して更地じゃ。」
ナオミ「露出が許されない今、高級ホテルのマットレス並のパッド入れてタートルネックセーター着て“隠す”ことでの色気出しにいってるから。」

どこまでも抜かりない人間である。

ナオミ「このまま山登って凄腕猟友会に火縄銃ぶっぱなたれても生きてると思うYOパッドが防弾できるくらい分厚い!」

パッドに守られ、銃撃されても死なないと思っている模様。

強気過ぎる熊か何かなのか、ナオミ!

あと、網タイツで登山はやめろ。
あれは網だが、網であって網ではない。
決して虫取り網ではない。

※なお、だいぶ前から火縄銃を狩猟に用いることは禁止されている。


「しかも、いい物件もないから依然として実家暮らしだよ? 反抗期の弟が例によって教科書通りに壁に穴開けるしまあ悲惨!」
「壁に穴開ける反抗期についてはどの教科書に載っているんだい? 現代文? それとも日本史? はたまた……漢文?」
「ブフゥ!!! 漢文はない! レ点で穴は塞がらないし、上下点つけたところで穴が空いたって事実は変わらないし……白文のまま放置したいよ! 読み下すまでもない!」
「大変失礼つかまつった!」

武士よりも武士!

「就活終了のお知らせの後、部屋探しのゴングを鳴らしたの、私。でもこのありさま。」


「み、緑ィ?!トイレがですか?壁紙とかではなく?」
と不動産屋スタッフを介してドン引きのドンちゃんを召喚したナオミ。

不動産屋、大パニック。

どうにもこうにもトイレが緑の物件はなく、
「じゃあ便器、自分で緑に塗ってもいいですか?」
と食い下がるも、答えはもちろん…
Say!
「ダメです!」
というわけで、トイレが緑色で家賃7万以下の物件複数の意味で事故物件が見つかるまで実家に住み着くと決めたのであった。

「自分で穴開けたくせに、姉ちゃんの部屋の音が筒抜けでうるせえなどと無礼なことを言っている! あれは冬になったら風が通り過ぎて寒いとか言い出すに決まってる!」
「今のうちに素麺詰めときなよ、穴に。」

結局、弟の部屋に元々あったキュゥべえex)まどマギのぬいぐるみを頭から突っ込んだらしい。

そして、タワマンではなく緑のトイレに憧れ続けた教師に憧れた、干し蛇を前に財布を出した少女もまた教師になったという。

今もナオミはワルプルギスの夜の如く、埼玉県内をぐるぐると回りながらその魅力を振り撒き散らし続けている。

ロングスカートの足元から網タイツが見えている現代文の先生がいたら、それはきっとナオミだ。

もし、「怪しい」現代文の先生がいたら聞いてみてほしい。
「先生の家のトイレって緑色なんですか?」
と。
緑色でもそうでなくても、ナオミでなくても
その先生は確実にクセツヨ。
間違いなくクセツヨだ。


胸も更地なら髪も更地。


髪の毛更地といえば頭頂部更地のザビエルをお忘れなく。


【参考資料】
◽︎Edu Town SDGs
5.ジェンダー平等を実現しよう

https://sdgs.edutown.jp/info/goals/goals-5.html

◽︎仏教語豆辞典

https://www.hongwanji.or.jp/mioshie/words/001445.html

【涅槃】
サンスクリット語で「ニルヴァーナ」といい、「吹き消す」ことを意味する。
煩悩の火が吹き消された状態。
すべての束縛から解脱げだつすること。
不生不滅ふの境地に入ったこと。
転じて「お釈迦様の死」を指す。

※二月十五日を涅槃会ねはんえとする。

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