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断罪ハレーション

パトカーのサイレンと、ひっきりなしに飛ぶヘリコプターに怯える日々にも嫌気がさした。

カーテンを閉め切った暗い部屋。
分厚い掛け布団で頭から足の先まで覆い隠し、体育座りでスマートフォンを操作する。
この光すらも「正義」のように見え、今の私には脅威として映る。

もう何日、陽の光を浴びていないだろう。

全てが白日のもとにさらされることを恐れて、
「お天道様が見ている」という迷信じみたことわざにまで翻弄されている。

着信。
未登録の番号だが、覚えている。
関係性の発覚を遅らせる為、登録しないよう指示を受けていた。

「……もう、逃げられません。」

相手の言葉を待たず、震える声で言った。

だが次の瞬間には掛け布団を跳ね除けている。
スーツケースに無我夢中で衣類を詰めていく。

子どもの頃からずっと一緒のカメのぬいぐるみを詰めようとして、やめた。
両手で包み、カメの鼻先を自分の額につける。
祈るように目を閉じた。
ベッドに寝かせ、布団をかけた。

「いつかまた、必ず。」

押しつぶされそうだった。
眉間の五ミリ下が熱い。

家を出る直前にふかし芋(冷凍)を一本くわえ、バタンと扉を閉める。
なぜか大真面目に鍵をかけ、タクシーに乗り込む。

「池尻大橋まで!」

冷凍ふかし芋の冷たさを感じないほどに私の指先は冷たく、湿っている。
芋を口に運ぶものの、気もそぞろで喉を通らない。

運転手の雑談が細切れに鼓膜を震わせる。
しかし、窓の外を流れる景色に紛れ内容は理解できない。

声の切れる間を察知して、適当に相槌をうつ。

駅が見えてきた。

カードの使用履歴を残したくない。
メーターは一四〇〇円を指している。

財布には一万円札が一枚きり。
福沢諭吉との別れを悲しむ余裕などない。

現金を運転手に手渡す。

カーラジオから流れる「だんご3兄弟」が諭吉との惜別の歌となった。

「お釣りはいりません!」

この世で一番格好のつかない台詞となってしまった。

芋を口に突っ込み、私はタクシーを降りる。

その瞬間。

────三方を警察に固められた。

右手首に冷たい金属が触れる。

仁科ナナニシナナナ、午後十時三十八分、麻薬取締法違反容疑で逮捕する。」


新聞の一面に、芋をくわえた自分のアホヅラがデカデカと掲載された。

しかも、そのアホヅラの下に申し訳程度に
総理大臣のジャケット、かろうじてハレーションを回避
という絶対一面じゃなくて良いネタが載っていた。

というところで目が覚めた。
──午前三時二十六分である。

「っていうか私、仁科でもなければナナでもないんだが?!」
と自分で勝手に見た夢に悪態をつきながら、トイレへ行った。

外はすごいぞ。

ウウウウウウウウ→↓↓→↘︎↘︎→↑↑!!!
ウウウウウウウウ→↓↓→↘︎↘︎→↑↑!!!
アアアアアアアア→→↑↑↓↑↑→↑↓!!!
アアアアアアアア→→↑↑↓↑↑→↑↓!!!
警察「ナンバーXXXX左端に止まりなさい!!ブツッ」
ウウウウウウウウ→↓↓→↘︎↘︎→↑↑!!!
ウウウウウウウウ→↓↓→↘︎↘︎→↑↑!!!
アアアアアアアア→→↑↑↓↑↑→↑↓!!!
アアアアアアアア→→↑↑↓↑↑→↑↓!!!
警察「ブツッ!止まっ!ブツッ!あれ?!止まりなさい!ブツッ」

我が家の前で職質を振り切る不審車両と、
調子の悪過ぎるトランシーバーを搭載したCVキャラクターボイス.柳沢慎吾さんのパトカーがバトルしていた。

びっくりして出るもんも出なくなった。
あと、夢とはいえやましいこともあるのでやはり気もそぞろである。
眠れなくなったので筋トレをした。
暗闇で。

とはいえ私は断じて仁科ナナ夢の中でのワシではないので日の出とともに雨戸を開け、太陽光を浴びた。

ビヤァァァァァクシッ!!!!

よし、今朝も正しく爆発しておるな!
ビヤァァァァァクシッ!!!!の遠いところでパトカーCV.柳沢慎吾がサイレンぶん回している音がするのは気になるが、爽やかな朝である。

ちゃんと、隣の隣の家のおじさんのくしゃみを確認してから窓を閉める。
何を隠そう我が家の隣の隣の家には日の出とともに爆発くしゃみするおじさんが住んでいるのだ。
干からびた柴犬をたいそう可愛がっている。

なお、実家からかっぱらってきた柿をプレゼントしたらこれまたおじさんが妻の生家からかっぱらってきたという柿をプレゼントされた。

柿と柿で物々交換した!
シール交換かよ!
「この柿はレート高いからだめだよ」
っておじさんが言い出したらどうしようかと思った。

その間も、パトカーCV.柳沢慎吾が行ったり来たりしている。
最近姿をくらまし気味だったチャリンコポリスも右往左往している。
上空ではヘリコプターがベラベラベラベラベラベラベラベラと轟音を立てて飛び続けている。

今日は深夜もとい早朝から警察ががんばっている。

「警視庁から各局……」の各局が我が家周辺に集中し過ぎているので、私はコソコソと自宅に戻る。

と、そこへ最近我が家を隣の家のひさしから覗いている三毛猫もといピケネコ(のぞきをする三毛猫=peepingピーピング MIKENEKOミケネコだからピケネコと呼んでいる)が歩いてきた。

なんだかんだで歩いているところは初めて見た。
しかも窓という遮蔽物なしで見る生ピケネコも初めてだ。
記念すべき初対面だというのに、私は警察に追われているし、ピケネコはトンボをくわえている。
夢の中で私がくわえていたのは、芋。

お芋をくわえたヤク中
追いかけて
手錠をかけてく 陽気なポリスマン
運ちゃん笑ってる
お芋も笑ってる
ルルルルルルルールルルッルッルー
とんだ逮捕劇

宇佐ばら「ヨモギさん」(宇野ゆう子「サザエさん」の替え歌)

心の中で歌い、自分で思いついたくせに妙に面白くなってゲラゲラ笑った。
ちゃんと玄関のドアの内側で。

手がプルプルと震え出し、
いよいよ私はこれが噂に聞く禁断症状……?
と思ったが、おじさんにもらった柿がただただ重いだけだった。

私のイドが今にも柿にかじりつかんとしていたが、

スーパーエゴ「食べたらあっかん〜食べたらあっかん〜」
エゴ「その柿食べずにこれ食べて〜!昨日の冷凍庫し芋〜」
と天童よしみの二人羽織をぶっこいてきたので、柿は全て果物用のカゴ(通称・誘惑の箱舟)に乗せた。

私のエゴは、“柿食べたい”イドと“食べたらあっかん〜”のスーパーエゴを仲裁して芋食わせにきた。

【フロイトの精神分析学】
◽︎イドエス:無意識
ほぼ本能。
「あれしたい」「これやだ」みたいなもの。
生まれたての赤ちゃんのような存在。

◽︎エゴ自我:前意識
イドエスからの要求とスーパーエゴ超自我からの要求を受け取り調整する。
いわば板挟みの中間管理職。
イドエスの「やりたい」とスーパーエゴ超自我の「やめなさい」の間に立ち妥協案を出す。

◽︎スーパーエゴ超自我:意識
イドエスエゴ自我のお目付け役。
親のようなもの。
イドエスの自由すぎる行動に「No」を突きつける。
「〜すべき」「〜してはならない」思考の根源。

Wikipedia+大阪・京都こころの発達研究所

芋をモッサモッサと食い散らかす。

“芋を口に運ぶものの、気もそぞろで喉を通らない”
なんてどの口が言っているんだ?
その、芋でいっぱいになっている口だよ!
お前だよ!

と無限にセルフつっこみを入れている。

……芋がないと禁断症状が出るからな。

ってそういうことか!

火曜の朝、芋が無くて手が震えたのだ。
これは間違いなく禁断症状だろう。

もしかして芋=クスリ?

最近芋を食い過ぎているな。
あれは糖質だから、妄想のエサになる。
……芋を食い過ぎるから妄想も捗りまくるのか?
なら芋食うのやめれば妄想も止まるのか?

「コワモテ・スイーツパラダイス」

まずいぞ!
自ら証拠をネットの海に垂れ流しているではないか。
サイバー対策犯罪課にマークされるようなことを…

正直、飯が喉を通りまくって困っている。

故にこの夢で食べ過ぎを防止しようという脳の防衛機構が働いたのではないかと推測している。

しかし、なんのそのだ。
幻を見せられようがなんだろうが、そんなことで芋を諦める俺のイド、エゴ、スーパーエゴではない!

乗車率120%超の我が胃をもってしても、イドは「食」を渇望する。
スーパーエゴによる自制も怖くはない。
スーパーネゴシエイター・エゴが「食」への欲望への“禁止”を“食”で仲裁してくれるからな!

……さっきから視線を感じると思ったらピケネコが隣の家の庇からこちらを見ている。

ちなみに、仁科ナナニシナナナは今をときめくファッションデザイナーだったらしく
新聞の一面に載ったのはそれが理由だろう。

なんでも、密売組織のリーダー・コードネーム:ボイセンベリーとナナはただならぬ関係にあり、
「もう逃げられません」と言ったくせにスーツケースに服を詰めまくっていたのはボイセンのいるドバイに呼び出されたからだったらしい。

で、私は日本国内でクスリをグループ単位で売買していて
その構成員たちとともに集団検挙されたってわけだ。

でも、堤っていう男ただ一人が逃げ延びて何故か台湾で豆花の店を経営してぼろ儲けしているという話である。
しかもその堤は仁科ナナの恋人というのだから驚きである。

理解が追いつかないし、追いつきたくもないのだが!
今日なんて、おじさんと柿交換くらいしかしていないのにソーラン節連続二十回踊ったくらい疲れた!
全部夢のせいだ!

「夢ならばどれだけよかったでしょう」
と米津玄師は歌うけれど、
「夢なのにこれっぽちもよくないでしょう」
蓬津よもず玄師は歌う。

ところで、そのアホヅラの下に申し訳程度に載っていたもう一つの記事の存在を覚えているだろうか?

「総理大臣のジャケット、
かろうじてハレーションを回避」

という絶対一面でなくて良い話である。

これはニュースを観ていたらすぐに謎が解けた。

各会派からの代表質問に答えるリアル総理大臣のジャケットが確かに“かろうじてハレーションを回避”していた。
言うなればハレーション危機一髪!ギリセーフのストライプジャケット、といったようなジャケットを着ている。

仁科ナナという架空の人物に、私がヤク中というフェイクニュース、ボイセンベリーなる全く知らないドバイにいるヤバい奴に、堤なるイマジナリー恋人……

こんな嘘だらけの夢の中で唯一のリアル、
それが総理大臣のギリハレーション回避ジャケットのみって一体……

──また、震え出す左手を右手で抑え込む。
その右手もまた、震えている。

私は冷凍庫から蒸かし芋を取り出す。

その冷たさは……

凍傷になりそうだよ!

完全なる虚構の世界にひとつ紛れ込んだリアルにより、全てが事実かのように錯覚させられる罠にまんまとかかった。

そして、また手が震えている。

芋はない。

柿に手を伸ばす。

イドエスが勝利した瞬間である。

そんな私の罪だけは、ハレーションで誤魔化してくれ!


自宅玄関で職質された話。


食欲の秋を邁進し過ぎている話。


政治のことがわからないのであえて自分が総理大臣になっておく話。


【参考資料】
◽︎大阪・京都こころの発達研究所 葉
イド、自我、超自我

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