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袖の下は、柿だらけ

巷の流行に乗り、我が家でもひっそりと第X次俺内閣が発足した。
しかし、早速組閣人事で任命責任が問われている。

もはや、リアル内閣の政治家たちの
「一丁目一番地」カウターとしてフル稼働してふざけている場合ではない!
「一体あんたの地図には一丁目一番地がいくつあるんだ!」
と某ドラマの真似をして台詞をかっこよくキメるタイミングを伺っている暇などない!

だがしかし、この俺に乗り越えられぬ山はなァァァァい!!!

はい。
勝手に乗り越えてくださいませ。

「なんなんだ!あの防衛大臣は!右側の!屋根の下の!」

昨夜、国民の方裏のアパートから直々に首相官邸我が家お叱りのピンポン実際にはとても静かがあった。

あろうことか、防衛大臣に就任したセンサーライト氏が任命直後に失言無限に点滅をやらかした。

早速の辞任である。

どういうことかと問い詰めると、防衛大臣は
「軽い気持ちで点滅してしまいました。ライトだけに。」
とあっけらかんとしている。

これには野党も国民もブチギレた。
俺もブチギレた。
馬鹿にするのも大概にしろと多大なるお叱りを受けた。

就任早々なんたることぞ。
防衛大臣不在の今、国防ならぬ民家セキュリティは脆弱を極めている。

そんな最悪のタイミングで北の窓からは蛾が飛来した。
もはや手に負えん!

「誠に遺憾です。失言はいかん!今後は安全な住宅環境を実現できるよう邁進まいしんしてまいります。」
と会見を開いた。
その間も俺の頭上を蛾が旋回している。

遺憾!

新たなる防衛大臣の選出に忙しい俺に、追い討ちをかける奴らがいる。
そう、イマジナリー野党第一党、ファクトチェッカー党である。

あいつらは“ねじれ”により俺の右腕、充電器のコード(2m)官房長官を失脚させた憎き野郎だ。

そんな敵陣から昨日さくじつの俺の記事に対し、
「事実に反する内容がある!どういうことか!誠に遺憾!」
と猛抗議の電話が入った。

あいにく、俺には秘書がいない。
北から飛来した蛾の駆除も、軽率に点滅したりダジャレを言ったりしない防衛大臣の選出も、所信表明演説の原稿執筆も、全て一人でこなさねばならない。

それに加えて昨日とは言え過去の記事の事実確認ときたら身体がいくつあっても足りやしない。

ここはひとつ、敵の懐に飛び込むという一手に出てやろうじゃないか。

俺「あのゥ、誠にィ遺憾なんだけどォ、具体的にィ、どの辺がァ間違ってる感じィ?」
ファクトチェッカー党「正岡子規が喰らいに喰らっていたのは、甘柿の王様“富有柿”ではなく、“樽柿”。どこに目ェつけてんだ。」

“どこに目ェつけてんだ”はこちらの台詞である。
人の揚げ足をとってあわよくば政権交代を目論んでやがる。
目は障子にでもつけておけ!

ファクトチェッカー党「それに、正岡子規が食った柿の数。お前は現実を見ていない!夢見がちなんだよ!」

作戦は成功だ。
これで、どこを訂正すれば良いかわかったからな。

とはいえ、あいつは一杯のかけそばを恩に着せるようなケチ臭い奴だ。
今後、何を言われるかわからん。

そうだな、夏目漱石の『三四郎』は特にだめだ。
あれは、「柿」の文字が11回出てくるし
正岡子規が1回に「柿を16個」食うせいで柿だけで27個分のカロリーを摂取することになるからな。
(中略)
『三四郎』にでてくる柿を甘柿の王様・富有柿と仮定すると、27個で4,536kcalものカロリーを摂取することになる。

「そのカロリー、お預かりしました」

そうか、ここだな。

子規は果物がたいへん好きだった。
かついくらでも食える男だった。
ある時大きな樽柿十六食ったことがある。

夏目漱石『三四郎』

いや、マジじゃん。
軽率に点滅大臣のこと言えないくらいの失言を俺はやらかしている!

樽柿たるがき
渋柿を空いた酒樽に詰め、樽に残るアルコール分で渋を抜いて甘くした柿。

デジタル大辞泉

ちょっと待て。
樽に残るアルコール分で渋抜きってことは、柿にアルコール成分が入っているということだよな……?
つまり、公表したカロリーの数値にもズレが……?

これは実にいかん。
そして遺憾!

直ちに農林水産省に連……
違う!
直前の農林水産大臣は俺だ!!
あの記事を書いた時点での俺は農林水産大臣だ!!
副大臣も俺だったし、書記官も俺、なんなら職員も俺、食堂の調理員も清掃員も全部俺!!

なんたることぞ。
樽柿だけに、なんたることぞ。

これはもう任命責任どころの騒ぎではない。

危ない。
盛大に取り乱した。
おトキちゃん「ばけばけ」ヒロイン並にきちんと取り乱しました。
失敬。

いや、柿は十六個喰ってるじゃあないか。
夢見がちってなんなんだよ!

……ああ、そうか。
正岡子規が柿を十六個かっ喰らうってのは
『三四郎』、あくまでも夏目漱石の創作の中における子規だからってことか。
(すっとぼけ)

1900明治33
11月13日:蜂屋柿2個
11月14日:きざ柿3個+蜂屋柿1個=4個
11月15日:樽柿3個
11月16日:樽柿1個+蜂屋柿1個=2個
正岡子規『病牀読書日記』

1901明治34
10月9日:柿2個
10月24日:昼に2個+夜に1個=3個
10月25日:昼に3個
10月26日:昼に柿3個、夜に柿X個
正岡子規『仰臥漫録』

土井中照の日々これ好物(子規・漱石と食べものとモノ)

一日に大体二〜三個喰ってた。
全然十六個じゃないじゃん!

漱石……!
話盛る癖があるな???
それくらい盛ったら俺ウケがいいと思ってそうやって書いてくれたんだろ???

でもなァ!!
そのせいで!!
俺まで失言やらかしてマンみたいになっちまったじゃないか。

と、組閣人事の際にもらった饅頭の箱の下に入っていた柿をボリボリボリボリ食べながらファクトチェッカー党への回答文書を作成中だ。

おかしいな。
十個は入ってたよな……

喰ったのか……
俺が喰ったのか……

一日二〜三個で柿ドクターストップくらった正岡子規より柿食ってる。
隣の客よりよく柿食う俺だ!

もうあれだ。
渋柿は甘くしちゃだめだ!

俺の内閣では、渋柿は渋柿のままにする。
樽柿製造禁止法案通す!

あれ……
支持率が……

0%だと?!

しかも袖の下の件がバレている?

……入院して雲隠れするでござる!

お見舞いは柿でよろしく。

こちらからは汚職事件……ではなくお食事券送ろうじゃあないか。

うむ。
渋さを失ったのは柿のみならず。
この俺もだ。
お食事券ではなく、毒饅頭にせねばな。

さてと、柿をもうひとつ……

じゃない。
渋くなれ……渋くなれ……

第X次俺内閣、もうすでに不信任決議の予感である。

柿もうらなり、きっと時期尚早だったのだ。


【参考資料】
◽︎菊正宗
夭逝の俳人「正岡子規」は、知る人ぞ知る無類の柿好き。

◽︎土井中照の日々これ好物(子規・漱石と食べものとモノ)

https://plaza.rakuten.co.jp/akiradoinaka/diary/201709180000/#goog_rewarded

※あいつは一杯のかけそばを恩に着せるようなケチ臭い奴だ。

元ネタは池井戸潤氏の『民王』P.198L13
「牡蠣天をおごったぐらいで偉そうな口をきく男もまた、ひとりしか存在しないのであった。」

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