何もオーライじゃない皆既月食
何も“オーライ”ではなさそうな「オーライ、オーライ」が日曜日の昼下がりに響く。
どうやら我が家の裏のアパートに新しく人が入るらしい。
そんなもんで家財道具一式をいい感じに部屋にテトリする作業の幕開けというわけだ。
【テトリす】〈動〉〈サ変〉
荷物などを一定の場所に心地よく配置すること。
落ちモノゲーム界の重鎮テトリスに準えて作られた動詞。
全く覇気のない、3回目のこだまくらいの
「オーライ、オーライ」である。
絶対に、オーライではない。
だがしかしだ。
私はこの覇気ゼロの、全くオーライではないのにやっつけで言っている感満載の「オーライ」がいたく気に入った。
やっつけの対荷重オーバーである。
基本的に、覇気と昼間っからついている蛍光灯があまり好きではないので
私にはシンデレラフィットなオーライだが
トラックのドライバー殿としてはシンデレラの義姉フィットだったらしく
「おおん?マジ?マジオーライ?え?は?」
と大困惑。
最悪事故るだろうとヒヤヒヤ半分ワクワクしていたら、
アパートの看板横に立っている心もとない痩せ細った人感センサーライトをなぎ倒した。
バキィって言ったからな。
刃牙?
え?
グラップラー?
他人の不幸を予期してをワクワクするな?
ごもっともである。
かたじけない。
別にあのライトに恨みなんぞない。
むしろ、妖怪字引網として活動する丑三つ時の光熱費節約に一役買ってくれているのだから感謝すら覚える。
アパートの住人とも降ってくる柿の話で盛り上がったりするくらいには仲がいいと思っているからな。
一方的に。
降ってくる柿の原因はまあ…
俺んち。
ごめん。
俺んち。
降ってくるというか降らせてんのは俺。
ボコオオオオオオオン!!!
ドッコン!!!
憂いたとて育ち始めた柿の実たちは淘汰され地面に落ちてくる。
ほら、23区外のトー横だから。
うん。
今日からは、ネオンゼロのトー横だから。
人感センサーライト亡き今、
夜帰ってくる住人たちは月灯かりのみで駐輪場から部屋まで歩くってことか?
蛍はいないからな。
…しかも待てよ。
今日、皆既月食じゃないか!
真っ暗じゃないか。
9月7日の夕方に昇った満月が、8日に日付が変わった1時27分に欠け始めます。
完全に月が地球の影に入る皆既は、2時30分から3時53分まで、その後4時57分に部分食が終わります。
深夜から未明にかけての天体現象となりますが、赤銅色(しゃくどういろ)に輝く月を楽しんでみましょう。
楽しんでみましょう、どころではない。
AM2:30〜AM3:53の間に帰宅する人がいたら真っ暗じゃないか。
だってな、妖怪字引網だって活動時間は丑三つ時だからな。
我が家の庭のライトは私が草とバトルした時に誤ってなぎ倒して以来
命の輝きを失っている。
だからより一層暗い。
↑
5本抜いたら10本生えることを習慣化してきた草と私の終わりなき戦いの記録。
それはさておき
先程までの覇気のなさから一転、
「うおおおお!!ああああ!!大丈夫ですか?!」
となぎ倒されたライトに話しかけるオーライニキ。
車から降りてきて合掌するドライバー殿。
なぜライトを擬人化しているんだ?
唐突に始まる、小さなお葬式。
家族葬。
いや、家族でははい。
不謹慎過ぎるだろう。
反省はしているのだが、つい。
そりゃあもう自分の祖父のお葬式ですら余計なことを思い出してニヤニヤした挙句、
まあ、じいさん湿っぽいの苦手だったしいいよね、なんて自分を正当化するクソ孫である。
祖父のお葬式にて棺桶の横に立った時
「え、今私棺桶周りにいるってことはアラウンド棺桶なのでは…?」
と余計なことを考えてしまい
それまで悲しみに暮れていたのが“思い出し笑い”をこらえるという状況に変化してしまい
気管に鼻水が入って盛大にむせ、爆音咳で式場内を騒然とさせる空前絶後のアホをかましました。
とはいえ湿っぽいことが恐らく苦手でいつも笑っていた祖父はきっと
「イイゾォ!」
と自分の棺桶上空から言っていたに違いないので結果オーライです。
その後精進落としの席で、
満を持して寿司が登場。
あれ、“寿司桶”に入っているじゃないですか。
“桶”。
…棺桶。
“アラウンド棺桶”
寿司を見て笑いをこらえている私(以下略)
だから、何が「オーライ」なんだ。
お前、親戚にも激ヤヴァ扱いされて忌み嫌われているっちゅうのにもうここで完全に終わったんだからな!
(いやお前、私じゃん。)
精神年齢5歳だからさ、しょうもないことがツボに入っちまうんだよ。
ごめんあそばせ。
私にもあのオーライニキのように、
全くをもってオーライでないことをオーライにして押し切った経験がある。
祖父の件以外にも。
来住野さんのことをなぜか“おーらいの”と呼んでしまい、
本人が“おーらいの”を謎に気に入り
全くオーライではない呼び方があだ名として定着し、
結果として“おーらいの”is オーライになる現象が起きた。
これがおそらく最大にして最もくだらない貫きオーライである。
そして、問題の夜がやってきた。
あのなぎ倒されたライト、倒れたまま命の炎を燃やしていた。
日中にしめやかに執り行われた小さなお葬式、あれライトのでよかった。
人間だったら今頃骨組だけになっていたところだ。
月が食われている頃、
グリッシーニは私に食われていた。
皆既月食の下、皆既グリッシーニ食が起きていた。
…起こしていた。
クロレッツのピンクグレープフルーツフレバーのガムが美味しすぎて
それはそれは一日中咀嚼しているものだから全く腹が減らんのだ。
よってこの1週間のトータル摂取カロリーが聞いて驚け2,398kcalだったのだ。
計算したんだぞ。
1日ではなく1週間。
俺は成人女性だからな、1日に1,800kcal摂取しないといけないわけだ。
つまり、1週間で12,600kcal必要である。
さすがに少なすぎるだろう。
だからな、食ってやったのさ。
食われゆく月のもとでグリッシーニを。
胃に残るグリッシーニを連れ、
朝あのライトを見に行ったら
「管理会社連絡済み」ロゴTを着て倒れていた。
それともパジャマか?
※管理会社連絡済みと書かれた紙が貼り付いていた。
反省しない私はまたガムを噛んでいる。
何もオーライではない現実をオーライにするために、
私は今夜もグリッシーニを喰らう。
月は食われずとも、グリッシーニは食われるのだ。
そうだ、おのれがオーライだと思えば全てオーライなのだ。
仮に今日の予定を全て飛ばしたって、
あんたが
「オーライ!!」と叫びさえすればな、
それはもうオーライなんだ。
いいな?
「オーライ、オーライ!!!」
【参考資料】
◽︎秋田書店
グラップラー刃牙/板垣恵介
◽︎国立天文台NAOJ
ほしぞら情報2025年9月
皆既月食(2025年9月)
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